安心してね、旦那様。
もふもふいいですよね、もふもふ。
異世界物で巨大獣を見る度に、もふらせろー! とか思います。
できればロップイヤーが最高です。
へたっとした耳を、指の腹でそろーっと撫でたい今日この頃……。
夜食はこそっと食べてます。
肉を使いつつ、肉肉しくない料理を考えるのも楽しかったです。
なかなかに異世界情緒満載だった夕食をすませて、宿へと移動する。
獣肉萌館はキャバレーのような外観をしていた。
看板にはセクシーな兎娘が、私を美味しく食べてね! とウインクしている。
挙げ句出迎えてくれた従業員は、むちむちぷりんぷりんな兎娘だった。
大変羨ましいプロポーションは、眼福以外の何ものでもない。
どちらの意味で美味しく頂くにしても、女性客には少々敷居が高かそうだ。
獣肉は精力を増強させる効果があるので、男性が殊の外好むのは致し方ない気もする。
中へ一歩踏み入れれば、そこは自分の戦果自慢をする少々悪趣味な猟師が保持する屋敷に近しい宿だった。
飾られているハンディング・トロフィーは当然初めて見る物ばかり。
私の感覚では魚類? としか思えない物まであった。
興味深げに見ながら歩いているうちに部屋へと案内される。
予約の時点で受け付け終了となるらしい。
そういうシステムなのか、誰かの口利きがあったのかは後で聞いておこう。
通されたのは最上階、憧れの暖炉が燃える天井が高いゆったりとした造りの部屋。
魔法で空調が整えられているので、暖炉の火が燃えさかっていても部屋の中は適温を保っている。
この部屋で靴を脱ぐのは恐らく、部屋に敷き詰められている高級な毛皮を汚されたくないからだろう。
日本人の私としては、大変ありがたい。
素足に絡まる何らかの獣毛は、少しだけくすぐったいが慣れれば肌に優しく心地良い踏み心地だった。
「……アリッサ。気になるのは解るが、挙動不審すぎるぞぇ?」
「そうそう」
「解ってる! 解っているけど! 気になるのっ! 私は、もふもふしたものだが大好きなんです!」
案内してくれた従業員は妖艶な狐の獣人だった。
時折ひょこひょこ動く狐耳は可愛らしいが、何より尻尾だ。
9本もある尻尾が歩く度にもっさもっさと揺れる。
一緒に首を揺らした変態になってしまったのは反省しているが、仕方ない。
だって、素敵すぎる!
夫が側にいてくれたらな、鼻血を噴き出さんばかりの私を優しく宥めながら、耳もしくは尻尾に触っても良いか、それはもう見事に交渉してくれただろう。
「お触りは厳禁なんだろうなぁ……」
こっそりと呟いたつもりが大変失礼な事に聞こえてしまったらしい。
よくよく考えれば獣人は、人の何倍も耳の聞こえが良いなんて常識だった。
「尻尾の根本以外でしたら、宜しいですよ。如何致しますか、アリッサ様」
思わず絨毯の上に敷かれたこれもまた素晴らしい敷物の上でだらしない格好をしていた私は、狐人の言葉に思わず正座してしまう。
「さぁ、どうぞ?」
目の前で、ふぁっさふぁっさと尻尾が揺れる。
反射的に顔を中へと突っ込みかけて、ぎりぎりの理性で止めた。
どこからともなく聞こえてくる夫の、嫌われてしまうかもしれませんよ? の声で止まった気もする。
私に取っての理性は=夫なのかしらん? などと考えながらも、尻尾を触らせて貰った。
ふっさふさのもっふもふだった。
あちらでの狐尻尾よりもずっとなめらかな触り心地だ。
掌を擽る生きた毛の弾力が最高だった。
「永遠に触っていたい。むしろ埋まりたい……」
蕩けた顔でもふっていれば、狐人も同じような顔をしている。
彩絲と雪華は、仕方ないなぁの、呆れ顔だ。
「……お疲れ様じゃったのぅ」
もふり続ける私の首根っこは雪華に掴まれて、狐人から引き離される。
そのタイミングで彩絲はそっとチップを渡していた。
「ご、ご満足頂けたなら何よりでございます。何か、ございましたらお呼びくださいませ」
優美に御辞儀をして尻尾も振った狐人は、何故か身体をふらつかせながら部屋を出て行ってしまった。
「もふもふがー!」
「きりないでしょ! それにあれ以上したらあの人、発情スイッチ入っちゃうんじゃないかしらね?」
「……え?」
「優秀な狐人は発情期を完全制御できるというしなぁ」
「それなら万が一発情しても制御すれば無問題じゃないの?」
「……それほどアリッサのももふり具合が好ましかったというか……むしろ発情して溺れたいと思うほどの欲情を煽るものだったというか」
「それは! 失礼しちゃったなぁ……」
九尾の狐の尻尾をもふれる機会は、こちらでしか得られない。
できればもっと堪能したかった。
「……油揚げのお料理でも貢ごうかな?」
「おお! それは良いと思うぞ!」
どうやら狐の油揚げ好きは、異世界でも有効らしい。
そうなればやはり稲荷寿司が良いだろうか。
単純な油揚げの煮浸しも山盛りで準備しておきたい。
「そうなると拠点が必要になってくるけど……まだ王都に居るつもりなの? 王都に拠点はさすがに目立ちすぎだと思うし」
雪華に言われて悩む。
問題も多かったが現時点では解決しているし、新しい問題もない。
拠点とまではいかなくとも、別荘的なもは購入しておきたい気もした。
「うーん。どうしたらいいんだろう……あ! クエストを見てみよう」
しばらく見ていなかったクエスト画面を開く。
夫なら最適な意見を出してくれるだろう。
*依頼を受けてみよう。をクリアしました。
*冒険者ランクをあげてみよう。をクリアしました。
新しいクエストはありません。
クエストの優先順位が変わりました。
*奴隷を買おう!
