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その頃彩絲とランディーニは……。前編

 久しぶりに治験を受けてきました。

 既に認可されている薬の更なるデータをとりたいとのこと。

 がっつり一年間他の治験が受けられないのが難点ですね。



 アリッサと別れた彩絲とランディーニは、まず祖母がギルドマスターではない冒険者ギルドへと足を運んだ。

 ちなみに人型彩絲の肩の上にランディーニが乗っている状態だ。


 現在この街には冒険者ギルドが二つ存在している。

 彩絲の祖母がギルドマスターとして勤めるギルドが、もともとあったもの。

 ギルドマスターの在任が長いと新しい風が吹きにくいので……と、あえて別にもう一つギルドを作ったらしい。

 上手く運営されれば最終的に統合して、より大きな冒険者ギルドになる予定だった。

 しかし新しいギルドが短期間で腐敗してしまったようだ。

 今はダンジョン環境の厳しい氷ダンジョンのみを担当にさせて、様子を窺っているとのこと。

 ……アリッサが気にかけているようだったので、調べた結果がこれだった。


「ふむ。御館の所へ行くかと思ったがのぅ」


「それはあとじゃ。まぁ新しい方の冒険者ギルドがどれほど腐っているのかを、この目で確認したいというのもあるぞ?」


「祖母殿は何と言っておるのじゃ?」


「人に対して寛容がすぎるのじゃよ。もう少し様子を見てもよいかもしれぬのぅ……などと宣っておって呆れたわ!」


 冒険者ギルドや冒険者の屑加減を許しておきながら、他者に被害が出ているのを許してなんて矛盾が酷すぎる。

 寛容であるならば最低でも被害者への保障がなされるはずだし、屑への罰だって当然なのだ。


「長命種の寛容さが凶と出ておるか……奥方にはっきりと言ってもらう手もありじゃな」


「主には申し訳ないが、それが一番手っ取り早い気もするのぅ」


 人に甘い祖母もさすがに最愛から直接苦言をされれば、きちんと対応するだろう。


 ランディーニとのやり取りの最中、人の目線がうるさいが声をかけてくる者はいない。

 この街に滞在してそこそこの時間が経過しているし、目立つ行動も多いのだ。

 玉石混淆の噂が出回った結果だろう。


「結界はそれぞれ張るとしようかのぅ」


「それが無難じゃな」


 アリッサには劣るが彩絲とランディーニも結界……正しくは結界に似たもの……を張ることができた。

 彩絲は蜘蛛糸で、ランディーニは極めた風魔法で、あらゆるタイプの攻撃や悪意を遮断する。

 結界の可視化は術者が望まないと基本できない。

 だから二人は結界に色をつけて、結界が誰の目にもわかるようにしていた。

 彩絲の結界は美しい虹色に、ランディーニの結界はやわらかな緑色に見える。


「……馬鹿じゃのぅ」


「……阿呆じゃなぁ」


 冒険者ギルドの扉を潜った途端、何種類かの攻撃が放たれた。

 勿論全部放った相手へと返されている。

 二人の結界は優秀だ。

 あちこちから悲鳴が上がった。


「ダンジョン内で起こった事件について、幾つか。ギルドマスターに報告したいことがあるゆえ、案内を所望する」


 周囲の喧噪など一切関知せず、カウンターの中で呆然としている受付担当の職員に告げる。


「しょ、少々、お待ちくださいませ……」


 彩絲たちを糾弾しなかったのは英断だ。

 自分の手に負えないと思ったのかもしれない。

 雰囲気から察するに即時駆けつけてくるだろうと判断して、カウンターの前で大人しく佇んでいる。


 攻撃をまるっと反射されてしまった冒険者たちの悲鳴と罵倒がギルド内に響き渡っているが、二人に声をかけてくる者はいない。

 罵倒も個人を特定するものではなかったので全部無視をしているが、ランディーニがしっかりと録音しているだろう。

 いきなりの攻撃とあわせて賠償を求めるときに使って、増額してやろうと考えている。


