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地下牢での一週間。前編。

 元王様視点。

 苛々回。

 拷問による猟奇的な描写ありますので、ご注意ください。

 

 


 何故、我が罪人として不愉快極まりない地下牢へ閉じ込められているのか、理解できない。


 意識を取り戻したときには、既にこの状態だった。

 王が罪を犯しても基本、王としての矜持は守られる、はずなのに。

 王城の地下深くに作られた牢は、反逆罪などの大罪を犯して死刑確定した者が、執行までの間のみ収容されておくものだった。

 しかも拷問必須だ。

 何かを白状させるためのものではない、ただただ痛めつけるだけを目的として行われる。

 死刑だけでは足りないと、拷問がなされるのだ。

 治癒魔法があるので、執行時に外見こそ整えられているが、中身は既に壊れきっているのだと。

 ハーゲンは王として、現場に立ち会わされた経験があるので知っていた。


「おい! 誰かあるか!」


「は、ハーゲンさまぁ? どちらにいるのですか?」


 叫んでみるも聞こえたのは、ゲルトルーテの甘ったれた声のみ。

 否、よくよく耳を澄ませば怨嗟が聞こえる。

 ハーゲンとゲルトルーテを呪う声だ。


『き、さま……ら、の……せい、だ……』


『その、めすぶたさえ! おっと、を……たぶらかさね、ばっ!』


『命令に、従った、だけなのに……王に、逆らえるはずが……ない……』


『うそつきめ、ほらふきめ! おまえらが、すべて! すべて! わるいっ!』


 本来なら届くはずのない音量なのに聞こえてしまう、悍ましさに。

 ハーゲンの全身から冷や汗が吹き出る。

 初めての経験だ。


「水は……あるのか? ハンカチは?」


 部屋を見回しても、水差しはない。

 悪臭が漂ってくる衝立の隣に小さな桶があるので、覗き込んだ。


「ぐっ!」


 酷い臭いに顔を背ける。

 水は入っていた。

 ただし汚水だ。

 衝立の向こう側にある穴は用を足す場所。

 足したあとに流す水。

 ゆえに汚くてもいいのだ。

 飲めることは、飲めるだろう。

 が、飲めば腹を下すとわかりきっている。

 それほどに汚いのだ。

 手を出す気にはなれなかった。


「もぉ! ハーゲンてばぁ。わたし、お風呂に入りたいんだけどぉ」


 どうして我に言うのだ?

 我に言っても何もできぬというのに。


 ゲルトルーテの馬鹿さ加減に大きく首を振る。

 

「手配してやるか、屑よ。貴様の愛しい雌が、風呂を所望だぞ?」


 人の気配など全くなかったというのに、耳元で声がする。


「ひっ!」


 ハーゲンは飛び上がった。


「ははははは! なっさけねーの! で、どーすんだよ、屑。あの雌を風呂に入れてやるのか?」


「貴様、我を誰だと!」


 髪の毛を引っ掴まれて、汚れた床に頬をぐりぐりと押しつけられる。


「元王様。今は罪人。淫婦に惑わされて、国を傾けた大罪人だろ?」


「なっ!」


「しかも慈悲深きローザリンデ様や、他の被害に遭われた方々が贖いの期間を設けたにもかかわらず! 被害者面をして、贖いどころか反省もできていない屑」


「がふっ!」


 下腹部を蹴り上げられた。

 粗相をしてしまったことより先に、ただただ気持ち悪さで胸が満たされてしまう。


「武断の王ならばこの程度で粗相なぞせんがな! 側近が優秀過ぎるのも問題だなぁ……」


 はぁ……と呆れきった溜め息を零される。

 側近が優秀だと?

 王たる我より優秀な者などいるわけがないだろうに。


「まぁ、いいさ。死刑なんて慈悲、貴様には与えられない。これから先、存分に反省も後悔もできるだろうさ。で? どうするんだ? 淫婦を風呂に入れるのか、入れないのか!」


「貴様の好きにすればよかろうが! ごふっ!」


 顎を蹴り上げられる。

 歯が一本飛んだ。


「質問にはきちんと答えろ。歯が抜けても替えはないんだからな!」


「く、口をゆすぎた!」


「だーかーら! 質問に答えろって言ってんの!」


 ぱんと音も高く頬を張られた。

 歯は飛ばなかったが血飛沫が舞う。


「風呂ぐらい! 入れてやればよい!」


「ほぅ? いいんだな、風呂に入れても。ここで風呂に入れるという意味、屑は知っているよなぁ?」


 痛みと気持ち悪さで男が何を言っているのか理解できない。

 赤い視界でぼんやりと男を見上げる。

 男の目がぎらぎらと光っているのが見て取れる。

 鮮やかな、金色。

 これほど美しい金の目を持つ一族は確か……。


「じゃ、入れてやるよ。お前が入れる許可を出したんだ。ちゃーんと見てろよ? ああ、他の奴らにも見せてやる。少しは溜飲が下がるかもしれねーしな」


 うぉん! と不思議な音がして、くすんだ壁の一部が明るくなった。


「ゲルトルーテ?」


 明るくなった部分に、ゲルトルーテが映り込んでいる。

 彼女がいる牢屋の中らしい。

 遠見の魔法は水晶球を通してのみ可能だったと聞いているが、こんなにも進歩していたのだろうか……。


「ん? この魔法か? あの魔法馬鹿のリーフェンシュタールが改良したそうだ。魔法馬鹿だけあって、既存の魔法の改良とか、半端じゃなくすげぇからなぁ。改良した魔法一つ取っても爵位一個上がりそうな功績だ」


