旦那様は奴隷を推奨しています。もふもふですね?
6000文字超えました。
ふ。
今回だと奴隷話を書き上げてから更新すれば、3000文字の二回更新とかできるのになぁと思ってみたり。
来年はそんな仕様で書くかもしれません。
定期更新と間が空く連続更新どっちがいいのかなぁ……。
まずは、ロップイヤー兎獣人の双子から自己紹介。
鞭装備の子が一歩前に出てきてぺこりと頭を下げる。
垂れ下がった兎耳がぴるるるっと動いた。
堪らなく可愛い。
しかも二人とも見る限りもふもふ毛だ。
毛足の長いアンゴラ兎で目の周りを丁寧に刈り込んでいる感じ?
こちらの獣人は、顔や手もしっかりと獣人仕様だ。
顔が人間寄りの獣人も見かけたが、その人達は恐らく人間とのハーフなんじゃないかな?
外見がそのまま獣でも二本足歩行なので、その点は人間ぽかったりもするけれど。
契約できたら、まずは耳と尻尾を触らせて貰いたい。
「セシリアと申します。種族は兎人です。戦闘奴隷としてお使い下さい。鞭使いとしてグランドマスターまで極めている者は少ないので、多少の価値はあるかと思います。また兎人は一般的に弱者として認識されておりますので、囮などにも有効でございます……どんな扱いにも耐え抜いてみせますので、どうか! 姉と一緒にお買い上げ頂きたく伏して申し上げます」
いきなり土下座をされた。
姉兎人も隣で土下座をする。
妹の土下座よりも深い。
絨毯に額を擦りつけているが、声はよく通った。
「クレアと申します。種族は純粋な兎人でございます。戦闘奴隷としてお使い頂きたく思います。大鎌使いとしてグランドマスターまで極めております……里では、対要人用の夜の接待役として使われていた過去もございます。妹と一緒にお買い上げ頂けるのであれば、そういった使い方もどうぞなさってくださいませ。ハーフではない兎人のそういった需要は大変多くございます故」
「お姉ちゃん!」
言わなければいいのに素直な事だ。
それだけ姉妹共に在りたいのだろう。
姉妹仲が良いのは羨ましい。
夫の姉妹を見ていたせいか、自分が兄弟と上手に関係を築けなかったせいか、切実にそう思う。
「……仲の良い姉妹を引き裂くほど悪趣味じゃないから安心して欲しいかな? あと、土下座は止めて下さい。苦手なんですよ……許しを、強要されているように感じられるので」
引き離すつもりは更々ない。
二人一緒でなければ、恐らくどちらも壊れてしまうだろう。
大好きな兎獣人……じゃなかった兎人で、しかもロップなイヤー。
私には保護対象かつ愛玩対象なのだ。
本人達が望む以上は戦闘奴隷として扱う心積もりではあるが、愛玩もできれば許容して欲しい。
「「失礼致しました!」」
一瞬だけぴん! と耳が立つ。
へたれた耳が立ち、へったりと元通りになる一連の流れは最高に可愛らしい。
顔がにやけそうになるのを引き締めた。
今の時点でにやけたら、ただの悪人でしかない。
土下座が苦手なので、必要以上に冷ややかな口調になってしまっているのだ。
これ以上悪印象を与えるのは避けたい。
ちなみに土下座が苦手なのは、散々迷惑をかけてきた輩が土下座をして、ここまでしてやっているのだから、許さない方がおかしいよな? と、過去にうんざりする回数言われたせいだ。
上から目線の謝罪で許されると信じて疑わない輩による弊害は、あちらこちらで出ているのが大変悩ましい。
「……私は異世界人でね?」
「アリッサ!」
「うわーん! いきなりは駄目だよぅ!」
彩絲と雪華が反射的に立ち上がるほど驚いている。
奴隷達も揃って大きく目を見開いていた。
支配人だけは静かに微笑を浮かべたままだったが、そこまで知っているのだとしたら結構な情報網だと感心する。
「だから、この世界の人達とは価値観が違うの。後ね? 主人が助けてくれなかったら、実の兄弟に性的暴行を加えられていた女なの。だから、私自身が夜の接待をする事は絶対にないし、守護獣や貴女方にも絶対にさせたくない。本人が望んでもね。私の側に男性は置かないから、その辺りも安心して欲しいかな?」
