旦那様は守護獣もコンプ済。
もっと守護獣を侍らせても良かったんですけど、スライムの方で5体侍らせたら、結構あっぷあっぷだったので、こんな形になりました。
予定していたタイトルと違ってすみません。
これから先も多々あると思いますので、生温くスルーして頂けたら嬉しいです。
今回から(仮)でもつけておこうかしら……。
何時か白蛇に出会いたいと思いつつ夢でしか会えず、先日ぐんそうさんに会って感動した作者です。
あんなに大きくて早いと思いませんでした、ぐんそうさん。
今年Gを見なかったのは、密かにぐんそうさんが活躍してくれたんだと信じています。
鬱陶しいほど粘着質な目線に追掛けられながらも、何とか声はかけられずに『守護獣屋 なんでもござれ!』と古臭い木の看板がぶら下がっている店の前までたどり着けた。
「やっと着いたし……」
額に浮かんだ汗を軽く袖口で拭う。
そういえば、このワンピースはどんな偽装が施されているのだろう。
一般的な冒険者風の服装が無難だが。
まぁ、その辺りはさて置き。
夫のプレゼントなので、大切に着たい。
むしろバッグに丁寧に畳んで仕舞っておきたい。
この世界にクリーニング屋さんに似た店があると良いのだけれど。
「守護獣屋さんの次は衣類一式購入かなぁ……」
扉を軽く押すと、かろんかろんと可愛らしい鐘の音がして扉がゆっくりと開く。
ドアベルは蜘蛛をモチーフにしていた。
「ま、マニア仕様だ!」
守護獣というので、もふもふしか想定していなかったのだが、もしかして昆虫とか、爬虫類とかも居るのだろうか?
Gと呼ばれるあいつが守護獣だったらどうしよう。
や。
昆虫の場合は守護虫というのだろうか。
だとしたら、爬虫類は?
虫とつくからにはこれもやはり、同じカテゴリになるのか。
小さいのは問題ないけれど、巨大だったり極彩色過ぎたりする蛙なんかは勘弁して欲しい。
思い切り眉を顰めながら店内へ足を踏み入れる。
ペットショップ特有の獣臭は一切感じられない。
と言うか、臭いがない。
消臭の魔法でもかかっているのかもしれないが、強い臭いが苦手な私にはありがたい仕様だ。
「いらっしゃいませ!」
元気な女性が声を掛けてくれる。
「か、蟷螂?」
「はい、そうです。蟷螂人ですね。初めてご覧になりましたか?」
にこにこと笑う瞳は淡い緑色の複眼。
基本的には人間の体躯。
二本の腕は普通にあり、肩から鎌が生えていて刃先が正面を向いている。
常に周囲を威嚇している風にも感じた。
恐らく羽もあるのだろう。
尻部分には昆虫の腹に似た形状のものが付いている。
足は人間と同じだが、靴の中は蟷螂の足なのかもしれない。
「ええ。突然不躾な態度を取ってしまって申し訳ありません」
獣人は予測していたけれど、昆虫人は意外だった。
謝意を込めて深々と頭を下げる。
「お気になさらず! お客様の声から侮蔑の色は一切感じ取れませんでした。純粋な驚きなら無理からぬことと思いますよ。私も鳥人に初めて出会った時は、真剣に捕食される心配をして悲鳴を上げましたから!」
それはまた事情が違う気もするが、寛容な態度はとてもありがたい。
今後、失礼をしないように注意せねばと思いつつ、用件を告げる。
「大変な経験をなされましたね。お気になさらずと言って頂けてありがたいです。それで、ですね。守護獣を求めに来たのですが……こちらはどういうシステムになっているのでしょう?」
「はいはい。初めてということですね? それでは、こちらに座って、お読み下さい」
店の片隅に置かれているソファに誘われ、勧められるまま腰を下ろす。
テーブルの上には、薄い本が一冊置かれている。
タイトルは『初めて守護獣を求められるお客様へ』と書かれていた。
本には要約すると以下な事が書かれている。
*守護獣は、守護獣の指名によって成り立つ。
拒否は可能。
お客様からの指名は基本的に不可。
守護獣の指名がなき場合は、店員の指示に従って指名可能。
*基本的にお客様一人につき、守護獣は一体。
