旦那様は分限者です。妖精達と家具選び カーテン 前編
す、すみません。
ショッピングが楽しすぎて、想像以上に長引きそうな予感です。
このカーテン編も一話で終わるはずだったんですよ……。
というか、カーテン編とか分けるつもりもなかったんですよ。
ま、まぁ無理に一日で買い物を終わらせる必要もないかな?
満たされた顔をして去って行くキャンベルと御者を玄関先で見送る。
『主様、早速買い物に行かれますか? それともゴーストと話し合いをされますか?』
「うーん。どうしようかしら?」
開かれた扉から中を覗き込むと女性と子供達が静かにこちらを見詰めている。
取り敢えず手を振れば子供達が振り返してくれた。
女性は深々と頭を下げている。
「……先に買い物へ行こうか。行ってくるので、留守をお願いできますか?」
子供達は幾度となく頷いた。
女性は掌を合わせて頭を下げていた。
こちらの祈りポーズは仏教っぽいらしい。
「では宜しくお願いします」
いってらっしゃーい! とばかりに、子供達の手が大きく手が振られた。
女性も子供達に倣っている。
「……お土産は何がいいかな?」
『大変難しい質問でございますね、主様』
自動的に閉まり、施錠までなされた扉を確認したノワールが深々と溜息を吐いた。
呆れられたようだ。
「お菓子とか食べられたら良いのにね」
『ゴーストが実体化できた例はございません。また、ゴーストの訴えを聞くのにはスキルが必要です』
「教会なら得られそう?」
『主様であれば、既にお持ちの気も致しますが……』
「浄化は持ってるよー」
『修練を重ねた者しか持てぬ、レアスキルでございます。さすがは主様! 主様が望めば十分な対話が可能でございましょう』
『まぁ、あれじゃな。真偽の結果、奥方子供は我々に無害であるようじゃ。母親が話しかけてくるまで待てばよいのではないか?』
ランディーニの真偽なら間違いはない。
けれど。
「その我々には、奴隷達も入るの?」
『……全員ではないの』
「やっぱり」
少なくとも一度、奴隷達がダンジョンから戻る前に話を聞いておく必要がありそうだ。
奴隷達が入れないでは拠点を得た意味がなくなってしまう。
屋敷には荒れた気配がなかったので、ゴースト達に任せても管理はしてくれるような気がしないでもないのだが。
「買い物と夕食を終えて、夜にでも話をするのが良いかな?」
『うむ。夜であれば、彼女らも力が強い。十分に対話ができるじゃろうな』
『では、そのように致しましょう』
「うん。じゃあ、行こうね! まずは何処からがいいかしら」
『索敵の条件を変えれば店の検索は簡単じゃ。ノワール、お主が考える必要な家具はなんじゃ?』
『こちらです』
何時の間に書いたのだろう。
ノワールはランディーニに一枚のメモを突きつけた。
『ふむふむ』
横から覗き込むとこそには。
欲しい家具一覧
主様用。
天蓋付きベッド。
寝具。
猫足バスタブ。
カーテン。
ドレッサー。
ティーテーブル&椅子五脚
照明三個。
テラス用インテリア。
カーペット。
奴隷用。
ベッド。
チェスト。
と、書かれていた。
なるほどのラインナップだ。
奴隷用が少なすぎる気もするが、最初は必要最低限の物にするのが普通の対応らしいと、百合の佇まいでお茶をしている時、沙華に教えて貰った。
「あれ? バスタブは綺麗なのが置いてあったけど?」
『……掃除が行き届いているだけでございます。犯人は全身に浴びた血をあのバスタブで洗い流したと調べがついております』
「そ、そうなんだ。じゃあ買い換えた方がいいね」
そこまでの情報は、ギルド側から提示された書類に記載されていなかった。
何時の間に突き詰めた情報を得たのかと聞いても、メイドの嗜みでございますと、返事がありそうだ。
聞くまでもないよねーと肩を竦めていると、ランディー二の検索が終わったようだ。
『ふむ……貴族御用達好評店で検索してみたが……大丈夫じゃろうか』
『私も貴女もしばらく世に出ておりませんでしたから、少々不安ではありますが致し方ないでしょう……いざとなったら御方の情報を使わせて頂きましょう』
こちらの世界に居る二人よりも、あちらの世界に居る夫の方が情報に通じているという不思議。
「今でもいいけど?」
夫が沈黙を守っているので、二人を信用しているのだろう。
そうでなくても私が許可しているのだから、使えるものは使えば良いとも思う。
『困った時にだけお願い致します。主様が御方の情報を使われるのは当たり前でございますが、私共が日常的に利用していいものではございません。お気持ちだけ有り難く頂戴いたします』
『そうじゃなぁ。今更信頼関係は揺らぎようもないが、我らにも矜持があるのじゃ。ま、年寄りの戯れ言と、軽く聞き流して欲しいところじゃな。のう、ノワールよ』
『……真にお年寄りの貴女と一緒にされたくありませんが、ここはさらりと流して頂きたい点には同意いたします』
「了解ー! では二人にまるっとお任せします」
それだけ自分の仕事に自信があるのだろう。
良い事だ。
尊敬できる相手には尊重で返したい。
『ふむ。ではカーテン専門店に行こうかのぅ。ほれ、その串焼き屋台を右に折れた所じゃ』
『王都で唯一の専門店です。まず間違いはないでしょう』
フラグ?
