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最愛の妻 自覚のない聖母 前編

 今回は旦那様目線です。

 今後も投下さる予定になっています。


 犯罪臭が漂っている気がしないでもないです。

 高校生が幼稚園児に運命の出会いを感じています。

 苦手な方はくれぐれもご注意ください。

 個人的には、虐待を受けている子供同士が寄り添ってもいいんじゃないかなと思った次第です。


 

 過干渉。


 愛されないよりは良いだろう。

 ましだろう。

 父親なら当然だ。

 母親なら無理もない。

 姉なら可愛くて仕方ないだけだ。

 妹なら慕われて嬉しくないのか?

 相談した先で言われた数多の悪意ない言葉。

 恩師と思っていた男性の、欲情を向けてこないと思っていた数少ない女性の。

 悪意がない分、胸に突き刺さる見解を立て続けに示されて。


 準備をしていたにも関わらず、逃げ場がないと思いつめてしまった、17歳の土砂降りの日。


 私は運命に出会った。


 

 何が切っ掛けとなったかは知らないが、ある時期から盛んに謳われた、運命の女≪ファム・ファタール≫という概念。

 男性に取っての赤い糸の相手、もしくは破滅を招く魔性の女を指す呼称。

 私にとって彼女はまさしく運命の相手だったが、血縁の者達にとっては魔性の女以外の何者でもなかったようだ。

 己の過干渉を愛情だと謳う偽善者達。

 度を越した過干渉が虐待なのだと、今にしても理解できない彼彼女等とはこの先、永遠に解かりあえることはないだろう。

 愛しい相手を貶す屑を、理解したいとも思わない。



「かさ、ないの?」


 観測史上トップクラスの土砂降りと解説されたその日。

 家に帰りたくなかった私は児童公園で一人、雨に濡れていた。

 学生服はぐっしょりと濡れて重く、全身は冷え切っている。

 首を上げるのも、口を開くのも億劫だったが、幼い口調に違和感を覚え、瞬きをした。

 幾度かの瞬きの後で目元に溜まった雨が流れて、僅かに視界がクリアになった。


 そこに。

 彼女がいた。


 大きな瞳には心配そうな色が宿っている。

 長い髪は神経質なほど丁寧に編み込まれていた。

 伸びた手足は壊れそうに華奢で、サイズのあっていないようなぶかぶかの長靴が余計に目を惹く。


「かぜ、ひいちゃうよ?」


 近くに来て、小さな傘を傾けてくれる。

 肩掛けの青い幼稚園バッグが、瞬間でびしょ濡れになってしまった。


「……青、好きな色なの?」


「とくに、すきじゃないよ?」


「……鞄も、傘も、青だよね?」


 少女の愛らしさにはそぐわない色。

 私ならもっと少女らしい色で飾りたいが、好みという物もある。


「……おにいちゃんが、くれたの、だから」


「もしかして、長靴もそう?」


「うん」


 どうやら兄のお下がりをそのままあてがわれたらしい。


「つばさくんに、あたらしいのかってあげるから、まりさは、おにいちゃんのをつかいなさいって、おかあさんが……」


 眉根を寄せた私に、慌てて彼女が言い募る。


「おとうさんは! かわいいのとかあたらしいの、かってもいいよ? っていってくれるの。でもおかあさんが、わがままはだめよって……おこるからっ!」


「……髪の毛はお母さんが結んでくれる?」


「うんっ! まいにちむすんでくれるの! ちょっといたいけど……すごくかわいいの!」

「そう」


 恐らく彼女は、虐待にあっている。


 好みでないおさがりだけならまだ解かる部分もないではないが、性別が違う物を与えるは酷い。

 幼いが故の純粋さで、他人と違う物への評価は厳しく、苛めにつながるケースもあり得る。


 サイズがあっていなくとも気にしない。

 成長期にこれは有り得ないだろう。

 多少なら大きくても良いが、この場合は大きすぎる。

 転んで怪我をしてしまう可能性だって忌避できない。

 これから先には恐らく、弟が着古した物も与えられるだろう。


 時間が経っているにも拘らず、髪の毛が引き攣れるくらいにきつく編み込まれた髪の毛。

 母親の神経質な拘りとも見て取れなくはないが、他の事もある。

 彼女への理不尽な怒りが込められているとみて間違いなさそうだ。


 何より幼稚園児を一人で帰宅させるという、防犯上有り得ない非常識さから、そうと判断した。

 特に母親が冷たいようだ。

 兄や弟と優先しているところを見ると、娘に嫉妬する性質か、男児にしか興味が持てない価値観なのかもしれない。

 父親も母親を止められない時点で同罪だろう。

 勘が間違っていなければ、母親の目を盗んで、性的な感情を抱いている気配すらあった。


「かさ、かしてあげる!」


「君が濡れちゃうよ」


「いいの! わたしは、いえ、ちかいから」


「バッグもびしょ濡れだし。傘を貸したなんて言ったら怒られちゃうんじゃないのかな?」


 失くしたのに嘘を吐いたんでしょ!

 嫌な子!

 といった感じの罵声が聞こえたのではないだろうか。

 彼女がびくっと身体を痙攣させた。


「傘を貸してくれたお礼に、私の隠れ家に来ないかい?」


「かくれが?」


「そう。私しかいない、家だよ。バッグを乾かしている時間だけどうかな? 美味しい飲み物とお菓子をご馳走するよ」


 少女はきっと自分と同じだ。

 家へ帰る時間は遅い方が良い。

 本来なら安堵するはずの家族の側で安らげないのは悲しいことだが、今の世の中それなりの数、同志はいるだろう。

 この子がまだ、幼いうちに出会えて良かった。

 現時点では、致命的な悲劇に遭遇していないらしい。

 誰が見ても健気で愛らしい彼女だけに、庇護したいと思う者と貶めたいと思う者が今後多く現われるはずだ。

 どうにも少女の家族は後者の臭いが酷くする。


「私は、柊喬人≪ひいらぎたかひと≫と言うんだ」


「わたしは、おみないまりさです」


 漢字は解らないが随分と変わった名字だ。

 調べるのは容易だろう。

 こんなに愛らしい子が、兄弟と差別されていれば余計に。


「来てくれるかな?」


 差し出した手を、少し躊躇って彼女は掴んでくれた。

 小さな小さな温かい手。

 妹に手を握り締められた時とは全く違う、穏やかで優しい感情に満たされる。


「たかひとさん!」


 目線が合う位置まで抱き上げる。

 驚くほど軽い。


「こうすれば、二人とも雨に濡れないですむよ? まりさちゃんは頑張って傘を差し続けてくれるかな?」


「うん! がんばるよ!」


 両手でしっかりと傘を持ち直した少女が、懸命に濡らさないようにと頑張る様子は、ただただ愛くるしい。


 自分でもこんな微笑が作れるのかと思う、優しげな笑顔のままで、私は揺れすぎないように気をつけないなら早足で隠れ家へと向かった。


 後編に続きます。

 次回更新は、7月15日です。

 ストックが順調なので、少しだけ更新が早くなりました。

 

 今後は3作品のローテーション更新(7月10日新作投下予定)になります。

 これ以上の同時進行は厳しそうなので、現時点では新しい作品投下は予定なしです。


 合言葉は簡潔必須! で頑張っていきます。

 週一更新は守りたい所存です。


 新しい作品が想定外の高評価を頂いたお蔭か、こちらの作品もブックマークや評価が増えて嬉しい限りです。

 今後もよろしくお願いいたします。

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