「……用件は?」


「何件かあるから、別室でお願いしたいのぅ」


 冒険者ギルドマスターは、如何にも、といった風貌だった。

 怒り顔の低い声で威圧をかけながらの問いに、うっすらと微笑を浮かべたままにかけられた以上の威圧をかけ返した。

 ギルドマスターの体がぐらりと傾ぐ。

 周囲の喧噪が一段と激しくなった。


「……ついてこい」


 ギルドマスターの額にはびっしりと汗が浮かんでいる。

 暑いから、ではないだろう。

 驚くべきことに冒険者ギルド内は涼しかった。

 魔法か魔道具で室内の気温を一定に保っているようだ。

 砂漠の地で、それができるのは金と権力がある証。

 人気ダンジョンの新しい冒険者ギルドという面目を、一応は保っているらしい。


「この冒険者ギルドは、足を踏み入れた途端、攻撃を仕掛けなくてはならないという決まりがあるのかぇ?」


「ない」


「ではギルドとしては、どう対応するのじゃ?」


「……ギルド施設内で起こった件に関しては、無干渉」


「ほぅ。どちらかが一方的に悪くても、か?」


「そうだ」


 ある種、潔い。

 どちらにも加担しないならば、潰すまでだ。

 今まで強者として、弱者を踏み潰してきた過去を悔いればいい。


「ならば潰すとしようかのぅ」


「っ!」


 思う所はあるらしいが、彩絲たちの実力を理解できる程度の力量はあるようだ。


「で! 用件は? うぉっ!」


 何処までも上から目線での態度にいい加減苛ついてきたので、収納していた例の遺体を目の前に出してやった。


「貴様、いきなりっ! ……何だ、これは?」


「ダンジョンの入り口付近で拾った遺体じゃな」


「入り口、付近……」


「この装備を見れば一目瞭然じゃろ?」


 マスターは呆然と遺体を見下ろしている。

 見知った顔なのだろうか。


「こちらの二人はさて置き……この三人は異常じゃろう? 明らかに引き留めたこやつのせいで、二人が死んで……」


「俺の息子が! そんな馬鹿な真似をするはずがない!」


「では、この状況はどう説明するのじゃ?」


「ぐっ!」


 なんと不届き者はマスターの息子だったようだ。

 拾ってこなければ良かっただろうか。

 目を細めて思案すれば、ランディーニも肩の上で頷いている。


「妾としては貴様の息子が、他の奴らの蘇生費用を出すべきじゃと思うのだが?」


「そ、そんな金! 息子にはない!」


「じゃあ、貴様が出すのじゃな」


「俺は! 冒険者ギルドマスターだぞ!」


「だからなんじゃ? マスターが決まりを破っていいとでも宣うのかぇ?」


「そ、そ、そうだ!」


「……ほぅ。話にならぬな」


 彩絲は遺体を全部収納し直した。


「で、あれば。御館に話を持ちかけるとしようかのぅ」


「ふざけるなぁ!」


「ふざけているのは貴様じゃな」


 呆れるしかないのだが、マスターは拳を振り上げて殴りかかってきた。

 我を忘れるほどに息子が大切だったのだろうか。

 何にせよ、愚かな話には違いない。


「ひぎゃああああ!」


 ランディーニのウインドカッターが容赦なく手首と足首を一撃の下に切り落とした。

 マスターは血を噴き出しながら無様に昏倒する。


「ま、ますたー!」


 扉が開かれて、女が一人転がり込んできた。

 血まみれで転がるマスターに慣れた手付きでポーションを振り掛けていたので、よくある事案なのかもしれない。

 ランディーニと二人、虫螻を見る目でマスターを見下してから、部屋を出る。

 そのまますたすたと受付のある部屋に行けば、まだ攻撃をしかけてきた輩がいた。


「ふむ。いきなりの攻撃に対して慰謝料を請求する。また壊れた椅子やテーブルなどの賠償も全てそちらでしてもらうぞ。異論はないな?」


 先ほどよりも三段階ほど威圧を強くした。

