旦那様の謀略は無敵です。そして、断罪劇の幕が上がる。 2
最近、やり直し&ループタグの作品を読みまくっています。
ループものも何時か書いてみたいジャンルの一つです。
短編じゃどうしても収まらないのが困りものですね。
何を言われているのか理解できないらしい、呆然とした眼差しのゲルトルーテを、凝視したままハーゲンが宣う。
「ゲルトルーテ・フライエンフェルス! 貴様は禁忌たる魅了スキルにより、我ら高貴な者を悉く魅了し、堕落させた! その罪は重く、死罪なぞ許されぬ。よって、宮廷魔導師館での永劫預かりの罰を与える!」
またしても蜂の巣が突かれまくる騒ぎが起こった。
これは納得いかない系のブーイングなのかな?
「もどきが魅了スキルたるものが禁忌であること。何故の禁忌なのか。理解した上で使っていたのであれば、無難な罰じゃ」
「ん? 彼女って自分の魅了スキルがどんなものであるか、認識していたのかしら?」
「しておらぬじゃろうなぁ。全く、アリッサと同じ異世界転移者とは思えぬ愚物じゃ」
「え! 異世界転移者?」
「正確には憑依型というのかのぅ。もともとのゲルトルーテ・フライエンフェルスの体を異世界人が乗っ取った。もしくは交換されたのじゃ」
「交換……向こうにはゲルトルーテ・フライエンフェルスの意識を持つ某かがいるの?」
「あるいはそうかもしれぬ。御方様に聞かれてみてはどうじゃ?」
尋ねるまでもなく返事は即座に届く。
いませんよ。
完全なる憑依型ですね。
本来のゲルトルーテ・フライエンフェルスの意識は消滅しています。
もともとろくでもない性質の女児だったようですが、異世界人と波長があったのかもしれませんね。
完全融合が果たされたのですよ。
こういったケースはレアですが、幾つか例はあります。
完全融合の例は更にレアですが、こちらも存在します。
だから今のゲルトルーテ・フライエンフェルスは、乙女ゲームを攻略するのと似た心持ちで、何の疑問も持たずに王たちを魅了し、籠絡させたのです。
魅了スキルの存在は知っていても、それが禁忌だと理解していても、自分が魅了スキルを使っているなんて、想像すらしていません。
ただ自分は誰からも好かれる特別な存在だから、高貴な方に愛されるのが当たり前! そう信じて疑わなかったのですよ。
うわー。
想像以上にややこしかった。
「……御方様からお答えをいただけたのかのぅ」
「はい。想像していたよりも面倒な状態みたいですね。彼女は異世界人に憑依されてのちに、完全融合を果たしました。その結果、自分は特別な存在だから誰からも愛されて当たり前! そう思い込んでいたようです」
「狂人か病人か、判断に迷うのぅ」
「ある種の精神的な疾患にはなるのかもしれませんが、こちらの世界ではたとえ精神的な疾患であったとしても、裁かれる対象になるのではないのですか?」
「情状酌量はあるが、裁かれるな。今回の場合は罪の自覚が欠片もないようじゃし、しでかしたことがことだからのう……結局の所。宮廷魔導師館への永劫預かりの罰が、無難かもしれぬ」
「宮廷魔導師館への永劫預かりの罰とは?」
「……宮廷魔導師も一流となれば化け物揃いじゃ。我より長く生きておる者も少なくない。不老不死が叶った者すらおる。そんな者たちが行き着く先は……真相究明。そこへ罪持つ者として放り込まれたならば、その役割は一つ。真相究明の実験材料じゃ」
