御館様を召喚してみた。3
荷物の手渡しだけじゃ味けないと、自分でお団子を焼けるお店で待ち合わせをすることになりました。
何処でこんな美味しい情報を見つけてくるのだろう……義妹さんの情報網に毎回脱帽しています。
書類を読み終えたエックハルトは深々と溜め息を吐いた。
「私が目を通していた書類とかけ離れた内容でございます……」
「やっと自覚できたようで何よりですわ」
クレメンティーネがつんと拗ねたように顔を横へ向ける。
美女の拗ね顔は萌えた。
うんうんと頷けば私の目線に気がついたのかクレメンティーネは恥ずかしそうに会釈してみせる。
「すまなかった、ティーネ。よもやここまで内容を違えているとは思わなかった」
「幼馴染みを重用するなとは申しません。ですが提出された書類は誰から齎されたものであったも精査なさってくださいまし」
「面目ない……」
がばっとクレメンティーネに頭を下げるエックハルト。
うん、潔い。
私がいる前で頭を下げる意味もわかっているのだろう。
羞恥に染まった頬は何処か真摯にも見える。
「マーヤは側近から外す。あとはしばらく事務作業のみをさせるように。重要案件は回さずに瑣末な案件を大量にこなさせよ。もし外出をするようであれば、監視。魅了娘との接触は回避させるよう、頼んだぞ」
「「はっ!」」
控えていた護衛の一人が深々と頭を下げて部屋を出て行く。
即座にエックハルトの指示を伝えに行くのだろう。
手配が迅速で好感が持てた。
「院長も呼び出しましょう」
「魅了娘も一緒の方がよろしゅうございますね。あとは魅了にかかっている者は全て」
結構な人数になりそうだ。
今いる部屋に入りきれるだろうか。
今座っているテーブルを片付ければいけるかな?
クレメンティーネが断罪される者の召喚手配をしている間に、ふと手土産を思い出した。
「もっと早く出すべきでしたが、手土産を用意しているのです。おわたししても?」
「手前どもも用意してございます!」
エックハルトが身を乗り出してきた。
言うタイミングを見計らっていたのかな?
もしかしたらこちらからの申し出を待っていたのかもしれない。
この辺りは礼節的にどうなのだろう。
エックハルトの焦りようから察するに、目下の者から切り出すのが正しそうだ。
「それでは、そちらの手土産から拝見しようかのぅ」
彩絲がそう言うので、やはり向こうから切り出すべき件だったのだ。
申し訳ないことをした。
「では失礼いたしまして……装飾品などは服ダンジョンで十分かと思いまして、珍しい食材を用意いたしました」
部屋の片隅に置かれた衝立が、控えていたメイドの手によってさっとどかされる。
「果物は日持ちがしないので御注意くださいませ」
上半身が裸の従僕? が大きな箱を五つ運んでくる。
そして素早く箱を開けてくれた。
三つが果物、二つが他の食材だった。
ぱっと見スパイスが多そうだ。
「あ、良かったね、主様。ローズブルールツが入っているよ?」
あとでお願いしようと思っていた異世界代わり種の果物だ。
青い薔薇の形をしていて美しく、味は柑橘系。
やはりお勧めらしく大きな箱の半分はこれが詰まっていた。
「うむ。スタールツ(スターフルーツ)は知っているだろうが、ムーンルツは初めて見るだろう? これも美味なのじゃ」
彩絲が手に取ったのは三日月の形をしたフルーツ。
切ると星の形に見えるスターフルーツはあちらにあったが、ムーンフルーツはなかった。
しかも色が真紅。
ブラッドムーンフルーツと名付けられていそうだ。
二人やエックハルトの説明を待たずにいそいそと鑑定する。
ドラゴンルツ(ドラゴンフルーツ)は外側の色が三色あった。
それぞれブルードラゴンルツ、レッドドラゴンルツ、イエロードラゴンルツという名前。 順番に爽やかさ、甘さ、食感がお勧めらしい。
私にはレッドドラゴンルツがお勧めと表示された。
ドドリアン(ドリアン)の悪臭はないと聞きほっとする。
味はクリーミーで濃厚。
見た目はあちらと一緒。
これに関してはダントツで異世界産だろう。
私は匂いに負けてドリアンが食べられなかった口なのだ。
モヤチェリン(チェリモヤ)はパイナップル、マンゴスチンと並んで世界三大美果と、向こうの世界では評価されていた果物。
しかし食べる機会に恵まれたなかった果物でもあった。
食べたいねー、と言っていたが日本での流通は少なかったようだ。
夫に頼めばすぐに手配してくれた気もするけどね。
あちらの物より大きいので食べ応えがありそうで楽しみが過ぎる。
他にも何種類かの果物が入っていたが、どれも美味しそうだった。
調味料も気になるものが多い。
暑い地方といえば、香辛料が有名な印象だ。
その印象は割と正しかったようで、香辛料専用袋に収められた物はカレーに使われるスパイスが大半を占めていた。
これだけあればスパイスで作るカレーもできそうだ。
辛さ控えめのものを子供たちにも食べさせてあげたい。
あ、でもスパイスカレーならこっちにもあるのかな?
