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旦那様は分限者です。妖精達と拠点決め。後編

 王都拠点決定。

 毎回住まいは迷います。

 そう言えば、スライムの方もこれから村を整備していくんだった……。



 ギルドマスターが部屋を出ると、何人かが聞き耳を立てていたらしく扉の側で慌てている。

 防音は完璧なので時間の無駄でしかないのに、ご苦労なことだ。


「は! 値段見てなかった。あれって一応賃貸扱いの物件ですよね?」


「はい。左様でございます。ですが特殊物件ですので、お買い上げいただくのであれば、格安にて提供させていただく所存でございます」


「まずは物件を見てからかな、ノワール?」


『はい。それが宜しゅうございますね』


「冒険者ギルドから徒歩で10分ほどでございますので、馬車を用意致しましょう」


「宜しくお願いします」


 ギルドマスターが御者を呼びつけている間に、こっそりとノワールに尋ねる。


「馬車の移動速度ってわからないんだけど、どれぐらい?」


『徒歩10分であれば、馬車で1分になりますね。速度的には急がない馬車で徒歩の10倍ぐらいとお考えください』


「おぉ、なるほど解りやすい!」


 感心している側で馬車が目の前に着けられる。

 目がくりっとして賢そうな栗毛色の馬が一頭で引いている馬車は、貴族も満足するに違いない品のある優美な作りで、日本の儀装馬車に近しい形態だった。

 中は四人が寛いで座れる広さに、座席はクッションが敷き詰められたような座り心地の良さで、思わず口元を緩める。

 異世界テンプレ物の、馬車に乗ったら尻が痛すぎて泣けるわ! といった悲劇には見舞われなかったようだ。

 ありがたいです。


 中に入り込んで、そう言えばチップ的な物を御者に渡さなくていいのだろうか? と首を傾げていると、ノワールから返事があった。


『一般的な御者には渡した方が色々と便宜を図ってくれるので無難ですが、ギルドの御者には不要でございます。賄賂扱いとされておるのです』


 なるほど。

 ロマンスグレー萌え! と声を上げたくなる老年の男性は御者の制服も格好良かったので、ちょっとしたおひねりの意味合いでもあげたかったのだが、取り決めならば仕方ない。


『ギルドマスターに一言、良い御者ですね、と伝えれば、それが一番彼らの矜持を満たしますので、どうかお言葉を』


「随分と熟練された御者ですね。運転も安定しているし、あっという間に着いてしまいました」


「ありがとうございます。御者に必ず伝えておきます」


 御者の耳にも聞こえているはずだけれど、形式美的なものなのだろう。

 笑顔で頷いておく。


 ノワールの手を借りて馬車を降りる。

 御者が深々と礼をするので、会釈で返して目の前に佇む屋敷を見上げた。


「……オックスフォード風住宅?」


 乙女ゲームでよく見かけるオックスフォード風住宅のゴシック様式。

 一生住んでも良いと思う人も少なくなさそうだ。


 ギルドマスターが施錠を外す。

 現時点でゴーストの拒絶はないようだ。

 既に浄化されたのだろうか?

 玄関に足を踏み入れても、悪霊が居る特有の気配は感じられなかった。


『……様子を伺っているようでございますね。女性一人、女児二人、男児一人のゴーストがおります』


 なかなかに大所帯だ。

 お妾さんとその子供達だろうか。

 足りない二人は既に浄化できたのか。

 そうであればいい。


「干渉がないようなら放置で、強制除霊はしませんが状況によって同居か浄化にします」


『主様の御心のままに……』


 私とノワールの会話にギルドマスターは沈黙を守っている。

 頭の回転が速いだろうギルドマスターは、ノワールの声が聞こえなくとも話の内容を的確に掴んでいるはずだ。


「ギルドマスターはどう思いますか?」


「私で、ございますか? エルフは出生率がとても低く生まれ変わりの思想がございますので、今世での憂いを払い、次の生に希望を見いだして欲しいと、そんな風に思います」


「なるほど」


 そんな言葉を聞いても、やはりゴースト達に暴れる気配がない。

 しばらくは同居で、慣れてきたら希望を聞くのが無難な選択だろう。


「マスター。案内を」


「はい。畏まりました」


 何故か背後に大人しく付いてくるゴースト達を、従えるようにして家中を見て回る。

 まずは玄関を入って一階。

 右手に食堂、左手にキッチン、真正面には広々としたサロン。

 キッチンは冷蔵庫やオーブンなどを中心として、ノワールが満足する設備がついていた。

 サロンの隣にはサロンを有効活用するべく、遊具や書籍などが置かれていたという倉庫的な部屋がある。


 地下はワインセーラー食料庫の他に、使用人達の作業部屋が、作業の種類によって用意されていた。

 

 二階は、私と守護獣、ノワールとランディー二が生活するだろう空間。

 広い寝室を私が使い、他に二つある寝室をそれぞれ彩絲と雪華、ノワールとランディー二で使う感じになりそうだ。

 しかし、寝室の隣にある化粧室の存在には慣れない。

 トイレではない。

 俗に言うドレッサールームだ。

 日本間取りで十畳以上あるだろう。

 夫が居たら、嬉々としてクローゼットを埋めそうだ。

 や、彩絲と雪華が同じ勢いで埋め尽くす気がする。


 三階は屋根裏部屋扱いで、使用人達の部屋が個室二つ、二人部屋が二つあった。

 

