氷ダンジョン 三階。中編
年末らしく、お風呂のフィルターを掃除したり、雨戸を拭いたり、ベランダをデッキブラシで擦ったりしてみました。
夜には五徳をつけ置きして一晩放置する予定。
一時間のつけ置きでいいらしいけど、去年落ちなかった記憶が……。
今年は綺麗に落としたいものです。
「お、罠だな」
ダンジョンといえば、罠。
ダンジョン死亡原因で実は一番多い。
「あれ? そういえば、罠なんて一度もなかったような?」
「あったぞ。子蛇と子蜘蛛がさくさく解除していただけだな」
「そうだったの?」
今更驚けばどこからともなく現れた子蜘蛛と子蛇たちが胸を張ってくれた。
可愛い。
「だが今度の罠は嵌まっておくべきだな。奥方は好きであろうよ」
「え。私そんな変な趣味はないんですけど……」
「ペーシュ殿、罠の説明などを……」
「嵌まってみる方が早いだろう。それ!」
ペーシュにアタックされた。
お尻に頭突きをされた感じ。
痛くはない。
気持ち良くもなかったが。
「え?」
三歩ほどつんのめれば底が抜けた。
そのまま落下する。
「ええええ?」
しかし落下速度は緩やかだった。
ダンジョン一階分ぐらいは落ちたのではなかろうか。
「あ、これは冷たくない」
落下地点に山となっていたふわふわの雪に体が沈む。
しかしその雪は冷たくなかった。
どころかほんのり温かい。
「えーと、ここは?」
「本来の罠は、熱湯の池みたいだね。気温差もあって温かいとか熱いとか感じる間もなく即死しちゃう感じの」
「それが主様仕様に、ほどよい温度の温泉になっているのかと」
「温泉!」
「塩化物泉だな。女性に優しい温泉だ。何処までも気を使っているようだなぁ。ちょうど中間地点だ。これで一休みしろということなのだろう」
見回せば大きな露天風呂といった雰囲気だ。
御丁寧に衣類を入れておく大きな駕籠も人数分用意されている。
ペーシュは嬉しそうに籠の中へバッグを入れていた。
「……少し熱めか? 長湯は禁物だし、しっかりかけ湯もするように」
先に入ったペーシュがまるで温泉マスターのように、あれこれと注意事項を並べてくれる。
何せかなりの厚着だ。
脱ぐのには手間取ったが、やはり温泉の誘惑には勝てない。
マニアほどではなかったが、家でも温泉の素を時々入れるくらいには好きなのだ。
「あれ? ちょこちょこ怪我でもしていたのかしら。お湯が染みるわ」
「体全体が悴んでいたようですね。じんわりと体がほぐれていくようです」
雪華とノワールも続いて湯船に浸かった。
ノワールは遠慮するかと思ったが、実は温泉好きなのだろうか。
一緒に入れるのは嬉しいので、指摘はしないでおく。
「くぅ……しみる……」
かけ湯をしても体がぴりついたが、それも一瞬だ。
温泉に入ったとき特有の体がほどける感覚に襲われる。
「ん? 怪我でもしていたか」
ペーシュがすそそーと水面を滑るように移動してきた。
「大丈夫よ。ほら! あー、あったかーい。みたいな感じ」
「ならばよいが。この温泉には軽微な怪我なら治癒する効能もあるようだからな。少し詰めていくか? どうせ奥方用温泉だ。まるっと持っていっても問題ないと思うぞ」
ダンジョンから温泉まるごと移築……素敵!
「拠点に露天風呂があるなんて、素敵じゃない。彩絲やランディーニも喜ぶわよ」
「モリオンやホークアイも入りたがりそうですね」
妖精や幻獣にも人気なんだね、温泉。
そうなってくると各種温泉を揃えたくなってくるわね。
「拠点所が観光地になりそうな勢いだが、大丈夫か?」
「親しい人しか入れなければ大丈夫でしょう……たぶん」
何処かでフラグの立った音がした気がするが無視一択ですよ。
「……奥方よ。そろそろ上がった方がいいな」
「え、もう?」
「湯あたりしたくなかろう? 水分もしっかり取れよ?」
「御用意しましょう」
ノワールが湯船から上がる。
……ノワールもナイスなバディでした。
しみじみと背中を見送ってしまったよ。
「ほら、アリッサ。こっちにきて! ここはただのお湯みたいだから、何杯か被っておいてね」
あー特に塩泉系は体に残ると、湯あたりしがちだもんね。
昔、体熱が籠もって大変な事態になったっけ。
雪華の言葉に従って癖のないお湯を何杯か浴びる。
氷に囲まれているはずなのに、何かしらの魔法でも使われているのか温泉内の温度は快適で湯冷めの心配はなさそうだ。
何処からか取り出したバスタオルで、雪華が頭から足先までを拭き上げてくれる。
夫に同じことをされている最中を思い出して頭の中で悶えれば、ペーシュが冷やかしの眼差しでこちらを見ていた。
スライムなのに感情表現が豊かすぎる。
エンシェントスライムだからなのか、ペーシュだからなのか。
両方の気がした。
気がつけばしっかりと拭き上げられていたので、順番に服を着ていく。
面倒でもここで手を抜くと、体のあちこちがもそもそしてしまうので気をつけた。
ノワールにもらった、冷えたビューティーウォーターを啜りつつ、ふと浮かんだ疑問の答えを求める。
「あ。そういえばここって何階に当たるんだろう?」
「……三階と四階の狭間かな? おあつらえ向きに階段が用意してあるからね。そこから上がれば落ちた場所につくんじゃないかな。せっかくだから地図で確認してみたら?」
忘れていたよ。
持っていたんだっけ、スキルの地図。
特に気合いを入れずに発動する。
ダンジョンの中は常時発動にしておいた方がいいかしら?
