魅了娘と駄目な大人たちに、相応しいざまぁを。4
京極氏の新作歌舞伎が気になります。
友人が歌舞伎ガチ勢なのでチケット取れるか聞いてみたいです。
以前牡丹灯籠が公演中止になってから歌舞伎も行けていないんですよね……。
演目次第で見たいなぁと思う次第なのです。
がちがちと歯を鳴らすエッダを引き続き睥睨する。
「魅了スキルは忌避されるスキルの一つ。何故そうなのかわかるか?」
「わかるわけな! ぎゃああ!」
ごんと激しく頭が床に打ちつけられる。
見れば子蜘蛛と子蛇が全身に纏わりつきエッダの全身を制御していた。
「特別な存在には敬意を払うものじゃ。敬語が使えぬのなら、最低限丁寧な言葉使いにせよ」
「わかりません、が無難かしらね。さ、言い直して」
彩絲と雪華の言葉に温度がない。
子供とはいえ許されない領域に達してしまったようだ。
「ふ、ふざけない! ふぎぃ!」
おぉ、新しい。
子蜘蛛が糸を使って変顔をさせている。
頬肉を思い切り引っ張った。
痛みはそこまでなさそうだが、難とも間抜け顔になっている。
大人たちは素知らぬ風情を装っていたが、子供たちは容赦がない。
「えっだのかお、へん!」
「うん、おかしい。いつもいじょうにおかしいよ」
「ねー。かわいくないのに、かわいいとかいってるもんねー」
や、そこそこ可愛いだろう。
魅了にかからない私でも、可愛いか可愛くないかの二択を迫られれば可愛いと答える。
「だいたいいつもおこってるし」
「わらってるときも、にやぁってきもちわるくわらうから、かわいくないのよ」
幼子たちの容赦のなさに、大人もくすくすと笑った。
一部の人間に褒め称えられるだけでは物足りないのだろう。
だから何時も不満げな顔をしていた、と。
「わたしは、可愛いわ!」
「もっとかわいいこ、いっぱいいるよ?」
「だよねー。わたしたちのきょうかいはかわいいこがおおいって、えーと? しんじゃさんたちがいってた!」
「かっこういいおとこのこもおおいんだぞ!」
貴族のご落胤が多いからねぇ。
追放されなかった子の顔も整っている。
この中では一番可愛いのは……それでもエッダではない。
好みもあるけどね。
「魅了スキルで思い込ませているだけの勘違い女なのよ、貴女は」
「ほれ、その顔の何処が可愛いのじゃ?」
またしても変顔にされたエッダの前に姿見が出される。
「う、う……誰だって頬を引っ張られれば、可愛くないし!」
「じゃあ、糸を解除してやろう。どうじゃ?」
本当に可愛い子は怒ろうが泣こうが愛らしく見えて困るのだが、エッダはそこまで美形ではない。
憎々しげに姿見を凝視する顔は不細工に映る。
「うん。可愛いわ!」
しかしエッダはぶれない。
自分は可愛いという思い込みが酷いのだ。
「……顔の作りが調っているだけで、特別にはなりえませんわ」
「そうだな。王族や高位貴族には整った顔立ちの方が多いが、特別と思っておられないようだ。むしろ当たり前、と」
「え?」
あー、確かに。
特別よりも当たり前、美しくない方がおかしい。
美しくて当然と思われている。
難儀よね。
華やかに見えても、裏側はいろいろあるのが高貴な人たちの日常だから。
「貴様が高貴な方たちと肩を並べる機会は永遠にないが、あったとしても浮くじゃろ。特別が当たり前の方々の中にあっては」
「え? え?」
理解できないらしい。
他の子供たちは何となく、こんなことを言っているらしい、程度には理解できているのに。
「主よ。例の物を」
「あら駄目よ。これは……そうね、院長の最後の仕事にしてもらいましょうか」
私は魅了の封印具を取り出した。
ノワールを通して使い方は宮廷魔導師の館に送ってある。
齎される魅了を調節できるという規格外の封印具だ。
ちなみに封印具の検証は、御方様の手による物なのでよく考えてから挑戦するように告げてある。
さすがの宮廷魔導師たちも解体してまで検証はしないだろう。
さくっと死ぬと理解しているからだ。
夫は不正使用をしないために徹底的な細工を施している。
その秘密を暴こうとするならば、数多の細工が無謀者たちに牙を剥くだろう。
「院長。これを彼女の手首に」
私はおずおずと近寄ってきた院長にブレスレットを手渡す。
繊細な銀細工が美しいブレスレットの何処に、高性能な封印機能が備わっているのか気になる。
気になるがそれ以上を考えない方がいいのだ。
