氷ダンジョン 三階。前編
検討していた福袋。
昼にアクセスしたときは残っていたのに、夜には完売していました……。
そうだよね。
あるときに購入しておかないとだよね。
とほほ。
今年はファーストフード系の福袋に縁がない模様。
三階へ下りる階段で彩絲とランディーニを待ってみる。
「まだみたいね?」
「そうみたい。まぁ、いろいろと話をしているんじゃない?」
「二人なら問題もないだろう。先へ行くぞ」
「畏まりました」
ペーシュの声にノワールが頷く。
先導する二人の後に続いた。
降りて数歩。
待ち構えていたのは、もこもこ装備の三人組。
「妾に全ての装備品を寄越すのじゃ!」
「姫様の御指示に従え!」
「ダンジョンドロップ品も全て献上せよ!」
上から目線過ぎる三人組の登場に、唖然としたのは私だけだった。
「愚か者が」
「最愛の意味を知らないのかしら?」
「……この街に『姫』の称号を許されている者の滞在はなかったはずですが……」
つまりは身分詐称ですね、わかります。
姫と呼ばれる女性も、姫に付き従う男性二人もそこそこの美形だ。
美しいというだけで信じ込む人もいるのだろうけれど。
私たちには通じない。
そもそも私の中で喬人さんより美形はいないのですよ!
好みや妻贔屓を差し引いても、私の夫は美しいのです。
照れますね。
照れる夫はリアルで見たいです!
鼻息も荒く返答すれば、更に照れる夫の気配があった。
そんな夫と私のやり取りをペーシュ以外は知らずに、三人のお馬鹿を問い詰めていく。
「時空制御師の最愛であるアリッサ様に何たる不敬!」
「この街に姫の称号を使っても良い方が滞在しておられないのは把握しております。身分詐称がどれほどの罪か御存じないのですか?」
「高貴な身分の者が盗人の真似事とはなぁ?」
結構煽っている三人に対して、お馬鹿たちは反論もできないらしい。
ただ自分の意見が通らないことに対して不満をまくし立てている。
これだけ大きな声でやり合えば、モンスターを呼び寄せると、考えてもいないのだろう。
そもそもこの階層まで三人で来られたのだろうか?
他に連れてきた者たちを犠牲にして辿り着いたのかもしれない。
失った者たちの代わりにと、私たちを使おうという魂胆なのだろうか。
案の定三人の背後にモンスターが出現する。
空気を読んだのか忍び足だ。
モンスターもするんだね、忍び足! と妙なところで感心してしまった。
ペーシュたちはお馬鹿の背後へと忍び寄ったモンスターの存在を当然教えてはやらない。
「「「ぐっ!」」」
音の高さに差はあれど、三人ともが同じく苦しそうなうめき声を上げる。
「ファールーデ。イラン国の冷たい菓子が参考になっている。麺での首絞め攻撃だな。他にもスタッチを飛ばしてくる攻撃、ローズシロップでの氷結攻撃、ララムイ(ライム)ジュースによる窒息攻撃などがあるぞ」
「首絞め攻撃は、相手を弱者として見ている攻撃ですね」
「一気に締め上げないで、じわじわ締めてるもんね」
着実に死へ向かっている三人に対して助けの手を差し伸べもせず、淡々と様子を見守る皆を冷たいとは思わない。
こちらの装備どころか私たちの自由までをも奪おうとしていたのだ。
むしろ当然の報いだろう。
「助け、なさい……」
「やだね!」
ペーシュが一刀両断で断っている。
「くそっ! こんなところで! 俺だけでも! 助けろっ!」
「御免被ります」
ノワールが深々と腰を折って返した。
「ぼくの、おんなに、してあげるから!」
「え、それってどんな嫌がらせ? むしろ嫌です。絶対に嫌。助けるのより女にされる方が嫌!」
雪華にいたっては、どんな断り方なの……と溜め息すら零れる。
気持ちはわかるけどね。
私も自分の女扱いされるくらいなら、助けると思うし。
「ぎ、が、が、が……」
俺、姫、僕、の順番で息絶えたようだ。
一応遺体が残ったので、姫でなくとも遺体がないと面倒な地位は持っているのかもしれない。
ノワールが嫌そうに遺体を収納していた。
陶器の器に入っている麺が一度しぱん! と大きく音を立てたと思ったら、スタッチが飛んできた。
小粒でも勢いがあるので怪我をしかねない。
子蛇たちが一個一個に飛びついて塞いでくれた。
美味しそうにナッツ類を咀嚼する音が響く。
良いおやつになったようだ。
馬鹿にされたと感じたのか、ローズシロップとララムイジュースが降り注ぐ。
ほんのりピンクとほんのりグリーンの液体だ。
芳しい香りが鼻を擽った。
ノワールが何故か傘を取り出した。
「にゃむ!」
驚く声は何だか可愛らしい。
「どちらも美味しいのです。ありがとうございました」
傘は水を落とさない逆さ傘? の形をしており、何とシロップとジュースをそれぞれ一本ずつ小瓶に注ぎ落としていた。
どんな特殊アイテムなのだろうか。
ノワールが自分で作った物かもしれない。
「全部の攻撃も見せてもらったことだし。馬鹿も片付けてもらったしで、感謝を込めて……苦しまずに逝かせてやろうな?」
ペーシュの何処までも優しい声に、ファールーデはどれほどの恐怖を覚えたのだろう。
見てわかるほどに硬直して動かなくなってしまった。
そのタイミングでペーシュが何かしたようだ。
陶器の器がぱかんと真っ二つに割れた。
