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旦那様は断罪を希望しています。最愛たちの断罪。2

 喉風邪→鼻風邪? 花粉症?→花粉症!の流れで疲弊していました。

 それぞれが数日で、現在進行形の花粉症です。

 今は喉がかさつく感じですね。

 何月まで続くのかなぁ、今年は花粉が飛びまくっているよね……と、絶賛体感中。

 


 四人で軽食を楽しみながら待っていると、フュルヒテゴットがマテーウスを連れて部屋に入ってくる。

 更にしばらく経ってから、ローザリンデとヴァレンティーンが現れた。

 このメンバーなら隠すつもりがないと思ったのか、二人は疲れ切っているようだ。


「まずは、お着替えをなさいましょうか」


 いそいそと座ろうとした二人をクサーヴァー他、従者とメイド数人が囲い込んで連れて行ってしまった。

 戴冠式用の衣装では満足に御茶も飲めないらしい。

 さすがに汚されるのは怖いものね。

 

「大変ですねぇ。フュルヒテゴット様は大丈夫ですか?」


「年を取ってから新しいスキルをいただいてのぅ。正装している間はほとんど疲れぬのじゃよ。この本来なら重たい帽子も、ほれこの通り!」


 神殿関係者がよくかぶっている、精緻な刺繍と細やかな宝石が鏤められている帽子が飛んでしまわないか心配になる激しさで、フュルヒテゴットが首を振ってみせる。

 テレビで見たヘッドバンギングを想像してほしい。

 何ともシュールなのだ。

 年寄りの冷や水……この場面に相応しい慣用句が浮かんだが、当然沈黙を守った。


「フュルヒテゴット様! お馬鹿なことはおやめください! 神殿の権威が! フュルヒテゴット様の印象が!」


「今更じゃよ、マテーウス」


「生温いお顔で御覧になっていないで、止めてください、エリス様!」


「……と、まぁ、これぐらいに疲れぬのじゃ」


「すばらしいスキルですね。日々仕事に研鑽された賜物でしょう」


 夫を見習って完璧な微笑を浮かべておく。

 フュルヒテゴットが満足げなのでよしとしよう。


「……久しぶりの本格的な腹の探り合いは本当に疲れます……」


「リンデ漏れてます。漏れすぎです」


「この顔ぶれならば問題もないでしょう。そうですよね、アリッサ様」


「そうね。女王たるもの苦労は多いのだから、気の置けない仲間とともにあるときぐらいは、素でいいと思いますよ」


 私もあえて屈託のない微笑を心がけながら、ローザリンデではなくヴァレンティーンに向けて言葉をかける。


「……最愛様がおっしゃるのであれば……私も、失礼しても?」


「勿論」


「どんな嫌味よりも、親族の良かったねぇ、ティーン! という、にやけた笑いが恥ずかしかったです!」


 力説するヴァレンティーンの頬が赤い。

 幼い頃から彼を見てきた者たちにとっては微笑ましいのだろう。

 初恋が叶って良かったね、と。


「贅沢な悩みだな、ティーン」


「わかってるわ! あ、そういえばアス。気をつけとけよ。中立派と過激派が揺れてたぞ」


「はははは。好きなだけ揺れればいいよ。俺は王城派じゃなくて、ローザリンデ女王派なだけだから」


 パワーバランスが崩れるのかな?

