旦那様は断罪を希望しています。最愛たちの断罪 6
最近キシリトール入りのガムをよく噛むんですが……驚くほどお腹がゆるくなりますね!
最初は何故こんなにトイレに駆け込むのか悩みましたよ。
原因がわかってからは控えめにして良いお付き合いをしているんですけどね。
何度目かになる質問を、ローザリンデはこほんと咳払いをしてから繰り返した。
「貴殿に罪の自覚はあるか?」
「ない! 俺様が何をしても罪になるわけがない!」
「今目が見えぬのは、時空制御師最愛様への不敬を働いたからだが?」
「そ、それは……俺だって最愛だぞ! 同格だろうが!」
制御師に序列がある話は一般的ではないのかしら。
ヒルデブレヒトが知らないだけという可能性も高いが。
『同格ではありませんわ。制御師には序列がありますの。光制御師最愛は、時空制御師最愛様より格下ですのよ』
「光制御師!」
お嬢様口調の光制御師登場。
その声は怒りに満ちている。
『様をつけなさい愚か者。貴様は本当に最後まで顔だけの男でしたわ。貴様を選んだせいで私は制御師の称号を剥奪されましたのよ……さらに、しばらく光制御師は存在を許されなくなりましたわ』
「……は?」
『私の矜持を穢した貴様を永久に許しませんわ!』
「ぐぎゅう!」
何をされたのか、不自由な格好のままヒルデブレヒトが悶え狂う。
額に滲んだ脂汗が滴らんばかりだ。
「……ありゃ、去勢されたかな?」
「……奴にとって一番厳しい罰でしょう」
エリスの囁きに、ユルゲンが答える。
二人が言うのなら間違いなさそうだ。
そういえばネリが当主のナニを食いちぎりかけたとか、言ってなかったっけ?
親子揃って去勢か……。
ん?
ナニがないだけじゃ、去勢にならないのかしら?
「ろ、ぉざ、りんで。はやく、おれをいやせ! おれの、おれの、あれが、たまも!」
おぉ、ヒルデブレヒトはナニも玉も失ったらしい。
制御師の仕業なら、復活も難しそうだ。
しかし、光制御師は謝罪がないんだねぇ。
だから、称号剥奪で次も空席なのですよ。
夫が深々と溜め息を吐く。
光制御師もなかなかに仕出かしているようだ。
「光制御師による罰であれば。たとえ癒やせたとしても、癒やしませんわ……はぁ罪の自覚がないのが、一番罪深いですわねぇ……」
夫とよく似た溜め息を、ローザリンデも深々と吐いた。
「自覚なき者には、慈悲もないということで! よろしいのでは?」
疲れているローザリンデにヴァレンティーンが応える。
「そうしましょうか……では。数え切れぬ罪の中でも、一番重い物から幾つか述べよう。一番は時空制御師最愛様への不敬。続いて数え切れぬ相手への性的虐待、暴行、殺人。最愛の称号と公爵家の名を笠に着ての、貴族として恥を知らぬ振る舞い。どれ一つを取っても極刑すべき罪ばかり……」
「ろぉ、ざ!」
「……私のことは以降女王陛下と呼ぶように」
「く! じょ、おう、へいかっ!」
「謝罪以外は受け入れぬ! フュルヒテゴット様! 神殿が求める贖罪は如何なものでございましょう」
ヒルデブレヒトは呼び方を改めただけで、謝罪はない。
もし癒やしを与えたら謝罪をするだろうか?
しないでしょうねぇ。
絶対癒してはいけませんよ?
夫から駄目出しをされてしまった。
この気絶できない悶絶時間も罰なんだろうし。
わかっているんだけど、あまりに話が進まないよね。
「この罪人の被害者は数えきれませんしのぅ……神殿で未だ癒えぬ身と心を抱えておる者もおりますのじゃ。さて……どんな贖罪が相応しいのか」
フュルヒテゴットも迷う罪深さ。
簡単に死刑にはできないのだろう。
そうなると、苦役になるのかな。
ゲルトルーテと同じ実験体でいいような気がする。
性病薬の実験とか?
色狂いなら相手にも被害が及んでいるだろうしね。
本人は称号と家のおかげで完治したとしても、相手はそうもいかなかったと思うわけですよ。
『性病薬の実験体でどうでしょう?』
私の思考を読んだ夫が、発言をする
時空制御師の提案が通らないはずはない。
「おぉ! まさしく罪人に相応しい贖罪ですな。さすがは御方様! 人に言えぬ薬を求めて神殿を訪れる者もまた、多くおりますからのぅ」
「ではかの寵妃と同じ系列の贖罪ですわね? 宮廷魔導師館での永劫預かり」
「それだけは、いやだっ!」
「嫌だと言われましてものぅ。罪人には贖っていただかないとならんのですわい。何しろこの罪人……罪を自覚できない絶望的な罪人じゃ」
「ええ、その分もせめて贖っていただかなくては」
「つみ! みとめる! みとめるから! えいごうあずかり、だけは!」
うーん。
これは罪を認めたって言えるのかな。
言えないよね?