綺麗な切り口です、ありがとうございます! と心の中で突っ込みを入れれば、ファールーデのアイテムがドロップされた。
ファールーデ レア
ローズシロップ、ローズウォーター、ライムジュース、ライムスパークリング、スタッチ、コーンスターチの瓶詰めそれぞれ一ダース。
通常はローズシロップ、ライムジュース、スタッチのどれか一瓶。
尚、それ以外のアイテムは初めてのドロップ。
今後はレア扱いでドロップ予定。
「……私が収集した意味は……」
あ、ノワールが打ちひしがれてしまった。
「あるだろ? 美味いからな量は多ければ多いほどいい」
「そうだよ、ノワール! 気になるならアリッサに献上すればいいし」
「献上って……先刻の人たちじゃないんだから」
「彼女らの遺体は冒険者ギルドではなく、エックハルト殿の元に運んだ方が良さそうですね」
「ノワールが言うならその通りにしよう。これ以上厄介事は御免だけどね」
「何。それこそエックハルトたちに任せれば良かろう?」
何でスライムなのに浮かべられるんだろうね、暗黒微笑。
ペーシュに生温い目を向ければ、頬の肉をむにーっと引っ張られた。
「……敵の気配より前に宝箱だな」
「え、これが宝箱?」
「そうだ。ほら、な?」
氷でできた壁のボコボコした一部にペーシュが頭突きをする。
何故それが宝箱だとわかったのかと、問い詰めたくなる擬態加減だった。
ぱかりと氷の壁の一部が開いたので、確かに宝箱なのだろう。
でかい。
「……マジックバッグ?」
「冷凍と冷蔵があるようだな」
「凄くない?」
「今更だな」
ペーシュにしれっと言われたが、氷の宝箱というよりは収納庫と表現する方が正しい気がする氷の中には、ずららっとバッグが並んでいた。
「どう見ても、アリッサ用でしょ」
「デザインがどれも秀逸ですね」
「リュックサックですら可愛いからな。売らずに身内で使ってやればいいだろう」
パーティーにお呼ばれしたときに持って行けそうなバッグまであったからね。
小さくて可愛いバッグだけど、マジックバッグなので侮ってはいけない。
私が手に取った雪を思わせるふわふわ生地のバッグは、冷凍機能付、収納量無限、時間停止の機能がついていたからね?
解体したての素材とかを入れれば瞬間冷凍で保管できるんだよ。
王都の拠点にいる皆に持たせるのもいいかな。
どう見ても、リス族の姉妹にどうぞ? とばかりに、小さな斜めかけバッグとリュックサックが三点ずつ置かれていたのだから。
ダンジョンマスターもリス族が可愛いのかしらね?
「……うーん。これをもらうかなぁ」
ペーシュが腕組み? をして考えたあとで手に取ったのは肩掛けバッグ。
「よっこらせっと」
スライムの斜めかけバッグ姿!
ありがとうございます!
想像してみて?
ピンク色のスライムが真っ白くてふわふわ生地の可愛いポシェットを斜めがけにする姿を!
可愛い、可愛いを頭の中で連呼していたと思ったら、口に出ていたらしい。
雪華とノワールには見なかった振り聞かなかった振りをされたが、ペーシュは。
「本当にお前という奴は!」
と言いながら私の頬を高速で擦った。
火が出るかとちょっと恨めしく思ったよ。
何だかひりひりするなーと思った次の瞬間には、ペーシュのひんやりした触手で癒やされたから、愛されているんだよねーとも思ったけどね。
柊麻莉彩 ひいらぎまりさ
HP ∞
MP ∞
SP ∞
スキル 鑑定∞
偽装∞
威圧∞
奪取スキル 生活魔法 育児 統率 礼節 謀略 地図
王宮料理 サバイバル料理 家庭料理 雷撃 慈悲
浄化 冷温送風 解呪 神との語らい(封印中)
ウインドアロー ウインドカッター
固有スキル 弱点攻撃
魔改造
簡単コピー
特殊装備品 *隠蔽中につき、他者には見えません。
サファイアのネックレス
サファイアの指輪
サファイアのイヤリング
装備品
ゴーグル 可視光線透過率 自動調節機能付
ふわもこキャップ 防寒効果抜群
メリノンウールシャツ 保温性、通気性、防臭力が高い。
タートルネックジャケット 速乾性、吸汗拡散性、保温性が高い。
ハードシェル フード付 雨雪も安心の撥水性
メリノンウールタイツ 保温性、通気性、防臭力が高い。
マーサラップパンツ 速乾性、吸汗拡散性、保温性が高い。
アルンパインパンツ 滑り止め効果が高く、防風も完璧。
メリノンウールハイソックス 防菌防臭効果有
アルンパインスノーブーツ 緊急離脱機能付 疲れにくい効果付与
メリノンウールグローブ 防菌防臭効果有
スノーグローブ 緊急移動機能付 加熱機能付
リュック型冷蔵&冷凍庫 無限収納で時間停止状態
特殊アイテム
リゼット・バローのギルドカード
魚屋紹介状
衣類屋紹介状
称号 時空制御師の最愛
今日昼御飯を食べたら駅方面に買い出しに行くんだ。
そして購入できなかった福袋の代わりに何か福袋を購入するんだ……。
今の所あちらこちらで販売しているゴティバの福袋が気になります。
や、売っている場所によって内容も値段も違うんですよ。
3日には友人達との新年会があるから、その時に探すのもいいかな?
次回は、 氷ダンジョン 三階。中編(仮)の予定です。
お読みいただきありがとうございました。
引き続き宜しくお願いいたします。




