表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
171/222

服ダンジョン 隠しフロア 中編

インド映画というととにかくダンスを踊る印象しかなかったのですが、友人に勧められてとある作品を見ることに。

 映画館でもやっているのですが、あえて自宅のテレビで見る所存。

 自宅で映画を見る最大の利点は、トイレに行くとき、映像を止められることだと思います!

 


 子蛇が案内してくれたのは、様々な希少石のルースが売られているブースだった。

 店員さん? は、蛇系モンスター。

 上半身人で下半身は蛇。

 髪の毛も蛇。

 そして指も蛇なんだよね……。

 二次元の中でもあまり見ないタイプ。

 いっそ手がない方が多い気がする……話がそれたわ。


 希少石よりも店員の指を凝視してしまった。

 失礼に当たるよね? と目をそらそうとしたら、蛇たちの鎌首が振られる。

 鑑賞OKらしい。

 寛容な子たちだ。


「純粋な驚きだけで観察される方は少ないですし、最愛様は雪華様を従えていらっしゃいます。最愛様に敵対心を覚える蛇は少のうございましょう」


 綺麗な深い緑色をした蛇目をにっこりと細めた店員は、指先を差し出してくれる。

 なかなかない機会なので、小さな蛇の頭を撫でてみた。

 我先にと頭を差し出してくる様子が愛らしい。

 十匹満遍なく撫でる。

 肩に乗っている子蛇が何故か満足げに胸を張っていた。


「……さて。当店では金銭による販売はしておりません」


「一応ダンジョンだから、そうかなぁとは思っていました」


「まぁ、最愛様の特別フロアですし、御方様からの御助言もありまして……」


 店員が微苦笑を浮かべる。

 結構な無理を強いられたのかもしれない。

 どう見たって高位モンスターだろうから、シャツやブラウスたちと違い、思うところが多いのだろう。


「こちらの七点で一番高い物を選んでいただきたく……」


 ケースが差し出された。

 中には綺麗な宝石が鎮座している。


「右から、ダイヤモンド、エメラルド、ルビー、サファイア、アレキサンドライト、パライバトルマリン、タンザナイトでございます。大きさは全て一カラットになっております」


 ダイヤモンドはブリリアンカット、エメラルドは不純物が見られず透明度が高い、アレキサンドライトはグリーンからピンクに変わるタイプ、パライバトルマリンの天然物は初めて見る大きさで、タンザナイトは深く美しいブルーパープルだった。


 どれも甲乙つけがたい逸品だろう。

 どの宝石も、自分が一番高価よ! と訴えかけてくるようだ。


「うーん。パライバトルマリンかエメラルドで迷うなぁ……」


 パライバトルマリンは女神が流した涙のように美しいティアドロップ型。

 エメラルドは鉄板のカットで、たぶんルーペを使っても不純物が見受けられない……あちらであれば人工物を疑わないレベルの代物。


「ここは自分の趣味でパライバトルマリン!」


 迷って店員に告げる。

 店員は微笑を深くした。

 

「お見事でございます。パライバトルマリンは宝石の価値も高いのですが、こちらは女神の加護を受けている希少品なのです」


 女神が流した涙と思い浮かべたのは、加護を感じ取ったのかな?

 鑑定とかかけるのを忘れていたよ。

 心の何処かで邪道な気もしたしね。


「では、どうぞ。こちら七点全てをお持ちくださいませ」


「……え?」


「加工をして、最愛様自ら身につけていただけたなら光栄でございます」


 ケースごと手渡された。

 宝石たちから、私はティアラに、自分はネックレスになどと自己主張されているような気がして、静かにアイテムボックスへしまい込んだ。

 きっと夫が好きなように加工するだろう。


「素敵なものをたくさんありがとう。普段から商売をされているの?」


「ええ、時々ですが。本日ほど心躍るお取り引きは初めてでした。ありがとうございます」


 深々と礼をされた。

 どの辺に心躍るポイントがあったのかわからないが、クイズに正解するのは単純に嬉しいし、美しい宝石だって好ましい。


「こちらこそ、素敵なものをありがとうございました」


 笑顔とともに返しておく。

 

「またの機会がございましたときにも、どうぞご贔屓に」


 そんな機会があるのだろうかと内心で首を傾げながらも、返事は会釈にしておいた。


「あ、はいはい。次はこっちなのね!」


 子蜘蛛に髪の毛を引かれて向きを変える。

 よほど早く自分のお勧めする場所に連れて行きたかったらしい。

 ブースは遠くなかった。

 地図を見ていないが、隠しフロアのブロックからは出ていなそうだ。


「へい、らっしゃい! ってこれはこれは……最愛様。当店へおいでとはまさか想定しておらず……あ、こちらへ座っていただければいいと? お、テーブルの用意まで……恐縮です」


 名状しがたき者。

 海を司るかのようなディープブルーの物体から流れ出たのは、男性の声。

 夫の制止が入らない以上性別はないのかもしれない。

 名状しがたき者だし。


 しかしその形状から想像しないような庶民派で、接客態度も普通だ。

 さらには子蜘蛛が取り出した、私専用の椅子とテーブルに恐縮もしている。

 本来感じるに違いない恐怖感は微塵もなかった。

 所謂異界の神とは違い、ただ姿そのものが表現できないだけなのだろうか。


「こちらは……何屋さんなのかしら?」


「へい。型抜き屋ですな。型抜きの難易度にあわせて賞品が出るシステムとなっておりやす」


 おぉ、懐かしい。

 夫が珍しく連れて行ってくれた縁日で挑戦した経験がある。

 ちなみに一番簡単な物に三回挑戦して全敗だった。

 夫は一番難しい物を手早く仕上げて、店員が頭を抱えていたのを覚えている。

 店をはじめてから五十年で、初成功者だったらしい。

 景品がないので、現金十万円で! と言われて、いろいろな意味で驚いた。

 夫は笑いながら断って、初制覇者の栄誉だけでいいと言っていたけれど。


「え……こ、これでいいんですかい? いや、さすがにこれは……最愛様でも難しいのでは……や、お望みとあればお出ししますが……」


 椅子に座ってあちらの型抜き屋の記憶に浸っていると、子蜘蛛が店員に何やら交渉をしていた。

 

