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旦那様の謀略は無敵です。断罪の前の一コマ。前編。

 コロナワクチン接種の3回目は、比較的スムーズに取れました。

 金曜日に取れたので、土日大人しくしている所存です。

 食料を買い込んでおかねば……。



 王城へは堂々と正門から訪れた。

 目に眩しい全身鎧を着た門番が、ホークアイとモリオンに動揺している。

 咎めようとしないだけ、さすがは王城の門番を任されている者といったところか。

 馬車の窓からバザルケットが顔を出す。

 にやっと笑えば、門番から安堵の気配が伝わってきた。

 全身鎧を着ていても、目の部分はこちらからも見えるようになっているので、感情はそこまで読み取りにくくもない。


「そういえば正門から入るのは初めてなんです」


「王城内に転移させられたのじゃったな。全く無茶をしおる」


「そうですね。主人からの言葉がなければ怒りの行く先に迷うところでした」


「……自分はまだ会っていないが、他にも三人いたようじゃな?」


「ええ、いました。顔見知りというだけの関係です。できれば二度と会いたくありません。彼女らがどうしているかなんて、聞かなくてもわかりますし。そういう、方々なのですよ」


 苦笑の意味を二人は正確に読み取った。

 配慮不要の真意も伝わっているだろう。


「では……その三人には会わず、王にも会わず、寵姫もどきにも当然会わず、元嫡男たちにだけ会う……それでいいんじゃな?」


「私はそれで。ですが、貴女方が倣う必要はありませんよ?」


「聖女もどきには、後ほどお会いすることになりましょう。それで十分ですわ」


「寵姫もどきがいたからか、聖女もどきが酷すぎたのかはわからんが、王の手はまだ、ついておらんようじゃぞ?」


「ついておりましたら、見限りましたわ。もっとも、男性としての王は、そもそも信用しておりませんもの」


 はははは、ふふふふ、と不穏な笑い声が馬車に響く。

 エリスも男性問題で嫌な経験をしていそうな雰囲気だ。

 立場上致し方ないのだろう。

 止まらない笑い声には、奇妙な同族意識が感じられる。


「アリッサのエスコートは自分がしよう。ローザリンデ嬢のエスコートはさて……くっく。どうやらよりどりみどりのようじゃぞ? 人気のある女はつらいのぅ」


 正門をくぐってしばらくすると、ホテルのような建物の前に馬車が止まった。

 迎賓館に当たる建物だろうか。

 窓から外を覗いたエリスが、ローザリンデを揶揄う。

 同じように馬車から外を覗いたローザリンデは柔らかく笑った。


「お久しぶりでございます、ローザリンデ嬢。エスコートの栄誉を賜れますでしょうか?」


「喜んで、ヴァレンティーン様。お元気そうで何よりですわ」


 すっと差し出した、優美なローザリンデの手を取ったのは、片眼鏡が知的な男性。

 宰相の元嫡男あたりだろうか。

 地位も高そうに見えるしね。


 他にも侍っていた男性が、こぞってローザリンデを褒めそやす。

 世辞ではない気安さが見て取れた。

 どうやら貴族的嗜みが発動した結果、全員が大人の対応を取ると決めたようだ。

 ローザリンデの性格上、媚を含んだ謝罪など、事態を余計悪化させるだけなのだと、重々承知しているのだろう。

 やはり彼らは、最前線に復帰すべき人材だ。

 贖いは最前線でこそ発揮されるものも多い。

 得るものも多いが、失うリスクが高いのが最前線なのだから。


「さぁ、アリッサ。まいろうかのぅ」


 エリスのエスコートで馬車を降りる。

 私の存在を教えていなかったのだろうか。

 全員が目を見開いている。

 口を大きく開けた者もいた。


 我に返ったのは騎士団長の元嫡男らしい男性。

 エスコートを申し出ようと、一歩を踏み出す。

 私が断る前に、エリスが断った。


「エスコートは我がする。不要じゃ」


「ですが、高貴な御方のエスコートは男性がよろしいかと……」


「不要じゃと申しておる。それとも、エリス・バザルケットのエスコートが礼を失するとでも、申すのか!」


「っつ! 大変失礼をいたしました。バザルケットの御当主とは存じ上げず、無礼をお許しくださいませ」


 騎士の謝罪に相応しい直角のお辞儀。

 

