服の露天をやるようです。3
婦人科系漢方の効き具合がイマヒトツわからなかったのですが、今回は薬が切れてから明らかに症状に変化がでたので驚きました。
大人しく病院に予約を入れて引き続き処方してもらうつもりです。
騒いでしまった件についてクルトが代表して頭を下げる。
三人もそれに倣った。
微笑ましく見守る者が多い。
「では商品を並べましょうか」
事前の打ち合わせで販売する物をある程度選んである。
絨毯の意思も確認済みなので出した途端、商品が消える羽目にはならないだろう。
専用のマジックバッグを用意して、その中に詰め込んでおいた商品を取り出す。
四人が並んで待ち構えているので、一人一人に渡していく。
取り敢えずは一人十着ほど渡した。
四人はそれぞれ自分に渡された服を絨毯の上へ並べ始める。
並べ方にも個性があって面白い。
私は自分の体を挟むようにトルソーを二体並べた。
一体はテールコート一式。
小物も完璧でシャツ、ベスト、蝶ネクタイ、サスペンダー、カフリンクス、ポケットチーフ、手袋、靴。
買い足しの必要はないだろう。
私がドロップさせた一式とは別物だったりする。
そちらを参考にして皆がドロップさせたものを組み合わせたのだ。
かなりの数のドロップ品から組み合わせた結果。
最初から揃えの品としてドロップしたのかと思わせる代物になっている。
もう一体はローブデコルテ一式。
こちらも揃いで出た。
テールコートと対でいいかな? と思って並べたのだ。
精緻な薔薇の刺繍が施されたドレスに同じ生地のロンググローブ。
装飾品はティアラ、ネックレス、イヤリング、扇子。
靴はドレスと同じ生地が張り付けられたピーンヒールに真珠がついていた。
ちなみに上着付のローブデコルテ一式は私用に保管されている。
「ではそろそろ始めましょうか」
私の声に四人が気持ち良い承諾の返事をした。
「いらっしゃいませー」
普通に声がけはするらしい。
周囲もカールの声に触発されたように声を上げ始める。
両隣も特徴のある声で客を呼び込みだした。
私も声を出すべきだろうか? と考えていると。
『アリッサは黙って微笑んでいればいいの。というか、それ以上は駄目かな』
『じゃな。その笑顔ですら勘違いする者がいそうだが……ま、大丈夫じゃろ』
彩絲の言葉は不穏だったが、突っ込みを入れる時間はなかった。
「よろしゅうございますか? 商品を拝見したいのですが……」
話しかけてきたのはメイド服を着た美熟女。
メイド長あたりだろうか。
白髪が一筋のほつれ毛もなく纏められている。
主人の代理人として相応しい佇まいだ。
「どうぞ。よく御覧になってください。触りたいときはこちらをどうぞ」
私は手袋を渡した。
生地が繊細だからね。
熟練メイドらしき彼女には失礼かもしれないけれど、保険はしっかりしておきたかった。
「有り難くお借りいたします」
美熟女は深々と頭を下げて丁寧に手袋をつけた。
貴族の所作だ。
高位貴族に仕える下位貴族なのかしら?
「……どちらもすばらしゅうございますね。二つともいただきたいのですが問題はございませんか?」
縫製のチェック、生地のチェック、宝飾品の鑑定などもしていたようだ。
それでも時間にして十分程度。
スムーズな買い物だろう。
「ええ、問題ありませんわ。現金で? それ以外で?」
絨毯通りでは基本、現金払いだと聞いている。
それでも高額商品であれば、それ以外の支払い方法もあるようだ。
「現金でお支払いいたします。おいくらでございましょう?」
にこにこ現金払いでいいらしい。
その辺りも貴族の矜持なのかもしれない。
ルールに則って商売が成立するのは有り難かった。
「それぞれ1000ギル。合計2000ギルでございますね」
小さい家が二軒購入できる金額。
貴族が服にかける金額と考えても安くはない。
「では、2000ギル。御確認くださいませ」
しかし美熟女は素早く二枚の銀貨を差し出してきた。
きらきらと美しく輝いている。
磨く専用の係がいそうな輝きだった。
過剰でなければ値引き交渉も可能なのが絨毯通りの商売。
しかし美女熟女は値引きしてほしいという、意思すら感じさせなかった。
値引きを恥ずかしいと思う貴族は多そうだ。
高位貴族ほどその傾向が強いのだろう。
商品の質には自信がある。
値段も相応だ。
けれどやはり値引きの面倒がない取り引きは、こちらとしてもストレスレスで有り難かった。
「よろしければ、こちらもお持ちください。良きお取り引きに感謝を」
手持ちのマジックバッグに商品一式を丁寧にしまい込んだ美熟女に、手渡したのは二本の傘。
婦人用と紳士用。
日傘と雨傘。
高位貴族の普段使いにしては少々高価で、畏まった場に持ち込むには躊躇う程度の品。
美熟女は目を大きく見開いたあとで、やわらかく微笑んだ。
「主人も大変よろこぶことと存じます。この度は良いお取り引きをありがとうございました」
思わず見惚れるカーテシー。
私も立ち上がって同じカーテシーを返す。
周囲からほうっと羨望の溜め息が聞こえたのは気のせいではないだろう。
去って行く美熟女の背中に手を振って腰を下ろす。
さて新しい商品は何を出すかな? と考えていると、カールの声が聞こえた。
「こちらのお品物は男性にお売りできません! そもそもこちらは男性の出入りは不可能のはずでございます!」
「し、失礼な! 私は、女よ。なんて無礼な物言いなの? 不敬罪に処すわよ!」
『……アリッサの噂を聞きつけて女装して潜入した輩だな』
『その癖、アリッサに直接声をかける勇気が出ないとかウケる!』
『ウケないで……っていうか、カール。大丈夫かしら?』
『大丈夫じゃろ。あれは子供の目で見てもおかしい女装じゃ。警備員がすぐ来るぞ』
『うん。一番良い場所には必ず配置されているはずだからね!』
三人で脳内会話をしているうちに、警備員……女性騎士がやってきた。
格好良い。
フェリシアには負けるけどね。
元気にしているかしら?
