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御館様を召喚してみた。1

 歯が痛い……と思って歯医者に行ったら、歯茎が腫れていた模様。

 消毒して腫れ止めをもらいました。

 歯磨きの時に歯茎も念入りに磨いているんですけどね、自分的には。

 主人に極細歯ブラシに替えるといいよーとアドバイスもらいました。

 



 高級宿に孤児たちを連泊させるのは問題があるかな? と思ったけれど、そこは高級宿。

 最愛様のお心のままに……と咎められなかった。

 本来咎めたら不敬に当たるらしい。

 泊まっている孤児たちも今の状況が例外中の例外なのだと、物心がつかない小さい子ですら理解しているらしく、借りてきた猫のように静かにしていた。


「この部屋は隔離されているからのぅ。多少暴れたとて問題はないぞ?」


「だよね。物が壊されたら弁償とかになるけどさ」


「子供たちがいる部屋は、所謂従者部屋ですので、そこまで気になさらなくてもよろしいかと」


「なるほど。だから部屋に物が少ないんだね」


 広い部屋は衝立で区切られているけれど、一区画だけが独立した部屋になっている。

 子供たちが宿泊しているそこは、従者専用の部屋らしい。

 調度品はなく、テーブルや椅子といった必要最低限の家具だけが置かれている。

 高級宿ではこういった部屋も普通にあるのだとか。


「御館様には連絡を入れました。夕食を共にとのことですが大丈夫でしょうか?」


 繋ぎをつけてくれたイグナーツも部屋にいる。

 何時の間に手配をしてくれたのだろう。


「ええ、大丈夫よ。料理はどうするの? ノワールが? それとも宿の方が?」


「……私が作りましょう。まだ時間もございますし」


「部屋の準備は宿の方にさせようかのぅ。ちと行ってくるわ」


 宿との調整はランディーニがしてくれるらしい。

 ノワールは手早くお茶の準備をすると、ランディーニと一緒に部屋を出て行った。


「夕食には御館様だけでなく、正妻様も来られるようです」


「ふむ。珍しいのぅ」


「最愛様への配慮らしいわよ。ほら、御方が男性の同席を嫌がるじゃない?」


「正妻様がしっかり御館様の手綱を握っておられますので、御安心くださいませ」


「主人の忠告はないので、心配はしていないわ」


 そこまで愚かな男ではありませんし。

 正妻は聡明ですから。


 あ、夫の助言だ。

 正妻がいなくても同席が許せるレベルには、真っ当な人らしいよ、御館様。


「あ、そうだ。手土産とか用意しないとだよね」


「最愛がそこまでする必要はないぞ?」


「そうだね。勘違いする人たちではないみたいだけど、最愛からは不要かなぁ」


「でも孤児たちのことや教会の話もするなら……」


「それでも必要ないのぅ。むしろ御館がわこそが手を煩わせたと大量の貢ぎ物を用意せねばなるまい」


「それでも最愛様のお心が騒ぐようであれば、この街にない品を販売していただければ幸いでございます」


 孤児院のてこ入れはさて置き、放逐された孤児たちの面倒までは本来みないだろう。

 それを頼むのであれば、やはりこちらも用意するべきではないか? としつこく考えていたが、イグナーツの提案に頷く。

 最愛の体裁も繕うべきなのだろう。

 さすがに夫が侮られるのは耐えられない。


「うーん。何がいいかなぁ?」


 王都で仕入れた物はいろいろあった。

 彩絲たちはそれ以上の物を持っているだろう。

 夫のストックから出せば更に希少な物があるはずだ。


「そこまで流通が活発でもないからのぅ。主が王都で購入した物で十分じゃろ」


「あ! 王都ダンジョンでのドロップ品もいいんじゃない?」


「……王都ダンジョンのドロップ品は自分も気になるのですが……」


 おお。

 その程度でいいらしい。


「暑い場所だと野菜が希少な印象が……」


「そうでございます! どんな野菜でも高額買い取りを!」


 イグナーツの鼻息が荒い。

 今後の取り引きも考えているのだろう。


「じゃあ、高級野菜セット。何ダースがいい?」


「ああ、王都ダンジョンの野菜はノワールがいれば何時でも山ほどもらえるもんねぇ……高級野菜は普通に保存できる程度。御館と正妻が口にできる程度。一ダースで十分でしょ」