「まぁ、良い。高貴な方は寛容じゃ。感謝するのじゃぞ?」


「は。高貴な御方様には感謝を申し上げます」


 何かを言おうとして、夫に止められる。

 この場で言葉を発してはいけないらしい。

 私は鷹揚に頷くだけに止めた。


 侍従長の元嫡男による案内に従って、ゆるゆると移動する。

 通りすがりの者たちは皆等しく頭を垂れて、何やらひそひそと囁いていた。

 囁きはローザリンデの帰還を喜ぶものと、男性たちに対しての思うところ、私とエリスが誰なのかを推測するものがほとんどだった。


「王城の鳥はよう囀るのぅ」


「ふふふ。エリス様とアリッサ様が気になって仕方ないのですわ!」


「ローザリンデ嬢に関する声が一番多いようじゃがな」


「あら? そうでございますの。私の耳にはお二方を賛美する声しか届きませんのよ」


「随分と浮かれておるようじゃが、大丈夫かぇ?」


「そう見えるのであれば、安心できますわ」


 可愛らしく微笑むローザリンデに周囲が感嘆の溜め息を零す。

 久しぶりだからか、無防備に微笑むローザリンデが珍しかったのか、男性たちも似たような溜め息を吐いている。


「こちらにございます」


 豪奢な扉が開かれた。

 品良く高価そうな美術品が配置された中央に、これもまた年代物と思わしき大きなテーブル。

 テーブルの上にはロベリートスで統一されたアフタヌーンティーセットが用意されていた。

 使われている食器も全てロベリートスがあしらわれているのだから徹底している。


「アリッサ様は、ロベリートスはお好きでしょうか?」


「ええ。果物の中でも特に好ましく思っております」


「私も大好きですわ! 好きな物がお揃いなのは嬉しゅうございます」


 ローザリンデの言葉に男性たちは驚きを隠せない。

 たぶんここまで喜びを露わにするのが珍しいのだろう。

 貴族令嬢の嗜みでは、はしたないとされている表現らしいからね。


「お召し上がりの前に……ケープを着用になられますか? お召し物を汚さぬようにと誂えた物にございますが……」


 恭しく広げられたのはドレスがすっぽりと隠せるロングケープ。

 しかも美容室などでよく見かける、腕が通せる造りのようだ。


「まぁ! そんな素敵な物がありましたのね?」


「フライエンフェルスのとある御令嬢のために作ったんだよね。ほら、あんまりにもドレスを汚すもんだからさ」


「特注品にもかかわらず、食べにくいからと、一度も使われませんでしたがね」


「作るに至った経緯はさて置きまして。高貴な御方様は貴重な装いを大切になさると伺いましたものですから……」


「ええ、そうですわね。アリッサ様、如何いたしましょうか?」


 この場のために作らせたのだろう。

 断りを入れる理由など一つもない。


「心が尽くされたおもてなしですもの、有り難く使わせていただきますわ」


 ふわっとケープがかけられる。

 多分防水加工もほどこされているのだろう。

 これで安心して美味しくいただけるというものだ。

 ちなみに、エリスもつけていた。

 自分は粗雑だから今後も使用したいのぅ、と言っていたので、案外広まるかもしれない。

 親しい者限定のお茶会でなら、恥ずかしくもなさそうだ。

 おしゃれなケープを追い求める者も現れる気がする。


「では、ローザリンデ嬢。乾杯の音頭をお願いできようか」


「久しぶりの再会と、新たなる出会いを祝して、乾杯!」


 フルートグラスに入っていたのは、ロベリートスのシャンパン。

 ふわっと新鮮な果物の香りが鼻を擽る。

 お代わりを望みたい飲みやすさだった。

 夜蝶のはばたきでいただいたシャンパンより、香りも甘みも強い気がする。

 

