ダンジョンアタックで奴隷の見極め 雪華編 2
書くのが楽しくて勢いのままに走り抜けたので、修正が多かったです。
戦闘描写を頑張っていたら、採取描写を入れるのをまるっと忘れていたという間抜け具合ですよ。
この調子で残り三話も修正が激しそうです。
ダンジョン内はほんのりと明るい。
歩くだけなら大丈夫かもしれないが、モンスターの襲撃を避けるには、より強い明かりが必須だった。
セシリアが火打ち石を使って松明に火を付ける。
横からネリが燃料を勢いよく振りかけた。
「ちょ! あぶなっ!」
「ネリっ! 勝手な事をしないでっ!」
火が勢いよく燃え上がり、セシリアの髪の毛を一房焼いた。
咄嗟にフェリシアが髪の毛を握り締めて消火しなかったら、よりにもよって顔に火傷跡などが残ったかもしれない。
「ふぇりしあ! てぇ!」
「大丈夫だ。赤に祝福されしネックレスを装備しているからな。この程度、すぐに治癒される」
安心しろとばかりに差し出したフェリシアの掌から、火傷特有の赤みがみるみるうちに跡形もなく消え失せる。
「でも痛かったでしょう? ごめんなさい……それにしても、私。幸福を呼ぶリボンつけてたんだけどなぁ……」
「やっぱり、お姉さんがいないと、効果ないんじゃないんですかぁ?」
双子が身につけた段階で効果が出るレアアイテムだ。
離れたからといって効果が薄れるものでもない。
しかも幸福を呼ぶリボンは、効果が良質と評価されているアイテムの一つなのだ。
ネリの悪影響は当初の想像を遙かに超えている。
彼女自身が厄災であるかのようだ。
その手前勝手な行動も、物言いも。
「……本当に、勝手な事しかしないな、貴様」
「フェリシアさん、ひどぉい! 五人もいるんだから、作業は分担しなきゃ! アイテムの拾い忘れは避けたいし! 明るい中で探索した方がいいじゃない? モンスターの襲撃も避けられるし、一石二鳥。良い事しかしてないのに、勝手な事とか、本当に酷いよ! ねぇ、雪華さん? ちゃんと評価してくださいね!」
返事はしない。
だが、フェリシアに向かって頷いておく。
アリッサの奴隷に、屑は、必要ない。
敬愛する主に害が及ぶなんて、冗談だって御免なのだ。
現時点で評価が良い方に傾くなんて夢物語でしかないだろう。
「さぁ! さくさく行こうね!」
一人で勝手に歩き出したネリを止める者は誰一人としていない。
姉であるネルでさえも、冷ややかに一瞥しただけだ。
「……蛇形態でついて行くつもりだったけれど……彼女、想定以上に問題児みたいね。やっぱり人型で同行するわ。基本的に手助けしないスタンスは変わらないけれどね」
「お手数おかけいたします。私達三人はせめてお手を煩わせないように努めます」
フェリシアが頭を下げるのに他の二人も倣う。
雪華は会釈の返事をしておいた。
「大体各階層二~三時間くらいで攻略できるそうだ。丁寧に回っていこう」
「ええ、宝箱は一階からあるみたいですよ? 中身も違うそうですから、必ず入手したいですね」
「マジックバッグのお陰で、ドロップアイテムや素材を余すことなく持って帰れるのは、ありがたいよね」
セシリアがバッグを叩いて笑う。
「ちょ! なんで、ついてこないの? 足下が見えなくて転びそうになっちゃったんだから!」
そうならないように、アリッサが決して転ばないパライン皮ブーツを履かせたのも、すっかり忘れたようだ。
「……時間をかけて、丁寧にマップを埋めていくって、三人で決めているの」
「主様に喜んで頂きたいからな。採取などもするつもりだ」
「よく食べる人はさぁ。お小遣い、稼いだ方がいいんじゃないの?」
「えー。どうせ、主が全部持っていっちゃうんでしょ? さくっと攻略して帰宅した方が楽なのにぃ」
アリッサはダンジョンに興味津々だ。
自ら潜って十分に堪能する心積もりなので、奴隷達が得た素材やドロップアイテムは全て売却させて、得たお金は全額奴隷達のお小遣いにするだろう。
他の三人はアリッサが全て持っていくのが主としての権利だから当然と思っている。
だからこそ、丁寧に攻略してより多くのアイテムを持ち帰りアリッサを喜ばせようと考えているのだ。
評価が良いに決まっているが、それ以上にアリッサに失望されたくない思いが強い。
ただ一人解らぬ愚か者は何処までも空気を乱していた。
「じゃあ、一人で帰宅するといい。我らは三人で攻略する」