女性か両性じゃないと駄目ですよ?
王都の奴隷館は充実しています。
裏に行くのなら、表で奴隷を入手してからにしてくださいね。
どちらにも、良い奴隷がいますよ。
*王都を出てみよう。
彩絲と雪華のテレトリーに行くのも面白いでしょうね。
オススメ市町村マップを参照のこと。
*拠点を作ろう。
オススメ拠点マップを参照のこと。
*料理を作ろう。
新しいレシピで無双してもいいですよ。
「奴隷購入が推奨されてるみたい」
裏と表の奴隷館があるようだ。
欠奴隷の完全回復=神のように崇められる&絶対服従のフラグが立っているのは間違いない。
エルフ、ドワーフ、マーメイド、ハーピー、セイレーン辺りの種族が萌える。
もふもふも大変好ましいので、獣人がいればこちらも嬉しい。
能力次第では昆虫系も……いやいや。
彩絲がいれば十分過ぎる。
「我達が人化か、本来の姿であれば不必要な気もするのじゃがなぁ」
「一般常識を知ってる者と裏に通じている者は必要じゃないかな?」
「あーそうだねぇ」
雪華の言葉に頷く。
冒険者としての経験は多くあっても久しぶりだし、守護獣に一般常識を求める方が本来は難しいだろう。
この二人が幾ら規格外に有能だったとしても。
「そうなってくると、元貴族的な者も欲しくなってくるのぅ」
「アリッサを欲しがる者は増えてくるだろうしねぇ」
「じゃあ、良い奴隷が捜せたら即購入な方向で」
軍資金は唸るほど持っている。
お金が足りなくて購入できず、トラブルに巻き込まれるというテンプレには遭遇しないのが幸いだ。
「じゃな。その者達の装備などを調えて……御方の持ち物で十分足りそうではあるが」
「うーん。逆に装備が良すぎるかもしれないしねぇ……まぁ、購入できた奴隷を見てからその辺も考えようよ」
「では明日は奴隷館に行く方向で。紹介状とか必要なのかな?」
「バロー氏のギルドカードをみせれば良かろうて」
「一応あの老夫婦の紹介状も見せよう。魚と衣類だけじゃない効果がありそうな気がするし」
冒険ギルドに足を運ぶのも良いかと思ったが、そこまでする必要もないらしい。
この手の組織に借りを作るのは少ない方が良さそうだ。
「あーそうだ! ステータスも確認しとかないと」
しばらく確認していなかったとステータス画面を開く。
柊麻莉彩 ひいらぎまりさ
HP ∞
MP ∞
SP ∞
スキル 鑑定∞
偽装∞
奪取スキル 生活魔法 育児 統率 礼節 謀略 地図
王宮料理 王宮で出せるレベルの料理が作れます。
サバイバル料理 冒険者には大変ありがたいスキルです。
家庭料理 これで胃袋を掴めます。女性限定ですよ?
雷撃 対象を感電させます。魚釣りが苦手な貴女にオススメ。
慈悲 回復魔法の最強版と思ってください。死者蘇生は無理です。
浄化 アンデット系に有効な攻撃ですね。
冷温送風 暑さ寒さ濡れ対策にどうぞ。
解呪 呪いを解きます。封印は呪いとは違うので解けません。
神との語らい すみません、封印させて貰いました。
固有スキル 弱点攻撃
魔改造
簡単コピー
特殊装備品 *紅翡翠で偽装中
サファイアのネックレス
サファイアの指輪
サファイアのイヤリング
装備品
肩掛けバッグ
リュックサック
緋色蜥蜴の編み上げブーツ
ローブ(虹糸蜘蛛の守護刺繍付)
特殊アイテム
リゼット・バローのギルドカード
魚屋紹介状
衣類屋紹介状
称号 時空制御師の最愛
ちょこちょことコピーはしていたが、マザーのスキルが色々な意味で極悪過ぎた。
改めて確認するとシスター怖い!
