旦那様は奴隷を推奨しています。指輪ボックス検索中。
久しぶりで恐縮です。
毎年ホラー企画が終わった後は、しばらく気力が萎えてしまうのですよ。
今年は熱中症まで起こしたので、更に遅くなりました。
すみません。
今回は所謂説明回なのかな?
闇色の薔薇は素晴らしい奴隷館だった。
私は満足げに、むふーっと鼻を鳴らす。
「さて、と。奴隷用の装備を考えないとねー」
獣肉萌館へ帰宅途中に、声を出してから首を振る。
私の帰還が待ちきれなかったらしい彩絲と雪華と合流したところで、不意に夫から、
素敵装備を検索してみましたよ?
検索結果を表示してください。
と、囁きがあった。
「アリッサよ。思案するのは解るが足下が疎かになっておるぞ?」
「うん。危ないから、考えるのは宿に戻ってからの方が良いんじゃないかな?」
「あー、うん。主人からのアドバイスがあったんで、つい」
「ほほほ。さすがは御方。然もありなん」
「なるほど。それじゃあ考えちゃうのも無理はないか。どこかお茶でもしながら考える?」
『主様。お茶でございましたら、私がお淹れいたします。休憩小屋を召喚致しますので、どうぞ寛ぎながら熟考なさっては如何でしょうか?』
ノワールが会話に入ってきた。
タイミングは絶妙だ。
『ふおっふお。それではまず、わしの隠蔽で……』
妖精は見える人にしか見えないが、幻獣は見えない人の方が少ない。
ちらほらと感じていた不穏な気配と、それ以上に感じていた好奇心に満ち溢れた多くの目線が、すぱりと断絶された。
「凄まじいのぅ。我らの姿が消えたのに気が付いた者が一人もいないとは!」
「まさに、隠蔽。御方でも、ここまでの隠蔽は可能かどうか解らないかも……」
ランディーニの隠蔽は人が辿り着ける領域ではないようだ。
これならば、どんな追っ手がかかっても簡単に逃げおおせるだろう。
『ノワール。その赤い屋根の裏手が空き地じゃ。何日も人が立ち入っていないから、ちょうど良い場所じゃろうて』
『解りました。ありがとうございます、ランディーニ』
滑るように空き地の前に移動したノワールは、そうだろうなぁと思っていた無詠唱で休憩小屋を召喚した。
扉に額をあてて、何やら囁いている。
『主様、どうぞお入りくださいませ』
敷地の広さに明らかにそぐわないサイズの高級旅館の扉を開けたノワールが深々と頭を下げるので、足を踏み入れた。
「! おぉー! 凄い機能……」
足下に優しく絡みついた絨毯の毛が私の足から靴を奪っていった。
靴の行方を追っていると、最後ににょいんと長く伸びた絨毯の毛が、下駄箱の中に靴を入れてくれた。
足の裏を優しくマッサージしてくれてもいるらしい絨毯は、もしかして生命体か何かなのだろうか。
『ホークアイとモリオンはそちらで休んでください』
指差す場所は玄関から入ってきたのとは別の不思議空間に出られるようになっていて、綺麗に手入れされた芝生が敷き詰められている。
二人は喜んで外へ出て行った。
それぞれの水桶らしき物がどこからともなく飛んできて、二人の喉を潤すようだ。
「これで休憩小屋とは……熟練シルキーの妙技じゃのう」
「シルキーとは何度か一緒に冒険したけど、その時は普通の所謂休憩小屋だったんだよねー」
ノワールの規格外は果てしないようだ。
目の前では色々な物が飛び交って、私達が過ごしやすいように様々なアイテムがセッティングされていく。
『考え事は一人でされた方が集中できましょう。三人はそちらで休憩なさってください。主様はこちらへ……』
掌が示した扉が独りでに開く。
扉の向こうには、高級ホテルっぽい造りの洋間が広がっているようだった。
ティーカップとケーキスタンドが空中で踊っている。
ランディーニが空中で美味しそうなカップケーキを捕まえていた。
楽しみながらゆっくりできそうで何よりだ。
つい見入ってしまったので、目線を慌てて正面に向ける。
私が通されたのは異世界感は薄いが、違う感動を覚える素敵な部屋だった。
「おぉ! 和室! 何故かオーシャンビュー!」
『御方様が情報を送って下さいました。主様の世界でも最高と言われる景色が時間経過に伴い美しく流れる設定にしてございます』
ノワールの目線に促されるようにして、オーシャンビューが堪能できるソファに深く腰を下ろす。
どこからともなく現れたケーキスタンドに、アフタヌーンティーが楽しめそうな菓子が収められていく。
紅茶だけはノワールが自ら淹れてくれるようだ。
「……良い匂い」
『こちらの世界では最高級の茶葉でございます。リラックス効果のあるハーブティーになります。お気に召して頂いたならば何よりです』
ケーキスタンドから手元に置かれた皿にサーブされたのは、赤いゼリーと白いムースが半分以上を占めるケーキ。
どちらを食べようか迷っている菓子だった。