 昏倒する者、失禁する者、脱糞する者、泡を吹く者、何とか堪える者。

 一番多いのは失禁する者だ。

 掃除が大変じゃのぅ、と思っていると、堪えた者の一人から返答があった。


「……傍観していた一人として、謝罪する。犯罪を見過ごしてしまって申し訳ない」


 深々と頭を下げるときに浮かんだマントからはふわりと冷気が漂ってくる。

 マントの下は氷ダンジョンに耐えうる装備が見て取れた。

 恐らく優秀な冒険者なのだろう。

 祖母がこちらのギルドを使うようにと、派遣した冒険者かもしれない。

 

「傍観していただけで謝罪とは随分と人ができた御仁じゃのぅ。慰謝料や賠償金の件、任せてもいいと申すのかぇ?」


「適切な金額をまとめて、三日後にはお支払いすると約束しよう」


「了解した。では、よろしく頼む」


「……ギルドマスターは何を仕出かしたのか、問うても問題ございませんか?」


「息子の犯罪を被害者に肩代わりさせようとしたのじゃよ」


 今度はギルド内が静まりかえった。

 信じたくなかったのだろうか。

 目の前の冒険者は深々と溜め息を吐いているので、前々からギルドマスターの態度に不信感を抱いていたに違いない。


「これから御館の元へ持ち込む予定じゃ。無論あちらの冒険者ギルドマスターにも報告し、今までとは違う対応を求めるぞ。妾としては速やかな懲戒解雇と規約違反に関する賠償金の支払いを願い出る手はずじゃな」


 冒険者ギルドはやはり一つに限るなぁ? と圧もかけるつもりでいる。

 ここまで堕落してしまえば、祖母も諦めがつくに違いない。


「有り難いことです。健全な冒険者ギルドの運営は、多くの真っ当な冒険者が望むことですから」


 再度深々と頭を下げられた。

 ギルドマスターが排除されれば、幾らかは真面な冒険者ギルドになるのかもしれないが、新しいギルドマスターの選出も大変だろう。

 祖母には今まで静観していた分も含めて、頑張ってもらいたいところだ。

 彼を含め何人かが頭を下げるのに会釈で返して、ギルドを出る。


「そういえば、サブギルドマスターはいたのかぇ?」


「妊娠中につき、長期の休みを取っているようじゃぞ」


「そちらは真面だといいのじゃが……」


「ギルドマスターよりは、マシ、程度らしいのぅ」


 ランディーニの詳細鑑定結果はあまりよろしくないものだった。


「サブマスターは穏便な退職で大丈夫じゃろうか」


「それがのぅ……」


 詳細鑑定で見た情報をランディーニが教えてくれる。


「ギルドマスターがハーレム気取り野郎とは……呆れるしかないわな」


 まず、サブギルドマスターはギルドマスターの愛人。

 未婚で子供の親はギルドマスター。

 ギルドマスターの声に飛び込んできた女性もギルドマスターの愛人。

 こちらは既婚で三人の子持ち。

 さらにはギルドマスターは既婚者とのこと。

 妻との関係は悪く、長い間別居中らしい。

 犯罪者は妻との子供なのだろうか?


「愛人優遇はかなりしておったようじゃから……関係者は解雇と進言した方がよさそうじゃわい」


 ランディーニが深々と溜め息を吐く。

 ここにアリッサがいたのなら、溜め息を吐くフクロウも可愛いわ! と喜んだに違いないと、彩絲はアリッサの代わりにランディーニの喉元を優しく擽った。  

 蜂蜜酒の福袋があると知りうきうきと申し込みに行ったところ……何時も使っている通販サイトでは対応していない模様。

 更には送料もかかると聞いて悩み中。

 もっと安価な出会いがあるかしら……。


 次回は、その頃の彩絲とランディーニは……。中編(仮)の予定です。


 お読みいただいてありがとうございました。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 

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