「あ。スキルって封印もできるんだ」
例の空間で語らってみたかったが、夫が封印するのだ。
宜しくない神様なのか、男神様なのかのどちらかなのだろう。
残念だが今は大人しく諦めておく。
「高位スキルじゃな。使う者によって精度が変わるのぅ」
「戦闘中のみ封印、教会で解除できる封印、教皇で解除できる封印、神との語らいで解除出来る封印、御方様のみ解除できる封印っていう感じ?」
夫がさりげなく神様より強い封印解除が出来る件について。
うん。
今更だね!
「そういえば、スキルって何持っていれば良いか解らないから、アドバイスが欲しいなぁ」
「奴隷を持つなら、隷属か洗脳はあった方が良いかも?」
「スレイブリングは身分証明ができて、逃亡防止の付与がついているだけじゃ。落ち着くまでは精神に干渉しておいた方が無難だろうて」
実は教会のマザーが洗脳を持っていたのだけど、怖くてコピーしなかった。
隷属にしろ、洗脳にしろ恐ろしいスキルだ。
自分が向けられたらと思うと血の気も引く。
例え絶対防御でこの身ならば100%安全なのだとしても。
「もっとこう、穏やかなスキルじゃ駄目なの?」
「アリッサは優しいからねぇ……うーん、そうなると……幸福洗脳あたりかなぁ」
「洗脳されている間、本人がとても幸せに感じるスキルじゃよ。教会か娼館ならあるじゃろ。もしかしたら奴隷館で手に入るやもしれぬ」
結局洗脳からは逃れられないらしい。
精神的に落ち着いてきて、ある程度の信頼関係ができたなら解除すればいいのかな。
後は最初に断りをいれておけば、信頼関係も築きやすそうだ。
何より自分の健全な精神状態維持のためにもそうしたい。
「生活魔法が取れていれば、日常生活には困らないと思うよ? っていうか、これだけあれば冒険者としても苦労しないよねー」
「……アリッサの場合は装備も充実しているからのぅ。あとは帰還もしくは転移ぐらいといったところじゃろうか?」
帰還は、決めた場所に戻れるスキルで、パーティを組んだ者全員が対象。
転移は、決めた場所に移動できるスキルで、スキル保持者のみ対象。
と、説明されるとどちらも欲しくなってくる。
優先順位としては帰還だろう。
彩絲や雪華ならば自力帰還できるだろうが、奴隷にそれを求めるのは酷に違いない。
「ん? 夜食が届いたみたいだよ!」
蛇目を輝かせた雪華がドアを開けて夜食を受け取っている。
「先刻の狐さんが持ってきてくれたけど、アリッサがまたもふるかもしれないから、料理だけ貰ってきたよ! 彼女はセッティングまでいたしますって、言ってくれたんだけどね」
「うわーん。雪華のばかばか!」
部屋の担当を変わるほどには嫌われていなかったのは嬉しい。
ここはもっと確実にフォローがしたかった。
私はぽこぽこと雪華の肩を叩く。
「ちょ! 零れるから! 彩絲!」
「うむ。落ち着くのじゃ、アリッサ」
大きなトレイの上に乗っている器や皿が危険な音を立てたので、彩絲の腕の中で大人しく口を尖らせるだけの些細な反抗に止めた。
雪華がトレイからテーブルの上へ夜食を移動させる。
大きめのスープの器と野菜がたっぷりと肉に巻かれた小ぶりの皿が人数分置かれた。
「ほう。どちらもボタンじゃな。ボタン=猪の肉な感じでしょう、と御方がおっしゃっておったぞ」
「肉巻きがホワイトボタンでスープがブラックボタンだね。ホワイトが淡泊系でブラックががっつり系かなぁ」
「ジビエはヘルシーだからねぇ。獣肉がオススメなら夜食にだって使ってくるかぁ」
脂ギトギトのスープは濃厚で胃に染みた。
何倍でも飲めそうな薄い味付けで、脂の甘みが解るというのが空恐ろしい。
肉巻きはポン酢系のタレがかかっており、さっぱりしている。
同じボタンの肉とは思えないあっさりとした味は、これまた何本でも食べられそうで怖い。
野菜もきちんと水が切られているが、しゃきしゃき感はしっかりと残っている。
食感も楽しめるのは最高だ。
良い人達が見つかるといいなぁと思いつつ、意外にヘルシーらしいボタンの結構な量の夜食をスープの一滴すら残さずに堪能し尽くした。
奴隷を何人にしようか。
種族は何にしようか、絶賛迷い中です。
幕間として、忘れ去られているだろう、三聖女の日常を入れます。
雲母愛魅視点で、いらっとする上から目線話になるかと思われます。
周囲に、お前も他の聖女と変わらんよ! 遺伝にしか期待されてねぇよ! と見下されているのに気がつかない描写をがっつり入れるのが理想です。
次回は、三聖女(笑)の日常。になります。
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回もお読みいただければ嬉しいです。