 馬鹿と言いながらも心の底から、すばらしい功績だと思っているのが聞き取れた。

 そして男は声を一段低くして、告げてくる。


「贖罪の一つもできていない屑の貴様とは大違いだなぁ?」


 にやりと、何とも言えない不気味な笑顔とともに。


「ちょっと! 部屋に入ってくるならノックぐらいしなさいよ!」


 ゲルトルーテの牢へ、黒いローブで全身を隠した人物が入っていく。

 しかし牢へ入る前に、ノックをしろとは訳がわからない。

 ……訳がわからないのは何時ものことか。

 愛していたと思い込んでいたときですら、何を言っているか理解できずに話を流していた過去が思い起こされる。


 殺風景な地下牢に、女性が好みそうな装飾のバスタブが現れた。


「あら、お風呂ね! そうならそうと言いなさいよ! ねぇ? 人の話を聞いているの?」


 ローブの人物が、ゲルトルーテをバスタブの中へと突き飛ばす。

 ゲルトルーテはバスタブの縁に膝を乗せた格好で悲鳴を上げた。

 上半身が完全にバスタブへと沈んでいる体勢に、ハーゲンは背筋が怖気だった。

 不意に、思い出してしまったのだ。

 風呂を使った拷問の一つを。

 確かあれは通称……何と呼ばれていたか……。


「ぎやああああああ!」


 ゲルトルーテの絶叫が耳をつんざく。

 

「あづいぃ…………!」


 ゲルトルーテの体の上へ、大量のお湯が注がれたのだ。

 お湯からはもの凄い湯煙が立っている。

 つまりは熱湯だ。

 

 あっという間に上半身が熱湯に浸かった。

 息苦しいのだろう、ゲルトルーテの腕がバスタブを掴む。

 しかしずるっと皮が剥けてしまい、バスタブは掴めなかった。


『ざまぁみろ! 天罰だ! 天罰が下ったのだ! そのまま死ね! 苦しんで苦しんで苦しんで死ね!』


 はっきりと聞こえたゲルトルーテを罵倒する声。

 何処かで聞いた記憶がある。

 自分より高位の婚約者に、婚約破棄を突きつけた愚か者の声だ。


 そう、よく覚えている。


 ハーゲンは学園でその現場を見て、ローザリンデに婚約破棄を突きつけようと決めたのだから。


「どぉ、してぇ? ひどいこと、するのぉ?」


 熱湯風呂の中で暴れるしかできなかったゲルトルーテの腕が、黒ローブによって引き上げられる。

 そのお蔭でゲルトルーテは半身を起こせた。

 ただしその代償として、掴まれた腕は骨が見えるほどに肉が溶けている。


「……風呂に入れてやったのに、文句しか言わないのね。本当に相変わらずの屑だわ!」


 黒ローブの声は女性のものだった。

 こちらも聞き覚えがある。


 ゲルトルーテにつけていたメイドだ。

 彼女の髪の毛を上手く梳けなかったからと、頭から熱湯をかけられた挙げ句、解雇された……。


 そう、我が指示をした。


 ゲルトルーテに涙目でせがまれて。

熱湯をかけるのも、そのあとで手当をさせないのも、解雇まで。

 ハーゲンが直接指示をしたのだ。


「何だ。洗ってやらないのか?」


「こんな体、どうやって洗えっていうのよ!」


「それもそうか……ほらよっと!」


 ハーゲンの部屋にいた男が何時の間にか、ゲルトルーテの部屋へ移動している。

 そしてゲルトルーテの体に治癒魔法と思しきものを施した。


「ひぃ! いたいぃ! いたいぃ!!」


 ゲルトルーテの体は元に戻った。

 ただし服までは再現されないので、全裸だ。


「……しっかし、あの屑も、この貧相な体の何処が良かったんだろうな?」


「妖精のようで愛らしいとか言っていたわね。まぁそれまではローザリンデ様の美しい姿に鼻の下を伸ばしていたから、魅了のせいじゃないの? どうでもいいけど」


「それもそうだな。で? 何を使って洗ってやるんだ?」


 バスタブの近くに大きなテーブルが設置される。

 その上には体を洗う道具とは思えないものが並んでいた。


「これとか、よさそうね?」


 ローブの女性が手にしたのは、鉱石を磨くのに使うサンドペーパー。

 よく見せるように拡大されたそれは、一番目の粗いもの。

 人の体に使ったならば、皮膚どころかその下の肉までをも削り取ってしまうだろう。


「やめ! やめなさいよぅ!」


 ゲルトルーテの必死の抵抗もむなしく、彼女の腕はサンドペーパーで擦られる。

 血が飛び散って、絶叫が上がった。


「……止めてくださいと、懇願する私に対して、一度でも止めたことがあった? ないわよね? それなら止めてもらえると思わないわよ、普通は」


「普通じゃねぇからな、それ」


「普通だったら、こんな酷い目にはあわないでしょうね、少なくとも誰か一人ぐらい止めてくれる人もいるでしょうし……」


 ローブ姿の女性と移動した男性の目線は、嘲りの色を強く含みながら壁越しにハーゲンに向かっている。


『助けるつもりなんて、ないんでしょう?』


 二人の目は、そう語っているように見えた。

 


 ピスタチオクリームナポレオンのパイ食べてきました。

 クリームが美味しかった……。

 ティーコースというだけに、飲み物の充実が特に素晴らしかったです。

 また行きたいなぁ。

 確か月一くらいであったはず……。


 次回は、地下室での日々 後編(仮)の予定です。


 お読み頂いてありがとうございました。

 引き続き宜しくお願いいたします。

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