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旦那様は水晶カード保持者。依頼幕無中。

 虫描写注意!! 

 苦手な方はご注意ください。


 このじめじめした時期は、リアルが危険ですよね。

 自宅背後が森&小規模ガーデニングをやっているので、虫の襲来が凄いのですよ。

 

 蜘蛛はいいんです、女郎でなければ。

 グンソウさんはむしろ歓迎します。


 でもなぁ。

 むで始まる奴とGは勘弁して欲しいです。





 次は我の番じゃなと、彩絲が隣で気合いを入れている。

 老夫婦による依頼の夕食用食材買い物は、本人達の承諾が得られれば夕食作成まで勤めようと話し合った。


 極々一部の過干渉クラスな鬱陶しい御老人の横槍には辟易とさせられたが、私が虐待されていた時分、解りやすくはなかったが最悪に至らないように気を配ってくれていたのは、老人達ばかりだった。

 夫と生活し平穏で幸せな日々を送れるようになってからは、何かしらの縁があれば、老人には+α的な親切を心がけるようにしている。


 冒険者としては派遣社員と同じで、頼まれてもいない余計な事をするな! と言われそうな気もしたが、自己責任だから問題ないじゃろ、だよねー! と同意して貰ったので、心置きなく話を持ちかけることにした。


 着いた廃屋は、マニアが喜びそうな洋館だった。

 元貴族が持ち主らしい。

 平民を虐げるのに便利だからと、市街地に近い場所を選んだというのだから、筋金入りの屑だろう。

 娘や妻などを浚われた平民が大挙して押し寄せて、貴族と取り巻きを惨殺したようだ。

 亡くなった者は戻らないが諸悪の権化を退治したので、被害者の家族はいくらか溜飲を下げられたと聞いている。


 高位の貴族でなかったせいか満足な調査はされず、遺体処理なども杜撰で長く放置されていたのを、子供達が度胸試しに使って怪我をしたのを切っ掛けにしてようやっと再利用を決めたので、まずは害虫駆除をしようという流れになった……とのことだ。


「ふむ……千もいれば足りるかの」


 廃屋の前で腕を組み首を傾げて思案した彩絲は、目を瞑って何やら呪文のような言葉を唱えた。


「ふぉおおおお!」


 間抜けな声が出てしまったが、仕方ないと思う。


「まぁ、びっくりするよね。私の時はもっと数が多かったから、思わず大蛇に変じちゃったよ!」


 雪華はそう言って両肩をぽんぽんと叩いて慰めてくれた。


 何せ、どこからともなく大小種類様々な蜘蛛が大量に現れたのだ。

 ほとんどが彩絲の周囲に侍っているが、好奇心が強いのか何匹かが私の足下をうろちょろしている。

 

「さぁ! 駆逐するが良い!」


 彩絲の、どこかのアニメに出てきそうな威風堂々とした台詞を聞いた途端、おぞましい予感に襲われてサファイアのネックレスを強く握り締める。

 愛らしい子蛇に変化した雪華も嫌な予感を覚えたのだろう。

 素早く私の足下から頭の天辺へと駆け上った。


「!!!!!!!」


 本当に驚くと悲鳴なんて上げられない。

 そんな経験を幾度かしたことがある。

 それでもほぼ反射的に心の中で、助けて喬人さん! と叫んだ。


 安心してくださいね?

 私は貴女が厭う全ての存在から貴女を守り抜きますよ!