「……エッダ。憐れな娘。そなたに神の御慈悲があらんことを」
院長は静かにそう言って、糸で身動きが取れないエッダの手首にブレスレットを装着した。
きん! と金属が触れ合うような音がする。
恐らく封印具がその力を発揮した証なのだろう。
「ひぃ!」
エッダが糸の力を撥ね除けて大きくのけぞった。
火事場の馬鹿力。
それだけ悍ましかったのかもしれない。
一瞬だが巨大な蛇が浮かんだのだ。
本物を見たわけではないが、たぶんウロボロス。
未来永劫スキルを自在に封じ続けるという意味合いがあるのだ、と推察してみる。
その通りですよ、さすがですね。
夫の言葉があった。
間違っていなかったらしい。
さて院長の慈悲は彼女に届くだろうか。
神の慈悲は残念ながらないと思うので、せめて届いてほしいと思う。
院長が不憫なので。
「あら! 素敵。やっぱり私は特別なのだわ。ね、院長?」
エッダの顔が笑顔になる。
悪役がよくやる、にたぁ、という粘着質な笑いだ。
「……愚かだな、エッダ。私も人のことは言えないが」
院長は予測していたのだろう。
静かな諦観を浮かべて、エッダを否定する。
「愚かなのは、院長でしょう! ほら、私の言うことを聞きなさい。こいつらを全員破門にするのよ!」
「院長として最後の仕事をしてもよろしいでしょうか、御領主様」
「うむ。構わぬよ」
「では、失礼して……シスター ピーア、シスター メヒティルト、エッダを破門とす。また私は院長の地位を返上し、一従者として教会に尽くします」
「嘘よ!」
「酷すぎますわ!」
「え……なんで私が破門されるの? 破門されるのは、私じゃなくて! 院長! 私の言うことをききなさいよ」
ブレスレットがきらきらと輝く。
スキル魅了発動中! といったところか。
「ま、まぶしい! きれいだけど、まぶしすぎるよ……院長、ほら! 早く!」
「今まで話を聞いていて理解できていないのですか? 貴女の魅了はそのブレスレットによって封じられたのですよ。ですから私が貴女の発言に賛同することはありませんし、盲目的に従うこともありません」
院長は丁寧に説明をしている。
エッダは呆然とし手からブレスレットを引き千切ろうとした。
当然、取れるはずもない。
「ブルーノ! カール! クルト! このブレスレットを引き千切ってちょうだい!」
「いやだねー」
「お前の言うことなんて二度ときかねぇからな!」
「本当に馬鹿だよな、お前。最愛様が手配した物だぞ? 俺らがどうこうできる代物じゃ、ねぇんだよ。そもそも不敬だろうが」
名前を呼ばれた三人は三者三様に拒絶する。
エッダはまたしても呆然としたあとで、もう一度院長を睨みつけた。
「外しなさいよ、ゴットリープ!」
「……その名前も返上しましょう。領主様、新しい名前をいただけますでしょうか?」
そんな名前だったらしい。
しかし院長を名前呼び捨てとか、大人に対する敬意は微塵もないんだね。
「ふむ。一からやり直すのなら、それもよかろう。では、今後ヴォルデマールと名乗るがよい」
「よろしいのでしょうか?」
「今のお前になら許されるであろう」
「では今後はヴォルデマールと名乗り、神の僕として、信者に尽くしましょう」
院長……ヴォルデマールが深々と頭を下げる。
ヴォルデマールは過去教会に尽くした聖人の名前なのだ、と雪華がそっと念話で教えてくれた。
「では、エッダは地下牢で引き取り人が来るまで懺悔を。ピーアとメヒティルトは破門の手続きが終わるまで同じく地下牢で懺悔を。ヴォルデマールは新たな院長が来るまで代理を務めて、教会の建て直しに計るように」
「嘘でしょう?」
「いやよ! 離しなさいっ!」
「この、ブレスレットさえ外れれば! 皆私の奴隷になるのにっ!」
罪を犯し、反省の色がない者たちが地下牢へと引き摺られていく。
彼女たちに虐げられた人々が憎悪の眼差しではなく、憐憫の目を向けているのが印象的だった。
セールの日に合わせてコミックスを注文したのですが、セールに間に合わず撃沈。
次のセールにも間に合わず消沈。
そして先日コミックスが揃わないので一旦キャンセルしますとの連絡が……つ、次のセールまで待てってことなの?
そういうとき、ありますよね。
とほほ……。
次回は、教会と孤児院に関する後日談。前編(仮)の予定です。
お読みいただいてありがとうございました。
引き続きよろしくお願いいたします。




