旦那様は実家がお嫌い。前篇
何時もより気持ち長めです。
ここに来て、やっと夫の名前がでてきました。
でもまだ、苗字が出てきません。
しばらく出てこないかな?
一応、主人公の旧姓ともども決めてはあります。
今回は、性的に不愉快な表現が出てきますので、ご注意ください。
この手の表現がさくっとあるので、残酷タグをつけています。
「じゃあ、頑張って今の乙女ゲーをコンプしないとね!」
「焦らず堪能してくださいよ?」
「それはもう全力で……」
ピンポーン。
カレー用スプーンを握り締めながら熱く語ったところで、ドアホンが鳴る。
夫が私との時間を殊の他大切にしているのを知り尽くしている、ご近所様方は、こんな夕食時に決して訪ねてきたりはしない。
「はぁ……またですか?」
眉根を寄せても美形なままの夫が、リモコンでテレビ画面を切り替える。
ドアホンと連動させてあるので、誰が訪ねてきたかテレビで見られるようになっているのだ。
「接近禁止命令の意味が全く解っていませんね、あの人達は」
「家族だから、心配しているから、何をしても許されるって、ね?
あの人達の考えは、永遠に変わらないんだと思うよ。喬人さんも災難だ」
「まぁ、こういう言い方は好きではありませんが、それでもつい。
麻莉彩の家族達よりは、まだマシかもと思ってしまうんですよね」
「ははは。私の血縁者は猛毒だからねぇ」
私の家族内での役目はサンドバックだった。
父に殴られ、母に罵声を浴びせられ、兄弟にセクハラされた。
最後の一線を超えなかったのは、奇跡に近い。
早くに出会って、何くれと手を回してくれた夫のおかげだ。
「……殺しても、いいんですよ?」
「別に。喬人さんが手を汚す必要もないし」
「汚さなくても可能ですよ?」
「そんな気分になったら……その時はお願いするから。今は、いいかな……」
正直、思い出したくもない。
虐げられるのが当たり前だと思い込まされていた日々。
未だに呪縛は完全に解けていなかった。
「急かすつもりはなかったんです……すみません」
「あー。騒ぎ出しちゃったね」
夫の家族。
義父、義母、義姉、義妹がドア越しに全員好き勝手な事を叫んでいる。
全部が全部私に対する誹謗中傷なのには、笑うしかなかった。
「このまま放置しても、ご近所さんが警察を呼んでくれると思うんですけど……」
「そうもいかないでしょう? 喬人さんの顔を見れば、少しは落ち着くんだし。少しだけ顔を見せてあげたらいいんじゃない」
「麻莉彩は本当……人ができてますねぇ」
「私は何を言われても構わないもの。喬人さん以外の言葉なんて、私に何一つ影響を与えないわ」
それで、いい。
それだから、いい。
やっとの思いで手に入れた平穏なのだ。
「はぁ……気が重いですが、行ってきます。デザートはクレープシュゼットを作りますから」
「本当! 嬉しい! 待ってるね。あ! 一応録画もしておくね」
「不愉快な思いをさせてしまいますから、見ている必要はないんですよ? それこそゲームの続きでもしていては?」
「いえいえ。私を徹底的に庇ってくれる夫の勇姿をみたいのですよ?」
「っ! 本当に……天然とは恐ろしいです」
ぎゅうっと抱きしめられながら、髪の毛撫ぜられる。
眠りに落ちてしまいそうな心地よさだ。
「では、行ってまいります」
「頑張って来てくださいませ」
頬を撫ぜる手の甲へ唇を寄せる。
全幅の信頼は夫の揺らぎをなくすだろう。
完璧超人な自慢の息子、兄、弟が、一回りも年下の女に執着しているのが許せないのはよく解る。
解るが、譲る気は微塵もない。
『これなら、お前も気に入るだろう!』
義父が差し出すのはお見合いの釣書の束。
結婚の挨拶に行った時には、こんな子供に、子供が孕めるとは思えん! と怒鳴られました。
『身元のしっかりしたお嬢様ばかりよ!』
義母のオススメらしいのですが、写真の女性はかなり重度の身障者にしか見えません。
女性陣の押しで決まった義実家での食事会には、全て異物が入っていました。
虫の唐揚げ山盛りとか、よく作ったなぁ、とその根性には感心すらしました。
『大丈夫! 結婚式や新婚旅行のお金は、お姉ちゃんが出してあげるからね!』
義姉が突きつけた通帳に記載された数字は、35000円。
どんな式で旅行になるのかと!
買い物帰りを拉致られて、複数の男性に襲いかかられそうになりました。
当時恋人でもあった夫の言う通り冷静に対応したら、彼らの矛先は義姉に向けられました。
『お兄ちゃん、見て! ほら! そんな女より私のおっぱいの方が大きいよ! ね? いいでしょ!』
コートの中は全裸とか、痴女すぎる義妹です。
胸の形が奇妙なのは、豊乳手術に失敗したのかもしれません。
目にするのも耳にするのも悍ましい噂を流されたのですが。
それが全部義妹自身のことだったらしく……家族以外の知り合いが一人もいなくなったようです。
3日更新が想像以上に辛い……。
それでも、決めておかないとだらだらと更新できない気がするので、次回も3日後予定にしておきます。
一応後篇はほぼできているので、大丈夫だと思います。