私の楽しげな様子に彩絲と雪華は満足そうで、エックハルトとクレメンティーネは安堵しているようだ。
「では、妾たちからはこれじゃ」
彩絲が決めてあった土産物を取り出す。
高級野菜を一ダース、普通野菜を五ダース、そして大量のふよんどだ。
ふよんどは見本として大きめの一箱に入っていた。
他にも目録がついている。
既に館へ手配されているとのこと。
イグナーツを通しているから問題なかったそうだ。
肉魚セットはインパクトが薄いから、目録に記載して現物は館に送ってあるらしい。
またこれらは土産物ではなく、販売する旨も目録に記載してあると、事前に教えてもらっていた。
土産物が販売権とか味けないよねぇ? と思ったのは私だけだったらしい。
「まぁ! こんなにたくさん手配いただけたのですか?」
クレメンティーネが手を叩いて喜ぶ。
妖艶美女の無邪気な笑顔はすばらしい御褒美です!
「け、継続まで検討いただけるとは……今後も誠実に対応していきますので、どうかよろしくお願いいたします!」
エックハルトも大興奮だ。
それだけふよんどへの期待が大きいのだろう。
砂漠地帯で新鮮な野菜がすぐに手に入るとか、確かに夢のようだよね。
いただいた果物への、喜び以上のものを返せたようでほっとする。
ほっとしたら続きの料理が気になってきた。
箱から移動して席へと戻る。
荷物は香辛料を全てノワールが、果物を彩絲と雪華が収納してくれた。
「魚料理はハーブでマリネしたスキラップ(帆立)のローストでございます。ナココツ(
ココナッツ)とマーハグリ(蛤)のソースで絡めてお召し上がりくださいませ」
焼き野菜もそっと添えられている。
蛤とココナッツのソースって? と思ったけれど、口にしてみれば驚くほど好みだった。
料理は自分でもするけど、プロに及ばないなあと思う一つに、食材の組み合わせがある。
自分が自由に組み合わせたら絶対に美味しくならない自信があるほどだ。
基本レシピを忠実に作る性分と自負している。
時々冒険をしたくなるけど、夫にも食べさせる点を考えれば無謀な真似はできない。
美味しい料理が難しくても、まずい料理は出したくないでしょう?
「レッドペッパー(赤胡椒)が白いクリームの中に置かれているのがとても美しいですわ」
「うむ。しかもクリームと一緒に食すと味が随分と変化するので、飽きずに楽しめるな」
ノワールの料理は万人受けするのだ。
喜ばれれば我がことのように嬉しい。
続いて出されたのは氷菓子。
氷ダンジョンのものかなぁ、とわくわくと期待していれば、さすノワ。
「ハイビスカスのグラニテでございます。お好みでビーハニーをかけてお召し上がりくださいませ」
色は美しいワインレッド。
さっぱりとした酸味は口直しに向いている味だろう。
夫妻は仲良くビーハニーをかけている。
あまりに美味しそうだったので、自分も少しだけかけてみた。
とても美味しい。
別の機会にも食べたい好ましさだった。
「……して、魅了娘の処罰はどういったものを考えておるのだ? 具体的に」
口の端に残ったクリームソースをぺろりとなめ上げる所作すら様になっている彩絲が、ひたと夫妻を見詰めて問う。
夫妻の喉が仲良くごくりと音を立てた。
「魅了娘は……専門の機関に委ねたいと考えております」
「ほぅ?」
「正直に申しまして魅了の力が強すぎて、それ以上の対処を思いつかないのです」
「ええ、口惜しいことに。イグナーツからの報告では高性能の魅了封じのアイテムが三個も同時に、機能不全に陥ったのだとか……」
「あ! 主の持っている魅了封印の道具を使えば普通に断罪できるんじゃあ?」
夫妻の目線がこちらに向く、驚きと畏怖。
凄いのは私じゃなくて夫なんだけどね。
「イグナーツからも提案されていたから、封印具は提供しましょう。封印されてしまえばただの我が儘な少女でしょうから……」
「……完全に封じるのではなく、研究できる程度に抑える道具はないのかのぅ」
彩絲がそんな声を上げた。
「魅了に惑わされる者は多いのじゃ。少しでも研究されて対抗策を見いだせねばと……考えてしまってのぅ」
なるほど彩絲の意見も一理ある。
私は目を閉じるとこっそりと夫に聞いてみた。
一面の~に憧れがあるのですが、最近一面のネモフィラ畑に心を奪われています。
定期的に素敵な画像が流れてくるから、どうしても気になってしまうんですよね。
一人で行ってもいいのですが、やはり誰かと美しさを共有したいのです。
……と言っている間に開花時期が終わってしまう気がします。
とほほ。
次回は、御館様を召喚。4(仮)の予定です。
お読みいただいてありがとうございました。
引き続きよろしくお願いいたします。




