氷ダンジョン 三階。後編
先日、大好きなデメルの福袋があると知りました。
来年用の福袋購入メモに書いておこう。
どうして今までその存在を知らなかったのか、と自分を問い詰めたいです……。
ちなみに福袋メモは毎日使う原稿フォルダの中に入っています。
マトンズーチーの宝箱を回収し、歩み出して数歩。
突然ペーシュが巨大化した。
通路一杯の隙間がない巨大化だった。
「ちょ! ペーシュ? 何があったの」
「攻撃だ。察知するのと同時だったからな。警告できなかった」
透明度の高い桃色の向こうに、カラフルな球体が五個ほど弾んでいる。
「……ああ、氷菓子ではないのに、何故かこのダンジョンに生息しているモンスターですね」
「それって、珍しくない?」
「はい、大変珍しいものです。しかも五体同時とは……このモンスターは出現も希でドロップアイテムは報告されていません」
「……なるほど」
またしても初ドロップとなるのですね、わかります。
「あー。氷菓子ではないのに、このダンジョンに生息している理由がわかったぞ。あのモンスターはあちらでいうイギリスのシャーベットらしい」
「イギリスのシャーベット?」
「そうだ。口の中でしゅわっと弾ける粉キャンディを、そう呼ぶらしいじゃないか」
言われて夫が、世界の珍しいお菓子を購入したときのラインナップを思い出した。
食べながらこれの何処が珍しいのかな? と思案したのも、記憶の奥底から発掘できる。
なるほど。
一般的にシャーベットと呼ばれるものと違うので購入したのか。
そうですよ。
そういうの、好きでしょう?
夫からの返事もあった。
「攻撃は多才だぞ? せっかくだから受けてみるか」
「お願いします!」
「お願い!」
私が返事をする前に、ノワールと雪華が返事をした。
二人はかなり興奮している。
未知のモンスターはそれほど興味深いものなのか。
ペーシュが私だけを保護したまま後方へ下がる。
ゼリーの中から果実が飛び出したように、二人がペーシュの防御から外れた。
途端、一体のモンスターが弾む。
弾んだと思ったら弾けた。
奇しくもペーシュと同じ桃色をした個体だ。
「わ! 桃色の煙。魅了効果とかありそうで怖いね」
「なかなかの想像力だな。その通り。強力な魅了効果がある煙だぞ。口や鼻どころか皮膚から吸収しても囚われる。このモンスターに遭遇したときの死亡理由は、大半が魅了にやられた同士討ちだ」
ノワールは箒で巻き起こした風で煙を薙ぎ払い、雪華は突然蛇化して煙を思い切り吸い込んだ。
「えぇ? 雪華ぁ? どうしちゃったのかな。大丈夫なのかしら」
「問題ないぞ。雪華は魅了を使うモンスターの、天敵みたいな存在だからな」
「初耳」
「話す機会がなかったのだろうよ。ほら雪華の勇姿を見ておけ」
「うわっ! 妖艶」
そう、雪華は蛇の姿をしていても妖艶という印象しか受けなかった。
隣に立っているノワールも首を振っている。
凄まじく惹きつけられてしまうのだろう。
弾け飛んだ桃色以外の個体が雪華の足元に転がってきた。
長く会えなかった飼い主を見つけたときのような素早さと信頼が感じられる動きだ。
「……ここまで懐かれると倒すのが忍びないなぁ」
球体なのに尻尾が見える気がする不思議。
雪華も困惑している。
「テイムしておけばいいだろう。知られていないモンスターだ。研究者が高値をつけるだろうよ」
「そうするわ……しかし予想外ね」
「一種類の攻撃しか見られませんでした……」
ノワールが残念そうに首を振っている。
「テイムすればいろいろな攻撃を見せてくれるだろうよ」
ペーシュの言葉にノワールは、なるほど! と感心の表情を載せながら頷いた。
「ん? おぉ。感心だな。想像していたよりも知性が高いぞ」
雪華がテイムを決めた途端、球体が弾みながらこちらへやってきて、ペーシュの体の前に何やらアイテムを並べた。
「雪華の主であるアリッサに貢ぎ物をしたらしい」
「あら、そうなのね。ありがとう」
御礼を言えば球体はぽんぽんと勢いよく弾む。
喜んでいるようにしか見えなかった。
雪華の収納へ仲良く入っていった球体を見送りつつ、貢ぎ物を鑑定する。