「ここは男性立ち入り禁止の通りだぞ!」
「お、お目こぼしを! 本の出来心でございます!」
あ、声が普通の男性になった。
先刻の声は一応女性っぽく整えていたんだとわかる違いがある。
明らかに女装に向かない人っているよね。
きっとこの男性すね毛は剃っていないと思う。
さすがに見える所は綺麗に剃ってあったけど。
眉毛とかも綺麗に整っているし。
まぁ、あれ。
努力の方向性を間違えたよね。
「大丈夫? カール」
「はい。暴言も暴力もない人でしたし。騎士様もすぐ来てくださいましたし。騎士様、ありがとうございました」
深々と頭を下げる。
私は軽く会釈しておいた。
頭を下げようとすると彩絲と雪華から駄目出しが出るのです。
「最愛様には不審者を通してしまって失礼いたしました。引き続き警戒いたします。君もよく頑張ったね。男性を牽制しながらしっかり自分たちに知らせてくれた。今後も適切な手配をしてくれると有り難いよ」
女性騎士はカールの頭をくしゃりと撫でた。
この通りの警備体制は驚くほど行き届いており、販売人全員にブレスレットが渡されている。
このブレスレットを強く握り締めると最寄りの騎士が駆けつけてくれる魔法がかかっているのだ。
あちらより凄いシステムだよね。
ん?
似たようなシステムがあったのかな、私が知らないだけで。
と、ともかく!
万が一こうやって絡まれても騎士が駆けつけてきて、間に入ってくれる仕様になっている。
私もカールの頭を一撫でして販売の続きに戻るように促した。
『でもこれだけしっかりと警備しているのにすり抜けるんだね?』
『関係者に賄賂でも渡しているのじゃろ』
『どう厳選しても闇落ちする人っているよね。今回通した犯人も首になると思うよ』
去って行く騎士が厳しい目線を向ける同僚がいたからね。
たぶん彼女が犯人なんだろう。
男性を通すのは本当にやめてほしい。
夫が怒るから。
ええ、怒っていますよ。
貴女に声をかけていたら、その場で昏倒させていましたよ。
あ、やっぱり怒ったらしい。
夫が認める男性との接触って、本当に希だものね。
「これ、可愛いから、私にちょーだい?」
不穏な言葉が聞こえて目線を投げれば、今度はクルトが絡まれている。
同じ年ぐらいの女の子だ。
まさか彼女一人ではこないはずだが……。
ふぅと深い溜め息を吐いたクルトがにっこりと笑う。
明らかに作り物の笑顔だが、見惚れる者は多かろう。
女の子も頬を染めた。
しかしその頬は次の瞬間、一気に真っ白に変化してしまったのだ。
柊麻莉彩 ひいらぎまりさ
HP ∞
MP ∞
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スキル 鑑定∞
偽装∞
威圧∞
奪取スキル 生活魔法 育児 統率 礼節 謀略 地図
王宮料理 サバイバル料理 家庭料理 雷撃 慈悲
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特殊装備品 *隠蔽中につき、他者には見えません。
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リゼット・バローのギルドカード
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衣類屋紹介状
称号 時空制御師の最愛
新しく購入した洗濯機をうきうきしながら回しています。
さておしゃれ着洗いを……と思ったら、おしゃれ着洗剤が切れていました。
ストックを探したらシャンプーとリンスの在庫が過剰なことに気がつきましたとさ。
次回は、 服の露天をやるようです。4(仮)の予定です。
お読みいただいてありがとうございました。
引き続きよろしくお願いいたします。




