ダンジョンアタックで奴隷の見極め 雪華編 1
読むのは大好きなのですが、書くとなると尻込みしていたダンジョン話。
書き出したら楽しくて仕方なかったです。
特に設定を考えるのが!
あまりにも楽しかったので、主人公にも潜らせて踏破させたいなぁ……。
雪華と彩絲は相談して奴隷達を二つのパーティーに分けた。
雪華が担当するのは、兎人妹のセシリア、天使族忌み子のフェリシア、リス族の長女ネル、末っ子ネリだ。
購入してから今までの行動で、既に転売を考えさせられるネリがいて頭が痛い。
冒険者ギルドへ四人を連れて行き、アリッサの代わりに主登録をして、パーティーを組ませる。
奴隷が奴隷だけでパーティを組むには、この主登録が必要だ。
また奴隷の冒険者カードは一般の物と違い、ランクが存在しない。
代わりにどれだけ優秀なダンジョンアタッカーであるかが表示される。
今、揃って銅色に鈍く輝くカードには、初ダンジョンアタック、とだけ明記されていた。
冒険者ギルドに併設されている喫茶店のような場所で、打ち合わせをさせる。
まず、冒険者キットは全員きちんと貰っていた。
恥ずかしいから貰わない馬鹿がいると聞いて驚きだが、説明を怠るギルド員がいると聞いて更に驚きだ。
運良くというか、さすがは王都の冒険者ギルドというか、ギルドマスターが締め付けたのかは解らないが、四人を担当した職員は丁寧に説明をしていた。
ネリは説明をほとんど聞いておらず、フェリシアとセシリアは額面通りに受け取り、ネルだけが幾つかの質問をしていた。
さすがはフォロー上手の長女。
日頃の苦労が見受けられる。
問題は打ち合わせで噴出した。
今回ダンジョンアタックしようと思っているのは、王都初級ダンジョン。
全五階層。
完全踏破されており、かなり詳しいマップと説明冊子が売られている。
この、購入についてだ。
まずネルは、絶対に購入すべきだと主張した。
フェリシアは、主から預けられた大切な資金を無駄に使うべきではない、また見極めというのであれば、持ち込みは最低限にすべきだろうと、どちらも不必要と判断する。
セシリアは、自分は方向音痴なのでマップは買いたいと、折衷案らしきものを提案した。
ネリに至っては、それよりも食糧を最優先で買いに行くべきだと胸を張ったのだ。
この場合、正解はネルの両方必ず購入、だ。
しかし、フェリシアも一般的な主の思惑をきちんと読んでの意見だ。
主が奴隷も大切にするアリッサでなければ、彼女の意見こそ正解だろう。
セシリアは、まだ為人がよく解っていないパーティーの細やかな不和こそ問題だと考えたに違いない。
また自分は方向音痴だと己を落としているところにも好感が持てた。
ネリは……論外だ。
フェリシアに意見を求められたので、主の考え方を告げる。
有り難いことですと、やわらかく微笑んでネルの意見に賛同した。
セシリアも同様だ。
ネリは早く食糧を買いに行こうと、椅子から腰を上げかけている。
小さいその身全体を使って、ネルがネリの頭に拳骨落としならぬ、全身アタックをした。
頭を抱えるネリを冷ややかな眼差しで見下ろしてから、フェリシアにマップと冊子の購入を頼む。
フェリシアは快く受けて、手早く購入を済ませた。
全身アタックから復活したネリが、食糧! 食糧! とうるさい。
セシリアがネリを連れての買い物を買って出た。
フェリシアは兎人なら買い物には向いているだろうと言い、ネルはご迷惑をおかけして申し訳ありませんが、宜しくお願いしますとセシリアに深々と頭を下げる。
雪華は両掌を勢いよく差し出したネリを完全無視して、セシリアにお金と背負えるタイプのマジックバッグを渡した。
マジックバッグの中身は空っぽだが、かなりの高性能で初心者が持つ物ではない。
セシリアは迷ったようだが、どちらも受け取って、ギルドを飛び出していったネリを追いかけて走った。
「……妹御は大丈夫なのだろうか?」
「本当に申し訳ありません。甘やかしたつもりはなかったのですが……フォローをし過ぎたようです。戻りましたら、勝手な行動は慎むこと、勝手な行動をしたら私は絶対に助けないことを再度伝えようと思います」
「本来パーティーとは助け合うものなのだが……今回は致し方ないか……」
小さな身体を更に縮ませて申し訳なさそうに告げるネルの頭を、フェリシアが優しく撫でる。
驚いた表情のネルは、その後嬉しそうにしばらく撫でられていた。
二人はマップと冊子を懸命に読み込みながら意見を交わしている。
買い物に出かけた二人が戻る頃には、五階踏破までの予定を、かなり綿密にたてていた。