「……仕方ないのぅ、アリッサは。と! 言う訳じゃ。守護獣にとっても最高に自慢できる主じゃがらな。貴殿らも買われるのを誇りに思うが良い」
「一緒に生活する者に隠し事はしたくないってね? 本当に主らしいわぁ……貴女達にもぜひ、そんな主に仕えられる僥倖に全身全霊答えて欲しいな!」
兎人達がただ深々と頭を下げて、一歩下がる。
代わりに一歩前に出たのは天使族。
「誇り高き主殿に相応しい奴隷であるよう、日々努力を重ねることを誓います。天使族の忌み子・フェリシアと申します。武器は唯一武器のハルバード・漆黒にてグランドマスターを極めております。また、幾つかのスキルも極めてございます。醜い容姿につき主殿のお目を汚す無礼をお許し下さいませ。戦闘奴隷としてお使い下さい頂ければ光栄でございます。力量こそ守護獣の方々には遠く及びませぬが、その分肉壁としてお役に立ってみせましょう」
「忌み子?」
亜種や希少種とは呼ばれないのだろうか。
「はい。本来天使族は、純白の羽、金色の髪と瞳を持って生まれます。ですが、極々まれに、自分のような容姿の者が生まれます。自分は500年ぶりと言われました。能力は高いのですが、容姿が醜い為に厭われて、忌み子と呼ばれます。自分は幼き頃より常に最前線で戦い続けましたが、先日。その強さは悪魔と契約した証だと責められ、実の両親に奴隷に落とされました」
尋ねれば心乱される内容であっただろうに、解かり易く丁寧に答えてくれた。
ここまで同族に貶められても真っ直ぐに私達を見詰めてくる純粋さと芯の強さは得難い。
「両親に恵まれなかったのも、自分と同じ黒髪黒目なのもとても親近感が湧くわ。守護獣達と一緒に私を護ってくれたらとても嬉しい。これから宜しくね」
「! お優しいお言葉身に染み入るようでございます。我が忠誠は永遠に主殿へ捧げます!」
切れ長の美しい瞳が潤む。
自分の目とは大違いの、宗教画のように高貴な品のある瞳には見惚れるしかない。
天使族は一体、彼女の、何を見ていたのだろう。
小一時間どころか、三日三晩は問い詰めたい。
恭しく頭を下げたフェリシアが下がったところで、しょんぼりと落ち込んでしまっているセリシアとクレアにも声をかけておく。
「セシリア、クレア。貴女達も同様に護って貰えるとありがたいわ。ごめんなさいね、貴女達の真摯な謝罪を、そうではない者達と一緒にしてしまって」
「いいえ! いいえ! 私達が浅はかだったのです。守護獣の方々の武にも、フェリシアさんの忠義にも届かないかもしれませんが、それでも! 私達は喜んで主様に武と忠義とそれ以外の全ても捧げます!」
「姉として、妹を護りたいと……長く思ってきました、けれど。その心は揺るがせないと誓っても参りました、けれど。主様の御心に報いるには、奴隷として、それは最低限のルールかもしれないと思います、けれど。主様を一番に、その身も気高きお心も御守りできるように、尽くしたい所存でございます」
セリシアどころか支配人も驚いている。
クレアが胸を張り、卑屈さをかなぐり捨てて語る様子が珍しかったのではないかと思う。
妹を庇って長く夜にも従順であってきた彼女が、私との会話で希望を持ってくれたのなら嬉しい。
「ありがとう。三人の忠義に相応しい主でいられるように、私も常に精進するわ。一緒に頑張っていきましょう」
セシリアはしゃくり上げ、クレアは嗚咽を噛み殺しながら、フェリシアは目を見開いたままの滂沱。
色々と解放されたような三人に続いて、人魚族が優雅に腰を折った。
「慈悲深い主様に買って頂けるようで幸せですわ。幻の人魚族ローレルと申します。水と氷魔法のグランドマスターを得ておりますの。炊事洗濯掃除全て一通り嗜んでおりますのよ。特に魚料理を得意としておりますの。主様にもぜひ召し上がって頂きたいものですわ。
主様のご希望でしたら、喜んで貝ぶらじゃーも付けさせて頂きますわよ?」
「ぷっ! もしかして、人の心が読めるのかしら?」
さすが、人魚族。
凄いぞ、人魚族。
というか、希少種なんだ?
