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旦那様の謀略は無敵です。満を期して王城へ。

 ヴァクラバ専門店がやってくると聞いて、開店前に並んでみましたが、ほしい個数は既に完売。

 その後で下調べ万全で買いに行ったコートと靴はサイズがないと言われ……。

 さらにセール中のスニーカーを買いに行ったら、こちらもサイズがないと……。

 結局ヴァルヴァラ多めの個数で購入し、スニーカーは取り寄せして、靴とコートは通販をさがすことにしましたとさ。

 


 襲撃者を縛り上げてから行った尋問の結果は、想像の範囲内だった。

 マルテンシュタイン家が手配したごろつき。

 フリーの暗殺者どころか、傭兵崩れですらない、ただの粋がっただけのチンピラ。

 しかも手配したのは次期マルテンシュタイン家当主というのだから笑うしかない。


「次期当主……武もない癖に武勇を語り、智もない癖に智略に溺れるゲスヤロウでしたわ」


 げすやろう!

 ローザリンデの口から出ると貶める言葉も、何故か品良く聞こえるから不思議だ。


「本当に……マルテンシュタイン家は救いようのない輩ばかりでございますねぇ……」


 バローが遠い目をしている。

 王城に務める実力者としては思うところがあるのだろう。


「彼の者たちには、普通を、一般を認識してもらうのに、一番労力を要するのですよ」


 ナルディエーロが冷笑を浮かべた。

 凄く似合う!

 ……それはさて置き。

 立会人として対峙する場面が幾度となくあったのだろう。

 愚かの極みとはいえど、公爵家。

 汚い金と最後の一線で切り捨てられる寸前の権力を使い、我が物顔で弩級の立会人を呼んだのだ。

 ナルディエーロも恐らく、一度ぐらいは対峙しておこうと考えたに違いない。

 どうやらそれを酷く後悔しているようではあるが、噂に惑わされるのがどれほど愚かなのかナルディエーロはよく理解しているから、苦渋の決断だったのだろう。


「まぁ、しっかり背後も吐かせた上に、証拠も揃っておるのだ。明日は大手を振って王城へ乗り込めば良かろうて」


「さもありなんですね! じゃあ、本日はここまででお開きにしましょうか、アリッサ?」


「ええ、そうですね。皆さんも今宵はゆっくり英気を養ってくださいね。明日は間違いなく、いろいろと面倒事にかかわらざるを得ない羽目に陥ると思いますので」


「くくく。一番アリッサが大変なのは間違いなかろうなぁ」


 バザルケットの言葉を聞き、いやいや一番はローザリンデでしょう、と裏手拳の突っ込みを入れたくなったが、ローザリンデも私を見てにこやかに笑っている。

 彼女のためなら、面倒事も多少は我慢しよう。

 私には夫もいてくれるしね!


 ええ、勿論ですよ。

 愚かが過ぎるようであれば、容赦ない干渉をしますから、貴女は安心して堪能してくださいね、ざまぁを!


 おぉ、ざまぁ。

 因果応報。

 世知辛い世の中にあって、なかなか目にできない自業自得に相応しい結末。

 夫が私を異世界へ送り込んだのはそもそも、めくるめくざまぁを体感させようとしたからだ。

 まだまだメインのざまぁには遠い気配がするが、今回の一件は前哨戦に相応しいものだろう。

 何しろ、次期王妃の名誉がかかっているのだから。


 ぱんとっ大きな音をさせて柏手を打った私は、〆の挨拶をこなす。

 それぞれ宿泊予定の部屋へと案内されて部屋を出て行く中で、バローとバザルケットが残った。


「最愛の御方様、不肖手前は、事前準備をいたしたいと思いますので、御前失礼させていただきたく存じます」


「立場上仕方ないのかしら? ゆっくりしていただきたかったけど、仕方ないですね。エリスさんも御一緒なのには驚きましたが……」


「バローでは足りぬ部分は自分で賄えよう。王に思う所はあれど、それ以上にローザリンデ嬢の不遇は、報われてしかるべきじゃからな」


「ええ、私もそう思います。罪のない公爵令嬢が娼館落ちなんて、物語の中だけの話でなくてはおかしいでしょう?」


「はい。全く以てそのとおりでございます。異様な出来事がまかり通ってしまうとは……魅了スキルの悍ましきことでございます」


「そうは言ってやるな、バローよ。御方とて、魅了は持っておられたであろう?」


「魅了スキルと、天性の魅了能力はまた別物でございましょう、バザルケット殿。不肖の身なれど、御方様と恥知らずな寵姫もどきを一緒にするほど、自分は落ちぶれてはおりませぬ」


