旦那様は推測する。私は疑問を提示する。他の最愛について。中編。
新年初投稿です。
モブキャラに対する過度なセクハラ描写や、それにより死に至る描写がさらっと書かれていますので、苦手な方はご注意ください。
良い最愛さんのお話も聞きたいものです……と内心で思いつつ、屋敷へ着いた。
留守を守ってくれていた皆が出迎えてくれる。
「御主人様はお疲れじゃ。給仕に癒やしのリスっ子たちを所望しよう」
「……では、準備は自分がいたしましょう。三姉妹は、御主人様と一緒にお部屋へ伺いなさい」
「よろしいのですか!」
私の部屋には許可なく入れないらしい。
掃除も守護獣かノワールでないと駄目というルールが設けられている。
私としては、屋敷で働いてくれている子は全員信用しているから、自由に出入りしてくれていいんだけどね。
「ええ、いいわよ」
「光栄です!」
「至福」
「わぁ……今夜は眠れるかなぁ」
三者三様の喜び方だが、全員がとても嬉しそうな様子なのは丸わかりだ。
大変癒やされる。
屋敷で生活するようになってから、毛並みも良くなってもふもふ度も上がっているから、余計に眼福なのだ。
「お二方はどうされますか?」
「我は、和風の軽食を所望する」
「私は、和風のスイーツで!」
「なるほど。王宮ではさすがに和食は出ませんでしたか」
「次期女王がアリッサを大変好ましく思っているから、次に行く頃には、フルコースで饗されそうな勢いではあるがな」
「ノワールも知識を求められるかもね」
「……和食の情報流出は避けていたのですが」
そ、そんなことまで考えてくれていたんだ!
そもそもこの世界、かなり和食は広まっていると思うんだけどなぁ。
「細やかなアレンジまではさすがに広まっておりません」
私の表情を読んだノワールが教えてくれる。
なるほど、それは確かに。
家庭の味って、千差万別で玉石混淆だもんね。
気がつけば雪華の先導で自室へ戻り、リス三姉妹が喜びの感想を言い合っている様子を微笑ましく見守っていた。
ノワールが希望の物を整えて、テーブルセッティングを終える頃には、私の着替えも終わっている。
畏まった場所での会談に加えて、移動が多かった。
更に正装や盛装しかしていなかったから、体が緊張していても仕方ない。
下着も締め付けが極力少ないものに、ワンピーススタイルのルームウェア。
足の裏が気持ち良いもこもこのルームシューズを履けば、そのまま椅子に背中を預けて眠くなってしまう。
「御主人様はお疲れですね? 食事をされないで就寝されますか?」
「小腹は空いているから、いただいてからかな。お風呂も入りたいしね」
「バスタイムもしっかりと取るが良いぞ」
「そそ。神殿も王宮も、この屋敷ほどには清掃が行き届いていないからね!」
二人の言葉に頷きながら、テーブルを見つめた。
ティーテーブルでは乗せきれない量の食事が準備されたので、ダイニングテーブルでの食事となる。
軽食の量じゃないよね? との突っ込みは当然心の中だ。
「おいなりさんは美味じゃのぅ。この甘塩っぱさが最高なのだ!」
実は狐の生まれ変わりですか? というレベルで、彩絲はいなり寿司を気に入っている。
ノワールや、料理を担当した者があれこれと亜種を生み出しているが、彩絲の最高はシンプルに酢飯とホワイトセサミの組み合わせらしい。
「抹茶のシフォンケーキも美味しいわよ? このふわっと感って、なかなか出せないんじゃないかしら?」
雪華はカットしていないシフォン型のケーキへとフォークを刺している。
一口が大きい。
「御主人様は、何を召し上がりますか?」
三人がかりで取り分けてくれるらしい。
体より大きなスプーンやフォークを手にしたリス三姉妹が、きらきらとした眼差しで見上げてくる。
「そうねぇ……じゃあ、前菜系からお願いしようかしら?」
「では、こちらをお取り分けいたしますね」
「エッグプーラン(茄子)とシシノトウ(ししとう)のマリネです」
「レッドシラカは、飾りにお乗せしますが、召し上がらないでください、ませ」
ネルがエッグプーランを、ネマがシシノトウを取り分けて、ネイがレッドシカラで飾り、少しだけマリネ液を回しかけてくれる。
見惚れるコンビネーションにほっこりできた。
「うん。しっかり味がしみていて美味しいわ。最初に食べる一品って感じね」
三姉妹が嬉しそうに頷き合った。
そんな様子を堪能しつつ、ふと思い至って尋ねてみる。
「三人はいろいろな家へ仕えていたみたいだけど、最愛さんたちがいる家に仕えたことってあったの?」
私の質問に三人は揃って渋い顔をした。
渋顔もまた愛らしい。
「はい。この国におわします、四家全てにお仕えしました経験がございます」
おぉ、それは凄い。
さすがはさすらいのリスメイド。
「ハンマーシュミット伯爵家には一番長く仕えさせていただきました。皆様良い方々ばかりで……ネリが、御迷惑さえ、かけ続けなければっ!」
「追放されたフランツィスカ様は、現在健やかにお過ごしの様子なのが何よりでごさいますね」
「ハンマーシュミット伯爵家も、フランツィスカ様の安全が確保されて、攻勢に出ているようです。迷惑をかけられた三家に、圧力をかけている筆頭として、お過ごしだとか……」
ネリは本当にどうしようもない子だったみたいだねぇ。
完全に離れていても、こうして憎悪を思い起こさせるのだから、しみじみ業が深い。
フランツィスカには会ってみてもいいかな?
