ダンジョンアタックで奴隷の見極め 彩絲編 1
よく使う漢字が常用漢字じゃないことが多い今日この頃……。
ルビをふるべきか迷いますが、他にふるルビが多いので、ふらない方向にしようかと。
自分は漢字多めの方が読みやすいのですが、世間的にはもっとひらがな多いほうがいいのかしら? と思案してみたり。
小説を書き始めてそれなりの年数が経過しましたが、ひらがなにするか、漢字にするか。
気がつくと同じ漢字で迷っていたりするのが困りものです。
彩絲と雪華は相談して奴隷たちを二つのパーティーに分けることにした。
彩絲が担当するのは、兎人姉のクレア、人魚族のローレル、リス族ネラ、ネマ、ネイ。
現時点では目立った問題はないようだが、そこはかとなく不穏な気配を感じる。
クレアは卑屈すぎ、ローレルは脳天気すぎ、リス族の三人は没個性。
全体的に好感度が低いのだ。
これ以上下がらないといいのじゃがのぅ、と彩絲はひっそり祈った。
冒険者ギルドへ連れて行き、アリッサに変わって代理の主登録を済ませたあとは、ゆったりと腰を下ろして茶を注文すると、奴隷たちの好きにさせる。
「準備が整ったら声をかけるがよい」
奴隷たちはいきなり突き放されてしばらく所在なげにしていたが、リス族の一人が意を決したように意見を述べる。
「クレアさんに、初心者冒険者が無料でもらえる全ての物をもらってきていただきたいです。ローレルさんには、私たちでも受けられそうな依頼を見てきていただきたいです」
「うーん。私、イマヒトツそういった判断に自信がないのよねぇ。えーと、ネイちゃん? かな? が、一緒に来てくれると嬉しいかも」
「よく私たちの区別がつきますね!」
ネイが驚いている。
他の二人も、クレアも驚いていた。
彩絲は人の心が読み取れるという彼女の発言を覚えていたので、驚かなかった。
アリッサへの発言からして、何もかもを暴くような読み取りはしていないようだったし、リス族の判別は難しそうなので咎めるまでもないだろう。
「……じゃあ私たちは三人で行こう。貴女たちは愛らしいから、万が一連れて行かれたら大変だわ」
「それを言うのなら、クレアさんも愛らしい容姿ですから気をつけた方がよろしいのでは?」
「大丈夫よ。これでも私、戦闘特化の奴隷なのよ?」
腕まくりをしたクレアが力こぶを作っている。
ネラとネマはその上で楽しそうに飛び跳ね出してしまった。
冒険者ギルドには随分と可愛い者好きが多かったようだ。
部屋の空気が一気に優しくなった。
今の所彼女らを拉致しようと考える不逞の輩はいないらしいので、彩絲は静かに観察を続ける。
ローレルとネイは、クレアたちの様子を少し見詰めただけで、すぐに依頼書を見に行った。
近くにいるギルド員を捕まえて、初ダンジョンアタックでも達成できそうな依頼を聞いている。
実にセオリー道理の行動で二人に何の非もなかったが、余り性質のよろしくないギルド員だったらしく、詳しく説明してやるよと言いながら、ローレルの尻に手を伸ばした。
すかさず肩に乗っていたネイがくるくるくるっと回転して勢いをつけながら男の手の甲を思いっきり踏みつける。
「ギルド内においてセクハラ行為は厳禁です! ローレルさん、他のギルド員に聞きましょう。女性がいいです!」
「そうですねぇ~。何の断りもなく女性のお尻を触ろうとするなんて、ただの痴漢ですものねぇ~?」
「断ったら許すんですか、ローレルさん!」
「好みの男性であったら或いは。しかし、仕事をサボってはそもそも論外ですねぇ~。主様もお嫌いでしょうし」
「ええ、私もそう思います。なるべく主様のお心に添うように行動しなければ……すみません! この人、痴漢行為を働いたので処分をお願いします。お手すきの女性のギルド員さんにお願いできますでしょうか?」
「まだ触ってねぇだろう!」
愚かじゃのう。
語るに落ちるとは。
体格の良いギルド員男性が二人現れて痴漢未遂の男は奥へと引き摺られていく。
代わりにキャンベルが出てきて、謝罪後に過不足のない説明をしながらお勧めの依頼書を選んでいる。
耳を澄ませるに、痴漢野郎には罰金が科されるようだ。
その半分がローレルに与えられるらしい。
冒険者同士のやり取りであれば介入しなかったかもしれないが、ギルド員がしでかしたがためにきっちりと対応したのだろう。
アリッサの奴隷への不手際は、アリッサ自身への不手際なのだと、理解できているのは、キャンベルを含めて少なそうだ。
王都ギルド職員の質が随分落ちたと冷ややかに見下しながら、お茶請けとして付いてきたクッキーを囓る。
ナッツが入っていて美味しい。
キャンベルが選んだ依頼をそのまま全部受けたらしい。
奴隷が受けられる依頼上限は十件。
慎重なキャンベルが断らなかったのは、アリッサの奴隷は当然優秀だと判断した結果だろう。
