氷ダンジョン 二階。前編
電話とメールを待っているのですがどちらも来ない……。
電話は午前中にという話だったんですけどね。
大人しく待ちますが、あまりやり取りのない仕事相手だと、不信感が募ります。
私以外の四人もアクセサリーをそれぞれ選んでいた。
彩絲はアンクレット、雪華はブレスレット、ランディー二はリボン(首輪っぽく首に結んだ)でノワールはペンダントを、早速身につけている。
どのぐらいの時間敵対したモンスターを氷結させておけるか検証するらしい。
勿体ないよね……と思いつつも、皆の選択を否定しないでおく。
皆の根底にあるのが私の安全確保だと理解しているからだ。
「……あ、明らかに温度が下がったね」
「じゃのぅ。少々吹雪いているしの」
「視界の阻害とまではいきませんが」
「傘とか欲しくなるよね。差さないけど!」
「アリッサよ。フードを被っておくかぇ?」
言いつつも既に彩絲の手が動く。
すっぽりとフードを被せられた。
「ありがとう。そこまで気にならないけど、雪が降っていると何かしらの手配はしたくなるよね」
二階へ下りた途端、気温が下がったのを感じたのであれこれ対策をしていると、モンスターが現れた。
同じモンスターが三体。
ダンジョンマスターの推しなのかと一瞬考えてしまった。
現れたモンスターは様々なフルーツが載ったかき氷だったのだ。
「この階層では一番人気のかき氷でございますね。エス・ブア。乗っているフルーツは基本五種類。レアで十種類以上となっております」
「レアじゃな」
「レアだね」
十種類どころではない気がする。
見た目のカラフルさにも驚くが、一番驚くのはフルーツが滑り落ちない点ではなかろうか。
動く度に落ちそうになるフルーツが、何故か元通りになってしまう。
見ていてハラハラしてしまうモンスターだ。
「む!」
三体が何故かランディーニに攻撃を仕掛けてきた。
他のメンバーには見向きもしない。
一点集中タイプなのだろうか。
「ん? もしかしてこれって食べられるの?」
エス・ブアの攻撃はフルーツの投擲。
ランディーニのウインドカッターで細切れにされたフルーツを、素早い動きで受け止めた雪華が首を傾げている。
「ふむ。食べられるようじゃぞ? プルナッパ(パイナップル)じゃな、よく冷えていて美味じゃ」
一口サイズに切られたフルーツを眺めていた彩絲は、口の中に放り込んで味を確認している。
表情からしてかなり美味なようだ。
「私のはメロメロンだったよ。アリッサも食べる?」
食べると返事をする前に口の中に入れられた。
よく冷えていて美味しいスイカだった。
こちらではスイスイカというらしい。
鑑定が教えてくれる。
「我らのように、装備が整っていないと美味しくは食べられぬし、そもそも食べられるとは思わぬのだろう。ギルドにまで持ち込まれなければ食べても大丈夫なのか検証もされぬしな。だからあまり知られておらぬのじゃ……恐らく」
「なるほど」
「何を呑気に食べておるんじゃ? 全て我に任せおってからに」
ランディーニが雪華の髪の毛を啄んでいる。
過剰戦力でも放置されるのは寂しいようだ。
「ごめんて! ドロップアイテムはさくさく拾うからさ」
「当然じゃ」
ぷりぷりと怒っている、ランディーニの好きな場所をこしょこしょと摩ってやる雪華が目配せすれば、やれやれと肩を竦めながら彩絲がアイテム回収にかかる。
エス・ブア レア
プルナッパ、メロメロン、スイスイカ、レッドドラゴンルツ、ボカドア、イヤンパ(パパイヤ)、ゴンマーマ(マンゴー)、ジャックルツ(ジャックフルーツ)、スチゴンマー(マンゴスチン)、ローズアプル(ジャンブー)、ナココツ、ドドリアンの十二種類が入っている。
フルーツの種類はそれぞれ違う。
ロベリートスソースとスイートミルク(練乳)がかかっている。
クラッシュアイスの上に、フルーツ各種を乗せて、ソースがまわしかけられるのが基本。
器付き
「本当にいろいろなフルーツが入っているのね」
「レアだからのぅ」
「レアだしね」
彩絲と雪華が顔を見合わせて頷いているので、これもまた正しくレアドロップ品なのだろう。
「……主様。何やらまた、人が倒れておるようですが……」
ノワールが迷った口調で声をかけてきた。
どうやら先ほどの遺体とは勝手が違うようだ。
「うむ。まだ生きているようじゃな」
ランディーニとノワールが先行するのであとに続く。
そこには少年が一人倒れていた。
しかも周囲にモンスターが集っている。
集っているのに、攻撃をしていない。
「んん? どうやら少年の仮死状態を維持しているようじゃぞ。あとは我らに任せるがよい」
彩絲の言葉にモンスターたちが数歩下がる。
しかし逃げては行かなかったし、襲っても来なかった。
もしかしたら少年が心配なのかもしれない。
「テイマーの才能でもあるのかのぅ」
「……そのようですね」
「え! ノワールはそういうこともわかるの?」
「多少ではございますが。この少年の場合はテイマーというよりは、愛し子に近いかもしれません」
スイーツ系モンスターに好かれる少年……某小説投稿サイトにならある設定……かなぁ?