ペーシュのナビが優秀過ぎて地図を発動させるまでもなかったんだよね。
「おお。狭間の地図まであるわ」
「優秀よね。冒険者には必須スキルだと思うけど、意外と持っている人が少ないのよ」
「憂うべき現状ですね。一メイドの意見はなかなか通らぬものです」
雪華もノワールも諦観の眼差しをしていた。
私の場合は簡単コピーで入手できたスキルだけど、本来はそれなりの苦労があるんだろうからなぁ。
冒険者や旅の商人なんかには苦労に見合うスキルだとは思うけどね。
「鍛えれば随分と進化するスキルだからなぁ……死亡率も下がると随分昔から言われてきたが未だに改善されぬのだ。きっと危機感が浸透する日はこないのだろうよ」
ペーシュの言葉が深い。
啓発活動をする気などさらさらないが、自分に近しい人たちには同じ方向を向いてほしいものだ。
「では、戻るとしようか」
「はーい」
ペーシュの言葉に良い子の返事をして続く。
階段を上がれば確かにそこは、落下地点だった。
「さ、寒い!」
「風呂上がりだから致し方ないな。落ち着くまでは微調整をしておこう」
「おぉ!」
「さすがペーシュ殿。見習いたいです」
空気が一瞬で変化する。
極寒の地にいたはずなのに、今着ている服で寒さを感じない状態になった。
雪華とノワールが大変感動しているので、ペーシュのすばらしいスキルらしい。
「ありがとう、ペーシュ」
「うむ。感謝は幾らでもするといい……ん! 背後にハイビスカスのグラニテとマトンチーズのソルベが忍び寄ってきてるぞ」
「はっ!」
教えられた途端、背後に気配。
くるっと振り向いて固まった。
そこにいたのはハイビスカスの花に足が生えたモンスターと胴体がつるんとしたチーズになっている羊。
シュールすぎる。
そしてどうやって倒せばいいんだろう?
「深く考えずとも、押して参ればよろしいのです!」
え、脳筋かな? という発言をしたノワールは、箒でハイビスカスの足元を掃く。
雪華は羊の首をきゅっと締めた。
私が驚いたので急いで殺してくれたようだ。
どんな攻撃をしてくるのか少しだけ気になった。
「グラニテの方は食虫植物のように捕食してくるぞ。ソルベの方は角を使った頭突き攻撃だな」
ペーシュが脳内言葉に返答してくれた。
想像の範囲内だが、怖いのには変わりない。
見なくて良かった。
ドロップ品は下記の通り。
珍しくレアと通常品がどちらもドロップした。
ハイビスカスのグラニテ
溶けない氷の器に入っているハイビスカスのグラニテ。
甘酸っぱくてさっぱりしている。
女性に人気。
ハイビスカスのグラニテ レア
ハイビスカスの氷花。
冷気を発するハイビスカスの花。
家の中に置いておくと涼しくて快適。
マトンズーチーのソルベ
マトンのズーチー拳大。
栄養価が高く甘い。
マトンズーチーのソルベ レア
マトンのブルーズーチー拳大が一ダース。
癖のある通好みのズーチ。
高貴な人が喜ぶ。
「……マトンズーチーのソルベそのものはドロップしないの?」
「や。ドロップするぞ? 通常ドロップだな。空気を読んだダンジョンマスターが使いやすいズーチーそのものにしたんじゃないのか」
「なるほど」
ズーチーがあればソルベは当然として他にもいろいろ作れるからね。
「でもまぁ、何処かで全モンスターのドロップ品は出ると思うがな」
「そうかなぁ?」
「だって、奥方。このダンジョンのドロップ品として食べたいだろう?」
「うん」
自分でも作れるし、他メンバーだって美味しく作ってくれると思う。
でもやっぱりダンジョンドロップ品って特別感があるからね。
特に食べ物!
食べたいのですよ。
「……宝箱、湧いたな、今」
「え?」
何と私の足元に小さな宝箱が置かれている。
ペーシュが頷くので、そっと開けてみた。
鍵もかかっていないし、罠もない。
中身はクロカンブッシュのようにマトンズーチーのソルベが山積みにされていた。
小さな宝箱にどうやって入っていたんだろうとか、崩れてこないかな? そんな今更の突っ込みは入れないけれど。
やっぱり微苦笑は浮かんでしまった。
柊麻莉彩 ひいらぎまりさ
HP ∞
MP ∞
SP ∞
スキル 鑑定∞
偽装∞
威圧∞
奪取スキル 生活魔法 育児 統率 礼節 謀略 地図
王宮料理 サバイバル料理 家庭料理 雷撃 慈悲
浄化 冷温送風 解呪 神との語らい(封印中)
ウインドアロー ウインドカッター
固有スキル 弱点攻撃
魔改造
簡単コピー
特殊装備品 *隠蔽中につき、他者には見えません。
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称号 時空制御師の最愛
捜し物をしていたら、以前散々さがして見つからなかったアイテムを発見しました。
そ、そんなところにしまっていたのね、と深い溜め息を一つつきましたよ。
まぁ、見つかって良かったです。
次回は、 氷ダンジョン 三階。後編(仮)の予定です。
お読みいただきありがとうございました。
引き続き宜しくお願いいたします。




