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商人に会いに行く。前編

 正月休みに帰省中落とし物をしてしまった姪っ子ちゃんが大泣きするので、いろいろと調べました。

 今は落とし物や忘れ物のシステムもだいぶ変わったんですねぇ……。

 ちなみに過去一番悔しかった落とし物は、某イベント会場で購入したテレカでした。

 財布の中に入れていたんですよね……財布もお気に入りだったので後日同じ物を買い直しましたよ。

 テレカは当日限定販売のみで、オークションにも上がってこないレア物だったのでしばらくショックでした。

 


 隠しフロアも十分に堪能したので、ダンジョンを脱出する。

 子供たちは三階に戻ってから休憩小屋から出して、一階まで最短ルートで戻った。

 最短ルートでの脱出にも子供たちははぐれることもなくついてこられたのは、ダンジョンの中で経験値が上がったからだろう。

 幼い子供たちを肩車やおんぶした状態で走り抜ける、レオンたちの表情は誇らしげだった。

 ちなみに寄ってきたモンスターたちは、先頭を走る彩絲と雪華がさくっと片付けて、ドロップアイテムは子蜘蛛と子蛇たちが一つ残らず拾っていく。

 中級冒険者の往復分かな? と思うアイテムを入手したようだ。


「うーん。名刺をもらった商人のお店に行きたいのよね……」


「では妾が隠蔽をかけて、子供らを宿へ連れて行くとしようかのぅ」


「あ! じゃあ私がランディーニと隠蔽をかけた子供たちの引率をするよ!」


 すっかり子供たちが気に入ったらしい雪華が挙手をする。

 子供たちも、一番雪華に懐いているので問題ないだろう。

 自分たちの気配が希薄になり驚く子供たちを宥めつつ、ランディーニと雪華は宿屋へと人には聞こえない賑やかさで移動していった。


「では主様。籠を使いましょう」


「籠?」


「あれじゃよ」


 彩絲が指を差す方向を見れば、江戸時代に使われた駕籠に似た乗り物が幾つか並んでいた。


「街の中だけでの移動方法じゃ。中は魔法で涼しいから使う者は多いぞ」


「外側から見えず、中側からはよく見えるヴェールも人気でございます」


 説明をしながらノワールが何やら交渉している。

 本来なら駕籠を運ぶ役目を持っているのだろう男性は、大喜びでノワールの提案を受け入れていた。


 駕籠は基本一人乗りだが、二人乗りも、家族乗りも存在するようだ。

 ノワールは家族乗りの駕籠を借り、本来四人がかりで担ぐはずの駕籠人を断り、店への案内だけを頼んだ。

 代金は当然通常の分を払う。

 一人が案内を引き受け、三人は別の仕事を引き受けるらしい。


 駕籠を運ぶのは雪華の眷属。

 つまりは蛇。

 ノワールが雪華に何時の間にか連絡を取ったようだ。

 大蛇四匹が駕籠を丁寧に運ぶ。

 案内人は蛇に怯えながらも、中に乗っているのは高貴な方で、大蛇は高貴な方の持ち物だから安全だと大きな声で説明しつつ歩いて行く。

 珍しいのだろう。

 大蛇は大いに観察されていた。

 怖いもの知らずが幾人か、蛇に近寄るどころかヴェールを捲ろうとするも、案内人に怒鳴られて逃げていく。

 なかなか良い駕籠人のようだ。


「それで、お店の名前って、どう読むの?」


 気になっていた疑問点を尋ねる。

 ノワールが答えてくれた。


「発音は異国の民には難しいと言われました。つきない水、という意味を持つ店名だそうです。基本的にカードを持っている者のみとしか取り引きをしない、優良店とのことでした」


 こんなときこそ、異世界翻訳機能を意識して発動させれば? と思って試した結果。

 つきない水! と日本語で言ったら、何を言っているかわからない発音が口の中から漏れ出ました。

 ……何時もの日本語で聞こえる仕様の方が楽だね!


「露天とかも見たいけどねー」


「それは店を始める前の視察にすれば良かろう?」


「視察とかおおげさじゃない?」


「現地を見るのは基本かと」


 ノワールにまで言われてしまった。

 人目や声かけ、そしてトラブルがなければ、一般人に擬態してのんびり露天巡りもいいと思うんだけどね。

 視察となるとまた面倒が増えそうな予感しかしない。


 アイスのモロッコミントティーで喉を潤しながら、全く揺れない大蛇の駕籠移動に揺られていた時間は十分程度だっただろうか。

 案内人は人より遥かに早くて、すばらしいです! と褒めてくれたので、駕籠から降りて大蛇の頭を撫ぜておく。

 四匹がそれぞれ目を細めたり、頭を擦りつけてきたりして可愛かった。


 店は砂漠に相応しい大きなテントだ。

 入り口には豪奢な刺繍が施された布が下がっている。

 ノワールが入り口に佇む門番にカードを見せれば、布を持ち上げてくれた。


「ようこそ、おいでくださいました、時空制御師最愛の御方様」


 入り口を潜ればそこは別世界。

 高級ブティックも真っ青の豪奢な空間が広がっていた。

 外からは想像がつかない。

 異世界あるあるだろう。

 空間を拡張しているのだ。


「カードをありがとう。商談と言っていいかわからないけれど……商談をお願いしたいと思って伺いました」


「大変光栄でございます。彩絲様、ノワール殿もどうぞ、こちらへ」


 背筋が伸びた店員たちが笑顔でお辞儀をしながら、私たちを見送る。

 他のお客にはやっていないようなので、最愛特権なのかもしれない。


 体が心地良く沈むソファに座る。

 彩絲は左に、ノワールは背後に立つかと思ったら、珍しく右に座った。


「ダンジョンの中では御助力ありがとうございました。冒険者ギルドの推薦冒険者は使うものではありませんね」


「ここでは商人ギルドの方が強そうじゃが?」


「少し前から冒険者ギルドはいろいろな試みをしておりましてね。上手くいくかと思われましたが、最近はどうにも酷い。その関係で商人ギルドとしても対応が難しいのです。更に残念ながら現在上に立つ者が僻む性質でして……末端の冒険者までもが商人を侮るのですよ」