彩絲的にも受けすぎかと思ったが、アタックが順調であれば十分にこなせる量でもあると判断して、助言は控えた。
依頼書を持った二人が戻ってくる。
確認を頼まれたのでざっと目を通す。
新人の手には余るが、このパーティーなら問題なく依頼達成できるものだったので、彩絲は大きく頷いた。
ほっと胸を撫で下ろした二人だが、その目が困ったふうに初心者向けアイテムを受け取るだけだったはずの三人の背中を見詰めている。
「クレアさん、ネラ姉! 二人はもう依頼書をもらっている!」
「え? ああ、本当だね。色々と御説明ありがとうございました! 助かりましたわ!」
せかすネマを優しく見詰めたクレアが、鼻の下を伸ばしきった男性ギルド員に深々と頭を下げる。
胸の谷間を見せつけるのに最高の角度なのは彩絲の気のせいなのか。
ネラはギルド員の手のひらの下へ潜り込み、体を擦り寄せている。
感謝の表現にしては随分となれなれしい。
クレアの胸を凝視したままのギルド員は、それでも反射的に手の下にいるネラの全身を撫で回したようだった。
どうやらこの二人は、性としての女を、必要以上に使うのを得意としているようだ。
額に皺を寄せれば、ローレルとネイも同じように眉根を寄せていた。
「遅くなってごめんね! 初心者向けアイテムと説明冊子とマップをもらってきたよ!」
「後はモンスターの弱点が描かれた本と品質の良い物を採取する方法が描かれた本も!」
「……全てもらってきましたの~?」
「ええ、そうよ」
クレアとネラはにこにこと嬉しそうで、ネマだけが不満げだった。
説明冊子とマップは、新人でも手が届く値段だ。
新人にこそ読んで欲しいとかなり値段を抑えている。
だが、弱点図鑑と良質採取図鑑は新人が手を出すには高価な値段設定にしてあった。
それを一ギルド員の判断でもって無料で手渡すのは、これもまた犯罪行為のはずだ。
一度でも拒否していれば、無理矢理押しつけられたと言い張れもするが、そんなやり取りはなかった。
恐らく当然のように受け取った。
キャンベルの表情を伺えば、わかっておりますと言うふうに頷かれる。
つまりは、彩絲が奴隷たちの見極めをアリッサに任されているから、今は見逃してダンジョンアタック終了後に、罰を与えるということだ。
アリッサの持つ奴隷が犯罪者になるのは避けたいが、下心しかないギルド員にも非があるので、酷くても罰金を支払う程度で片が付くだろう。
キャンベルに借りを作ったようで落ち着かないが、これが見極めである以上彼女の判断に従うのが無難だった。
ローレル、ネマ、ネイが様子を窺うので首を振っておく。
それだけで彼女たちは、今はこれ以上の忠告はしなくていいと理解したようだ。
「……私とネイで冊子を読みますわ~。ネマはマップに強いとのことですので、それをメインに図鑑なども読みたいと思いますの~。買い物をお願いしてもよろしいかしら~?」
「任せて!」
「得意分野です!」
二人は胸を張って頷いた。
「彩絲さん。私とネラちゃんで買い物に行って参りますので、主様からの資金をいただけますでしょうか」
「うむ。よくよく考えて使うが良い」
「はい! 当然です。なるべく早く戻りますね!」
「ネラ姉! 必要なものをきちんと確認してくださいね!」
「安心して任せてよ、ネイは心配性ねぇ」
ネラはぴょんとクレアの肩に乗ってひらひらと手を振る。
資金と一緒に手渡されたマジックバッグをしっかりと抱えて、クレアとネラは買い出しへと出かけた。
「ネラ姉……心配です。ネル姉がいないと余計な買い物をしてしまうから……」
「クレアさんも一緒になって買いそうな気がしますわ~」
「私も一緒に行ったほうが良かった?」
「うーん。ネマさんが行っても貴女が疲れるだけだった気がしますわ……」
「そう、ですね……私たちは、私たちでできることを」
「ええ、しっかりやりましょう」
ネイが手早くお茶を淹れた。
彩絲の分も一緒だった。
ギルドが出すものより数倍美味だ。
ぺこりと下げる頭を指の腹で優しく撫でる。
買い出しに行っていた二人が戻ってきたのは、三人が冊子や図鑑を熟読し、マップでダンジョン攻略を念入りに話し合ったあとだった。
彩絲はお茶でたぷたぷになったお腹を撫でつつ、既に五人の評価が三対二、良評価・悪評価に分かれ始めているのを憂いて瞼を閉じた。
ダンジョンアタックは楽しいのでさくさく書けるのですが、ホラー企画用の作品がどうにもまとまりません。
旦那様内の設定じゃない病院話にしようかなぁ……。
もう少しだけ悩むことにします。
次回は、ダンジョンアタックで奴隷の見極め 彩絲編 2 の予定です。
お読みいただきありがとうございました。
引き続きお付き合いいただけたら嬉しいです。




