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そして、断罪劇の幕が上がる。 7

 鼻が痛くて耳鼻咽喉科に。

 頭痛も酷くて、鼻が関係しているのかと思ったのです。

 結果。

 関係しているのかもしれないし、していないかもしれないとのこと。

 知ってた、知ってたよ!

 とにかくどちらも薬をもらってきたので、痛みだけでも軽減してほしいものです。



 おかしいのはお前だし!

 会場中の心が一つになった予感がする。

 それだけゲルトルーテの異常さは浸透していたのだ。

 低い身分で王太子やその周辺の優秀な人材を、愚か者に貶められるほどの能力を持っていないのだと。

 魅了もしくは洗脳のスキルの持ち主なのだと。

 私が来るまでほぼ確信していたのだろう。

 そして、私の言葉で確定した。

 

 これでゲルトルーテを排除できる!


 多くの人々が即座に動いたに違いない。

 ゲルトルーテの断罪のために。

 最後まで惑わされたままだった王を、見極めるために。


「おかしいのは、ゲルトルーテ・フライエンフェルス。貴女ですわ」


「はあああああ?」


「魅了スキルを持つ者は少ないですが存在しております。貴女だけのスキルというわけではありませんの」


「嘘っ! 私が特別だから!」


「違います。常識を知らぬ、貴女が異常なだけですのよ?」


 切り込んでいくなぁ、ローザリンデ。

 そこに痺れる憧れるぅ!

 ……私、茶番に飽きてきたのかしら?

 というか、限界なのかしら?


 私の脳内逃避をローザリンデが知るはずもないのだが、彼女はさくさくと容赦なくゲルトルーテを追い詰めていく。


「魅了スキル保持者は自覚のありなしに関係なく、制御を覚えさせられます。例外はありませんの」


「やっぱり私だけが使えたのは!」


「強制力のせいですわ。貴女の力も意思も関係ございません」


 あ、やっぱり乙女ゲームの強制力ってあるんだね。

 さすがは強制力!

 神様の力級だねぇ。


 実際、神の力によりますね。

 実験の一つと聞いていますよ。


 夫が囁く内容に頷く。

 神様がかかわったら何でもありだからね。

 しかし乙女ゲームの舞台を実験に使うとは……オタク気質の神様なのかしら?

 わかりやすく洗練された舞台設定だと思うけれどね。


「強制力とは言い換えれば神様の御意志……私どもでは抗いようのない現象ですわ」


「じゃ、じゃあ、私。悪くないじゃん! 悪いのは、神っ!」


 ごふっとゲルトルーテが血を吐いた。

 鮮やかな赤が喉の奥から溢れ出る状況に、ゲルトルーテはただ呆然としている。

 隣にいたハーゲンは顔色を変えた。

 ゲルトルーテが神の怒りに触れたとでも思ったのだろう。

 

「神を悪とするとは……本当に貴女は異常ですのね?」


 何かを言い募ろうとするゲルトルーテはまたしても鮮血を吐いた。

 先刻より量が多い。

 塊までもが幾つも溢れ出ている。


「神は善です。悪は邪神です。それがこの世界の道理なのですわ。覆ることは未来永劫ございませんのよ」


 言い切る以上、神様から直接声でもかけられたのかな?

 神託を受けたとローザリンデがこの場で述べたのなら、周囲が聖女として祭り上げそうだ。

 ローザリンデが希望するなら、王妃であり聖女でもあると、時空制御師最愛の名で宣誓してもいいのだけれど、ローザリンデは望まないだろうなぁ……。


 肩で息をしているゲルトルーテの瞳には未だ反省の色も、後悔の色も見いだせない。

 ローザリンデも常識が全く通じないゲルトルーテには手を焼いているようだ。

 標的をハーゲンへと向ける。

 ゲルトルーテを見つめていた視線が移動して、その温度を更に落とした上でハーゲンへと固定された。


「……愚かなる者よ。魅了されしは致し方なきこと。されど、犯した罪は罪……そなたは最低限の贖いを済ませたのか?」


 口調までもが違う冷ややかな態度に、一瞬絶句したハーゲンは怒りを露わにする。


「わ! 我にその口の利き方はっ!」


「答えよ、愚かなる者よ」


「そもそも我は罪など犯してはおらぬっ! ぐうっ!」


 宝珠が紅く瞬く。

 ハーゲンは目を見開いて宝珠を見つめている。

 どうやら彼は本気で自分に何の罪もないと、贖うべき何ものもありはしないと信じているようだ。


「要職に就いていたものは皆贖いを済ませておる。程度の差はあれ、元の地位に近付いた者ほど反省も後悔も強い。だがそなたはどうだ? 罪を犯してはおらぬと戯れ言を申す。ローザリンデ・フラウエンロープを冤罪で王都追放にしたのは、そなたであろう」