「それって問題じゃん? ねぇ、雪華さん?」
「私は評価するだけだけど?」
一人で帰宅したければするといい。
猶予を与えていたアリッサもさすがに速攻で見限るだろう。
「ほら、怒られちゃった! ああっ! モンスターだよっ!」
雪華の発言の一体どこに怒りの要素があったのか。
自分に都合の悪い事は全て人のせいにしてしまうネリの態度には慣れてきたが、不愉快さが地味に蓄積されてしまう。
三人の背後からころころころっと、初心者泣かせのスピードで転がってきたのは、ダンゴー。
虫型モンスターだ。
ウィークポイントは腹部。
通常状態では、ひっくり返して攻撃するのが一般的とされている。
転がってきた場合の対処は本来、初心者には難しいのだが……。
「いきます!」
フェリシアが出た。
ダンジョンは初めてでも、戦闘には慣れている。
更にきちんとギルド配布の冊子を読み込んだ成果が迅速な行動となって現れた。
ぎりぎりまで引きつけて素早く横に飛びながら、ウィークポイントの腹部にハルバードの切っ先を突き刺した。
「ぎいいいいいいいい!」
ハルバードでその場に縫い止めたので放置しても死亡するだろうが、ネルがミニサイズのククリナイフを手早く投擲する。
「ぎ、ぎ、ぎぃ……」
ウィークポイントを貫かれた状態での毒攻撃は致命的だった。
数秒も待たずに、ダンゴー死亡の証としてドロップアイテムが現れる。
「ダンゴーヘルムですね。初心者防具です」
「はぁ……じゃあ、うちらには必要ないじゃん! 高いの?」
「……初級防具ですからね。高くはないですよ」
「ちぇ!」
ネリが蹴り飛ばそうとするのを、素早くセシリアが拾い上げて、マジックバッグの中に収納する。
「傷が付くと買い取り値段が下がるから、余計な事は二度としないで。次にやったら、ダンジョン踏破まで、お菓子なしだから!」
「なにそれ横暴すぎるよ! ねぇ、雪華さん! なんとか言ってやってくださいよ」
雪華は当然無言を貫いた。
「……余計な質問はマイナス評価だな」
「学習能力のなさも同様ですね」
フェリシアとネルにまで追撃されたネリは、幼子のように頬を膨らませた。
「先に進みませんか? 無駄なやり取りは極力避ける方向で」
「ああ、そうだな」
「ええ、行きましょう」
三人が歩き出すのに不満を隠せないネリは、ふくれっ面のままにその背後についた。
「のこのこがあるぞ。採取しよう」
「では私が」
フェリシアの肩から飛び降りたネルがたたたたっと、勢いよくのこのこの近くを小走りで抜ける。
何時の間に開いたのだろう小さな折りたたみナイフを使って、根っこを残すすれすれの位置で切断していた。
「凄いね、完璧!」
セシリアがちゃんと購入していたらしいキノコ専用籠に手早く入れていく。
形大きさ共に良質ののこのこが五個ほど採取された。
「しかし、のこのこでも需要があるのだな」
「味は良くないですけど食感が良いですからね。意外に使い道があるみたいです」
「駆け出しの冒険者は、自分達で食べちゃうから、なかなか納品に至らないって話も聞きましたよ?」
「なるほどなぁ。おぉ! うさくさもあるぞ」
「青臭いけど栄養価が高いから、これも駆け出し冒険者が食べ尽くしそうですね。根っこから取ると良いみたいですから、セシリアさんお願いしてもいいですか?」
「了解! 草取り専用具も買ってきたから任せてね! ……これだけうさくさが生えているって言うことは、もしかして……」
マップを確認しながら丁寧に採取をしている横で、沈黙を守っていれば気付かれずにすむにも関わらず、ネリが大声を上げてしまった。
「やった! ホーンラビットだ! あれ、肉が美味しいんだよね!」
一人で対峙するには多い三匹というホーンラビットの登場にもネリは驚かない。
鼻歌交じりに躍りかかっていった。
背後で様子を冷徹に見守る三人に、危うく自我を持ちしメイスがぶつかりそうになるも、意思を持つ武器なので綺麗に回避してくれた。
その分コントロールが難しくなって、ネリの攻撃は派手に空振りする。
「何この武器! 使えないっ!」
間抜けな攻撃でできてしまった隙をホーンラビットが見逃すはずもなく、三方向からネリに向かって襲いかかる。
「なにを、ぼんやり見てるのっ? 助けてよ!」
勝手な行動を取ったら二度と助けないと、あれほどしつこく言われていたにも関わらず、この態度。
