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神殿へは四人+αで。3

ふと思い至ってオススメの怖い映画一覧をチェック。

ホラー映画じゃないところがミソです。

意外な作品が紹介されていて興味津々。

取り敢えず見たい映画メモに書き出しました。 

 

 


 フュルヒテゴットが精緻な装飾の扉に掌を翳すと、扉は音もなく開いた。

 開かれた扉の向こうにはずらりと扉が並んでいる。

 フュルヒテゴットは迷わず最奥まで足を運んだ。

 入ってきた扉に似た、精緻な装飾のこちらは小さな扉に手を翳す。

 やはり扉は音もなく開いた。


「綺麗な部屋……」


 明かりが灯り、その明かりが光度を増す。

 内装が見えるようになり、思わず声を上げてしまった。

 小さな扉の向こうは驚くほどの広い間取り。

 ざっと見ても四十畳くらいはありそうだ。

 部屋全体が青と白で統一されている。

 大きなテーブルに、ゆったりとしたソファ。

 書棚や食器棚なども見受けられる。

 ベッドを持ち込めば、すぐにでも生活ができそうな設えだ。 


「ほっほっほ。最愛様にはお気に召していただけたようで何よりでございますのぅ。ルンベラン大神殿自慢の応接室ですわぃ」


「応接室……」


 さすがは大神殿、御自慢の応接室。

 王族とか高位貴族とかしか入れない場所なのだろう。

 低い使用頻度とは思えないほど清潔が保たれている。

 使われなくとも毎日のように丁寧な掃除がなされているに違いない。

 少々豪奢だが、快適な空間だ。

 心にゆとりができれば、話し合いが穏便なものになる気もする。

 

「茶の準備は、こちらのマテーウス・バルシュミーデがいたしますぞ。なかなか美味い茶を淹れますのでなぁ」


「最愛の御方様、ローザリンデ女王陛下、ヴァレンティーン王配様、守護獣様。不肖マテーウス・バルシュミーデが粗茶の用意をさせていただきます」


「御安心召されよ! 大神殿の力を使いに使った、最高級茶葉でございますぞ!」


 えっへんと自慢する白髪白髭お爺ちゃん。

 きっと民にも好かれているだろう。


「ですから、そんな率直に、しかも自慢するものではございませんよ。大神官様」


「お主はかたいのぅ……カールハインツ」


「私がかたいのも、マテーウスが茶を淹れるのが上手なのも、全て大神官様のお導きの結果でございますれば?」


 嫌味ったらしい物言いなのに腹が立たないのはどうしてだろう?

カールハインツから、フュルヒテゴットへの敬意と感謝が溢れ出ているからかな?


「最愛様、どうかカールハインツの御無礼をお許しくださいませんかのぅ。どうにもこの二人は私に対して無駄に過保護なのですじゃ」


「! 最愛の御方様、ローザリンデ女王陛下、ヴァレンティーン王配様、守護獣様には、大変な不敬を働いてしまいまして、申し訳ございません! 自分が愚かで精進が足りないだけでございます! どうぞ、全ての咎は私一人に! 伏してお願い申し上げます!」


 ぴかぴかつるつるに磨かれた、美しい文様が施された床の上で、カールハインツが土下座する。

 私は微苦笑を浮かべたまま、ローザリンデに頷いた。


「大神官様。彼の名前をお聞かせ願えますでしょうか?」


「ううむ。申し訳なかったのぅ。まず、私が二人を紹介せねばならんかったわい。彼の名前はカールハインツ・ギレンセン。マテーウスと同じで次期大神官の資格を持つ者ですじゃ」


「では、カールハインツ。頭を上げなさい。アリッサ様……最愛様は貴男を許されました。今後も貴男の個性を殺すことなく仕事に励むがよろしいですわ」


 うん。

 さすがのローザリンデ。

 私が言いたかった点を余すところなく伝えてくれる。


「は。お言葉有り難く、女王陛下」


「ふふふ。まだ私は女王に即位はしておりませんわ」


「神殿はローザリンデ・フラウエンロープ様が女王陛下に、ヴァレンティーン・ローゼンクランツ様が王配になりますと、信じておりますぞ。ただ……大変申し訳なきことじゃが、一枚岩ではございませんがなぁ」


 ああ、もう一人いるっていう次期大神官候補の駄目神官ですね。

 わかります。


「それは神殿に限らずどこでも同じでございましょう。現在王族、高位貴族は荒れておりますもの。ですが、私やその両親、そしてヴァレンティーンやその両親は、神殿と今までにない良き関係を築きたいと思っておりますの」


「大変有り難いお申し出ですのぅ。神殿といたしましては、大神官である私、次期大神官候補である、マテーウスとカールハインツは良き関係が築けると信じておりますぞ」


「……誓いを立てましょう。誓書を交わしますか?」


 ヴァレンティーンがずいと身を乗り出す。

 すかさずマテーウスがお茶をセッティングした。


「まずは、お茶をいただきましょう、ティーン。神殿のお茶は美味しいと有名なのよ?」 

「一部では、ですね。そもそも神殿のお茶を飲んだ人は少ない」


「はい。大神官様の御指示でしか、淹れぬお茶でございます」


 気合いを入れて飲め! ってね?