ハンマーシュミット家になら力を貸すのもよさそうだ。
あー、でも最愛の粛清をする結果になるのなら、特に手助けは不要かな?
「……他、三家は似たり寄ったり、の駄目加減です」
「最愛様たちの暴挙を止めもせず、どころか後押しをする家族ばかり……」
「親戚では多少まともな人たちはいましたので、その方々には罪が及ばないといいですね」
「しかし、どの家も使用人の流出は激しかった……」
三人の愚痴に限りなく近い情報は止まらない。
ハルツェンブッシュ子爵家。
とにかく使用人の扱いが悪い。
仕事量が多すぎる割に給与が少なく、休暇なんてほぼなかったとのこと。
ネリのドジが重なって追い出されたときは、ネリ以外体重が激減して大変だったようだ。
このときばかりはネリに感謝しました……とは、ネルの発言。
ドジの弁償を求められたが、ネリが扱いが酷かったからドジをしても仕方なかった! で押し通したらしい。
遥かに身分が上の相手に、ここまでごり押しができるのは、非常識が服を着て歩いているネリならではだろう。
過労死した使用人すらいたというのだから恐ろしい。
そうなる前に辞められて本当に良かった。
リッベントロップ侯爵家。
エルメントルートの我儘に振り回されて、使用人は精神的に追い詰められたようだ。
噂ほど、他の家族は悪人ではなかったという。
特に双子への酷いいじめが発覚してからは、我に返ったという印象が強かったのだとか。
双子がいなくなってから、ネリ以外の姉妹たちがいじめの対象になってしまい、よく服を脱がされて、もみくちゃにされたようだ。
もふもふが気持ち良いのはわかるが、もみくちゃは許されない。
そもそも本人の意思は尊重すべきだろう。
愛すべきもふもふなのだから。
ここでは、ネリが私だけもふもふされない! とエルメントルートに言いがかりをつけたせいで追い出されたとのこと。
姉たちが嫌な目に遇っているのを羨ましいと思う、その神経のおかしさには、既に突っ込みを入れる気も失せる。
プリンツェンツィング公爵家。
ヒルデブレヒトの悪影響が強く、家族は等しく色狂いだったらしい。
まだ幼児とされる年齢の子供たちまでもが、性的な興味が酷かったようだ。
使用人たちは当然被害者だった。
それこそ孕んで辞めさせられた子などは、まだまし。
孕み腹のまま蹂躙されて子が流れ、精神崩壊したメイドまでいたという。
男性もまた、その被害からは逃れられず、同性に無理強いをされて、心身ともに壊れてしまった者がいた。
女性不信になって、未だに結婚どころか恋人すら持てないという話もあると聞き及んでいるとか。
ここでは夜這いされたネリが、当主の逸物を食いちぎりかけてしまい、夜逃げしたそうだ。
当主は現在不能という噂が秘めやかに囁かれているのだとか……。
うん、ここでもいい仕事したかな、ネリ。
「嫌なことを思い出させちゃってごめんね? 今回しでかしている三家の最愛に対して、称号剥奪の話が実現しそうだから、聞いてみたかったの」
「本当でございますか?」
「ええ。主人がそれぞれの制御師さんと話をつけてくれる予定になっているわ」
「さ、さすがは御方様……すばらしい……」
「話を聞く限り、少なくとも最愛本人への情状酌量の余地はなさそうかしら、ね?」
「はい! ありません!」
良い笑顔で返事をくれるネイを見て、私も心を決めた。
今年は福袋を沢山購入できて満足です。
最近の福袋は中身公開型が多いので、全く中身がわからない福袋を買うときは本当にドキドキします。
そして、新年明ける前に予約していたほとんどの福袋が届いていたのは、良くある話……ですね?
次回は、旦那様は推測する。私は疑問を提示する。他の最愛について。後編(仮)の予定です。
お読み頂いてありがとうございました。
引き続き宜しくお願いいたします。