 トイレは各階に一つ以上、風呂は二階に三つ、地下にも一つ設置されていた。

 私が使う予定の風呂は猫足バスタブなので、ちょっとしたお姫様気分が味わえそうだ。


 一通り回って大きく息を吐き出せば、ノワールが何もないサロンの中央に、椅子とテーブルとティータイムセットを一式準備してくれた。


「ギルドマスターもどうぞ」


「ありがたく」


 ノワールの淹れてくれた紅茶を飲んで一息吐いてから、私はギルドマスターに告げる。


「ぜひ、この屋敷を王都の拠点としたいと思います」


「ありがとうございます! 現時点ではゴーストの拒絶はございませんが、ゴーストが居るのは感知できましたので、賃貸でしたら一ヶ月500ギル。お買い上げいただけるのでしたら、1000ギルとさせて頂きます」


「やすっ!」


 思わず叫んでしまった。

 値段を聞いてしまえば購入一択だ。

 謂われやゴーストの存在を考慮しても、数万ギルの価値はあるに違いないのだから。


「正直に申し上げまして、ゴーストが屋敷へ入るのを許可したのは、今回が初めてでございますので……」


 ケーキスタンドに乗っているお菓子を見ている子供達から伝わってくのは楽しげな気配、女性から伝わってくるのは恐らく安堵。

 幸せだった世界を、誰かにそのまま伝えたかったのだろうか。

 大切に使ってくれる人物を捜していたのかも知れない。


「それならば、購入で……ノワール」


「賛成でございます」


「では、書類にサインをお願い致します。代金は後日でも問題ございませんが……」


 何もない空間から書類が取り出された。

 アイテムボックスは当然のように持っているようだ。

 エルフだしね。


「即金で」


 私も指輪から銀色の硬貨を取り出してギルドマスターの前へ置く。

 指輪を凝視されてしまった。

 指輪型のアイテムボックスは珍しいのだろうか?

 ノワールが静かに頷く。


「そ、それでは控えになります。は! 申し訳ありません。立会人を召喚されますか?」


「うーん。沙華呼ばない方がいいよね?」


 ノワールは目伏せて数秒してから、頷いた。

 まだ立て込んでいるようだ。

 どれだけしつこいストーカーなのか。


「アーマントゥルード・ ナルディエーロ様と縁を結ばれましたか! でしたら……ご都合の宜しい時に確認して頂きます」


「ありがとう。急がないので、沙華とマスターの都合がいい時に」


「承りました。さて! 私はこれにて失礼させて頂きますが、馬車を残していきましょうか? これから、家具などの購入がございましょう?」


「お気持ちだけありがたく頂きましょう。私がいれば荷物は問題ありません。主様とランディー二の三人で拠点を整えたいと考えております」


「ランディーニ殿もおられましたか……」


 大きく目を見開いている。

 それだけ完璧に気配が絶たれていたからだろうか。


「ふおっふおっ。お主が何かしでかそうものなら、我のスキルを存分に味合わせようかと思ったのじゃがのぅ……誠実な条件だったので出番がなかったのじゃよ」


 姿を現したランディーニの言葉に、ギルドマスターは目を潤ませている。


「のぅ、奥方よ。マスターは誠実であった。名を呼ぶ価値はあるのではないか?」


「ランディーニ! 越権行為であろう!」


「だ、大丈夫だよ、ノワール。おぉ、越権行為とかリアルで初めて聞いたよ、 喬人さん」


 思わず夫に呼びかけてしまった。

 

 まぁ、ランディー二ですからねぇ。

 ノワールさんに、怒らないように伝えてください。

 お年寄りを労る感じで。


「ノワール? 主人がお年寄りを労る感じで、許してあげて欲しいと……」


 ノワールとランディー二が揃ってしょっぱい顔をした。

 ギルドマスターは、どんな顔をしたらいいか解らないよ! と言いたげな実に複雑な表情をしている。


「ギルドマスター。お名前を伺っても?」


「っ! アメリア・キャンベルと申します」


「では、今後。キャンベルさんとお呼びしますが……宜しいですか?」


「ありがとうございます! 光栄でございます!」


 ファーストネームでなくても良いらしい。

 言われてみれば、身内以外はファミリーネームを呼ぶのすら稀だった。


「全く、貴女は色々と甘過ぎですよ、ランディーニ!」


「お主が厳しすぎるのじゃ。まぁ、主様には格別優しいから、そのままでいて欲しいとは思っておるがの?」


「余計なお世話でございます!」


 声を荒げるノワールは珍しい。

 思わずキャンベルと目配せをして、二人でこっそりと笑ってしまった。


 

 間取りを検索するのが楽しかったです。

 本を購入しようか迷ったのは内緒ですよ。


 次回、旦那様は分限者です。妖精達とお買い物 前編 の予定です。

 前後編か、前中後編のどちらかになると思います。

 買い物楽しいからなぁ……。


 お読み頂いてありがとうございました。

 引き続き宜しくお願いいたします。

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