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旦那様は本拠点を決めてほしいようです。準備を整えます。

 ホットフラッシュ用の薬。

 効き目がイマヒトツなので、違う薬を+αで処方してもらいました。

 眠気と喉の渇きがきついです。

 それ以上に薬とホットフラッシュが拮抗していてつらいです。

 暑くなる前に早く寒くならないかなぁと思っています。

 とっほり。

 


 夢の中で夫に愛された朝は、体全体が重くて怠い。


 つい夢中になってしまってすみません……。


 聞こえてきた夫の声を幻聴と片付けて、ベルを鳴らす。

 鳴らさなくても起床の気配を察知してきてくれるノワールだけど、ベルを鳴らすシチュエーションに憧れがあるので、時々こうやってノワールを呼ぶのだ。


「肉体疲労を回復させるハーブとなっております」


 鮮やかなルビー色はハイビスカスかルイボスティーかな?

 香るのはミントとジンジャー。

 甘みは蜂蜜だろう。

 素敵に飲みやすい。


 いろいろと見透かされている感じにも目を瞑りつつ、彩絲と雪華を呼んだ。


「お早う、アリッサ」


「目覚めは爽快かぇ、アリッサ」


 美少女と美女が微笑を浮かべて歩いてくる。

 朝から眼福だ。

 ノワールに自分たちの飲み物を頼んだ二人は、ベッドの上で半身を起こす私の近くに座る。


「ノワールの淹れてくれたハーブティーのおかげで大分目が覚めたわ」


「それは上々」


「それで、ね。王城と神殿絡みの一件も落ち着いたことだし……本拠点候補地を巡ろうかと思っているの」


「御方様の提案?」


「ええ、そうよ」


「そろそろかなぁって、思ってたよ」


 雪華がにっこりと笑う。

 秘めやかな毒が仕込まれている黒い微笑だ。


「そうじゃのぅ。神殿も、王城も。アリッサの威を借りすぎじゃ」


「うん。御方様が心配されるのも無理はないと思うんだ」


「あら。二人には見透かされていたのね?」


「守護獣だからね! それじゃあ、私は王城に決定事項として伝えに行ってくるよ」


「では、妾は神殿じゃな」


 私が足を運ぶ必要はないと、細めた眼差しが訴えかけてくる。

 この二人も過保護なのだ。

 苦笑する私の額と頬へ、それぞれ親愛のキスを残した二人が颯爽と部屋を出て行く。


「屋敷は留守の者が過不足なく守るので、ご心配なきよう」


「皆、のびのびとやってくれているからね。任せようと思います」


「移動はモリオンとホークアイで問題ございません。彼らは空も駆けますから」


 王都では目立っちゃうからなかなか使ってあげられなかった。

 目的地への移動は基本が馬車になるだろう。

 久しぶりに全力で走る彼らも満足するに違いない。


「食料や日用品などの準備は常に整えてございます。ただ服に関しては守護獣のお二方に相談しないといけません」


 二人の拘りは凄いからねぇ。

 必要最低限の服だけ持って、あとは現地調達でもいいと思うんだけど。

 あーでも、下着なんかは王都製がいいのかしら?


「馬車で長時間移動する場合、こちらはどんな暇潰しをするの?」


「高位貴族は休憩が多いですから、おしゃべりを楽しむようです。冒険者などは武器や日用品の手入れ、読書、賭けカードゲームあたり。酔わないのであれば刺繍や編み物などもよろしいかと」


 モリオンたちに乗っていれば酔いは考えなくていい。

 刺繍か……向こうに負けない綺麗な刺繍もたくさんあるようだし、挑戦するのも面白そうだ。

 一年掛けて刺繍の通信講座を修了させたけれど、それっきりだったしね。

 ワンポイント刺繍ぐらいならできるけど、ワンピースの裾や襟への鮮やかな刺繍は無理っぽい。


「刺繍絵画とか、無謀かしら?」


「刺繍初心者でも時間をかければ作れましょう。本拠地のお部屋に飾るのもよろしいかもしれません」


 嬉しい提案だ。

 良い目標にもなる。

 花瓶に生けられた白百合の刺繍とか、好みかも。

 寝室なら親しい人しか入らないから、上手じゃなくても許される気がするしね。


「じゃあ、私は旅に出る準備として刺繍用品を購入すればいいかしら?」


「よろしいかと存じます。護衛にはフェリシアを刺繍用品の目利きにはネイをお連れくださいませ」


「わかりました。皆、朝ご飯は終えているの?」


「はい。先にいただいております」


「じゃあ、お昼は三人で食べようかな……」


「朝食はよろしいので?」


「うーん。何だか胸が一杯だから、このハーブティーで十分」


「……御方様には諫言をせねばならないようでございますね」


 ノワールの眼差しが鋭さを増す。

 閨関係の制限を求めるのだろうか。

 恥ずかしいが自分からは言い出しにくいので、ノワールを止めるつもりはなかった。

 夫からの無言の責めを察知したが、今回もスルーしておく。

 何事にも節度は必要だと思うわけです。


 二人がいないので、ノワールに服を選んでもらう。

 自分だとあまりにもたくさんあるから選ぶのに時間がかかるからね。


 ノワールが選んでくれたのはハイウエストのジャンパースカート。

 ウエスト部分の四つボタンがポイントで、後ろで結ぶタイプのデザインだ。

 英国風といえばわかりやすいだろうか?