 イェレミアスの魔法は凄まじいようなので、切実なのかもしれない。


「エリス様もです。ユルゲンに注視する者は少なかったですが、エリス様に関しても探りを多く入れられました」


「我のことは気にせんでいいぞ? 今まで通り、己の好きにする。一族の方はさて……しっかりと言い聞かせておく必要がありそうだが」


 エリスが不敵に笑えば、ぞくりと背筋に怖気というよりは緊張が走った。

 背筋を正す感じかな。

 一族の中に困った者がいるらしい。


「狼族の暴走は恐ろしいのでよろしくお願いいたしますね」


 ヴァレンティーンが貴族とのやり取りで得た情報を流してくれる最中、私の隣に座ったローザリンデは幸せそうにミルクティーを飲んでいた。

 薔薇の形をした角砂糖を三個も入れているところを見るに、神経をすり減らすやり取りだったのだろう。

 長く貴族社会を渡ってきたローザリンデだが、最前線から退いていた時間は短くない。

 何時も以上に疲れてしまったようだ。


「はぁ、一息ついたら最愛たちの断罪ですね。アリッサ様も参加なさいますの?」


「陰で隠れて……と言われていたんですが、やはり特等席で見たいかなぁと。同じ最愛の称号を持つ方たちの断罪ですから。戒めにと」


 夫だけでなく彩絲と雪華にも止められたけれど。

 近くで見ておきたかったので、ごり押ししてしまった。

 そこまで言うのならと三人とも渋々認めてくれたけど、過保護が過ぎる手配は受け入れざるを得なかった。


「御方様の許可は下りましたのでしょうか」


「何とか。あまりに身の程を知らないようであれば、主人が直接罰を与えると言っておりました」


「御方様の罰!」


 そこで目をきらきらさせるのはどうかと思うのです、フュルヒテゴット様!


「まぁ、フュルヒテゴット殿が興奮するのもわかるが、我のような無骨者には少々きついのぅ、ユルゲンよ」


「は。どれほど努力をしても届かぬ高みを見せつけられると、胸の痛みを感じてしまいます……恐れ多いことでございますが」


「俺は面白いですけどね、御方様のお怒り!」


「お前は少し、落ち着こうな」


 イェレミアスの発言に、ヴァレンティーンが肩を叩いた。

 仲良しで何よりだ。


「フュルヒテゴット様は断罪に参加されますか?」


「水の最愛には物申したいのぅ」


「他の者にも是非お願いいたします。神殿からの声もあった方がよろしいかと」


「それもそうじゃな。最初から最後まで参加させていただくとしよう」


 そうなるとマテーウスも参加かな。

 王城側としては私を入れて八人か。

 断罪される側は何人ぐらいいるのかしら。

 家族や親族も参加するなら結構な大所帯になりそうだ。


「……そろそろ大丈夫かな、リンデ」


「……はい。大丈夫ですわ」


 さくさくのスコーンを口にしていたローザリンデは、ミルクティーで流し込んで、素知らぬ顔でヴァレンティーンに答える。

 思わず笑みが零れたのはヴァレンティーンだけではない。

 女王が愛すべき存在であり、愛を捧げるに相応しい存在なのは国に取ってもいいことだろう。


「では、移動しようか。先頭はエリス様、殿はユルゲンでお願いしたいのですが」


「承ろう」


「了解した」


 私の隣には引き続きフュルヒテゴットがいる。

 帽子の傾きを直しているのが微笑ましい。

 つられた私もヴェールを下げた。

 ほとんどの時間結界内で過ごすとはいえ、戴冠式に相応しい装いをとノワールたちが頑張ったが、儀式向けの比較的シンプルな装いは意外と楽だった。

 ノワールたちの苦労の賜物なのだろう。

 ただ断罪の場には向かないかな? と思案したのだが、儀式用の装いであれば問題なしですぞ! とフュルヒテゴットが太鼓判を押してくれたので、そのままで向かうと決めた。


「清楚で美しい装いに、屑どもはいろいろな意味で騒ぎましょうが、どうかお心を痛めぬよう……」


 先を歩いていたヴァレンティーンがくるっと振り向いて注意をしてくれる。

 

