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ダンジョンアタックで奴隷の見極め 雪華編 5

 雪華編最終話です。

 当初ではちゃんと五階まで潜る予定だったのですがおかしいなぁ……。

 彩絲編では踏破させたいんですが、そうすると二倍から三倍の長さになりそうなので、困っています。

 




 ネルの先導に従って、来た道を逆走して素早くダンジョンから脱出する。

 マップも見ずに先導仕切ったネルの評価を一つあげておく。

 方向感覚に自信がないらしいアリッサに伝えたら喜ぶだろう。


 今回は犯罪者を捕まえるという緊急事態が発生したので、冒険者ギルド直通の馬車に乗るように指示をした。

 奴隷や冒険者に成り立ての者には厳しい馬車の値段だが、需要は悪くないので常に止まっているのだ。

 馬車の中では低い声で中断せざる得なくなってしまったダンジョンアタックについて、三人があれこれと語っている。

 大半はアリッサへの期待に応えられなかった申し訳なさとネリに対しての愚痴だった。

 本来であれば、もっと自分達の行動を検証して欲しいところだが、それを求めるのは酷だろう。

 ネリの行動が異様なまでに酷かった。

 メイド業務から逸脱しなければ、ここまで酷い言動にはならなかったのか。

 適材適所を考えると、メイド業務に就かせて様子を見てもいいのかもしれないが、時間をかけるだけ無駄だなと、冷静に判断する。

 そこまで、無茶苦茶だ。


 そうなると元居た奴隷館に売るのが無難だろう。

 既に悪評が回って奴隷館を維持できるかどうかのレベルにまで堕ちている店だ。

 次に売られる先は地獄以外の何ものでもない。

 今まででは考えられなかった性奴隷として使われる日々に、ネリのどこまでも自分勝手な思考とうっかりな性分が改善されるのかが見ものだ。

 もし改善されたのなら。

 そして、ネルが望むのなら。

 その手で買い戻せるように手配してもいい。

 アリッサも同意してくれるだろう。

 だがきっと、ネルはネリと再び一緒にいるのを望まない気がする。

 それだけ、ネリから解放されたネルの表情は明るい。

 フェリシアやセシリアとの相性も良さそうだ。

 この三人にならば王都の拠点で留守を任せても大丈夫だろう。

 


 冒険者ギルドに入り、ギルドマスターを呼ぶ。

 マジックバッグから犯罪者を出すのを見られたくなかった。


「何か問題がございましたでしょうか?」


 彩絲ほどではないが、ギルドマスター・キャンベルとの相性はよくない。

 含む物言いに難癖をつけてマウンティングをかけようかとも思ったが、アリッサの顔が浮かんだので止めておく。


「奴隷達が冒険者に襲われた。身柄を確保しているので、人目の付かない場所で交渉したいんだけど?」


「っ! 了解しました。こちらへ。ベドフォード! ちょっと良いかしら?」


「おうよ!」


 いけ好かない男の登場に押さえ込めなかった殺気が溢れる。

 三人は驚いた顔をしていたが嫌悪はない。

 ベドフォードは意外にも苦笑。

 他の冒険者達は、その場に硬直した。


「どんな犯罪者か解らないので、安全のためにベドフォードを呼びました」


「どんな犯罪者であっても、私が対処できるけど? まさか、できないとでも?」


「お前を侮っているわけじゃねぇ。ギルドマスターとして当然の判断だ。勘弁してやってくれ。俺もキャンベルもお前さんの主にこれ以上失望されたくないだけだ」


「……貴方はさて置き。キャンベルのことは、やるべき事ができる人、っていう認識でいらっしゃるから、そこまで慎重にならなくてもいいんじゃないかな?」


 エルフらしいキャンベルの容姿は好ましく思っているようなので、今の状態を維持していれば問題はないはずだ。

 ベドフォードは男というだけでアリッサと接点を持つことを許さないけれど、現時点では排除対象でなかった。


「そうは言うけどなぁ。御方の妻君であられるんだろう?」


「ええ、そうよ。礼節を以て接していれば、理不尽な対応を取られる方ではないわ」


「あーなぁ? 頭じゃ解ってはいるんだけどなぁ」


 脳筋にしては頑張っているが、ベドフォードが男である以上、考えるだけ無駄だ。


「全てにおいて御方に相応しい奥方様よ? 貴方が何を考えても無駄だから」


「へいへい。近寄りませんよ。自分からは絶対に!」


「それだけ理解していれば十分ね」


 雪華とベドフォードの会話には誰も参加せず歩いていた。

 地階へと降り通されたのは倉庫のような場所。

 ただし隅の方に錆び付いた拷問具が置かれている。

 現在使われる頻度は低いようだが、冒険者ギルドにもこの手の施設があったらしい。

 雪華の認識だと、キャンベルは犯罪者=拷問=面倒=すぐに所定の場所へ移送するタイプだ。


「……では、犯罪者を出してください。何人いるのですか?」


「五人よ。揃って屑だわ。奴隷の一人を売れと言ってきて、1000ギル払うと言ったにも関わらず、投げて寄越したのは石。石ころがお金になると思っているのかしら? と指摘したら、逆ギレして襲いかかってきたので、捕縛したのよ」