「買ってきたよ! ネル姉! 美味しい物沢山あるから、楽しみにしていてね!」
「申し訳ありません、雪華さん。資金……全部使い果たしてしまいました……」
渡したお金は鉛貨100枚。
初心者向け装備品一式を全員分揃えたら厳しい金額だが、食糧だけだとしたら、間違いなく買いすぎだ。
青い顔をして謝罪をするセシリアの頭を軽く叩いて労っておく。
姉思いの彼女はネルに同情して必死に止めたのだろう。
ネリの無謀な行動はネルの評価、ひいてはパーティーの評価に繋がるのだから。
しかし天然ドジっ子には、セシリアの心情など解りはしないのだ。
「……ネリ殿。ピクニックに行くのではないのだ」
「……こんな高級な茶菓子まで……貴女は、主様からお預かりした資金を何だと思っているんですか?」
「え! なんで怒るの? 優しい主様が折角下さったお金だもの! 全部使い果たさないと失礼でしょう?」
「……これは君のお小遣いでも報酬でもない、パーティーメンバー全員で使う資金だ! 次の買い物には絶対君を連れて行かない!」
「えぇ! 酷いよぉ、セシリアちゃん! 一緒にたっくさんお味見したじゃない!」
「していない! 君がどんどん食べるから、申し訳なくて、お金を支払ったんだ!」
「駄目だよぉ? 試食にお金を払うなんて、そんなもったいないことしちゃ、めっ!」
ネリの指がセシリアをでこぴんしようとしたので、握り込んで止める。
「い、痛いです! 雪華さん!」
想像以上にやってくれる。
どう言えばネリは静かになるのだろう。
ぎしぎしと指を握り込む力を強くしていく。
「勝手な行動は、他のパーティーメンバーにも迷惑がかかるんです! 今後絶対にやめなさい! もし、次に勝手な行動をしても私達他のパーティーメンバーは、貴女のフォローを一切しません!」
「ね、ネル姉?」
「返事は!」
「でも、私!」
「返事っ!」
ネルの声に合わせて力を込める。
骨ではなく、爪にぱきりとひびが入った。
「はい! わかりました!」
ちっとも解っていないだろう、投げやりな声だけが大きい返事。
雪華が手を放せば、わざとらしく上目遣いに雪華を見詰めながら、手を摩っている。
「準備はいいの?」
「セシリア殿、大丈夫か?」
フェリシアが与えているのは、マジックバッグから取り出したらしいイエローポーション。
恐らくフルグレ味だろう。
初心者には過ぎた代物だが、今のセシリアには必要な物だ。
でこぴんが成立しなくても、精神的なダメージが蓄積した状態なのだから。
「……はい。大丈夫です。お手間をおかけしました」
「いえいえ、妹がご迷惑をおかけしたせいです。本当に申し訳ありません」
「ネルさんが謝ることじゃないですよ。今後はネリさん本人からの謝罪しか受け取りませんから、そのつもりでいらしてくださいね」
「そう、ですね。はい、わかりました」
ここまでのやり取りなのに、ネリは唇を尖らせて不服そうに彼女達を見詰めているだけだ。
ダンジョンへ入る前に、転売許可を取った方がいいのだろうか、悩む。
「では、行きますね」
四人が揃って頷いたので、雪華は興味深そうにこちらを伺っていた面々を軽く見回してから冒険者ギルドを後にした。
冒険者ギルドから、徒歩三十分。
王都初級ダンジョンに到達する。
途中ネリが、セシリアがしっかりと背負っているマジックバッグから、菓子や飲み物を勝手に取り出しては堪能していたが、他のメンバーは完全無視を貫いた。
既に注意するだけ無駄という域に到達してしまったようだ。
ダンジョンの入り口に並ぶ前に、三人は水分補給をしっかりしている。
ネリは食べ過ぎ飲み過ぎで必要ないらしい。
「では、雪華殿、宜しくお願い致します」
「うん、頑張ってね。私は余程のことがない限り見ているだけだから」
「はい、了承しております。それじゃあ、皆入るぞ!」
先頭に立つのはフェリシア、肩にはネルが乗っている。
そういえばネルは何時からか、ネリではなくフェリシアの肩に乗っていた。
続いてネリが続き、セシリアが続いて、最後に雪華が殿となって、ダンジョンへと足を踏み入れた。
ダンジョン作品はかなり好物なので色々と読んでいますが、どこまで鉄板なのかは悩みどころですね。
ダンジョンを知らない人に一から説明する話とかも書いてみたいですが、そちらは更に難しそうです。
次回は、ダンジョンアタックで奴隷の見極め 雪華編 2 の予定です。
お読みいただきありがとうございました。
引き続きお付き合いいただけたら嬉しいです。