 裾はフリルになっている。

 色はブルーグレー。


 ブラウスはふわりと胸元でリボンを結ぶ長袖。

色はピュアホワイト。

 髪の毛は下ろして、一部をスカートと同布のリボンで結ばれた。


 アクセサリーはイヤリングのみ。

 スカートとリボンに合わせたら、珍しいゾイサイトのイヤリングになった。

 長さの違うチェーンに三粒の雫が垂れ下がっている。

 首を傾げれば微かにしゃらりと音がした。


 バッグは丸形ポシェットタイプ。

 ピュワホワイトの総レース。

 それこそ、ハンカチ、ポケットティッシュ、口紅と小銭入れが入れば限界の小さなもの。

 荷物はマジックバッグを背負ったネイがいるから、本当におしゃれ用のバッグだ。

 ちなみに私が持つ丸形ポシェットの十分の一しかない、ネイのリュック型マジックバッグの容量は大型冷蔵庫並みらしい。

 重さで計算されるので、糸など売るほど買っても限界には達しないだろう。


「守護獣のお二方が戻りましたら、御主人様の旅装支度をするように申し伝えます」


「よろしく……ほどほどにと、ね?」


「確かに承りました」


 しっかりと全体を見てもらってから部屋を出る。

 フェリシアとネイを連れた私は、手芸店を訪れるべく馬車に乗った。

 と、扉を閉める直前にランディーニが中へ飛び込んでくる。

 彼女も一緒に行ってくれるようだ。


 王都一の品揃えと謳われている手芸店の入り口は小さかった。

 個人経営の小綺麗な店、という印象だ。

 しかし中は空間を拡張しているのだろう。

 入り口からは想像もできない広さだった。

 案内人がいないと絶対に迷子になる。


「御主人様のお求めは、初心者用の刺繍セットで、よろしいでしょうか?」


「ええ、それでお願い」


「全くの初心者でしたら、ステッチの練習セットを、お勧めします」


「向こうではワンポイント刺繍しかできなかったから……ステッチの練習から始めた方が良さそうね」


「では、こちらです」


 フェリシアの肩に乗っているネイが案内をしてくれるようだ。

 奴隷に売られる前に何度も来たらしい。

 久しぶりの訪れに心なしか体が弾んで見える。

 ネイは三姉妹の中でも特にインドア派らしい。

 読書に続いて刺繍も趣味なのだとか。


「趣味と言えるのは、現在の待遇が良いからです。以前は小銭稼ぎとしか、考えられませんでしたから」


 ネイの小さな手で紡がれるワンポイント刺繍のハンカチは、良い値段で貴族令嬢に売れたのだとか。

 今後は他の姉妹のためでなく、自分のために使ってほしい小銭だ。

 もっとも彼女のこと。

 二人の姉や同僚へのプレゼントに使う予感しかしなかった。


「初めて訪れました。手芸店」


「そうだと思った。フェリシアの目、まん丸だもん」


「そうかな? 恥ずかしい。こういった女性らしい世界とは遠い生活をしていたからなぁ……」


「フェリシアも刺繍、やってみる? 動物の刺繍とか、上手に刺しそうな気がするわ」


「同感」


 ネイの意見に賛同すればフェリシアは照れながら、私と同じステッチの練習セットを購入する。


「あとは、段階を踏んで練習できるように、初心者用、中級者用、上級者用も購入しておきますね」


「一度に買わなくてもいい気もするけれど?」


「最終目的が決まっているなら、買っておいた方がいいのです」


「なるほどねぇ」


 達成感を得るとやる気が出る性分なので、ネイの意見には頷くしかなかった。

 商売はさて置き、教室でも開くのですか? という量の刺繍に関する品物をあれこれと購入したけれど。

 ネイのマジックバッグにはまだまだ空きがあったようだ。

  

 誕生日ランチをいそいそと予約してあるのですが、どうにも天気が悪い模様。

 せっかく新しいワンピースを購入したので、豪雨とかならないといいんですけどね。


 旦那様は本拠点を決めてほしいようです。クエストチェック。(仮)の予定です。


 お読み頂いてありがとうございました。

 引き続き宜しくお願いいたします。

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