商人に会いにいく。中編。
友人と食事&映画を見に行くことになってせっせと計画を立てました。
上映している館を見つけるのに苦心しましたよ。
まとめサイトの更新に期待してはいけませんね、わかります。
最終的には想定以上の組み合わせで取れたので満足です。
店主は目を閉じて僅かな時間思案する。
私はその間にもスイーツと飲み物を楽しんだ。
フルーツに関してはどれも美味なので、別途販売してもらう心積もりでいる。
「……ダンジョンで最愛様たちと御一緒させていただき、孤児たちのレベルはどれほど上がりましたでしょうか?」
「そうね……服ダンジョンに限ってであれば、問題なく三階まで攻略できる力は身についたと思うわ」
「それはすばらしい!」
「小さい子たちは三階にある池に祝福されたみたいだから、レアドロップを釣り上げる確率も上がるでしょうね」
「そうじゃのぅ。幼子たちが池まで辿り着く可能性は低い。だからこそ、珍しかったんじゃろ」
「現時点では、かなりのドロップアイテムを持っていますよ。そして今後も定期的に良質なドロップアイテムを得られるでしょう」
私たちの言葉に店主は絶句している。
孤児の成長ともたらされた予想外の祝福に驚いているのだろう。
「……想定以上でした。でしたら彼らは店舗付の住居を得て、独立するのが無難な選択でございましょう」
「孤児の中でも商人向きの子も、冒険者向きの子もおるからのぅ。妾もその意見に賛同じゃ」
「そうなると気になってくるのは、防犯面と教会の介入かしら?」
「ここの教会は質の悪い院長のようですので、売り上げを寄附として納めろと言いかねませんね」
「教会や悪質な冒険者だけでなく、善意で自分の意見を押しつける大人の対処も考えなければなりません」
子供だというだけで搾取対象になっているのだ。
保護すべき親がいないのなら、更に陰湿な搾取対象として見ている者は少なくない。
あちらの世界でもそういった偏見を持つ者はいた。
こちらでも当然存在するだろう。
店主も難しい顔でそうと口にした。
「教会は院長のすげ替えと魅了娘の排除でどうにかなりそうかしら? 店主さん、伝手はあって?」
「……はい。何人か良心的な院長になる人材を知っております」
「その方たちは、今何処かで教会に仕えているのかしら?」
「仕えている者もそうでない者もおります」
そうでない者が気になる。
昔は教会にいたけれど、今はそうではないのなら、何かしらの問題持ちと考えてしまうのだ。
腐敗した教会に絶望して、他業種に転身した口なら採用もありだろうが、現役の方が無難に感じてしまう。
「全員数日中にはこの街へ呼べますので、最愛様自ら選出くだされば光栄なのですが……」
構いませんよ。
夫からの声がした。
つまりはその中に縁を繋いでおくと良い人物がいるのだろう。
「わかりました。お手数をおかけしますが、呼んでいただけますか?」
「はい。即時手配いたします!」
店主が背後を振り返れば、何時の間にか男装の麗人めいた女性が立っていた。
まずは私たちへ深々とお辞儀をしてから店主の指示を受ける。
「院長と魅了娘の排除の前に、御館様へ御挨拶に行こうかしら……」
「最愛様が足を運ばれる必要はございません! 日時を指定してくだされば、宿へ向かうように手配いたします」
「いいのかしら?」
「最愛より上の存在などこの世界にはおらぬと、自覚してほしい者じゃなぁ、主よ」
私が首を傾げれば彩絲が疲れたように呟いた。
十分自覚はしているが、まだまだ薄いようだ。
ただ夫が囁いてこないので、このままで問題ないと判断している。
「魅了娘は……院長と一緒に断罪かな。封印して厳しめの更生施設に行ってもらえばいいのかしら?」
「実の両親を殺した噂もあるので……特殊スキル研究施設へ送られるのが一番の罰かと思われます」
店主が苦々しさを隠しもしない口調で話す。
乙女ゲームの世界と混同しているのなら、あり得る行動かもしれない。
早くフラグを立てるために、両親を殺した。
彼女の中では実の両親という自覚が薄いというか、主人公の両親というキャラクターとしてとらえている予感があった。
お花畑主人公にありがちな、本来存在しないはずの最悪の茨道ルートを選んでしまったのだろう。
「じゃあ、封印はしない方がいいのかしら? 一時封印とか?」