 言われなくてもそうしますとも。

 心の中で鼻息を荒く頷けば、マテーウスが私を見つめる。

 ローザリンデやヴァレンティーンに向けるのとは明らかに違う意味の眼差しだ。

 大神官に向けていたのは献身と崇拝。

 けれど私に向けられたのは崇拝と慈愛。

 母が子に向ける当たり前の母性に近しいもの。

 恋や愛ではないのは間違いない。

 夫の声がしないからだ。


「最愛の御方様のお口に合えば嬉しゅうございます」


 穏やかな美形と表現すればいいだろうか。

 頑張れば凡人な自分でも、視界に入れてもらえるかも? と思ってしまう、親しみを覚える美形が、爽やかな微笑を浮かべている。

 ここで、素敵! と思ってしまったら、夫の声がかかりそうだが。

 私は思ってしまうのだ。


 乙女ゲームでいそうな攻略対象じゃないけど攻略したいサブキャラ! と。


 ええ、それでこそ、麻莉彩です。

 私の最愛の妻ですよ。


 あ、夫の声がした。


 そう、大概の男性は乙女ゲームもしくはBLゲームのキャラクターとして、受け止めてしまうのだ。

 女性は比較的、リアルな女性として受け入れられるのだけれど、男性は画面の向こうにいる相手として認識してしまう傾向にあった。

 特に神殿と言われたら、ねぇ?

 乙女ゲームの攻略対象として、よく取り扱われる職種なのだ。


「……! 美味しいわ。シナモンとフルーツの香りも素敵。何より砂糖を入れていないのにこの甘さは……調合が秀逸なのでしょう」


「お褒めの言葉を胸に今後も精進してまいります」


 どうやらマテーウスは自ら茶葉の調合をやっているらしい。

 砂糖の甘さは健康に悪いとでも思ったのかな?

 でも砂糖不使用の甘さは神殿によく似合った。


「大神官になれずとも、最愛様のお茶係にはなれそうじゃのぅ」


「それは、私に大神官になるなという御意志でございましょうか」


「そうとは言っておらん。最近のお前は、何かと大神官たるに相応しい場面で、カールハインツを推すではないか」


「……大神官様の気のせいでございましょう」


 気のせいではないようだ。

 自分が仄暗いところを受け持って、裏から大神官になったカールハインツを懸命に支えようと考えている……そんな推測を立ててみる。


「ですよねー。俺もそう思ってました。ったく! 大神官になるのはお前だろう? 誰が見たってお前の方が向いてる。頭はいいし、カリスマがあるしな!」


「はぁ? カリスマがあるのはお前の方だろう? あの一糸乱れぬ忠誠を誓う神兵隊を見ろ! どれだけの民がお前たちを見て安堵していると思う?」


「おいおいおい! どうしちまったんだよ? あの屑馬鹿愚かに何か言われたか? お前がどこに神兵隊を派遣すればいいか行き届いた指示をしたんだろうが! それがなきゃ、そもそも現場に行けねぇんだぞ?」


「お前は私を過大評価しすぎだ!」


「……はぁ。お前は自分に対する評価が低すぎだ。返す返すもむかつくぜ、あのくそ野郎!」


 カールハインツはマテーウスを大神官にしたいらしい。

 二人のやり取りを聞く分には、マテーウスが指示をだし、カールハインツが現場を治めるという立ち位置が無難に思えた。

 だが、自己評価が低すぎるというのは問題点だ。

 カールハインツはその点、マテーウスの評価は勿論、自分の価値も的確に理解できている。

 それこそマテーウスが支えれば、現場に出て活躍する大神官という、新しいだろう神殿の形を作り出せもしそうだ。

 ローザリンデも応援するに違いない。


 さて。

 となれば、フュルヒテゴットはどう考えているのだろう。


「……昔はそこまででもなかったんじゃがのぅ。あれは、そこまで愚か者じゃったか。人を単純に蹴落とすだけでなく、本来の価値までをも貶める非道を行っていたと?」


「大神官様はお忙しかったですからねぇ。俺も部下の面倒を見なきゃならなかったんで、マテーウスの心まで守り切れなかったんです……面目ありません。あの屑がどんどん自分に似た屑を育成しやがりまして、マテーウスの部下を毒牙にかけようとしましてね。マテーウスは自分より部下を守った結果です」


 いい人ですね、マテーウスさん。

 でも、ね?

 自分の身も、部下と同じように守らなければいけませんでした。

 だって、自分が死んだら部下も結局、自分と同じ道を辿る羽目になるんですから。

 自分も部下も守れないのならば、最初から!

 守れる範囲にしか手を出さなければ良かったんですよ。

 マテーウスさんのような善人には、それもまた、難しい話だとは思いますけれども。


 私は一人微笑を深くする。

 フュルヒテゴットの目線を感じたので合わせれば、彼は慈悲深く微笑んだ。

 

 神ならばきっと、全てを救うのかもしれない。

 だが、彼は神ではない。

 だからたぶん、あの慈悲の微笑は。

 屑と呼ばれた者たちを切り捨てると決めてしまった証だ。



 


有名ホラー映画の中でも見ていないももチェック。

映像技術がまだそこまで発達していない頃の、俳優さんの演技勝負なところが素敵です。


次回は、旦那様は推測する。私は疑問を提示する。神殿へは四人+αで。4(仮)の予定です。


お読み頂いてありがとうございました。

引き続き宜しくお願いいたします。


 

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