ざわわっと怖気が走る。
何となく想像はできていたが、言葉にされると悍ましさが倍増した。
「魅了スキルは未だ真相究明が叶っていない有名スキルの一つじゃ。もどきは少々不憫になるほど長くえげつなく、実験材料として扱われるのじゃよ。罰が確定したならば、の話じゃがな」
「エリスさんは確定しないと?」
「正直微妙なところじゃのぅ。もどきを憎悪する者は多くいるのじゃ。宮廷魔導師ばかりが狡い! となりかねぬじゃろうて」
あぁ、なるほど。
ヴァレンティーンたちはその努力で元の場所とはいかずとも、それなりの地位に戻りはしたが、他の巻き込まれた人たちでは復帰は難しそうだ。
巻き込まれた人たちだけでなく、その身内もたくさんいると思うし。
それだけじゃ納得はいかないだろうね。
今のところ罰も与えられていないわけだし。
ゲルトルーテだけでなく、ハーゲンも同じようにヘイトを集めていそうだけど、ハーゲンは王だし被害者でもあるから、ゲルトルーテへの罰が納得いくものであれば、溜飲を下げるのかな。
まぁローザリンデが、それだけで許すはずもないだろうけれど。
エリスと二人ひそひそと話をしていると、ローザリンデがこちらを見つめているのに気がついた。
そろそろよろしいでしょうか? の眼差しだ。
エリスとの話が一区切りするのを待ってくれていたらしい。
私は小さく頷いた。
「皆様、どうぞお静まりくださいまし」
既にハーゲンの声が嗄れかけている。
げほげほと咳が止まらない。
そこまで頑張っても収まらなかった喧噪は、やはりローザリンデの涼やかな声音による一言で収まった。
「誰か、偉大なる王に喉を潤す物を」
メイドらしき一人がだだだっと走り寄って、ハーゲンに飲み物を捧げている。
随分と作法がなっていないメイドだが、大丈夫だろうか。
しかもハーゲンが飲み干しても、まだその場でハーゲンを見つめているのだ。
「下がれ」
「はい!」
メイドは目を輝かせて下がっていく。
スキップ?
スキップで移動するメイドって、斬新だわ……。
同僚らしいメイドが無表情で彼女の腕を引っ掴むと、扉の前にいる護衛に引き渡していた。
単純に普段から問題行動の多い勘違い系メイドだったのかな?
「相手にはしておらんようじゃが、もどきが幽閉されてから、ああした愚か者が後を絶たぬ。もどきが問題しかない女性だったが故に、弁えぬ者が多く出ているのじゃ」
あー私でも王妃になれる。
王妃が無理でも寵妃になれる。
むしろ寵妃になって好きに生きたい。
そんな、頭大丈夫? と苦笑して肩を叩いてやりたくなる思考の持ち主が、大半の良識ある人たちを悩ませているのだろう。
「偉大なる王よ。寵妃様は御自身が魅了スキルをお持ちと存じ上げなかったそうでございますわ。過去の事例を考慮いたしますと、情状酌量があっても……よろしゅうございましょう?」
「そんな馬鹿なことがあってたまるものか! 知らなかったと? あれだけの罪を犯しておいて!」
「はい。寵妃様は幽閉時に説明の際、担当の者へ幾度となく申しておられたようでございますが……」
知らないとか言わないよな?
知っていないとおかしいからな?
