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教会と孤児院に関する後日談。後編

 健康診断に行ってきました。

 マンモグラフィーをお願いしたのですが、うっ血してしまいましたよ……。

 そこまで激しいものではないんですけどね。

 長く消えないようなら連絡したいと思います。


 私が気になっていると判断したノワールが食後にホットノスノスを淹れてくれた。

 アイスも好ましかったがホットも同じように美味しい。

 小さく頷いたタイミングでヴェローニカが改めて、といった雰囲気を醸し出しながら深々と頭を下げてきた。


「この度は御慈悲を賜りまして誠にありがとうございました。教会、孤児院に関しまして全てが最良と思われる方向へ進んでおります。また私の命も……最愛様が介入してくださらねば失っておりましたでしょう。絶望の先には死があるものと諦観しておりましたが、まさかこのように事態が好転するとは思いもよりませんでした……」


 席を立ってカーテシーをするヴェローニカの眦には涙が浮かんでいる。

 教会にいる間はさて置き、その前こそ酷い状況だったんじゃないかと推察してみた。

 貴族で生きて行くには清廉過ぎる人に思えるし。

 だからこそ教会での不幸が想定外で体を壊したのだろう。


「間に合って良かったわ。善良な方が失われるのは教会にとっても、世の中にとっても、何より子供たちにとっても損失ですもの」


「そう言っていただけると己の恥ずかしい人生にも意味があったものだと思えますわ。残りの人生もこの身を子供たちのために費やしたいと考えております」


「貴女が望む罰はそれで十分でしょうね。でも今後はどうか、罰ではなく慈悲だと思ってください。貴女を敬愛してやまない子供たちのためにも」


「……慈悲深き御言葉は身に余ります。実際私は罪深き身でございますれば……」


 真っ直ぐに私を見詰めてくる瞳は静かな深淵を湛えている。

 ヴェローニカの身に何が起こったのかは、おおよその想像もついた。

 伊達にドアマットヒロインものを読んではいない。


「罪深き身とおっしゃるのならば、尚更。貴女の希望よりも、私たちの希望を聞かねばならないでしょう?」


 私はこちらの世界へ来てから数え切れぬほど浮かべた慈母の微笑を浮かべる。

 濫用しすぎかな? と思うも、実際これが本当に効果的なのだ。

 信心深いヴェローニカにも効果は絶大だったようで、涙を一滴滴らせて深く頷いた。

 次の瞬間には表情を凜としたものへ切り替える。

 仕事もできそうだ。

 ヴォルデマールが魅了に絡め取られてしまってから、一人で奮闘してきたのかもしれない。

 他のシスターは足を引っ張る人か、事なかれ主義の人しかいなかったように思う。


「……昨晩のうちに領主様は手配くださったようで、罪人たちの罰が速やかに決定いたしました」


 今までは様子見だったのかしら? と思うほど手配が迅速だ。

 クレメンティーネが目の前で倒れたからだろうか。

 それとも目覚めたクレメンティーネがエックハルトの尻を叩いたのだろうか。

 果てはイグナーツの暗躍?

 どれも考えられるが、休養はきちんととってほしい。

 そして病み上がりのヴェローニカへの負担も考えないと駄目でしょうに。


「まずはエッダですが、既に宮廷魔導師様方が回収されたとのこと。見目麗しい方々にエッダが満面の笑みを浮かべていたところ、一番美しい方が彼女に耳打ちした途端……絶叫をあげたのだとか」


 予定よりも回収が早すぎる。

 イェレミアスが頑張ったのだろうか?

 私が絡めばここまで足を運ぶ気もした。


「イェレミアス……リーフェンシュタール殿がいらしたのかしら?」


「はい。わざわざ私の元へ足を運んでいただき、自らがお作りになったという精神が安定するというペンダント型の魔道具をくださいました」


 早速身につけているようで、ストイックなタートルネックの襟元を寛げて、中からペンダントを取りだしてみせる。

 深いブルーが美しい十字架型のペンダント。

 こっそりと鑑定してみればカヤナイトと出た。

 イェレミアスのお手製とも鑑定される。

 随分と彼女を心配しているらしい。

 カヤナイトは心の呪縛を解き放ち、疲れを癒やす石ともいわれている。

 今の彼女には確かに相応しい宝石のようだ。

 