三人は顔を見合わせて深々と溜息を吐いている。
「きゃああ!」
一匹目の攻撃は、どうにか避けた。
二匹目の攻撃は、ホーンラビットの特徴である鋭い角が頬を掠った。
三匹目の攻撃は、自らの体躯よりも長い角がネリの太ももを貫き通した。
「いたああああああああぃぃい!」
メイスで不格好にホーンラビットの頭を叩く。
さすがに絶命したホーンラビットの角を抜こうとして無防備になったネリに向かって、仲間を殺されて怒り狂う二匹のホーンラビットが再び襲いかかった。
このまま放置すればネリは、初級ダンジョン一階で死亡もしくは重症という、不名誉な称号を得るだろう。
ネリの評判が落ちるのはどうでもいいが、三人の評価が下がるのは頂けない。
雪華が静かに頷けば、許可を待っていたらしい三人がそれぞれフォローに回った。
まずは、フェリシアがハルバードの切っ先を使って器用にネリの身体から死亡したホーンラビットを取り除く。
セシリアは永遠を与える薔薇の鞭をしならせて、二匹纏めてホーンラビットの身体を絡め取る。
そのまま思い切り地面に向かって叩き付けることで、二匹のホーンラビットを絶命させた。
ネルは無言でネリに傷薬を突きつける。
何やら言いたそうな口の中へ、冒険者ギルドから貰った初心者向けキットのポーションを突っ込んでいた。
「マント、盾、グローブか。やはり採取素材もドロップアイテムも一種類づつ取っておいて主様に献上すべきだろう」
「主様はどのアイテムも存じ上げないとのことですからね。喜んで下さると嬉しいのですが……」
「ええええ! なんで、肉! 肉出ないのっ? 美味しいのに、ホーンラビットのお肉ぅ!」
ポーションを飲み終えて傷薬を塗りながら、ネリが大声を上げる。
セーフティーゾーンでもないのに、ダンジョン内で大声を張り上げるなんて、非常識が過ぎるというのに。
「……ダンジョン内で大声を上げるのは止めてくれる? ちなみにダンジョンモンスターと、外に出るモンスターでは、ドロップアイテムが違う場合があるんだよね」
セシリアは移動中に、二人からきちんと必要最低限の知識を教えて貰ったようだ。
注意事項をしっかり言いながら、丁寧に説明までしている。
「そもそも王都初級ダンジョンは、階層ごとにドロップアイテムが決まっているんだ。肉は四階層でドロップするな」
一番ドロップ率が良いモンスターが、女性には特に忌み嫌われるゲジだと知ったら、ネリは発狂しそうだ。
見た目の割に味も使い勝手も良い肉なのだが。
「ねぇ、ネリ。貴女、初級ダンジョンの一階で死にかけた自覚はあるの?」
「そ、それは! 姉さん達が助けてくれないから!」
「貴女が勝手な行動を取らなければ、苦戦なんてしないモンスターよ? それに言ったじゃない。二度と助けないって」
「今回は恐らく不名誉な噂が私達にまで及ぶのを憂慮された雪華殿が、許可を出してくださったから助けたまでだ」
「そ、そんなこと言われても困るよ! できないよ! ……自分じゃ止まれないから、ネル姉。私が勝手したら、声、かけてよ……お願い、します」
ネルの目が大きく見開く。
お願いと、久しぶりに聞いたのではないだろうか。
「いいわ。ただし! それで止まらなかったら、今度は放置するから、そのつもりで」
「う、うん。解ったよ……ショックだったから、お菓子食べてもいい?」
「……菓子屑を落として、モンスターを引き寄せても、一人で撃退できるなら好きにすればいい」
「菓子屑を零すなんて、そんなはしたない真似はしないよ!」
道中どれほど菓子屑を零したのか全く気が付いていないネリの言葉に、フェリシアはセシリアを見詰める。
セシリアは呆れきった眼差しをネリに向けたまま、疲労回復の効果があるドライフルーツが入ったクッキーの袋を手渡した。
「水分も欲しいなぁ?」
「勝手に取りなさい!」
ネルの声に肩を竦めながらクッキーを囓るネリ。
本人以外が予想していたとおり、クッキーの食べかすがぼろぼろと零れ落ちた。
初級ダンジョンの一階に出てきそうなモンスターとか、模索した結果。
こんな感じになりました。
設定だけは五階層まで決まっています。
考えた設定を全部吐き出せるといいなぁ。
次回は、ダンジョンアタックで奴隷の見極め 雪華編 3 の予定です。
お読みいただきありがとうございました。
引き続きお付き合いいただけたら嬉しいです。