「……フュルヒテゴット様。神殿で求めるものは他にございますか?」
「そうじゃのぅ。爵位に関してはそちらで対応してもらうとして……やはり寄附かのぅ」
「ええ、物ではなく、お金であれば何時でもいいように使えますわ。個人資産は全て神殿への寄附にいたしましょう」
「ふざ! ふざけるなぁ!」
「ふざけるなと言いたいのはこちらですわ。何処までも何時までも……愚か極まりない!
こちらといたしましては、爵位の剥奪。謝罪を希望する者への、真摯な謝罪。そして……報復も認めましょう」
報復ができるほどに回復していない者も多くいるだろうけれど。
報復が叶って前に進める者もいるのではないだろうか。
「プリンツェンツィング公爵家は爵位剥奪で資産は全て没収いたします。また公爵家に連なる者で犯罪に手を染めた者たちにも、同じ贖いを求めます」
怒りと悲しみの絶叫が幾つも上がる。
恐らく一番多く参加しているのが公爵家に連なる者たちだ。
諦めの色を載せている者には多少の慈悲が与えられるかもしれない。
たが大半は、納得がいかない! と不満をぶつけてくる。
「資産没収とは、罰が酷すぎるではありませんのっ!」
これまた元公爵夫人のヒステリックな叫び声。
名誉よりもお金なんだね、この人は。
「爵位の剥奪と資産没収は最低限の贖いですの。貴女、今まで公爵家夫人として、何を学んでいらしたのかしら?」
「私に学ぶことなどっ!」
「お前は黙りなさい! 女王陛下、妻が大変申し訳ございません。私が甘やかしすぎた結果にございます」
当主が深く頭を下げる。
公爵家の関係者が絶句しているので、珍しい態度のようだ。
ローザリンデも瞬きの回数が多かったので驚いているらしいし。
「当主の個人資産は全て神殿に寄附いたします。残りの人生をそちらで祈りを捧げて過ごしますこと、大神官様にはお許しいただけますでしょうか?」
頭を上げないままで、当主が言葉を続けた。
公爵家当主の個人資産は、膨大なものだと想定できる。
自分一人だけ逃げようとしているのか。
「ふむ。貴殿だけ、それを望むと申すのかのぅ」
「はい。自分が口を出せば、甘やかす結果になりましょう。己の意思で、申し出るのもまた、贖いではないのかと……」
男性の象徴を失って、今までの人生を顧みた結果の発言かもしれませんよ?
去勢されて穏やかになるケースも少なくないと聞く。
夫の言葉には説得力があった。
当主の言葉に、何人かが一歩を踏み出し、頭を深々と下げたり、カーテシーをしたりしている。
逃げではなく、最後に貴族の矜持を示した……そう感じられる品のある謝罪だった。
「あなたっ! それでも公爵家の当主ですのっ!」
「もう公爵位は剥奪された。今はただの犯罪者だ」
「ひどいっ! 犯罪者の夫なんて、私! 耐えきれませんわ。離縁してくださいませっ!」
息子は母親の血を強く受け継いだのかもしれない。
最後の一線で踏み止まった父親と、踏み越えてしまった母親と息子。
「……フュルヒテゴット様。この場で離縁を認めていただいても、よろしゅうございましょうか?」
「無論じゃ。神殿での生活を望んだ者は、速やかに手配を整えて、神殿へと参るがよい。祈りの場を設けておこうぞ」
「大神官様の御慈悲に感謝いたします」
その言葉が合図だったように、公爵家関係者が二つに分かれた。
反省できた人間とそうでない人間。
できなかった方が圧倒的に多いが、できた人間がいる分だけマシなのだろう。
「ち、ちくしょう! さいごに、時空制御師最愛と! やらせろ!」
久しぶりにそこまでストレートに言われました。
呆気にとられていると、夫の怒りが炸裂する。
「ひぎやぁ!」
うん、グロい。
ヒルデブレヒトの四肢が霧散した。
ドーム状の結界の中で行われたらしく、ヒルデブレヒトは己の血を全身に浴びている。
「あ! あ? は? は!」
自分の身に何が起きたのか理解したくないのかもしれない。
痛みよりも衝撃が強いのかな。
まだ、目も見えていない状態だし。
「ひるでぶれひとぉ!」
狂ったような公爵元夫人の声。
その、声を聞いてヒルデブレヒトも狂った。
「あ、あ、あ、あひゃひゃひゃひゃ! ……ひゃ?」
と思った次の瞬間には、瞳に正気が宿っている。
夫が狂気に逃げるなんて許すはずもないのに。
しばらくは狂気と正気をいったりきたりするのだろう。
多くの人生を狂わせたヒルデブレヒトに、もはや安息はないのだ。
クラウドファンディングを見ていると、欲しかったアイテムがたくさんあります。
ただやっぱり高いんですよね。
申し込みをする前に、一端席を離れて検討するようにしています。
基本リターンがないと申し込まない方針です。
次回は、旦那様は断罪を希望しています。断罪も終わったことですし……。(仮)の予定です。
お読み頂いてありがとうございました。
引き続き宜しくお願いいたします。