「相手が強く思った時だけですわ。普段は弁えておりますのよ? ただ主様があまりにも寛容でいらっしゃるので……甘えてしまいましたわ」
そんなに強く貝ブラジャーに執着した覚えはないのだが、心底では切実に望んでいたのだろうか。
恥ずかしい。
夫には内緒にしておきたい……ばればれだろうけれど。
楽しそうな笑い声が聞こえるようだ。
「甘えられるのは嬉しいけど、程ほどにお願いね。特にそっち系は恥ずかしいからね! 魚料理は私が住んでいた所はかなり発達していたの。凄く楽しみよ!」
「戦闘奴隷として、家事奴隷として、存分にお使い下さいませ、主様」
奴隷に落ちた原因は、まさか周囲への甘え過ぎだろうか?
空気が読めないわけでもなさそうだし、むしろ空気を読んで重い雰囲気を払拭してくれたんだろうし。
……フェリシア同様に、出る杭が打たれまくった結果、の気もしてくる。
生活が落ち着いたら聞いてみたい。
最後にリス族の子達が一歩を踏み出す。
人サイズのリス族がぶうん! と音がする勢いで頭を下げる。
肩に乗っていた小さいリス族の子達が転げ落ちそうになって、慌てて肩に縋っていた。
まるでコントのようだ。
リスの尻尾はもふもふだが、基本は小さい。
しかし、人サイズリスともなるとふっさふさだった。
九尾の狐に勝るとも劣らないもふもふが楽しめそうだ。
「私は迂闊すぎるリス族の忌み子です。肩に乗っているのはお姉様達です。一緒に買って下さい! お願いします!」
妹の頭をぺちぺちと叩きまくる姉達の一人が、洋服の裾を摘まんで愛らしく礼節を尽くす。
「妹の挨拶がなっていなくて申し訳ございません。自分達は全員純血のリス族です。末の妹はネリ。私は長女ネルと申します。次女はネラ、三女はネマ、四女がネイでございます」
ネリを除く全員がメイドの極みとも言える所作で頭を下げた。
末子以外は優秀なメイドのようだ。
「どちらかと言われますと、メイドとして家を護る仕事に長けておりますが、ネリはメイスのグランドマスター。私達は特殊短剣のグランドマスターを極めております。またネリ以外は生活魔法を極めてございます。その他家事スキルも各種極めてございます……厚かましい懇願と重々承知しておりますが、全員揃って買って頂ければ、死ぬまで忠誠を尽くす所存でございます」
「ネリの家事はどの程度の腕前なのかしら?」
「はい! 一通りはこなせるのですが、ミスが多いのです。そのミスのためグランドマスターになる許可がおりません。申し訳ございません」
ドジっ子属性らしい。
お仕置きは尻尾もふりの刑で! と反射的に思ったのは、横に置いておく。
それでもマスターまでは取得できているのなら、大したものだ。
グランドマスターまで極めている者がそもそも少ないのだろう、常識的に考えれば、ネリとて優秀な部類に入る。
姉達が間違いなくできすぎなのだ。
というか。
想像以上に素晴らしい奴隷達らしい。
奴隷を買う初心者の私が本来買えるものでもないのだろう。
無論迷わず買うけれども。
そういえば、グランドマスターというのは初めて見た。
奴隷特有の称号的な何かなのだろうか?