「……御方様はできたと文献が残されておりますが、その、最愛様も封印ができるのでしょうか」
おや。
希少スキルだったようだ。
アイテムボックスの中に封印石と一時封印石、どちらも入っていますから、それを使ってくださいね。
夫からの言葉を有り難く口にする。
「スキルは持っていませんが、夫から預かっているアイテムがあります。封印石と一時封印石。どちらもありますね」
「さすがは御方様! それでは恐縮ですがアイテムを御提供いただきたくお願い申し上げます。勿論! 代金は魅了娘本人に支払わせますので御安心ください」
「ふむ。御館が一端立て替えて、魅了娘に後日払わせる形式じゃな」
「はい。そうなると思います。御館様もこれを機会に襟を正していただきたいものです」
深々と溜め息をついた店主。
正妻の血縁で頻繁に愚痴を零されているような、親しい者特有の嘆きを感じる。
「では、孤児の今後についてですね。良い物件がいくつかございますので、直接足を運んで御覧ください。孤児たちも一緒に」
「孤児たちを早く安心させてあげたいわ。自分たちだけの家があると今後の励みにもなるでしょうし」
「今すぐにでも御案内できますが……如何いたしましょう?」
「少々お待ちください。ランディーニに連絡を取ってみます」
私が雪華に連絡を取るという手もあるけれど、ノワールはランディーニに連絡を取るという。
何かしらの作法があるのだろう。
「……大蛇に乗せて、代表で二人だけ来るとのことですが、よろしゅうございますか?」
「え、二人きりで? 大丈夫なの?」
「大蛇が高速移動するそうなので、問題ないでしょう」
ノワールは問題ないと豪語するけれど、問題しかない気がする。
そっと店主を伺うと、遠い目をしていた。
「ノワール殿も店の前で待機いただけますかな?」
「それは当然です。主様はこちらで引き続きおくつろぎくださいませ」
ノワールが立ち上がりすたすたと出入り口へ向かう。
店主も続いた。
「高速移動って……乗ってくる子たちは酔ったりしないかしら」
「ほほほほ。気にするは、そこなのかぇ、主よ」
「ええ。蛇たちが子供たちを落としたりはしないと思うの。高速移動なら他人の興味を引いている時間すらないでしょう?」
「確かにその通りじゃ。ほ。到着したようじゃな」
彩絲がソファに座ったまま背後を振り返る。
私も彼女の視線の先へと目を向けた。
出入り口からノワールの声がする。
高速移動に耐えきった二人を労っているらしい。
店主は思ったよりも二人のダメージが少なかったのか、褒める言葉が聞こえた。
「お疲れ様。座ったら冷たい物をいただくと良いわ」
痒いところに手が届く接客を心がけているのだろう。
テーブルの上には、二人分の飲み物が追加されている。
ダンジョン攻略を経て、休憩小屋でノワールを始めとした優秀な先輩たちにいろいろと教授されたのだろう。
二人は孤児には見えない。
むしろ礼節を弁えている。
珍しいタイプの冒険者に見えただろう。
「最愛様。雪華様から伺いました。俺たちの家を手配くださったとのこと。心から御礼申し上げます」
「最愛様! 私からも心より御礼申し上げます。店舗付の住居なんて孤児出身が求める最高の最終目的ですわ!」
レオンとディアナは飲み物に手を出さず、まだソファに座りもせず、私に礼を尽くした。
院長が屑だとして、彼らに礼儀を教えたシスターが別にいるとしか思えない。
いるのならば、是非保護して今後も同じ教会に勤めてほしいものだ。
「二人とも、座って、飲み物を飲みなさい、一息ついたら、移動ですよ」
「はい! ノワールさん!」
元気よく声を上げたレオンが腰を下ろし、一息に飲み物を飲み干す。
ディアナもそれにならった。
美味しかったのだろう。
二人は美味しい物を食べたとき特有の満足しきった笑顔を浮かべた。
これまた友人と一緒に行くミュージカルにオペラグラス必須と言われたので、購入しました。
細かい装飾品とか見応えありそうなのでつい。
そっち系に詳しい主人のアドバイスを経て辿り着いたのは、劇場公式オペラグラスと同じメーカーのもので笑ってしまいました。
公式のアウトレットセールで安価購入できたので、お得感倍増です。
次回は、商人へ会いにいく。後編(仮)の予定です。
お読み頂いてありがとうございました。
引き続き宜しくお願いいたします