旦那様は時空制御師 三聖女(笑)のステータス
乙女ゲームをやり込み、ラノベを読んだ挙句、夫と二人でこういう時の対応は! と日常的に考察しまくった主人公は、夫のサポートがなくても実は無双できます。
が、相変わらず全部夫のお蔭ー! サポート最高ー! とか思っています。
夫はそんな彼女を異世界から24時間監視しています。
「ええ、良いと思うのですよ!」
拳を握りしめた私に、近付いてきたフルプレートアーマーの人物が狼狽える。
『言葉は解りますので、首輪は必要ありません』
『! ですが、この首輪は王族の客人という証でもありますので、安全確保のためにもつけて頂ければと思うのであります!』
打ち合わせしていた内容外だったのか、元々そう言った口調なのか。
声が上ずったのは動揺している証拠と断じる。
『……隷属の首輪は不要と言っているのです』
『無礼な!』
『ハイレベルの鑑定スキルを持っておりますので、全て見透かせているのですよ?』
フルプレートアーマーの人物が勢いよく振り返る。
王様は、大口を開けながらも頷いた。
召喚者がチートスキルを持っているのは鉄板だ。
だからこそ、繰り返しているのだろう。
『まずは、私のステータスを見て頂きましょうか? 交渉は、それからです』
一方的な話しかしてこなかったようで、交渉という言葉に難色を示している。
まぁ、せいぜい揉めるといい。
交渉をさせて貰えるだけましだと思い知るだろうから。
『へい、か』
ローブ男が全身を震わせながら、陛下に耳打ちする。
『制御師しかも、幻の時空の最愛じゃと!』
『嘘ですっ! そんなぱっとしない小娘に与えられてよい称号では!』
『いいえ。いいえ! 落ち着かれてください、王妃様。称号はどんなレベルの偽装でも偽ることは叶いません!』
フルプレートアーマーの人物が膝を折る。
ヘルメットが取られた瞬間、目に鮮やかな金髪が散った。
驚きの女性だ。
『ご無礼つかまつりました。私、王族騎士団長エロイーズ・カナールと申します。畏れ多くも時空制御師の最愛の御方を召喚するつもりは微塵もございませんでした。伏してお詫び申し上げます』
『では、誰を召喚するつもりだったのでしょう?』
『……聖女様を召喚するつもりでございました』
『理由は?』
『……世界の浄化のためでございます』
曖昧な表現だ。
生贄として使うのかもしれない。
自分自身や大切にしている人、それ以外でも良識的な人々が相手なら問題だが。
『それならば、彼女達を使うと良いでしょう』
大した効果はなかったとはいえ、自分を苛め尽くした相手ならばどうだっていい。
むしろ推奨する。
未だ呑気に床の上で眠っている三人を指差しながら、ステータスを確認した。
武志摩美望 たけしまみむ
HP 50 成人女子一般的
MP 30 物足りない感じ
SP 100 荒淫に耐える体力です
固定スキル 魅了 鉄板です。それなりに強いです。
している最中は国内トップレベルに上昇します。
称号 聖女(淫乱)
性欲的に満たされていれば、それなりの聖女です。
有栖姫凛 ありすひめり
HP 30 お子様仕様。
MP 10 致命的。
SP 200 燃費悪いです。
固定スキル 成長補正 努力が人の10倍実ります。
一日一時間一人にだけ、他人も補正できます。
称号 聖女(愚鈍)
食欲が満たされていれば、それなりの聖女です。
雲母愛魅 きららあいみ
HP 100 女性冒険者初級レベル。
MP 100 女性冒険者初級レベル+α。
SP 100 女性冒険者初級レベル。
固定スキル
魔法創造 新しい魔法を作れる。
ただし、作る際にSPを大量消費、使う際にMPを大量消費する。
他人に譲渡はできない。
称号 聖女(性悪)
自分の希望が全て叶えられた状況であれば、使える聖女です。
案の定全員聖女の称号がついている。
()の中身が見えたら難色を示しそうだが、聖女には変わりないし、能力もこの世界の人物よりはマシなようだ。
『宜しいのですか?』
『構いません。同じ世界からきただけの、何の関わりもない人物です』
苛められていたとか言ったら処刑されるかもしれないしね。
処刑されて、転生して、元の世界へ戻られても困るしね。
生かさず殺さず長く国の奴隷にして頂きたい。
彼女らの夫達には、新しい幸せを掴んで欲しいからさー。
『時空制御師の最愛の御方には、この国にお留まり頂けるでしょうか!』
王が空気を読まずに会話に入り込んでくる。
『いえ。私がこの国に留まる事はありません。最愛の方から頂いた宝飾品を奪おうと画策する王妃の夫を信用できません』
王が王妃を睨み付ける。
驚いた事に、王妃は私を睨み付けてきた。
『反省もせず、謝罪もせず睨み付けてくるとは……本当に彼女は王妃ですか? 国母ですか?』
『……間違いなく王妃ではござりますれば、未だ国母では……』
『ならば、早急に離縁する事を推奨いたします。誰がどう見ても国を統べる王を支える王妃に相応しくありません』
王が複雑な顔をする。
侍っている側近の一部は大きく頷いていた。
どうやら王が溺愛して本来王妃に成り得ない相手を召し上げたのだろう。
乙女ゲームの二次作品にならありがちな設定だ。
『……ただの助言を聞くも聞かぬも貴方方次第! ですが、これは守って頂きます』
『はっ!』
我ながら良く出たなぁと思う、冷たい声音に王が王座から降りて立ち姿勢のままで深々と首を垂れる。
王妃も渋々つきあって、スカートの裾を摘まんだ。
他は全員平伏。
騎士達は鎧が大変らしく、膝をついた体勢だった。
『一つ、私の行動を一切妨げない。一つ、聖女達がどんな行動をしても私は無関係。責任は一切持たない。一つ、私に如何なる願い事もしない。以上3点です。これが守られるならば、私は貴方方と直接的に敵対する事はないでしょう』
『畏まりました。全て厳守すると誓います。誓書をお持ちになりますか?』
誓書?
と思った瞬間、目の前にフレームが現われる。
契約書みたいなものです。
約束事をする時は、必ず取って置いた方が良いですよ。
アイテムボックスに、専用フォルダがありますので、そこに入れておくことをオススメします。
……夫はもしかしてモニタリングでもしているのかもしれない。
タイミングがおかしい。
内容も見ていなければ答えられないはずだ。
『ええ、お願いします』
『少しばかりお時間をいただきたく存じます。お待ちいただけますでしょうか。菓子類や飲み物などお出ししたく思います』
『かまいません。毒味係をつけていただけますね?』
『……当然でございます』
『時空制御師の最愛の御方には、どうぞこちらへ……』
背筋のぴんと伸びた老年の女性が静かに先を示してくれる。
メイド長さんあたりだろうか。
私は踵を返すと、背後など伺いもせずに女性に従って王間から抜け出せた。
今後も三聖女の扱いは酷いです。
聖女様方目線の回も考えています。
もう少し後になるのかな?
次回は、旦那様は時空制御師 乳母との密談 になるかと思います。
お読みいただきありがとうございました。
次回もお読みいただければ嬉しいです。