「野菜に限らず、王都ダンジョンの物なら何でも喜ばれるぞ? 肉でも魚でも装備でも」


「ええ、そうですね。服ダンジョンは冒険者が喜ぶ防御力が高い物がドロップしませんから」


「なるほどねぇ」


 夫のストックは勿論、彩絲たちの持ち物を放出しないで済むのは有り難い。

 私自身が王都初級ダンジョンには足を踏み入れなかったけど、ドロップアイテムはたくさんあるからね。

 気を利かせて奴隷たちが拾ってくれたし、王都出発前に彩絲、雪華、ノワール、ランディーニが潜って駆逐したとか言っていたし。

 初級じゃ物足りなくて、中級、上級に足を伸ばしかけたけど時間がなかったから諦めたなんて話もしていたような……。

 ん?

 結局皆のストック放出になるのかしら?


「イグナーツとの取り引きはあと回しにして……消え物がいいと思うから、食べ物関係にしようよ」


「肉、魚、野菜セットでどうじゃ?」


 王都では高級品でもないけれど、こちらでは十分な高級品になるようだし、それでいいかな?

 こっくりと頷けば、彩絲が肉セットを雪華が魚セットを出してくれた。


「野菜セットはノワールに出してもらおう。たくさんもらっていたからね」


「うむ。個人消費できない量をもらっていたからのぅ」


 さすノワ。


「もしよろしければ、ですが。ふよんども加えていただけませんでしょうか?」


「あーなるほど。主が畑を作りたいとか言い出すかもと思って、たくさん採取しておいたから大丈夫だよ」


「有り難いです。ふよんどがあればこの街でも畑が作れますから」


 そこまで凄いんだね、ふよんど。

 腐葉土が優秀なのは世界が異なれど変わらぬようだ。


 手土産の用意もできたことだし……とノワールが用意したお茶に手を伸ばす。

 彩絲と雪華はイグナーツとの取り引き話で盛り上がっている。

 目を閉じて聞くともなしに聞いていると、やり取りがだんだん激しくなってきた。

 三人三様に譲れぬものがあるのだろう。

 喧嘩上等! のレベルにまで発展しつつあったので、止めようかしら? と悩んでいればノワールとランディー二が戻ってきた。


「さすがのタイミングだよ、二人とも! 御館へのお土産を考えてね。王都ダンジョンのドロップアイテムを販売することになったんだけど」


「……野菜セットを出せばよろしいでしょうか? 高級野菜を一ダース、普通野菜を五ダースが無難でございますね」


「他のドロップアイテムも出すなら、出し過ぎではないのかぇ?」


「野菜は格別です。この街の野菜不足は広く知れていますから……主様のお考えですと、ふよんども合わせて用意されるのでは?」


「そうそう。イグナーツからの提案があったんだ。さすがだよね」


 褒めたつもりが、イグナーツに向けられたのは冷ややかな眼差し。

 あれ?

 私たちへ要求しすぎ、と思ったのかしら。

 その点は気にしていないんだけど。


「落ち着きなよ、ノワール。イグナーツとは他のやり取りできっちりとやり返しているから」


 雪華が胸を張っている。

 彩絲もうむと重々しく頷いた。

 先ほどのバトルは、イグナーツの私への態度を咎める意味もあったようだ。

 本当、私は気にしないんだけどね。

 夫も……気にしていないみたいだよ?


「ならば、いいですが。継続取り引きなど努々考えませぬよう……」


「これからの会談にかかっているぞ、と付け加えておこうかのぅ」


 ノワールが鋭い眼差しをランディーニに向けても、慣れっこの彼女は何処吹く風と気にしていない。


「……主様、お召し替えをいたしましょう」


「えぇ、これから?」


「会談の準備は調ったが、あちらはまだ到着しておらぬ。時間調整もあるしのぅ。せっかくだからダンジョンでドロップした品で固めてみるのも面白かろう?」


 目の据わったノワールはいくつかのトルソーを並べた。

 彩絲と雪華もそれに続く。

 全部で十二体のトルソーが並んだ。

 あえていうまでもないのだが、どれもフル装備だった。

 


 買ってきたニョッキを今更ながらどう食べようかと思って、半額の誘惑に負けて購入したサワークリームを採用しました。

 結果、トマト缶とサワークリームを使った一品となりましたとさ。

 サワークリームの酸味が好みでなかなか良い仕上がりだったと思います。


 次回は、御館様を召喚。2(仮)の予定です。


 お読み頂いてありがとうございました。

 引き続き宜しくお願いいたします。 

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