フラグ!
と、内心ドキドキしながら扉に手をかける。
「いらっしゃいませ」
入り口で人がスタンバイしていた。
穏やかな笑顔だが、目は笑っていない。
歴戦猛者の予感がする。
『主様はどんなカーテンをご希望されますか?』
「やわらかいグリーンとピンク系がいいかな。カーテンは二種類必要な感じ?」
『はい。レースの薄い物と厚みのあるしっかしりた物をお選びください。ランディー二! 主様に説明を』
『ほいほい。了解じゃ』
猛者に勝るとも劣らぬ笑顔を浮かべたノワールが、奥に設置されたテーブルへ向かう。
先に値段交渉をするのかもしれない。
『ふむふむ。グリーンとピンクを使った物は五点ほどあるのぅ。好みの物があれば良いのじゃが……』
「絶対その色じゃないと嫌! っていう拘りじゃないから大丈夫。なかったら違う色も検討するし。あ! レースの方は百合柄が欲しいけどあるかなぁ?」
『百合柄とな! 薔薇柄なら多くあるが、他の花はあまり置いておらんじゃろうが……おぉ! 一点あったぞ!』
「じゃあ、先にそっちを見たいな」
入り口は家族経営のこじんまりとしたお店風の大きくないものだったが、中は実に広かった。
空間魔法的な何かが使われている気がする。
「あ! これで決定! うわー。綺麗な百合の透かし! 開いたのも蕾みのもあるのが乙だなぁ」
『ほぅ。裾も百合の形とは洒落ておるのぅ』
見本を手にしてよくよく眺める。
コスプレにも使えそうな豪奢なレースだ。
ペチコートにして裾からチラ見せしたら可愛いだろう。
騎士然としているフェリシアに着せてみたい。
恥ずかしそうに、まごまごしてくれそうだ。
さすがにカーテン生地では無理だが、普通の生地で同じ柄が売っているだろうか?
『うむ。これは昼も夜も外から見えにくいミラーカーテンじゃな』
「ミラーカーテン?」
『外から見えにくいカーテンをそう呼ぶらしいぞ。遮像カーテンとも呼ばれるらしいがの。 紫外線カット機能もついて完璧じゃ!』
じっくりと生地を観察したランディーニが熱く語ってくれる。
従業員さんが突っ込みを入れる隙もなさそうだ。
私は大きく頷いて、注文する名称を確認した。
百合の戯れ、だそうだ。
色々と言いたいことはあるが、ここは一つ黙っておこう。
『ではレース仕様はこちらで決定するとして、生地が厚い方を選ぼうかの。ほれ、こっちじゃ』
「はーい」
先導してくれるランディーニの後ろに続く。
何人か他の客がいたが、飛ぶランディーニを咎める人はいなかった。
フラグが立たなかったのなら何よりだ。
『ここに三点と、あっちに二点じゃの』
「あーこの柄良いかも。好きなんだ、ダマスク柄」
しかも、グリーンとピンクどちらも使われていた。
グリーン部分がダマスク柄でピンク部分は小花柄。
上から下に帯状で交互に並んでいる。
ダマスク柄の方が少しだけ幅広だった。
『なるほどのぅ。落ち着いていて、なかなか品の良い色味じゃの。一応離れた場所にある二点も見てみると良いじゃろうて』
「そうだねー。ん?」
移動しようとした時、一瞬だけ不愉快な視線を感じた。
『客の一人が奥方を鑑定しようとしたのじゃ。で。それが攻撃と見なされて無効化されたのじゃよ。ほっほ。実に間抜け面じゃのぅ』
ランディーニの羽根が指す先に男が一人立っていた。
貴族の従者が何かだろうか。
高位の貴族に使えるお仕着せらしい見事な衣装が台無しだ。
ぽかーんと口を開けている。
鑑定能力に余程の自信があったようだ。
『主様! 大丈夫でございますか?』
何らかを察知したのだろう、ノワールが飛んでくる。
接客をしてくれていた猛者も一緒に飛んできた。
買えた商品には満足しているけど、それ以外に何か不愉快な思いをして、喜びが半減する事は、よくありますよね?
そんな時は思いっきり、買えた商品の良さを堪能することにしています。
次回、旦那様は分限者です。妖精達と家具選び カーテン 後編の予定です。
お読み頂いてありがとうございました。
引き続き宜しくお願いいたします。