ただし守護獣の指名が複数であった場合、最大10体まで受け入れ可能。
*支払いは時価。
お客様にお支払いいただく場合も、守護獣が支払う場合もある。
*守護獣が亡くなった場合は、守護の証を保管しておく事。
証がない場合は、新たな守護獣は得られない。
*守護獣が逃亡した場合は、速やかに店へ連絡の事。
守護獣に非がある場合は、慰謝料を受けとり新たな守護獣が得られる。
お客様に非がある場合は、違約金を支払い新たな守護獣は永遠に得られない。
*守護獣が犯した犯罪は、お客様が責任を取る。
守護獣が暴走した場合は、店が責任を取る。
*守護獣を守護獣らしく扱うべし。
怠った場合は、守護獣の返還を要求される事もある。
「えーと? この最後の守護獣はらしく扱うべし、についての詳し
い説明はないのですか。あ! このお茶美味しいです」
「守護獣の種類によっても変わってきますね。故に、決定したら、守護獣別の説明冊子をお配りしています。お茶は、今が旬のピルンの茶葉になります。王宮御用達のお店の茶葉を使っていますよ」
「あーそれは美味しいはずですね」
「お口にあったようで何よりです」
「お店と守護獣の関係はとても深いのですね?」
「そうですね。うちはこれでもかなりの老舗ですから、守護獣との関係性の良さは自負していますよ」
照れているのだろうか、鎌の先で髪の毛を掻いている。
髪の毛が切れたりはしないようだ。
よくよく観察すれば鎌の先はきめ細かい櫛のように繊毛がついている。
鎌を櫛代わりに使ったりするのかもしれない。
「意思の疎通などは、どうなっているのでしょう?」
「守護獣として契約すれば、問題なく思念で通じる感じになりますね。中には人語を操る者もいますし、人化できる者もいますよ。人語はできる者も多いですが、人化できる守護獣は希少ですね」
「それでは、説明書も拝見しましたし。私と共にいてくれる守護獣を呼んできていただけますか?」
「了解いたしました。少々お待ちくださいませ」
昆虫腹をふりふりとしながら去っていく女性を見るともなしに眺めながら、籠の中にあったクッキーを一つ頂く。
こちらもほんのりピルン風味だった。
桃のクッキーは珍しいかも? と思いつつ、女性の戻りを待つ。
「……お待たせいたしました」
「普通逆だよね!」
「……そこが突っ込みどころとは思いませんでした」
女性の背後からしずしずと現われたのは、人が乗れるサイズの蜘蛛と掌サイズの蛇。
「えーと? それが本来の姿で宜しいのかしら?」
驚きは言葉にも出た。
妙な丁寧口調には自分で突っ込みを入れたくなる。
でもまぁ、責めないで欲しい。
普通は驚くでしょう?
下手したら失神レベルだと思うよ。
ミニ蛇は大丈夫としても、巨大蜘蛛はさ。
『うむ。これが本来の姿じゃ』
『でも、人化もできますよ!』
契約をしていないのに話ができる。
蛇と蜘蛛に人語を話される不思議。
しみじみと異世界を感じた。
「人化ですか! 心身に負担がないなら、拝見したいです!」
『主になる身じゃ、そんなにへりくだる必要もなかろうて』
『でも、好感度は高いよね? 私達に驚きはしても嫌悪しない女性は希少だよ』
『確かにな』
「うっわー! 美人さんに、そうキュート!」
SO CUTEが異様に怪しい発音だったが気にしない。
『虹糸蜘蛛の彩絲じゃ』
清楚系美女の腰まである髪の色は虹色。
瞳も虹色。
華奢だけれど出る所は出ている、女性として羨ましい体型。
とてもじゃないけど蜘蛛には見えません。
超絶な美人さん。
「守護獣になれる蜘蛛は下から、銅糸、銀糸、金糸、白銀糸、虹糸ですね。虹糸蜘蛛は蜘蛛族の頂点に位置していますよ。人化できる蜘蛛は、現在彩絲しか確認されていません」
『言葉が話せる者は他にもおるんじゃがのぅ……』
『人化になると、途端にレベルがあがるよね。蛇族は白蛇なら皆人化できるけど、生まれる確率がそもそも低いからなぁ……あ! 私は白蛇の雪華よろしくねー』
元気系美少女。
ロリ巨乳。
ロリ巨乳。
喬人さーん、ロリ巨乳だよ!