興味深い表示がずららっと並んだ。
アンノーン グリーン レア
ダンジョンマスターが名前を決めかねたのでアンノーン。
命名権はアリッサと雪華が持っているので、モンスター名の命名が可能。
緑の小瓶に入っているのは欠損手前の怪我が完治する丸薬。
色によって入っているものが違う。
ダンジョンマスターの戸惑いが窺えてくすりと笑ってしまった。
名付けのセンスがないのは理解しているので、雪華に頑張ってもらうとしよう。
モンスター名より個体名の方が先につきそうだけど。
しかし、丸薬の効果が凄まじい。
「……ピンクは魅了解除薬だったらしいぞ。テイムしておきたかった」
ペーシュが感慨深げに言う。
フラグが立ったな、と思えば次の瞬間。
ぽん! と音がする。
音のした方向を見れば雪華が酸っぱいものでも食べた表情をしていた。
雪華の足元に先ほどと同じ状態のアンノーン ピンクが出現したからだ。
「どうせなら全員いた方がいいよね。うん。皆で仲良くね」
雪華の言葉に弾んで応えたアンノーン ピンクは自ら雪華の収納へその身を躍らせた。
好ましい状況だと理解していても、心の何処かが摩耗している気がする。
「本当に、奥方とともにあるのは飽きぬなぁ」
久しぶりに聞くわざとらしい老人口調。
長く、永く生きているのを感じさせる深淵が垣間見えた。
「っ! どんな発動条件だったの? 罠よ、アリッサ!」
「砕けない? 回避でお願いします!」
「了解だ」
ペーシュの体が全員を包み込む。
どんな能力なのだろう。
ラノベにありそうだ。
もの凄い勢いで転がってくる巨大な球体が、ペーシュの体をすり抜けていった。
「アンノーンの出現と連動していたのかもしれないな。我らが死なぬとわかっていても、全力で殺しにかかってくるようだ」
「少し安心しました。それこそがダンジョン本来の姿ですから」
「……宝箱は容赦なく出現するようだけどね!」
呆れた口調をした雪華の目線を追う。
球体が転がって行った先の壁が壊れていた。
崩れた壁の向こうに金色に輝く宝箱が鎮座している。
「ま、眩しい」
「きちんと回収していってねー、と言わんばかりよね。言われなくても回収するけど」
宝箱の回収は実際楽しい。
罠の危険はあってないようなものだしね。
「ま、わかりやすい罠がついている点には、いろいろと考えさせられるわね」
「未知のモンスターとの遭遇、本来であれば避けきれないはずの球体の襲撃、そして最後が宝箱の罠。このダンジョンの難易度がぐんと上がりそうでございますね」
私たちを対象とした特別仕様なんじゃないかなぁ? と口には出さずに、宝箱の様子を窺う。
ノワールが何やら小瓶を取り出して、とろりとする液体を注いだ。
目映い光が収まっていく。
「この光は長く見ていると視力を失う効果があるのです」
「そうなの?」
まさか光が罠だとは思っていなかった。
広く知られている罠なのだろうか。
ノワールの準備が万端な気もする。
「暑い夜でも快適に過ごせそうなアイテムだな」
「お昼寝にも使いたいところね」
宝箱のアイテムはこんな感じ。
ひんやり寝具三点セット レア
気温に応じて適度な涼しさを提供してくれる枕、シーツ、タオルケット。
それぞれ防汚加工のついたカバー付。
他のカバーをつけても効果は変わらない。
これまた大量生産して売りたくなる逸品だった。
ついているカバーはシンプルな無色だから、カバーで遊ぶのもありよね。
「宝箱の回収が終わった途端に、新しいモンスターか。この階は随分と様々な角度で仕掛けてくるな」
「ランディーニと彩絲がいないからかしら?」
「人数が減ったところで、ダンジョンが本気を出してくるという例はよく聞きますね」
三人がそれぞれの意見を言い合っている。
私はこっそりと、ダンジョンあるあるだなー、と胸の中で相槌を打った。
壁からひょこりと顔をだしたのは、オレンジに似た果実とサバランに近しい気がするモンスター。
どちらも細い足だけが生えている
シュールで可愛い。
「マンダリンオレジンのグラニータ、ババオラムのソルベ、ですね」
マンダリンオレンジにババオラム、と。
サバランとババオラムの違いって何だっけ?