「ローザは王都にいただろう? 追放になっておらぬなら、問題はないだろうに」


 お前は何を言っているんだ? と某格闘家の名言がビジュアル付きで浮かぶ。

 ローザリンデはその発言を聞いても顔色一つ変えないが、隣にいるヴァレンティーンは強い怒りを浮かべている。

 周囲のあちこちからも同じ怒りの気配があった。

 御両親以外にも問題発言を許せない者は多いようだ。


「問題しかありません、愚かなる者よ。そなたは最低限の贖い……謝罪すらすませていない」


「許せと言ったではないか!」


「それは、謝罪の言葉ではない」


「っ! 我を誰と心得る! 我はこの国のっ!」


「王を名乗れるほどの、何をしているのか。愚かなる者よ」


 咄嗟に答えられず言葉に詰まっている。

 玉座を温めるだけで、王を名乗るつもりはなかったようで何よりだ。

 けれど、沈黙を守るのはよろしくない。


「この国の王として、寵妃の言葉をそのまま伝えるだけの命令以外の何をした? 寵妃の魅了から解放されて、何をなした?」


「ろ、ローザを呼んだではないか!」


「それ以外は?」


「……精査してから手をつけるつもりだったわ!」


 ローザリンデが隣に目線を動かせば、すかさずヴァレンティーンが書類を手渡す。

 書類にさっと目を通したローザリンデは、わかりやすい嘲りの色を浮かべてハーゲンを見下した。


「既に精査はすんでおり、その報告も完了しているとのことだが?」


「嘘だ! ふぐっ!」


 時間稼ぎなど無駄だと、何故気がつかないのだろう。

 魅了スキルから解放されて本来の己を取り戻した感動のまま、政務にまで手が及ばなかったと、申し訳なかったと言えば恥辱を重ねずにすんだはずなのに。


 ローザリンデと宝珠に追い打ちをかけられても、ハーゲンの瞳から不服の色が抜けない。

 こんなところもゲルトルーテとお似合いだ。


「そなたは時空制御師様に愚かなる者と呼ばれました。二度と謝罪の機会はありません。ただただ罪を自覚し、粛々と贖いをなすだけなのです」


「王たる我に!」


「貴男は王ではありません。愚かなる者とは犯罪者と同意」


「違う! 我はまだ王だっ!」


 宝珠が赤く光る。

 

「馬鹿なっ!」


 本来ならあり得ぬのだろう。

 様々の手順と手続きを経て、王位が奪われる。

 それが一般的な流れ。

 ただ、時空制御師の言葉の優先度は、この国の本来を凌駕するものらしい。


「寵妃に踊らされ、第二位の王位継承権を持つ者を冤罪で貶めた。税を理不尽に引き上げ、民に苦難を与えた。王の責務を周囲に押しつけ、それがこなせぬとあらば理不尽に罰を与えた……他にも数多ある罪に対する自覚を、いい加減持っていただきたいのだが?」


「わ、我はっ!」


 ぐっと唇を噛み締める。

 

「ハー様を虐めないでっ!」


 今こそ出番とばかりに、ゲルトルーテは瞳を潤ませながらローザリンデに食ってかかった。


「ルーテ……」


 はい。

 ここでハーゲンが、やっぱりお前は我のことをこんなにも大切に! とか思っている表情で、ゲルトルーテを見つめました。

 既に満腹を超えてきています。


「虐めてはおりません。私の方こそ、虐められた被害者ですわ。貴方方の言葉での謝罪や懺悔を聞きたかったのですが……それは難しいようです。宝珠のお蔭で、貴方方の罪は明らかになり、確定いたしました。引き続き、贖い……罰について申し渡します」


「えぇ! 嘘っ! 信じらんない!」


「待て待て待て! 我らに罰なぞ!」


 二人の体が仲良く真紅に染まったと思ったら、力なくその場にへたり込んだ。

 宝珠がこれ以上話を長引かせないように大人しくさせたのだろう。


「ハーゲンは、王位及び王位継承権を剥奪。懺悔の塔へ幽閉。ゲルトルーテは、寵妃及び本来の爵位を剥奪。宮廷魔導師館への預かりとする。また剥奪のち一週間は二人を同じ地下牢へ。真実の愛を貫いた、二人への最後の慈悲を与える」


 二人は顔を見合わせた。

 剥奪や幽閉についての文句より先に、そうした。

 案外、真実の愛は、本物だったのかもしれない。


「幽閉及び預かり期間は、現時点では未定。二人に反省が見られれば期間短縮もありとする」


 周囲がざわめき立った。

 二人は何と、手を取り合って喜んでいる。

 突っ込む気はない。

 ただ、ローザリンデが美しく笑っているので、言葉通りの意味ではないのだろう。

 期間短縮=死刑も十分に考えられた。


「被害者への補償は後日、順次手配するものとする。本日は以上をもって終了とする!」


 ローザリンデの言葉と同時に、かしゃーんかしゃーんといい音が響いた。

 ハーゲンとゲルトルーテに口枷と手枷が嵌められた音だ。

 ハーゲンは呆然としており、ゲルトルーテは暴れようとして、がっしりと両脇を固められていた。

 地下牢へと連れて行かれる様子を、会場の皆が静かに見守る。


『わたしは、ひろいんなのにぃいい!』


 口枷を嵌められたままでの絶叫は、皆の耳には届かなかっただろう。

 私も音としては認識できなかった。

 ただそう言っているのだな、と理解しただけだ。

 ハーゲンの消沈した様子には僅かに哀れみを感じたが、ゲルトルーテのぶれなさ加減はいっそ天晴れだとも思った。 

 某ファーストフードでハラペーニョソースが入っているハンバーガーを食べました。

 辛かったです。

 食べられない辛さではなかったのがせめてもの救い。

 いつもは辛いですと説明があるものは食べないのですが、組み合わせが好みだったんでつい……。

 三種類コンプしたいのですが、制覇する前に販売期間が終了する気がしてなりません。


 次回は、旦那様の謀略は無敵です。断罪劇の幕が下りた後で。(仮)予定です。


 お読み頂いてありがとうございました。

 引き続き宜しくお願いいたします。

 

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