 冒険者の質がそこまで落ちているのに、彩絲の祖母が放置しているのもおかしな気がするのだが。

 そもそも一番上に立つのは冒険者ギルドマスターである彩絲の祖母のはずで、彼女が僻む性質とは思えない。

 商人が言うの上に立つ者は別人なのだろう。

 いろいろな試みとやらの関係で、冒険者ギルドは何やらおかしなことになっているらしい。

 詳しく聞きたいところだが、今優先すべきなのは別件だ。 


 食べやすく切られた南国フルーツの盛り合わせに、冷たい飲み物と温かい飲み物が置かれる。

 完全個室の商談は人の目を気にしなくていい。

 青が深い薔薇の形をしたフルーツを手に取る。

 齧りつけば、甘い果汁が口一杯に広がった。

 甘めが強く僅かに酸味を感じる柑橘系の味だ。

 美味しい。


「商談とは少々異なるかもしれぬが……この街には孤児院があるじゃろ?」


「はい。一軒だけ、ございます」


「その孤児院……最近、困った孤児がおるようなのじゃ」


「……ええ、聞き及んでおります。と、申しますか。当店に押し掛けて参りました」


 店主が真っ黒い笑顔を浮かべる。

 客の前で浮かべるのだ、よほど腹が立ったのだろう。

 完全紹介制の商会に押し掛けられたら、紹介制の意味がなくなる。


「魅了のスキル持ち……なのかしら?」


「はい。常時発動させているので、そろそろ御館様が足を運ばれると伺っております」


「あぁ、それならこちらは手を出さない方がいいのかしら?」


「御館様はどうにも上手く利用したいとお考えのようで……」


「孤児院から賄賂でも取っておるのか?」


「……美少女を引き取って、仕えさせております」


 孤児院での少女にとっては良い職場なのかもしれない。

 だがそれは、きちんと本人の了承を得たものなのだろうか。


「孤児院の院長は屑のようです。御館様は正妻様の勘気に触れない程度で、楽しんでおられる御様子……見目麗しい孤児に関しては、きちんと教育をしていると情報が上がっております」


 んー。

 院長は排除で御館様とは相談、かなぁ?


「服ダンジョンでいろいろと高価な物がドロップしたから、魅了少女に関しては能力封印の交渉を考えています」


「自分も最愛様に同意見です。あの魅了娘は己の能力を過信して驕り高ぶっておりますので」


「……もしかして、店主は魅了をかけられたのかぇ」


「かけてきました。恐らく限界の力で。魅了封じの装飾品三点が無効化されましたから、能力としては高い方でしょう。ですが、お花畑の住人を現実の住人にする手間を考えると……商売にならぬのです」


 損得で考えるのが商人よね。

 でも変な情を持たれるよりは断然いい判断だ。


「……魅了少女に追い出された孤児院の子たちと、ダンジョンで出会って保護したの」


「っ! 奴はそこまでしでかしたのですか!」


「そう。だからその子たちの独立を手助けしてあげようと思って……貴男なら何か良い考えがあるのではないかと……」


「なるほど。そういった商談でございましたか……」


 店主はしばし、思案ののち。

 真っ直ぐに私を見つめてきた。

 私は夫の勘気を恐れてすぐに目線をそらす。

 部屋の温度が一気に下がった意味を聡い店主は理解したらしい。


「最愛様が保護された孤児に対して、手助けをしたい心づもりに力が入っただけでございます。美しき最愛様を僅かな時間とはいえ凝視してしまった無礼を、最愛様と御方様に深くお詫び申し上げます」


 ソファから降りた店主は豪奢な絨毯の上で土下座をした。

 部屋の温度は一瞬で元に戻った。

 夫としても念の為の確認だったのだと思う。

 そもそも信用ができない相手なら、店へ行こうと決めた時点で邪魔されたはずなのだ。


「主人は貴男を許したようですわ。どうやって孤児たちを手助けするのか、具体的に教えてくださいますか?」


「はい。お許しいただきまして有り難う存じます。以降の振る舞いにも細心の注意を払って参る所存でございます」


 立ち上がって深々と再びお辞儀をして謝意を示した店主は、なかなか優雅な所作でソファへと座り直した。

 

 



 友人がそろそろ食事会をしたいなぁと年賀状に書いてくれたので、うきうきと検索をかけて、はたと気がつきました。

 スケジュールを聞くのが先だと! 人気のアフタヌーンティーとか予約開始と同時に申し込まないと予約が取れないんですよね……。


 次回は、商人へ会いにいく。中編(仮)の予定です。


 お読み頂いてありがとうございました。

 引き続き宜しくお願いいたします 

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