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現在の冒険者ギルド。前編

 誕生日ランチに念願のファイティングクックへ行くことになりました。

 ずっと行きたかったんですけど、一人じゃネット予約ができなかったので機会を窺っていたんですよ。

 楽しみです。

 誕生日お勧めプランを予約しました。

 心置きなく食べるために数日前からきつめのダイエットを強行中。

 こんにゃくの食感が苦手になりそうです……。

 


 個室から出ると案内してくれた受付嬢が待っていた。


「大変恐縮ではございますが、この後に少々お時間をいただけますでしょうか? ギルドマスターがお話ししたいことがあると申しておるのですが……」


 受付嬢の腰は何処までも低い。

 崩壊した冒険者ギルドに関する情報がきちんと通達されているからだろうか。

 

「……妾はまだおばばの顔を見ると苛ついてしまうからのぅ……ランディーニと一緒にスヴェンを預けに行こうと思っておる。よいな、ランディーニ」


「勿論じゃよ。スヴェンの件は手早く手配してやりたい。さぁ、スヴェン。奥方に挨拶を」


「はい! この度はいろいろとありがとうございました。お蔭で僕は多くのものを捨てずにすんだと思っております。今後は感謝の心を忘れずに頑張って、母と一緒に仲良くすごしていきたいです」


「無茶をしない程度に頑張って。お母さんと一緒に過ごすのも大切だけど、孤児院での生活もまた大切だと思うから、いろいろと吸収してね」


「はい!」


 スヴェンの表情はすっかり明るい。

 少なくとも一時期とはいえ母親と別れて孤児院に入る子供の表情ではなかった。

 孤児院へ預けられる子供がスヴェンのように希望に満ち溢れたものであればいいのだが、さすがにそれは難しいだろう。


 その場で三人を見送って、再び受付嬢の案内で違う部屋へと向かう。

 中に入れば気配を察知していたのか、ギルドマスターが深々と頭を下げた状態で出迎えてくれた。


「頭を上げてください」


「此度は随分と迷惑をおかけいたしまして、誠に申し訳ございませんでした」


「事情は一通り把握しておりますが、マスターの口から説明いただけるなら有り難いです」


 私は恐らく一番上等なのだろう個室……応接室? のそれに腰を下ろす。

 座り心地が良いソファだった。

 隣には雪華が腰を下ろした。

 私が目配せをするとノワールも腰を下ろす。

 合図をしないとノワールは背後に立ってしまうからね。

 ここでは警戒するものもほとんどないはずだ。


「よかれと思って、最終的には統合する予定で別の冒険者ギルドを作ったのです。よもや……あそこまで腐敗するとは考えてもおりませんでした」


 深々と溜め息を吐くギルドマスターの顔色は悪い。

 それだけ反省し、真摯に行動した結果なのだろう。


「あちらの冒険者ギルドマスターが屑だって見抜けなかったの?」


 雪華の口から出た言葉は冷たい。

 現在進行形で身を粉にしているのだろうギルドマスターを簡単には許せないようだ。

 私たちがこの街にこなければ、まだ放置され続けていた可能性が高かったのを考えると仕方ない気もする。


「実力も人望もある冒険者だったのです。他に何人か候補はいたのですが、辞退もありまして……最終的に彼になりました」


「辞退の裏は取ったの?」


「はい。それはさすがに。納得のいくものでしたので」


ギルドマスターともなればかなりの権限があるしね。

 なりたい人は少なくなかったはずだ。

 しかしあそこまで酷いと何かしらの片鱗があったはずなのだけど……。


「……そういえば、こちらのギルドには副ギルドマスターはおられないのですか?」


 ノワールが不意にそんな質問をした。

 あちらのギルドにはそういえば愛人兼副ギルドマスターが存在したが、こちらにはいないのだろうか?

 紹介されていないところをみるといないようだが。


「突然失踪しまして……有能だったので他の者を任命しようという気にもなれず……」


「失踪する理由に何か心当たりはありますか?」


「……統合する予定とはいえ、冒険者ギルドが二つあるのはよくないと最後まで反対しておりまして。最終的に決定した次の日から失踪を……」


 あー、間違いなく原因はそれだね。

 仕事ができる人なら、今の状況を知ったら戻ってきそうな予感がするなぁ。


「捜索はしなかったのですか?」


「一通りは。しかし隠蔽に長けた者ですから、足取りは全く掴めませんでした」


「戻ってこられたら再び副ギルドマスターに任命してもいいかもしれませんね」


「自分が長く居座り続けたから、此度の騒動が起こった気もしておりますので。もし戻ってきてくれたなら、彼にギルドマスターを任せたいと考えております」


 責任を取って引退は良くある話。

 ただ今回の場合は落ち着いてからの方が良さそうだ。

 何より失踪した彼が戻ってくるかもわからないわけだし。


「一応彼以外のギルドマスターも考えたのですが、打診した者には断られました」


 それだけ彼が優秀だったのか、それ以外の理由があるのか。

 どちらにしろまだ彩絲の祖母には頑張ってもらう必要がありそうだ。


「……現在の冒険者ギルドはどんな状態なのでしょうか?」


 私の質問にギルドマスターは居住まいを正して説明を始めた。


「まず、あちらの冒険者ギルドは完全に封鎖。立ち入りは私が同行したときのみ、としております」


「依頼の引き継ぎは順調?」


 雪華が気にする点はそこらしい。

 確かに日々の依頼が生活に直結している冒険者は多いので、引き継ぎに手間取っていられた日には死活問題だ。


「はい。そちらは恙なく。依頼完了の支払いは全てすんでおりますし、依頼失敗による違約金や対価労働で滞りあるものはございません。ただ……」


「ただ?」


「冒険者ギルドのルールに違反した者が多く、情報の吸い出しは現在も行っております」


「あー、それはさすがに仕方ないよね。慎重にやらなきゃだし。時間もかかるでしょう」


 精査する人材は選ぶだろうし、ギルドの運営には以前より人を取られるだろうしね。

 

「別の街からの派遣も考えたのですが、おばばは人を見る目がないから駄目だと孫に怒られまして……」


 さ、彩絲?

