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物件閲覧中。前編

 友人とスパイス屋さんに行く予定を立てています。

 カレー、ホットワイン、チャイのスパイスを購入する予定。

 楽しみです。

 


「「ふわ!」」


 家の中に入った途端、二人が仲良く感嘆の声を上げた。

 スラム街の家とは思えないほど綺麗に保管がされている点に、まずは驚かされる。


「家の管理はスラム街の者が率先して行っているようです。備えつけの家具などもそのままですね。最初は当紹介の護衛をつけていたのですが、最近はスラムの住人に管理を任せています」


「ほぅ。商人とは思えぬ対応じゃのぅ」


「御心配はごもっともでございます。ですがこの物件はスラム街の者たちに愛されている場所ですので……その方が管理が容易いのですよ。経費もかかりませんし」


 経費がかからないというのは、重要だ。

 だがただより怖いものもない。


「スラム街の者たちとて、今の生活から脱却したいと考える者は少なくありません。そんな者たちにとって、この家はある種の聖域……二度と失わせたくないという心意気を私は買っております」


 なるほど、それならただには該当しないだろう。

 目に見えないものに値段をつけるのは難しいが、イグナーツは今回彼らの行動とその心に高値をつけたのだ。

 私としては好ましい判断だった。


 レオンとディアナは興奮冷めやらぬ様子で、店舗部分に当たる一階部分をくまなく探索している。

 

「凄い! 在庫収納ペースがこんなにあるなんて驚きです!」


「魔法で拡張されているのかな? どうやって維持しているのだろう?」


 純粋に喜ぶディアナに、検証するレオン。

 なかなかにバランスが取れた組み合わせに思える。


「在庫収納スペースは地下にもありますよ? レオンが見ているスペースはスラム街出の冒険者が魔法で拡張したようです。維持には魔石が使われています。住民総出で持ち寄った魔石を使っていると聞いています」


 あ、きちんと情報交換ができているんだ。

 スラム街の住民たちも、イグナーツによる管理を納得しているらしい。

 