「エッダに関して何か言っていた?」


「この教会や街に生涯関わることはないから安心してほしいと。あとは最愛様のお心に沿いますよう真摯に手配いたしますとも」


 イェレミアスの魔導師としての腕前は凄まじい。

 エッダという実験材料を得て、魅了そのものへの研究も進むだろう。

 そうなれば当然対策も万全へと近づけるに違いない。

 何せ王都では元寵姫が散々やらかしている。

 対外的にも魅了研究&対策は熱心にしているというアピールは必要だ。


「……エッダの場合は、魅了対策もそうだけど、人としての教育も必要な気がするわ」


「私どもでは力不足で申し訳ないことです……」


「魅了スキルって突然発動したのかしらね?」


「はい。そのように伺っております」


 あー生まれつきじゃないなら、転生して記憶が戻ったパターンかもしれない。

 参考までにイェレミアスへ手紙でも送っておこうかしら。


「魅了を封じられて少しでも弁えるという態度がとれるのであれば、教育のしがいがあるかと思いますが……」


 本当の意味で慈悲深いだろうヴェローニカがここまでいうのだ。

 もともとが腐っているのかもしれない。

 何をしても無駄という人は残念ながら存在する。


「慈悲を永遠に与えられるのは神様だけ……いや神様も嫌がりそうですね? まぁ一時期とはいえ関わった人間としては、反省できないなら残りの長い人生を贖いにと思います」


「私も最愛様の意見に賛同いたします。続いてメヒティルトですが……隔離養老院へ送られたとのことでございます」


「隔離養老院?」


「はい。破門された五十歳以上の方が入る施設でございます」


「メヒティルトが一番望まない職場ね……」


 ショタ大好きな彼女には厳しい職場だろう。

しかしそんな施設ができるほど破門される人が多いとは。

 破門されたら生きていくのが難しくなるから、専門の施設があるのかもしれないが。


「見送りましたが、酷く暴れておりました。代わりに私が行け! と怒鳴られもしましたね。最終的には四肢を拘束されて、猿ぐつわまでされて、運ばれていきました」


 子牛が売られていく有名な音楽が頭に流れる。

 売られた子牛より待遇がいいとは思うけれど、唯一の娯楽が封じられるのは想像以上に辛そうだ。


「また、給与の一部はこちらの教会に寄附される手はずになっているとか……」


「それは素敵な手配ね」


 持っていてもあまり使い道はなさそうなので、有効活用しても問題ないはずだ。

 今までは献金を横流しして、自分の気に入った男の子にお菓子などを与えていたようだが、それもできなくなる。

 そもそも周囲に男の子がいないように管理するだろう。

 せいぜい養老院の人たちにショタの良さでも語ればいい。


「ピーアは……同じく破門された人専用の……娼館へ……」


「あら。娼館もあるのね」


「はい。欲求がそちらへ向く方も多く、また執拗になったり、嗜虐的になったりする傾向にあるので、常に人が足りないらしく」


「ああ……」


 残念ながらちやほやはされない。

 ただ使われるだけだ。

 長く使えるようにある程度の管理はされるだろうが……消耗品扱いだろう。

 ピーアの地獄が一番わかりやすいものかもしれない。


「他にもメヒティルトに構われて、傲った性格になってしまった少年はヴォルデマールさんを中心に、時間をかけて躾けをし直す手はずを取っております」


「被害者だからね。厳しくはしないでほしいけど、結構危険な様子だったから厳しくなるのかしら?」


「新しい院長には一度引退されたシスターが着任される予定です。躾には定評のある御仁と伺っておりますので、見て見ぬ振りを続けたシスターたちの再教育とともに頑張っていただこうと、領主様が」


「もしかしてお知り合いなのかしら?」


「そうおっしゃっておいででした。お年を考えると、信じられないくらいに御健勝なのだとか」


 いきいきシルバー人材ね。

 あちらでもみかけました、元気な御老人。

 馬が合えば勉強になる点も多くて、楽しくお付き合いできるけど、距離感があわないと辛い印象が強い。

 経験談。

 新しい院長はさすがにできた御仁だとは思うけれど。


「力仕事のできる男手などの手配もしてくださるそうです。最愛様のおかげで、教会も孤児院も生まれ変われますわ」


「孤児院の方は働ける場所が増えたからね。そちらも上手に使ってくれたら嬉しいわ」


「ええ。誠に有り難い選択肢が増えましたこと、深く感謝申し上げます。そちらにも時々様子を見に窺おうと考えております」


「そうね。やっぱり大人の目線は必要だと思うから」


 心身ともに健常となったヴェローニカは、己の罪を少しでも贖うために、この先も孤児たちを温かくも厳しく見守るのだろう。

 私の介入で幸薄い人が幸せになれそうで嬉しかった。


 女性向けレストラン情報サイトで検索したレストランに行くか迷っていたら、高級レストラン情報サイトからお勧めメールがきて、上記レストランと同じレストランでした。

 しかも値引きがされていて高級レストランサイトの方が安価だったという。

 期間限定でしたけどね。


 次回は、氷ダンジョンに入る前に……。前編(仮)の予定です。


 お読みいただいてありがとうございました。

 引き続きよろしくお願いいたします。

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