「乾杯から間をおかずに恐縮ではございますが、自己紹介をさせていただきたく存じます。この者の紹介も許されましょうか?」


 元侍従長の嫡男は基本的には紹介の対象外なのだろう。

 私は軽い会釈で応えた。


「クサーヴァーと申します。現在お三方の元で働いております」


「ライヒシュタイン家は代々侍従長を勤め上げている家系なんだけどね。クサーヴァーの廃嫡撤回はしない方向とのことなんだ。僕が言うのもおこがましいけれど、禊ぎはすんでいるから、その点は安心してほしい。僕はイェレミアス・リーフェンシュタール。先日どうにか宮廷魔導師には返り咲けたんだ! 魔法関係で聞きたいことがあれば遠慮なくどうぞ!」


「相変わらずの言葉遣いですわね、アス。アリッサ様がお優しい方であることに感謝なさい」


「ローザの友人っていうか、親友なんでしょ? なら、いいよね。あ! 信頼できない人物が一人でもいるときは、ちゃんと取り繕うからさ!」


 砕けた口調が嫌味にならない男性だ。

 母性本能が擽られる系なのだろう。

 夫の駄目出しがないところをみるに、この態度に裏はない。

 魔法やスキルに精通しているに違いないので、いろいろと教授してもらえたら嬉しいのだが。


 守護獣たちが同席するのなら、構いませんよ?


 おや、珍しい。

 夫から許可が下りた。

 私が考えている以上に、イェレミアスは優秀な人物らしい。


「アスときた日には、いつか不敬罪で断罪されるにちがいないな。我が輩はユルゲン・フィードラーと申します。現在はヴァレンティーンの護衛を務めております」


「まぁ、騎士団には戻らなかったの?」


「有り難いことに部下たちは嘆願書を出してくれたんですが……親父……父が許しませんでした。もっとも父の許しがあっても戻るつもりはありませんでしたよ。それだけのことを、しでかしておりますから」


 苦笑を浮かべたユルゲンは、部下を大切にする上官だったのだろう。

 色恋で道を踏み外した上官のために部下が嘆願書を出すなんて、そうそうない。

 慕われる性質であるのなら、騎士団に戻るべきだと思う。

 思うが、何も騎士団に囚われなくてもいいのかもしれない。

 ただ一護衛では勿体ないので、せめて護衛頭に昇進させてほしいところだ。


「そうは言うがな、ユルゲン。君の父君はやはり人の上に立つ仕事をしてほしいようだぞ?

 先日、そんな話を父経由で伺っているんだ。自分はヴァレンティーン・ローゼンクランツと申します。現在は文官として王城で勤務しております」


「王城での勤務は許されましたのね」


「幾つかの案件を通しまして、そちらが評価されました。愚かな私を慕ってくれた方々が共に尽力してくれたのですよ」


 ヴァレンティーンは穏やかに微笑む。

 彼もまた、部下たちに慕われる上官だったようだ。


 重罪を犯しておきながらも返り咲けるだけの、実力とコネが彼らにはあったのだろう。

 何より、反省の態度が受け入れられたのだ。

 四人のうち二人が心配との話もあったが、直接対峙してみれば問題点は感じられなかった。

 これだけ優秀な男たちを揃っておかしくさせたゲルトルーテ・フライエンフェルスは実に罪深い。

 彼女は彼らのように、反省し、再出発することが叶うのだろうか。

 残念ながら叶わない予感しかしないのが残念だ。

                                                                                                                                                                               


 

 まだ寒暖の差が激しいですね。

 花粉症の次はホットフラッシュか……自分の体調急変にもついていけない今日この頃です。


 次回は、旦那様の謀略は無敵です。断罪の前の一コマ。中編。(仮)予定です。


 お読み頂いてありがとうございました。

 引き続き宜しくお願いいたします。 

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