「これは当店で一番難しい型抜きです。今までで成功した方はおられませんので、その……気楽にやってやってくだせぇ」


 テーブルに型抜きセットが準備された。

 薄い板に、やわらかいピンク色をした型。

 型を抜くための長い針。

 あちらではもっと短い針というか、ピンのような物を使った記憶があるが、こちらではまた違うのだろう。


 子蜘蛛が渡してくれたお手拭きで手を拭いてから、型を見る。

 名状しがたき者、を模したと思われる型だった。

 玉葱型ではないスライムに似ている。

 曲線が多いので難しいのかもしれない。

 だが最難関なのは、模しているのが名状しがたき者だからに違いなかった。

 そうでなければ普通は、ピンク色で十センチ程度の板から、尋常ではないプレッシャーを与えられることはないはずだ。


 私は針を握り締めたまま、しばらく型をじっと見つめた。

 熟練者は見ただけで、どこから針をさしたらいいか、またそのスピードすらわかると語られた覚えがあったからだ。

 もっともその蘊蓄を垂れた男性は夫を一目見た途端、脱兎の如く逃げ出してしまったので、正確性にはかけるかもしれないが。


 しかし見つめること数分。

 プレッシャーがなくなった。

 皆無というわけではないのだが、作業に集中できるかな? 程度に軽減したのだ。


「……すげぇ……既に俺の手にも負えねぇってのに……さすがは、最強の最愛様だ……」


 最強の最愛。

 なかなかのパワーワードだが、最強は夫にこそ似合う。


 時間にして三十分ぐらい経過したのだろうか。

 私は何とか型を割らずに抜き切るのに成功した。

 滲んだ汗は子蜘蛛がハンカチで丁寧に拭ってくれる。

 ふうと息を吐き出したのとほぼ同時に、からんからんと大きな鐘の音が鳴った。

 名状しがたき店員が鐘を鳴らしたのだ。

 鐘の音は店員の体の中からした。

 突っ込んではいけないと本能がいっている。


「おめでとうございます! まさかこの型が抜かれるたぁ思いませんでした! 感謝とともに、こちらを贈呈しまさぁ!」


 抜かれた型が、もぞりと動く。

 掌サイズのピンク色をしたスライムに近い、名状しがたき者。


「え、えぇ?」


「安心してくだせぇ。守護獣と同じ扱いで大丈夫でさぁ。最愛様と最愛様が認める方々を、厄災から守りましょう」


「厄災……」


 彼? 彼女? が厄災そのものなのでは? 

 とは問えなかった。

 ぴょんと手の甲に飛び乗ったピンク色のそれは、ほんのり温かく、うっすら桃の香りがしたからだ。

 桃が好きだからではない。

 桃は神聖な食べ物と扱われて久しい。

 その香りを発するならば、それは。

 少なくとも私に対しては無害なのだ。


「本人が希望したときには、名前をつけてやってくだせぇ」


「わかったわ」


 まだ仮契約なのかもしれない。

 結構な代物だと思うので、あとで皆に相談するとしよう。


「次においでになるときまでには、また何か仕入れておきまさぁ!」


 店主の元気な声には微苦笑で応えておく。

 このレベルの者はさすがに増やしすぎは良くないと思ったのだ。

 アイテムボックスに入るのを嫌がった、ピンク色のスライムもどきは、子蜘蛛の頭上に乗った。

 子蜘蛛も嫌がっていないので問題なさそうだ。


 凄い子が参入したので皆と合流した方がいいかなぁと思ったのだが、またしても子蛇が行きたい場所を指し示すので、私は大人しく移動を開始した。




 柊麻莉彩 ひいらぎまりさ


 HP ∞ 

 MP ∞ 

 SP ∞ 


 スキル 鑑定∞ 

     偽装∞

     威圧∞ 


 奪取スキル 生活魔法 育児 統率 礼節 謀略 地図

      王宮料理 サバイバル料理 家庭料理 雷撃 慈悲 

      浄化 冷温送風 解呪 神との語らい(封印中)

      ウインドアロー ウインドカッター 


 固有スキル 弱点攻撃

       魔改造 

       簡単コピー 

   

 特殊装備品 *隠蔽中につき、他者には見えません。

 サファイアのネックレス

 サファイアの指輪

 サファイアのイヤリング


 装備品

 ベリーダンサーキュロット仕様 虹糸蜘蛛による体感温度一定刺繍付

 サークレット付ベール 虹糸蜘蛛による身体能力上昇刺繍付

 レースのブーツ 虹糸蜘蛛による防汚刺繍付


 特殊アイテム

 リゼット・バローのギルドカード

 魚屋紹介状

 衣類屋紹介状


 称号 時空制御師の最愛 

 少々実家に連絡を意図して取らなかったところ、食中毒で大変なことになっていました……。

 思う所はあっても最低限の連絡は取らないと駄目だなぁと反省した次第です。

 現在安静中の弟が、復活後に職場のギフトノルマを達成するために、自宅へ蟹セットを送ってくれる予定だそうな。

 蟹のためにも早く治るよう、祈願しておきます。


 次回は、服ダンジョン 隠しフロア 後編。(仮)の予定です。


 お読み頂いてありがとうございました。

 引き続き宜しくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