思わず夫に報告するほど、素敵な萌体型だ。
純白な髪の毛はゆるふわセミロング。
瞳は廚二病配色の紅。
可愛さを極めた風合いだった。
「とりあえず、二人とも服を! 服を着て下さい! 雪華さんには、ゴスロリ所望です!」
「……失礼ですがお客様、時空制御師の御方に縁のある方でいらっしゃいませんか?」
思い当たる節はゴスロリ表現だ。
夫も同じ事を思ったらしい。
「夫です」
「! やっぱり! 私がこの守護獣屋の店主になれたのは、御方のお蔭なんですよ」
『なんだ、気が付いておらなんだか』
『守護獣から、蟷螂人という人種になった代償なんじゃないのかな?』
「二人とも知ってたんだ!」
『だからこそ、名乗りを上げたのじゃ』
『そうそう。御方のお蔭で、私達は私達であれるんだからねぇ』
おっと。
夫はここでも何かしでかしているらしい。
そじゃなければ、マップには載せないだろうけれど。
「もしかして以前、夫と付き合いがおありでしたか?」
「はい! あの方は当時最高峰の守護獣10体と契約を成さっておいででした」
安心のチートです。
ありがとうございます。
『しかも我らに下位の守護獣と契約させて、勉強をさせてもおったなぁ』
『うんうん。力の使い方が解からなかった子達がすっごく成長したもんね。最終的に当時守護獣として存在していた全てが御方に敬意を払ったからねぇ……二度とはないだろうなぁ』
コンプリートも完璧らしい。
どんな糞ゲーと言われても、完全攻略する人だからなぁ……。
「でも御方の……最愛、であられますよね?」
「はい、そうです。こちらではアリッサと名乗っております」
『おお! 良き御名じゃ』
『アリッサ様! ぜひ私達と契約を!』
「二人とも落ち着いて下さい! 御方の最愛ともなれば、他に守護獣として従う者もいるでしょう?」
『ふん。現時点では我らが最強の二体じゃ』
『それこそ御方と同じように、付き従いたいとは思う子もたくさんいるよ。だけど単純に力が足りないんだよね……』
育てゲーは好物だが、同時進行は苦手だ。
一人に集中して、やっとこさトゥルーエンドが迎えられる程度の
頭しかない。
好きだから上手ではないのが悲しいところだろう。
ついでに、彼女等を育てるとか無理ゲーだ。
むしろ自分が守り育てて貰う感覚で間違いないはず。
だとしたら、二人の好意を受け入れた方が無難には違いない。
「今は二人との契約でお願いします」
『そうでなくてはな! 我、虹糸蜘蛛・彩絲はアリッサ殿と契約締結を望む』
『私、白蛇・雪華はアリッサ様と契約締結を望む』
「私、時空制御師の最愛・アリッサは、彩絲及び雪華との契約締結を望む」
本に書かれていた契約締結の文言を唱えれば、視界がまばゆい金
色の光で覆い尽くされる。
どこからかふわりと花の香りが届いた。
「契約締結は無事に完了しました。アリッサ様には取扱い冊子を……と言いたいところですが、二人の場合は無用です。希望があれば、その都度彼女等が告げるでしょう。二人とも……くれぐれも無理は言わないようにね!」
『ふん。我は無理や無茶など言わぬ』
『過保護系の無理無茶は言うけどね、彩絲の場合』
『何も言わずに無理無茶をしでかす貴様よりはマシだろうて』
何も言わない無理無茶は勘弁です。
夫も得意だけどね。
私の為と解かっていても、少しだけ寂しかったりするから。
「二人とも、私の事を考えてくれるのは本当に嬉しくてありがたいけれど、自分達の体調や精神の安寧もきちんと考えて下さいね?」
『のぅ、透理よ。こんなにも我らを慮ってくれる主に対して無茶など言えまい?』
『御方はどこまでも冷静に私達を扱ったけれど。それが至高と信じて疑わなかったけれど。こんな風にやわらかく受け入れられたら黙って行動なんてできないでしょ。心配、されちゃうもんね』
「嬉しそうですねぇ。貴方達が心配されるなんて状況ありはしないんですけどね。それでも、さすがは御方の最愛。私は蟷螂人の透理。二人の事や守護獣に関する疑問がありましたら、何時でもこちらでお知らせくださいませ」
トレイの上へ置かれて差し出されたのは小指にちょうど入るくら
いの、淡黄緑色の石がはめ込まれた小さいサイズの指輪。