「ああ、これは疎まれておいていかれた系みたいだね」
少年の体を診ていた雪華が眉根を寄せる。
虐待の跡でも発見したのだろうか。
「それなら早く知らせた方がいい気がするけど……」
冒険者ギルドは悪い噂ばかりだ。
これもまた御館様案件だろうか。
「……ランディーニ。妾と一緒に行ってくれぬか?」
「我を御所望とは珍しいのぅ。喜んで同行しようぞ」
彩絲が声を上げるのは珍しい。
ランディーニをともにというのも珍しい。
祖母に対して思う所があるのだろう。
冒険者ギルドが健全に機能していないのだから。
イグナーツがややこしい状態という以上、様々な思惑があっての現在なのだとしても。
孫の意見に耳を傾けてくれるのを祈るばかりだ。
「……というわけで、ノワール、雪華。アリッサを頼むぞぇ」
「お任せあれ!」
「二人の分も尽くします」
「二人抜けるんじゃ、我も同行するぞ。反対意見は認めない!」
ぽん! と小気味よい音がしてペーシュが出現する。
反対意見はないようだが、ノワールと雪華の表情が暗い。
「こちらに同行してもらうわけにはいかぬものなぁ」
「じゃな」
何処か嬉しそうな彩絲とランディーニは少年の体を丁寧に毛布でくるむ。
彩絲がそのまま背負った。
仮死状態なので収納可能のはずだが、あえてやらないらしい。
手と羽を振った二人の姿はあっという間に消えてしまった。
「さて。そんな不満げな顔をするな。何かない限り、口は出さぬ。手は出すがな」
はぁああと雪華が大きな溜め息を吐く。
気のせいでなければノワールも溜め息を小さく一つ吐いていた。
「少年は無事みたいだから解散して大丈夫だよ」
遠巻きに見守っていたモンスターに話しかける。
モンスターたちの躊躇う気配があった。
しかしそこはモンスター。
どうやら戦うようだ。
ダンジョンマスターの意思が介入しているのは、全勢力で襲いかかってこないところだろう。
十二体ほどいるが素早くグループに分かれて、順番に対峙してくれるようだ。
「マス・コン・イェロとハロ・ハロか。あちらでいうところのフィリピンのかき氷だな。
時空制御師の影響であちらの世界から齎された情報は、いろいろな場所で繁栄しているぞ。特に食べ物系」
「食べ物系」
反芻してしまった。
重要だからね、美味しい食べ物。
麻莉彩に何一つ不自由なく過ごしてほしいですから。
特に食べ物は重要でしょう。
夫の声にはそうですね! と大きく頷く。
若干呆れているペーシュとは違い、二人は緊張している。
何か厄介な攻撃でも仕掛けてくるのだろうか。
「ハロハロの攻撃で失明をする可能性が高い攻撃がある。簡単にいうとどろどろに溶かした砂糖を吹きかけられる攻撃だな。誤って水で洗い流そうとすると顔にべったり張りつくんだよ。正しくは氷ダンジョンでドロップする各種氷で冷やすことなんだが、知らない冒険者も多いし、そもそも迅速に対応できる者は少ないんだ」
ペーシュの丁寧な解説を拝聴していると、ハロハロによる攻撃があった。
まさしく茶色いどろどろした液体が二人を覆い隠す量も放たれる。
砂糖が熱せられたときに出る甘い香りが辺りに充満した。
「え?」
ノワールの箒でささっと払ってしまうのかと思っていたら、飛び出してきた子蛇が一瞬で巨大化して、大量の液状砂糖を飲み込んでしまった。
ハロハロも驚いて硬直している。
百戦錬磨のモンスターでも予想外だと硬直するようだ。
服ダンジョンのモンスターといい、氷ダンジョンのモンスターといい、人間の知性があるとしか思えない行動を取る。
「ぴにゃあああ!」
あ、可愛い悲鳴。
などと気の抜けた感想を抱いているうちに、子蛇がモンスターを飲み込んでしまった。
美味しかったようで、けぷっと満足げな音がする。
食べても倒せるとわかったのは、子蛇の前にハロハロのドロップが鎮座したからだ。
「にぎゃああ?」
こちらの悲鳴はマイス・コン・イエロのもの。
コーンを弾丸のように飛ばしてくる攻撃かな? と考えていたけれど、違った。
グラスに入っているその体ごと大きく跳躍した。
上からもの凄い勢いで振ってくる。
そのまま押しつぶす攻撃のようだった。
伸びた雪華の尻尾によって方向転換をさせられた、マイス・コン・イエロ。
次の瞬間にはノワールの箒攻撃によってお星様になったようだ。
「にぎゃっ…………」
目の前に落ちてきたマイス・コン・イエロが最後に猫っぽい声を残せば、ドロップしたアイテムがころんと転がった。
柊麻莉彩 ひいらぎまりさ
HP ∞
MP ∞
SP ∞
スキル 鑑定∞
偽装∞
威圧∞
奪取スキル 生活魔法 育児 統率 礼節 謀略 地図
王宮料理 サバイバル料理 家庭料理 雷撃 慈悲
浄化 冷温送風 解呪 神との語らい(封印中)
ウインドアロー ウインドカッター
固有スキル 弱点攻撃
魔改造
簡単コピー
特殊装備品 *隠蔽中につき、他者には見えません。
サファイアのネックレス
サファイアの指輪
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特殊アイテム
リゼット・バローのギルドカード
魚屋紹介状
衣類屋紹介状
称号 時空制御師の最愛
久しぶりにネット銀行にログインしようとしたら、IDとパスワードどころか、支店名と口座番号も見当たらない……銀行カードって持っていたかしら?
最近口座の登録は無料だけど、銀行カードの発行が有料だったりして驚かされます。
楽しみです。次回は、氷ダンジョン二階。後編(仮)の予定です。
お読みいただいてありがとうございました。
引き続きよろしくお願いいたします。