 それってマズくない?


「もしかして、彩絲殿のお力を借りられましたか?」


 ノワールの声に冷たさが混じっている。

 下手したら越権行為で祖母孫ともに断罪されかねない。


「いいえ。その代わりに自分の子蜘蛛を情報収集に出せと」


 彩絲も雪華も常時結構な数の子蜘蛛や子蛇に様々な情報を探らせている。

 その数は膨大なものらしいとも聞いていた。

 本人達の負担は少ないと聞いていたのだけれど……。


「当たり前のことでは?」


 雪華が蔑みの眼差しを向けている。

 

「そう、なのかしら? 副ギルドマスターにお願いしていたから、自分でしようとは思わなかったのだけれど……」


 うん。

 副ギルドマスターに甘やかされていたパターンかな。

 年を取っても美人だしね、彩絲の祖母。

 副ギルドマスターが男性なら恋愛要素も絡んでいる可能性もある。


「自分でしてください。今は副ギルドマスターはいらっしゃらないのでしょう?」


「そ、そうね。自分で、やらないとなのよね……ええ、わかっているの。わかってはいるのよ!」


 美しい瞳から涙がぼろぼろと零れ落ちた。

 副ギルドマスターの不在は大きいようだ。

 だからこそ、駄目な男を新たなギルドマスターにしてしまったのだろうか。


「誰が貴女を泣かせるんですか!」


 突然扉が大きく開かれた。

 勢いよく開かれた扉が壁に当たって激しい音を立てる。

 壁か扉か果てはその両方が壊れそうな激しさだった。


「……るい?」


「はいはい。そうですよ、貴女のルイトポルト・アンハイサーが戻りましたよ!」


 筋肉隆々の男性が足音も荒く部屋の中へ入ってくる。

 このタイミングの良さなら、彼が元副ギルドマスターに違いない! と勝手に推測した。


 雪華とノワールが闖入者に攻撃態勢を取らなかったのは、私に対して害をなす者ではないと咄嗟に判断したからだろう。


「無礼者! 恥を知れ!」


 しかし腹が立っていないわけではないようで、咎める雪華の声は怒りに満ちていた。


「は! 大変申し訳ございません。副ギルドマスター、ルイトポルト・アンハイサーと申します。不敬に関しましては深くお詫び申し上げます」


 巨体の土下座は迫力があるよね。

 ごん! と額が床にぶつかる音もいい感じに響いている。


「……貴男が失踪していた副ギルドマスターで間違いないかしら?」


「はい。時空制御師の最愛様。大切な方の泣き声に我を忘れて不敬を働いてしまいました。失礼いたしました!」


 顔が上がり、しっかりと目を見詰めての説明と謝罪。

 再び額ずいて言葉を待つ状況に、ギルドマスターの涙は止まったようだ。


「戻って、来たのね? 来てくれたのね?」


 恐る恐る腰を上げたギルドマスターが土下座状態の副ギルドマスターの背中を摩る。


「雪華、ノワール」


「……はぁ。私の御主人様は優しいなぁ」


「慈悲深き主を尊敬いたします」


 名前を呼んだだけで私の意思を尊重してくれる彼女たちの存在は、何時だって有り難い。

 ……しかしここに彩絲がいなくて良かった。

 彼女が同席していたら激怒していただろう。

 何しろ時空制御師の最愛という、何より優先すべき存在を放置して、二人の世界を作ってしまったのだから。


「気になることは他の方に伺いますから、貴方方は心置きなく話し合いをなさってください」


「ご寛恕、痛み入ります」


「最愛様には心からの感謝と謝罪を……」


 ギルドマスターまで土下座してしまった。

 仲良く土下座する二人を見て。

 ああ、これで冒険者ギルドは元通りかそれ以上に健全な組織になるかな? と思ってしまう。


「彩絲には二人揃って怒られると思うけどね……」


 そう小さく呟いた声は当然、二人には聞こえなかっただろう。

 二人の世界は何とも微笑ましいほどに閉ざされていた。




 柊麻莉彩 ひいらぎまりさ


 HP ∞ 

 MP ∞ 

 SP ∞ 


 スキル 鑑定∞ 

     偽装∞

     威圧∞  


 奪取スキル 生活魔法 育児 統率 礼節 謀略 地図

      王宮料理 サバイバル料理 家庭料理 雷撃 慈悲 

      浄化 冷温送風 解呪 神との語らい(封印中)

      ウインドアロー ウインドカッター 


 固有スキル 弱点攻撃

       魔改造 

       簡単コピー 

      

 特殊装備品 *隠蔽中につき、他者には見えません。

 サファイアのネックレス

 サファイアの指輪

 サファイアのイヤリング


 特殊アイテム

 リゼット・バローのギルドカード

 魚屋紹介状

 衣類屋紹介状


 称号 時空制御師の最愛  


 お気に入りの岩塩がなくなったので詰め替え用を購入したら、容器の流用ができないと知りました。

 セール期間中に岩塩用のミルを購入しましたよ。

 何段階か調節して削れるのでいろいろと試しているところです。

 新しいキッチングッズって萌えますよね。


 次回は、 現在の冒険者ギルド。後編(仮)の予定です。


 お読みいただいてありがとうございました。

 引き続きよろしくお願いいたします。 

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