「地下や上も確認していいですか?」


「ええ、存分にどうぞ」


 レオンは上の階へ、ディアナは地下へ行くらしい。

 私たちは一階に残った。

 そして周囲を見回す。

 これは買いだな、と思う重要ポイントとして、すぐに商売ができるように、必要な機材が整っているのかが上げられた。

 かかる費用も馬鹿にならない。

 初期費用は少なければ少ないほどいいはずだ。


 何しろこの家ならば、クリーニングの必要もない。

 毎日誰かの手で丁寧に清掃されている気配があった。


「スラム街物件ですからね……基本は賃貸なのですが、こちらの物件は買い上げも可能です」


「スラム街の住民を雇う条件で?」


「そうですね。でも孤児院の子たちが住むとなれば、雇わなくてもいいそうです。孤児院からスラム街に来た子や、スラム街から孤児院に入った子も少なくないですからね」


 スラム街から孤児院に入れるのなら、本来の孤児院として機能している面もあるのだろうか。

 魅了娘に支配されている今の孤児院では難しそうだが。


「……もしこの物件にするなら、購入じゃろ」


「その方が私どもも有り難いですね」


「この物件で決まりじゃないの?」


「他の二軒はこちらに比べると、住環境が良好なのですよ。長く住むならそちらを勧めたいのです」


 なるほど。

 あくまでもこの物件は一時住まい用の扱いなのだ。

 物件を購入した孤児たちには、貯蓄に励んでもらう。

 最終的にはもっと良い環境へ移り住むのを見越した上で。

 そしてこの物件は孤児たちのように、後ろ盾がない純粋なスラムの住民によって運営させたい……そんな考えだろうか。


「ただ初期費用に関しては圧倒的にこの物件が安価なので……彼らの判断に任せようと思っています」


 二人の様子を見ればこの物件で決定な気もする。

 だが比較対照はあるにこしたことはない。

 この物件で決定したあとも、もっと快適な環境を求めて頑張るという目標を定めるのもありだろう。


「……たくさん収納できそうですね! がんがんダンジョンに潜らないと!」


 ディアナが鼻息も荒く地下から戻ってきた。

 地下は倉庫的な扱いらしい。


「……住居環境は……スラム街と考えれば文句のつけようがないですね。今の教会と同程度です。ただ小さい子たちには、少し過ごしにくいかもしれません」


「え! そうなの?」


「うん。さすがに教会よりは小さいし、遊ぶ場所もないんだ」


 教会には広くはないが庭もある。

 共用のスペースもあるだろう。


「ちょっと見てくる!」


「俺も一緒に行くわ」


 一度階下に降りてきたレオンは、再びディアナと一緒に上へ登っていく。


「教会と孤児院って併設されているの?」


「この街ではそうですね。孤児院の子たちは教会の庭で遊ぶのを許されています。教会内への出入りも基本的には自由ですね」


「教会への出入りが自由とは! 珍しいのぅ」


「ええ、ですから歴代の院長はしっかり孤児たちを指導していたのですが……」


 今代の院長はそれができていないと。

 魅了娘に絆される前から問題がある人物だったようだ。


「昔より厳しさが増しただけで、恵まれない環境になっています。他の孤児たちも途方に暮れているでしょうね」


「早急に始末せんとなぁ」


 彩絲が天井を仰ぐ。

 逃げ出せた子たちは残った子たちよりも、恵まれているのかもしれない。

 少なくとも私たちが今、手を差し伸べているのだから。


「家具に手を加えたり、片付けたりすれば大丈夫じゃないかな?」


「そうねぇ……この物件の住居部分は、あくまでも大人たちが寝るためだけに用意された場所って雰囲気みたいだし」


「その程度ですむのは、随分と有り難い状況なのですよ?」


「それは! 勿論承知しています。本来であれば俺たちにこの物件は手の届くものではなかったと」


「ええ。それを承知の上で、問題点を洗い出しているだけです」


 文句があるわけではない、と大慌てで言い訳をさせるイグナーツは、今の孤児院の院長よりよほど、聖職者に向いていそうだ。


「他の物件も見てから決めるのじゃ。ここは十分見て回れたかぇ?」


「はい! 気になる点は全て見終えました」


「はい。次の物件へ案内していただけますか?」


 もっと見るべき点はありそうだが、二人のチェックポイントはクリアしたらしい。

 収納は十分チェックしたみたいだけど、トイレと水回りが個人的には気になるよね。


「では、移動いたしましょう。最愛様も大丈夫でしょうか?」


「ええ、問題ないわよ。行きましょうか」


「では……次の物件は、貴方方が気にしている住居部分に力が入っている物件ですよ」


 二人の瞳がきらきらと輝く。

 小さい子たち目線でなく、自分たち目線でも重要ポイントなのだろう。


 外に出た私たちは大蛇と大蜘蛛に乗って再び移動した。

 スラム街の人々は何故か私たちを見て拝んでいる。

 スリとか当たり屋の心配をしていた自分は、こっそりと胸の中で、ごめんなさい、と謝罪しておいた。


 街中を大蛇と大蜘蛛で移動する。

 すっかり観光名物になっているようだ。

 走り寄ってくる輩が多い。

 スラム街の住人を見習って控えてほしいところだ。

 有象無象を駆除すべく前後左右に大蛇と大蜘蛛の護衛がついた。

 レオンとディアナは勿論、イグナーツも感動している。


「……この街の人間はここまでマナーがなっていませんでしたか?」


 ノワールの声が低い。

 声の聞こえる範疇にいた何人かがその場でへたり込んでいる。


「魅了娘がしでかしているせいもありますね」


「子供たちがやらかすと、良識的な大人たちは咎めるが、そうでない者は便乗するからのぅ」


「子供たちのせいにする大人もおりますね……独断で駆除して参りましょうか?」


 隣に並んだノワールが問うてくる。

 それもありかなぁ、と思ったがやはり筋は通しておきたい。

 魅了娘だって目覚めたら逸材になる可能性もあるしね。


「いいえ。自分がしでかしたことを最低限自覚させたいので、場は設けてもらわないと」


「あぁ、魅了娘を使って我欲を貪る輩も一掃する方向ですね?」


「そうね」


 ノワールが珍しく怒っている。

 何がそこまで彼女の癇に障るのだろう。

 孤児たちが酷い目にあった点かな?

 休憩小屋で面倒を見ていたノワールは、私の知らない情報を聞き出しているのかもしれない。


「二件目はこちらですね」


 外観はスラム街の物件に比べてかなり小綺麗だ。

 アットホームな個人経営のパン屋さんといった印象を受ける。

 三階建てなので、店が一階、住居が二階三階となっているのだろう。

 二人はやはり感動して物件を見上げている。


「どうぞ」


 イグナーツが扉を開けても二人は私を見つめる。

 笑顔で頷けば二人は弾む足取りで家の中へと入っていった。


 バレンタインのチョコ狩りに行ってきます。

 近くで選べるパンケーキのアフタヌーンティーを予約しました。

 ゆっくり食べたあとで狩りにダイブしようかと。

 こっちも楽しみです。


 次回は、物件閲覧中。中編(仮)の予定です。


 お読み頂いてありがとうございました。

 引き続き宜しくお願いいたします 

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