「通信機になっております。アリッサ様が念じれば私へ声が伝わる仕様です。本来私から連絡する用件はまずないのですが、時折連絡差し上げても宜しいでしょうか?」
「ええ、喜んで」
「ふふふ。ありがとうございます」
『主よ。我らはどういう形態で侍ろうか?』
『アクセサリー形態をお薦めするわ。私達目立つから』
「アクセサリー形態?」
『これじゃ』
「うわー! 綺麗っ!」
二人が一瞬でアクセサリーに変じる。
彩絲が虹色に輝く蜘蛛型のバレッタで、雪華が純白でなめらかなラインの幅広めな腕輪だった。
『思念は普通にできるぞ』
『緊急時は即時変身を解く感じで大丈夫だと思うよ!』
「二人とも戦闘特化した守護獣ですが、彩絲は索敵、雪華は隠蔽が得意です」
「どちらもありがたい能力です。宜しくお願いしますね」
『こちらこそ、末永く頼む』
『頑張るからね! 腕が鳴るわっ!』
アクセサリーを付けながら頼めば、やる気に満ちた返事があった。
声ではなく思念だったが、違和感もない。
こんな時は、日々の妄想力に感謝したいところだ。
「お代の方ですが……」
『我らが払うぞ!』
『当然よ!』
「最後まで言わせてよ……と、言う事で代金は二人から徴収します」
「いいの? 喬人さんから、たぶん国が買えるんじゃないかとかいうお金を持たされているけれど」
『こちらで築かれた財全てと思えば、国どころか世界も買えそうじゃなぁ』
『きっと、全額持たせているよねー。本当に最愛なんだなぁ』
呆れ半分、感心半分。
夫は彼女等にも私の事を存分に語っていたようだ。
照れる。
「忠誠度が低いと、お金をお客様から頂戴する感じですので。忠誠の証と思ってください」
「わかりました。二人ともありがとうね。喬人さんほどじゃないけど、せめて美味しい手料理をご馳走します」
『肉料理を所望する』
『卵メインの料理がいいかな』
「……私も何時かご一緒しても宜しいでしょうか」
「勿論、喜んで。拠点を決めたら招待しますね」
「ありがとうございます!」
鎌と昆虫腹がぶんぶんと振られた。
頭皮と手首が熱いので二人も興奮しているようだ。
これは早々に拠点を決めたい。
「それでは、また連絡しますね」
「お待ちしております」
出口まで見送ってくれた透理は、私の姿が見えなくなるまで手を振って別れを惜しんでくれた。
クエスト画面を開くとクリア表示がされている。
*守護獣と契約をしましょう。をクリアしました。
新しいクエストが発生しましたので、確認してみてください。
……彩絲と雪華ですか。
他にも女性は居たのですが、現在は誰かの守護獣になっているんでしょうね。
餌づけが利く二人ですので、貴方の手料理でめろめろにさせてあげてください。
……私も貴女の手料理が食べたいところですが、我慢しますね。
私も夫料理が食べたいです。
でも、異世界料理も食べたいです!
拳を握り締めつつ確認すれば、新しいクエストが出ている。
優先順位も一番上だった。
*冒険者登録をしましょう。
彩絲の囁きに従って窓口を選んでください。
説明は受けてはいけません。
余計な情報は渡さないように。
冒険初心者向けキットだけは入手するべしですよ。
「あーギルドは信用できない系かぁ」
『アリッサ殿は、愛らしいからのぅ。御しやすく見られて、難癖っをつけられかねぬ』
『いざとなったら、私達が人化して蹴散らすから大丈夫だけどね!』
「うん。おんぶにだっこで申し訳ないけど、よろしく頼むね」
『無論じゃ』
『護るよー』
頼りがいのある二人の出会いと、仲介者の透理、どこまでもフォローを忘れない夫に感謝しながら私は、マップを確認しつつ冒険者ギルドへ足を運んだ。
威嚇なら本来の姿のままがいいんですけど、それはそれでもっと面倒な輩に絡まれるよねーということで、アクセサリー形態です。
本来の姿が一番楽で、アクセサリー形態は苦も無く、人化は長時間だとちょっと疲れる感じですかね。
他の最強守護獣達との出会いなんかも書きたいなぁと思ってはいます。
誤字脱字、ストーリー上のあからさまな齟齬がありましたら指摘いただけるとありがたいです。
お読みいただきありがとうございました。
次回も引き続き宜しくお願いいたします。