「ええ、承知しておりますよ。お心遣いありがとうございます」


 ヴェールの下での微笑は見えないだろう。

 だが言葉に籠もった温みで私の感情は正確に伝わるはずだ。


 王城内神殿まで距離はなかった。

 エリスが勢いよく扉を開け放つ。

 中にいた者たちが、揃ってこちらを向いた。


 断罪される最愛三人は手首を拘束されて、跪かされている。

 既に暴れたあとなのだろう。

 三人にそれぞれ屈強な騎士と、ローブで顔を隠した魔法使いらしき人物が監視をしていた。


 祭壇の前にローザリンデとヴァレンティーン。

 ローザリンデの斜め後ろに私、ヴァレンティーンの斜め後ろにフュルヒテゴット。

 エリスはローザリンデの隣に、ユルゲンはヴァレンティーンの隣に。

 イェレミアスは私の背後に、マテーウスはフュルヒテゴットの背後についた。


 最愛たちはそれぞれ何か叫んでいるようだが、声にはなっていない。

 魔法使いが手配しているのだろう。


「大変残念ではあるが、時空制御師の御方様の御言葉により、此度。三名の最愛がその称号を奪われることになった。まずは、うぬらに問おう。己が罪を犯した自覚はあるか!」


 先ほどの可愛らしいローザリンデからは考えられない。

 まるで産まれながらに女王として君臨してきたかのような覇気に、跪いた三人は絶句している。

 

「わ、私たちが、罪なんて犯すわけないじゃない! そもそも私たちは最愛よ? どうしてこんな目に遇わなければいけないの!」


ローザリンデの目配せで言葉の戒めは解かれたのだろう。

 最初に暴言を吐いたのは魔制御師の最愛だったエルメントルート。

 どちらかと言えば可愛らしい系の面立ちだが、性格の悪さが滲み出ており、その可愛らしさは半減している。

 

「最愛を語るのは極刑だ。既に貴殿はその称号を剥奪されている。次に最愛を名乗るのであれば、即座にその首が胴から離れると知れ!」


「ひっ!」


 エルメントルートは隣に跪かされている、光制御師の元最愛ヒルデブレヒトの背後に隠れようとしたが、今の体勢では無理だ。

 しかも邪魔だとばかりに、ヒルデブレヒトの顎で突き返されている。


「ろー、ローザリンデ? 君は一体どうしたんだ? あんなに可愛がってやったの……」


「かの娼館は高位貴族が安全のために住まう隠れ家。貴様が足繁く通った娼館とは別の場所だ!」


「はぁ?」


「質の悪い娼館に貴様! ……貴殿は騙されたのだ。全くの別人を陛下だと偽られあてがわれた。その娼館の経営者は既に処罰されてこの世にはおらぬぞ!」


「嘘を吐くな! あれは確かにローザリンデで間違いない!」


「女王陛下は乙女じゃの。わしが大神官の名にかけて保証しよう」


 フュルヒテゴットの宣言を聞き、ヒルデブレヒトが絶句する。

 今の今まで疑っていなかったらしい。

 何かしらの魔法でもかけられていたのか?

 媚薬でも盛られて、正気じゃなかったとか?

 どんな理由であっても許されるものではないのだが。


「じゃ、じゃああれは誰だったんだ?」


「貴殿が無残に捨てた女性の一人だったようだ。彼女も既に処罰を受けている」


 捨てられた復讐だったのかもしれない。

 復讐を止めろとは言わないが、関係ない人物を巻き込むまないのが最低限守るべきルールだろう。

 処罰されてしかるべきだ。

 友人の名前が穢されるのは耐えがたい。


「どうやら、三人に罪の自覚がないようだ。なれば貴殿らの罪を詳らかにしよう」


「お、お待ちください、女王陛下っ!」


 まだ言い訳ができると思っているのか。

 声を上げたのは水制御師の元最愛メルヒオール。

 

 フュルヒテゴットの目がぎらりと、聖職者らしからぬ色を持って輝いたのを私は見逃さなかった。 


   

 予約していた本が発送されましたとメールが来ていたので、大人しく待っていたのですが届かず。

 よくよく見れば発売日到着予定だったようです。

 ちゃんと確認しないと駄目ですね。

 とほほ……。


 次回は、旦那様は断罪を希望しています。最愛たちの断罪。3(仮)の予定です。


 お読み頂いてありがとうございました。

 引き続き宜しくお願いいたします。

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