とローザリンデからプレッシャーをかけられているのに、ハーゲンは気がついていないらしい。
隣にいるヴァレンティーンは唇を噛み締めて、愚かさへの嘲笑を必死に堪えている。
「知らぬわ! 知っていたとしても、それは偽りなのだから、意味がないだろう!」
知らないとか、ないわー。
偽りでもないわー。
何より、意味がないとかないわー。
ありまくりだわー。
ですね。
夫も相槌を打つほどの暴言にも、ローザリンデは動じない。
「では、真実の宝珠を使われますよう愚見申し上げますわ」
嘘を吐くと見抜かれる系のアイテムかな。
異世界裁判ではよく使われるよね。
スキルかアイテムか、魔法ってパターンもあるけど、国宝アイテムとして存在する設定は多いと思う。
「このような大罪人に使うなど!」
「大罪人だから使うのですわ、偉大なる王よ」
「愛しき者がそこまで言うのなら仕方ない。ローザリンデよ。大罪人にまで慈悲を与える必要はないのじゃぞ? そなたが弱者に優しい者だとはよく理解しておるが……」
慈悲じゃないから。
むしろ逆だから。
って言うか、私情を持ち込みまくらないでください。
ローザリンデが可愛そうですぅ。
迷惑千万なんですぅ。
つい唇を尖らせそうになってしまった。
見ればヴァレンティーンも似たような様子だ。
しかしローザリンデは動じない。
嫋やかな微笑を浮かべたままで、ハーゲンの言葉には一切反応せずに告げる。
「どうか、真実の宝珠の使用を許可くださいませ。偉大なる、王よ」
そういえば、先刻から皆が口を揃えてハーゲンを偉大なる王よ、と呼んでいる。
何か意味があるのだろうか。
普通なら、陛下と言いそうだが。
「……エリスさん。皆さんがしつこく『偉大なる王』と言っているのには、何か意味がありますか?」
「ああ、あるぞ。この世界でも有名な愚王が、自分をそう呼ばせていたのじゃよ。子供でも知っておる有名な話なのじゃが……偉大なる王は、全く気付いていないようじゃ。最悪の愚王と同じ扱いをされているのだと」
そこまで屑なんだ……ゲルトルーテと一緒にいて感化されちゃったのかな。
もともと素養があって、魅了スキルも手伝っていたなら十分あり得る話だ。
神殿の偉い人かな? と思われる人物が恭しく、バスケットボールくらいの水晶を持って歩み寄り、王の前に設置されたテーブルの上に置く。
「真実の宝珠、発動の許可を願い奉りまする」
「うむ。許可しよう」
「は」
儀式的な荘厳さはなく、権力を見せつける道具のように扱われるのに鼻息を荒くしてしまいそうだ。
宝珠に意思があったら、文句の一つも言いたいに違いない。
許可を得た神殿の人が何やら呪文を詠唱する。
ふおんと音がして、宝珠が柔らかな虹色の光を纏った。
「王よ。宝珠を発動いたしました。どうぞ存分に御利用くださいませ」
あ!
こいつは偉大なる王と言わない。
……ってことはハーゲンにはこのままでいてほしい派かな?
神殿がどれほどの力を持っているのかわからないが、厄介かもしれない。
ハーゲンが玉座から降りてテーブルへと近付く。
その少し後ろに拘束した上で立たされていたゲルトルーテが、思いもかけぬ早さでハーゲンに走りより、その体を頭突きで倒すとのし掛かった。
手首の拘束をもろともしない特攻は、見事の一言に尽きる。
呆気に取られているハーゲン。
護衛が動かない不思議。
口枷のせいか鼻息が荒いゲルトルーテ。
思わず扇子を取り出したローザリンデ。
ヴァレンティーンは隠しもしない大きな溜め息を一つ。
「……ゲルトルーテ・フライエンフェルスの挙動を抑制す。エリス・バザルケットが命じるまで、会話以外の挙動を禁ず」
呆れかえったエリスが低く囁けば、ゲルトルーテの体がハーゲンにのし掛かったままで、硬直する。
おぉ。
スキルかな。
格好良い。
見惚れているうちに、エリスが指示を出し、ゲルトルーテの体は宝珠の前に立たされる。
ハーゲンは憎悪しかない眼差しをゲルトルーテに向けながら、テーブルを挟みゲルトルーテに向き合った。
蒸し暑くなってきたので、そろそろ夏のホラーの準備を始めないと。
今年のテーマはラジオだそうです。
思い浮かぶ内容が、どこかで読んだものばかりな気がして困っています。
そういえば、異教の神ものホラー映画が流行っていると聞きました。
儀式シーン必須で作っていただきたいものです。
次回は、旦那様の謀略は無敵です。そして断罪劇の幕が上がる。3(仮)予定です。
お読み頂いてありがとうございました。
引き続き宜しくお願いいたします。