 夫の声が耳元でして、背中から柔らかく抱き込まれる感覚があった。

 慣れた温もりに、安堵の吐息が漏れる。

 夫の気配を感じたのだろう。

 雪華が『どこにいらっしゃるんです? 御方!』と鎌首を擡げて周囲を見回している。


 ネックレスの絶対防御は有効で、更に夫の気配があるからか、廃屋から溢れ出てきた無数の虫や動物や魔物は全て私の周囲一メートル以内に近寄らなかった。


 爪先程の蜘蛛に噛みつかれて昏倒する狼。

 糸でぐるぐる巻きにされて、どこかへ引きずられていく人間が乗れそうなサイズの蛙。

 その骨の白さが見えぬほど蜘蛛に集られたアンデット系のそれ。


 毒、糸、牙と蜘蛛の特性を存分に生かした攻撃に、廃屋を徘徊していた数多の生き物はあっという間に駆除され尽くしたようだ。


 しかし、害虫の中に動物はさておき魔物も入るのだろうか。

 市街地に近い場所に、これだけの魔物が巣食っていたのも問題だ。

 入り込んだ子供達が怪我程度ですんだのは僥倖だった。


「おや、御方? いらっしゃいましたのか」


 彩絲も気配を察知したらしい。

 嬉しそうに近寄ってくる。


「お疲れさま、彩絲。でもできれば事前に言って欲しかったよ! びっくりしたわー」


「ほほほ。すまぬな。我らしくもなく良いところを見せようと思って気が急いてしまった」


 あまり悪いと思っていなさそうだ。

 腹は立たないが、もやっとした感情に襲われる。

 普通はあれだけ大量の虫や魔物が一度に溢れ出てきたら混乱を極めたはずなのだから。


「お、御方?」


 驚きと怯えに満ちた声で、 彩絲が夫を呼ぶ。


「いえ! まさかそんなっ! ですがっ、我はっ!」


 どうやら夫と会話をしているらしい。

 私には聞こえないが、内容は彩絲の顔色がみるみるうちに悪くなっていったので、なんとなく想像はつく。


「……アリッサは本当に御方に溺愛されているよね……」


 依頼の件で何度か夫から怒られている雪華も、なんとなく元気がない。

 自分が怒られている事を思い出したのだろう。


「そうね。離れても変わらない、むしろ悪化したかなぁ」


 悪化とは酷い物言いですね! と夫の拗ねた声音が届く。


「……不快な思いをさせてしまって、誠に申し訳ありませんでした。伏してお詫び申し上げまする」


 夫を宥める言葉を紡ぐ前に彩絲に土下座されてしまった。


「アリッサ殿は本人にも自覚のないトラウマが多いのだと御方から伺いました。この程度と思ってしまった私の浅はかさをどうぞ、お許しくだされませ」


「……今でも十分過保護レベルだと思うよ。今回だって驚きの方が強い。夫が側に居ないから、自分でも思ったより過敏になっていたみたい。こっちこそ、ごめんなさい」


「アリッサ殿が謝ることは!


「謝らせて。そうでなければ、私は貴女を許せない。夫共々過剰反応ごめんなさい」


 麻莉彩!

 と呼ぶ声が、一瞬だけ悍ましかった。


 側に居ない貴方は悪くないの?

 側に居られる、雪華や彩絲に、八つ当たりしているのではないの?

何らかの意図があって、その意図は私のためを思って、万全を期した上での異世界転移であったのだろう、その点は微塵も違っていない。

 けれど。

 サプライズは好ましくありませんねぇと、常日頃から言っているにも関わらず、貴男が私にした、事は。


 何の意図もなくやってしまった彩絲とは比べものにならないほど、性質たちが悪く責められるべきではないのかと。


 それは!


 言い訳らしきものを告げたがる夫の言葉を意識して遮断する。

 攻撃と捉えた夫の声は、一切聞こえなくなった。


「……アリッサ? いいの?」


 心配そうな雪華の伺う声。


「我のせいで、二人を、不仲にさせてしまう、とは……」


 ほろほろと珠のように美しい涙を零しながら深く頭を垂れる彩絲。


「切っ掛けは何であれ、これは私達の問題よ。彩絲が落ち込むことはないわ」


 爪の先で優しく涙を掬ってから、羨ましいラインを抱きしめる。

 彩絲の腕も私を抱き返し、雪華が二人を抱え込んだ。


「今は少しお互い頭を冷やした方が良いと思ったの。ちゃんと仲直りはするから安心して?」


「夫婦喧嘩は犬も食わないってやつよね!」


「そうそう! だから、彩絲。どうしても気になるなら、宿に着いたら膝枕して、耳掻きしてくれる? 夫と喧嘩した時の仲直りの儀式なのよ」


「儀式、ですか?」


「ふふふっ。おおげさかな? でも結構有効なんだよ。わだかまりなく仲直りするのにね!」


 自分で私を異世界に送っておきながら、逆ギレした件に関しては、ほとんど腹も立っていない。

 ただ、二人の問題にも関わらず、彩絲に八つ当たりしたのが許しがたいだけなのだ。

 この何が起こるかわからない世界で私を夫の代わりに守ってくれるのは、彩絲であり、雪華なのだから。


「さぁ! 次の依頼に行きましょう?」


「そうだよ、彩絲! 気持ちを切り替えないと、ね?」


「……そうじゃな。食材と一緒に最高級の耳掻きも買わないとならんしの」


「あ! こっちにも耳掻きの習慣ってあるんだ」


「耳掻き専門店とか、あるんじゃないかな?」


「そういった細やかな要望に応える施設が、王都にはまだまだあるぞ」


 そう説明されると色々と試したくなってくる。

 やはり王都は文化が他の地域より発達しているのだろう。

 襲撃や誘拐がなかったら、もう少し王都を堪能しても良いかもしれない。


「って! フラグ建ててどうするよ!」


「フラグって何?」


「あー。えーとねぇ?」


 どう説明したら良いかと思案しつつ、廃屋を後にする。

 夫と喧嘩をしたままの、なんとも言えない不安を伴う不快感を振り切ろうと、私は二人との会話に集中した。

 は!

 しばらくステータス確認していない。

 

 依頼話が終わったら説明会を入れる予定です。


 次回は、旦那様は水晶カード保持者。依頼完遂! の予定です。


 最後までお読みいただきありがとうございました。

 次回もお読みいただければ嬉しいです。

 

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