形とサイズだったかな。
味は同じ……で良かったはず?
「それで間違いないぞ」
ペーシュが返事をしてくれた。
あっていたらしい。
しかしマンダリンオレンジはフルーツで、ババオラムはケーキだったような?
次の疑問点を思い浮かべているうちに、三人が倒してくれた。
ちなみにマンダリンオレジンは上部分がぱかりと開いて、上部分だけが飛んできた。
ババオラムは腰? を捻って水分を絞り出したかと思ったら、その水分を浴びせてくるという、なかなかに笑える攻撃だった。
や、マンダリンオレジンの攻撃も大概だと思うが。
「……お酒? なんだろう。お菓子作りに使う香りに……ラム酒ね!」
「そうですね。ババオラムはたっぷりのラム酒で作られていますから」
酒飲みがわざと攻撃をさせて、飲酒を堪能する図を想像してしまった。
「ババオラム味のソルベはなかなかに美味なのよねー」
ドロップアイテムを回収しながら雪華が小躍りしている。
それはつまりババオラム味のソルベなのだろうか?
ババオラムは生クリームなどと一緒にいただくケーキだと思っていたのだが。
「ババオラム味のアイスは、フランスで有名らしいぞ」
異世界知識とあちらの知識が混同する。
密かにパニックを起こしていると、夫の声が脳裏に響く。
美味しければどちらでもいいでしょう?
真理の言葉に落ち着く自分はしみじみ、食特化だなぁ、と苦笑してしまった。
マンダリンオレジンのグラニータ
マンダリンオレジンの中に、果汁で作ったグラニータがみっしりと詰まっている。
ビーハニーの小瓶付。
マンダリンオレジンのグラニータ レア
マンダリンオレジンそのもの。
別の国でしか採取できないフルーツなので、高値で取り引きされる。
このダンジョンのドロップ品は瑞々しくて味も高評価。
一ダース。
ババオラム ソルベ
ラム酒の樽。
本来は小瓶でドロップする。
汎用性が高いので常にギルドから依頼が出ている。
ババオラム ソルベ レア
ババオラム味のソルベとババオラムのセット。
それぞれ陶器の器に盛り付けられている。
味が強いので別々に食べること推奨。
柊麻莉彩 ひいらぎまりさ
HP ∞
MP ∞
SP ∞
スキル 鑑定∞
偽装∞
威圧∞
奪取スキル 生活魔法 育児 統率 礼節 謀略 地図
王宮料理 サバイバル料理 家庭料理 雷撃 慈悲
浄化 冷温送風 解呪 神との語らい(封印中)
ウインドアロー ウインドカッター
固有スキル 弱点攻撃
魔改造
簡単コピー
特殊装備品 *隠蔽中につき、他者には見えません。
サファイアのネックレス
サファイアの指輪
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装備品
ゴーグル 可視光線透過率 自動調節機能付
ふわもこキャップ 防寒効果抜群
メリノンウールシャツ 保温性、通気性、防臭力が高い。
タートルネックジャケット 速乾性、吸汗拡散性、保温性が高い。
ハードシェル フード付 雨雪も安心の撥水性
メリノンウールタイツ 保温性、通気性、防臭力が高い。
マーサラップパンツ 速乾性、吸汗拡散性、保温性が高い。
アルンパインパンツ 滑り止め効果が高く、防風も完璧。
メリノンウールハイソックス 防菌防臭効果有
アルンパインスノーブーツ 緊急離脱機能付 疲れにくい効果付与
メリノンウールグローブ 防菌防臭効果有
スノーグローブ 緊急移動機能付 加熱機能付
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特殊アイテム
リゼット・バローのギルドカード
魚屋紹介状
衣類屋紹介状
称号 時空制御師の最愛
祝♪ 透明男と人間女、アニメ化。
大好きな作品で一巻から初版で持っていますよ。
主人と同じコミックスをそれぞれ購入しかけていたのを思い出します。
動く彼彼女等を見られるのが楽しみです。
次回は、 氷ダンジョン 四階。前編(仮)の予定です。
お読みいただきありがとうございました。
引き続き宜しくお願いいたします。