「色々、色々と、突っ込みてぇぞ、おい!」


 雪華はベドフォードの言葉を無視して、五人の男をマジックバッグから取り出した。

 見事に梱包され、意識もない男達の様子を見て、キャンベルとベドフォードが揃って口をぽかーんと開けたままで凝視する。

 キャンベルのそんな気の抜けた表情は初めて見た。


「人道的に問題はないはずよ。こいつら、初心者ぶっていたけど、そこそこ腕があるんじゃないのかしら? 手慣れていたから、他に被害者がいると思うわ」


 二人は顔を見合わせてから、こちらを向く。

 雪華の言葉に思い当たる節があるようだった。


 部屋の中央に置かれたテーブルの上にある箱の中から、魔道具らしき物を取り出す。

 水晶玉のようなそれは、男達の額にあてられると不気味に赤い光を放った。


「……ええ、悪質な性犯罪者のようね。殺しも、してるみたい」


 キャンベルの言葉を聞いて、三人が顔色を変える。

 自分達が被害者になってしまったケースを想像したのだろう。

 ネリの暴走といい、ダンジョンアタックがトラウマにならないといいのだが。


「指名手配は?」


「今までの犯罪行為がばれていなかったようね。指名手配はされていないわ。だけど該当すると思われる被害者の家族や友人から懸賞金が出ているから、それを渡します」


「今すぐ?」


「いいえ。申し訳ないけれど自供させてからになるので、時間をいただきたいの。できるだけ迅速に白状させるつもりだけれど……アリッサ様は、近日中に王都を出られるおつもりかしら?」


「うーん。早く出たがっていたけど、ダンジョンの話をしたら潜るような気がするんだよね……」


 彩絲の方はどんな結果になったか解らないが、ネリの酷さを考えると、あちらでも一人二人転売した方がいい奴隷がいる気がしないでもない。

 その手配もあるだろうから、当初の予定より長く滞在することになりそうだ。


「では雪華さんには申し訳ないけれど、またこちらへ顔を出して頂けるとありがたいわ」


「私じゃなくて、この子達じゃ駄目かな? 犯罪者を倒したのはこの子達なんだよねー」


「そうですか……優秀な奴隷は基本的には冒険者と同等の扱いをされるので問題ないのですが、彼女達に嫌な思いをさせてしまいかねないので、できれば雪華さんか彩絲さん、もしくはノワール殿に同行をお願いしたいのですが、如何でしょう」


 アリッサに相談すれば、じゃあ奴隷解放しちゃおうかー! などと言いかねない。

 雪華は生温い微笑を浮かべながら頷いた。


「では、犯罪者に関してはお任せ頂くとして……他にご用はございますか?」


「買い取りをお願いしたいのですが、こちらで大丈夫でしょうか」


「ええ、拝見いたします。テーブルの上にお出しください」


 セシリアがドロップアイテムと採取アイテムを丁寧に並べていく。

 間違ってネリを取り出しかけて嫌な顔をするのに、ネルとフェリシアが苦笑していた。


「あら? まだ一人犯罪者が?」


「……パーティーメンバーの一人なのですが、問題行動が多いので梱包……拘束して収納しているだけです。犯罪者としたいところですが、主様の判断を仰ごうかと」


「奴隷である以上、無難な手配ですね」


「ありがとうございます」


「ドロップアイテムも採取アイテムも大変丁寧に取り扱われておりますので、些少ではございますが、上乗せしてお支払い致します。また、依頼書に該当するアイテムもありますので、そちらは別途会計させて頂きますね」


「あ! 依頼書を見るの忘れてましたね!」


 セシリアがくるっと振り向いた。

 フェリシアとネルも浮かない表情のままで雪華を見詰める。


「残念ながらマイナス評価ね。説明冊子にも書いてあったでしょう? まぁ、フェリシアとネルで読んでいた時は把握していたけど、その後のごたごたで忘れちゃったみたいだったわよ。正直無理もないと思うわ」


 特にフェリシアは冊子購入の際に、依頼書そのものにも目を走らせていた。

 時間を気にして内容の確認までできていなかったようだが、常時依頼の他にも臨時依頼として、初級ダンジョンでも買い取りされるアイテムは少なくないのだ。


「貴女達が入手したアイテムは質が良いから、高品質を求める臨時依頼にも応えられるでしょうね。次の機会に恵まれた時には忘れないようにするといいわ」


「「「はい!」」」


 揃って返事があった。

 王都のギルド員はプライドが高く、キャンベルのように丁寧な仕事はしない者が多い。 どころか秘密裏に処理をして依頼書分の報酬を横取りする者までいるらしいのだ。

 トップがしっかりしていても、末端まで行き届かないのは何処の組織でも同じらしい。

 王都ギルドマスターという重荷を背負うキャンベルに少しだけ同情する。


 キャンベルから、初級ダンジョンを一階しか攻略していないとは思えない高額の報酬を受け取った三人は、仲良くほっとした表情を浮かべた。



 二回ほどアリッサ視点お話があって、彩絲編突入予定となっています。

 踏破できなかったら、今度はアリッサを潜らせてしまうかもしれませぬ。

 ダンジョン話書くの楽しいです。

 読むのも大好きですが、完結作品が少ないのが難点ですよね。

 この作品もあと何年書き続けることになるのやら……読んで下さっている皆様には、末永くお付き合いいただきたいものです。


 次回は、旦那様は憂いています。私は眠いです。の予定です。


 お読みいただきありがとうございました。

 引き続きお付き合いいただけたら嬉しいです。


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