隠れスキルに読心術でもある勢いだ。
『赤いゼリーはクランベリーのゼリーでございます。白いムースは練乳のムースでございます。ゼリーは長さのあるスプーンをお使い下さいませ』
「クランベリーをこっちでは何て言うの?」
『レッドカラーンでございます。練乳はルミルミと申します。参考までに生クリームはルミーンでございます』
確か牛乳クリームはルミクリームだった。
関連付けされた名前がつけられているようだ。
覚えなくても教えてくれる人には不自由しないけれど、面白いので頭の片隅に豆知識として記憶しておく。
「ありがとう。美味しく頂きながら、考えるね」
『熟考完了されました暁には、こちらのベルを鳴らしてお呼び下さいませ。それでは失礼致します』
接客業を極めた美しい御辞儀をしたノワールが部屋を出て行く。
天使をモチーフとしたガラスのベルは、とても可愛らしい。
鳴らしたい衝動を押し殺すのが大変だった。
「さて、と」
素敵装備の検索結果を表示する。
奴隷を購入した順番に適切な装備が書かれていた。
当然のように夫の解説付きだ。
クレア 双子の兎人 姉
武器 沈黙する死神の大鎌
自分より弱い敵の呪文を50%封印、自分より強い敵の呪文を30%封印しますよ。
ごく稀に即死攻撃もしますね。
全体攻撃可能(本来大鎌はグループ攻撃対象です)
ダンジョン階層ボスドロップ品。レア物です。
頭 幸福を呼ぶリボン 右
ロップイヤーだと結びにくいかもしれませんが頑張って下さい。
左右につけると効果倍増ですが、双子がそれぞれつけるとそれぞれ倍増になるのでお得です。
少しだけ幸運を呼びます。ダンジョンドロップ品。
体 シルクコットンシャツ&シルクコットンズボン&ワイバーンの胸当て&ワイバーンの膝当て&
フード付きマント
シルクコットンのシャツとズボンは吸汗効果大で、高級衣料店に依頼して作らせた物。
ワイバーンの胸当て&ワイバーンの膝当ては攻撃反射効果大で、一流防具店&錬金術師に依
頼して作らせた物。フード付マントは蒸れ防止&防水効果大で、敵に対して少しだけ隠蔽効
果有り。
特殊ダンジョン攻略報償品となっています。
十二着あるので売却を迷ったのですが、取っておいて良かったです。
右手 兎のブレスレット
兎の毛が編み込まれたブレスレット。兎人がつけると速度アップの効果。
ダンジョンドロップ品。
左手 目覚めの腕時計
睡眠&催眠攻撃を完全防御できます。ダンジョンドロップ品。
足 兎のブーツ
兎の毛で作られたブーツ。兎人がつけると速度&攻撃アップの効果。
夏は涼しく、冬は暖かい温度調節機能付。
ダンジョンドロップ品に錬金術師が手を加えた物。
アクセサリー 姉妹のペンダント
姉妹でつけると、お互いがピンチの時、身代わりになれます。
二人揃ってピンチだと、ダメージを均等に受けることができます。
何度でも使えます。ダンジョンドロップ品。
この手のアイテムは一回身代わりになると壊れる物が多いです。
そういう意味ではレア物ですね。
セシリア 双子の兎人 妹
武器 永遠を与える薔薇の鞭
攻撃がヒットすると、ヒットポイントの10%追加ダメージを与えます。
全体攻撃で二回連続攻撃。
ダンジョン階層ボスドロップ品。レア物です。
頭 幸福を呼ぶリボン 左
体 シルクコットンシャツ&シルクコットンズボン&ワイバーンの胸当て&ワイバーンの膝当て& フード付きマント
右手 兎のブレスレット
左手 眠りの腕時計
ぐっすり眠れます。
ごく稀に睡眠攻撃を仕掛けます。
ダンジョンドロップ品に錬金術師が手を加えた物。
足 兎のブーツ
アクセサリー 姉妹のペンダント
兎人双子ちゃんの装備を確認した。
一言言いたい。
や、幾つか言いたい。
厨二病乙! 乙! 乙!
……私に言っていますか?
私がつけた銘ではありませんよ?
元からついていたものです。
納得いかないといった風情の声が聞こえてきた。
夫を責めたつもりはなかったので、ごめんごめんと謝っておく。
不機嫌が治らない夫が気になるも、突っ込みは我慢できない。
兎人に兎の毛を使ったアイテム持たせて良いの?
鬼畜じゃないの!
あ!
それは大丈夫です。
むしろ推奨されています。
同族が持つことで、供養になるのだそうです。
なるほど、そういう風に捉えるのか。
向こうの世界でも一部民族で同じ考え方をしていたのを思い起こした。
引き続き確認作業を続けていく。
設定を考えるのは楽しいのですが、これまた装備が生かせるのはダンジョンアタックでもしないと難しい気がしてきます。
まぁ、奴隷の装備品はこれでほぼ固定かなぁ……壊れるようなことがあれば、再度ボックス検索する感じでしょう。
お読み頂いてありがとうございました。
次回も引き続き宜しくお願いいたします。