「支配人さん。素晴らしい子達を紹介してくださってありがとうございます。全員購入させて頂きます」
「アリッサ様のお目にかなったようで、ようございました。全員で1000000ギルになりますが、宜しゅうございますでしょうか?」
奴隷達が全員目を剥いている。
彩絲と雪華が静かに殺気を纏った。
どうやらかなりぼったくられているようだ。
「1000000ギルというと……1水晶貨で良かったかしら?」
払えないに決まっていると思っているのだろう。
随分馬鹿にされたものだ。
最初に受けた好ましい印象が真逆に変わる。
「は、はい」
「じゃあ、これでお願いしますね。滅多に使わなそうだから使えて良かった。まだまだたくさんあるしねー」
私は下品を承知で、じゃららららっと、水晶貨のみをテーブルの上に出して見せる。
百枚以上はあるだろう。
支配人の額にびっしりと汗が浮かんだ。
「お渡しする奴隷の装備と契約書を整えてまいります。今少しお待ち下さいませ……大変申し遅れまして恐縮でございますが、私『百合の佇まい』が館主、オフィーリア・フィッツシモンズと申します」
腰を直角に曲げられて今更名乗られた。
ご機嫌取りの挨拶は、価値のない土下座と同類だ。
せめて心からの謝罪があれば、少しは評価を戻すのだけれど。
しかし無礼極まりない態度に支払いの段階で気が付くとか、私も間抜け過ぎて笑える。
夫の、外見に惑わされちゃ駄目ですよーの、囁きが届く。
一応、外見通りではないと思ってはいたけれど、警戒が足りなかったのだろう。
深い溜息が出た。
「もう一軒回ろうと思っておりますので、手早くお願い致しますね?」
「……畏まりました」
名乗りに全く反応しなかった点について腹でも立ったのか、僅かな沈黙がある。
ますます好感度が下がった。
完全にマイナス評価だ。
心配そうな、申し訳なさそうな顔をした奴隷を引き連れて館主が部屋を出て行く。
「ねぇ? グランドマスターとかって、奴隷特有の制度とか称号とかなの?」
私が尋ねれば、二人は気の抜けた溜息を揃って吐いた。
「アリッサ……寛容がすぎるのではないかぇ?」
「うん。ここは怒るべきだったと思うよ?」
「そう? 彼女にとっては不要品処理だったんだろうけど、私に取っては最高の奴隷達だからね。その点を評価しただけだよ。二度と使わないし、奴隷に関して聞かれたら、館主の態度が最悪だったって必ずつけるようにするから大丈夫。私、陰険なんだー」
「うむ。それならば良い」
「だね。奴隷達にも安心するように言っておかないと!」
館主の態度で自分達の忠誠を疑われるのではないかという不安。
自分達のような売れ残りを買ったせいで見下された申し訳なさ。
全員が等しく持ってくれた感情が、私は嬉しい。
だからこそ、館主にはそれなりの報復措置を取る。
「そうそう。グランドマスターっていうのはね。アリッサの言うとおり、奴隷特有の称号なんだ」
「じゃな。希少称号じゃぞ。彼女らの努力が知れる」
やっぱりかーと思う、納得の返答があった。
曰く。
高級奴隷店では、奴隷の価値を高める為に一定金額を払って、専門業者に委託し技術を覚えさせるらしい。
奴隷を売る際にかかった金額は上乗せされるが、それでも早く良い所に売られたいからと希望する奴隷は多いようだ。
称号は、下記の通り。
アプレンティス=見習い。
研修を受けただけ、やらないよりはマシ程度。
ビギナー=初心者。
一通りの事は出来るが、仕事・技術が良質ではない。
ミーディアト=中級者。
一通り以上の事が出来て、仕事・技術が良質。
ここから+的価値と評価される。
マスター=人に教えられるレベルに、仕事・技術が熟している。
これがあれば、かなりの価値と評価される。
奴隷解放される可能性もある。
グランドマスター=極めし者。仕事・技術を極めている。
基本的には引く手数多。
奴隷解放される可能性が高い。
彼女達は奴隷を購入する者が望まない価値を上げすぎ、高値になってしまったせいで売れなかったのだろう。
私の価値観では理解に苦しむ差別的なものも関係ありそうだ。
全く以て勿体ない話だが、私にとってはありがたかった。
まさしく残り物には福がある、状態だろう。
仕事に見合った生活を保障して、当然奴隷からの解放も考えている。
解放したとしても彼女達は、私がこちらの世界に止まっている限りは残ってくれると信じて疑わない。
館主の指示があったのか、美麗なメイドが三人もやってきて世話を焼いてくれるので、私達三人は優雅なティータイムを堪能して、どんな契約になっているか興味津々の契約書と奴隷達の戻りを待った。
もう一カ所の奴隷館で騎獣を買いたいのですが、まだ一悶着というか、一やりとりある予感……。
次回は、旦那様は奴隷を推奨しています。よ、妖精もありとか! の予定です。
奴隷達が出揃ったら守護獣含めて、ステータス回を設けたいと考えています。
お読み頂いてありがとうございました。
次回も引き続き宜しくお願いいたします。