「そう怒るでない。きちんと分けて考えておるならばいいのじゃよ。先の物言いでは、言質を取られる可能性が高いぞ? 聡明な王に仕えたくば、襟を正すのじゃな」


 王が聡明なのではない。

 聡明な王に仕上げるのは、周囲の力量にかかっている。

 何せ一度失敗しているのだ。

 二度の失敗はないのだと、バローとて重々承知の筈だ。


「この場でならば、この場でだからこその、お言葉なのでしょう、リゼット殿?」


「……最愛の御方様の寛容さには、頭を垂れて感謝申し上げます……」


 何とも形式美なやり取りだ。

 だが効果はあったらしい。

 バザルケットが柔らかく微笑む。


「そうでなくては。そうでなくてはならぬのじゃよ、アリッサ。いっそアリッサが王になれば、この国は未来永劫の繁栄を約束されるだろうにのぅ」


「聡明な王とローザリンデ王妃の治める国もまた、未来永劫とはならずとも繁栄いたしましょう。それで十分ではありませんか?」


 戯れ言にあえてのってみせる。

 二人の眼差しが穏やかに細められた。


「ええ。王の乳母として、国の民として、今後も今まで以上に尽くす所存でございます」


「自分はまぁ……気楽にやるとしようかのぅ」


 憎まれ口にも聞こえそうな言葉だが、狼族を統べるバザルケットの力は強い。

 ローザリンデの復帰にケチをつけそうな有象無象にこそ、彼女の名前は役に立つ。


「では、御前失礼いたします、最愛の御方様」


「ちと、行ってくるからのぅ」


 気合いの入ったバローの肩をバザルケットがぽんぽんと叩く。

 ふ、とバローの全身から余計な緊張が解けるのが見て取れる。

 私が想像しているよりも、良い関係なのだろう二人の背中を玄関から見送った。



 起床時から磨きに磨かれて王城へ向かったのは、なんと昼時。

 おなかが空きました……としょんぼりしていたら、三姉妹がせっせと食事を口へ運んでくれたおかげで、今は小腹が空いている程度。

 一緒に磨かれていたローザリンデは、楽しそうに三姉妹の給餌を受け入れていたが、普通は食べないものだと苦笑していた。

 気が利かないメイドがついたりすると、水分補給もないとか酷すぎる。


 メイドたちが総力を挙げて着飾らせてくれたお蔭で、私もローザリンデのそばに侍っても遜色ない見栄えとなった。


 私とローザリンデが着ているドレスはモチーフ違いの同じデザイン。

 御令嬢が大きなパーティーでこぞって着そうなプリンセスラインだ。

 パニエでふわっと膨らませているので、ボリューム感が凄い。

 私のモチーフは白百合で、ローザリンデは白薔薇。

 髪の毛はそれぞれの生花で飾られている。

 花の冠を被っているように見えるだろう。


 肩出しは夫から却下されたので、肩から手の甲までが、花の刺繍が施されたレースに包まれている。

 代わりにとばかりに背中は大胆に露わになっていた。

 夫のボーダーラインが時々理解できない。

 ローザリンデ曰く、うなじから背中のラインは、デコルテと同じくらい磨かれるので、露出するデザインは少なくないとのことだった。

 一人なら心許ないが、ローザリンデも同じ露出なので心強い。


 アクセサリーは、ダイヤモンド、真珠、金をふんだんに使った物で重い。

 ローザリンデも、ここまでつけたのは久しぶりです、と言っていたので結構な量なのだろう。

 イヤリング、チョーカー、コサージュ、ブレスレット、指輪に、初めてつけるトゥーリング。

 足の指につけるリングです。

 つけようとした途端、背後に夫の気配が濃厚にあって驚かされる。

 トゥーリングをつけてくれたのは彩絲の手だったけれど、震えていたので夫の気配を感じたのかもしれない。

 私としたことが、トゥーリングをプレゼントしなかったなんて! と悶えていたので、好みに合ったようで何より。

 向こうに戻ったら、全ての足の指用に揃えられているだろう。

 一度に全部つけてください! と言われないと信じたいかな。


雪華の手を借りて屋敷から出れば、ホークアイとモリオンが大きな馬車に繋がれて待っていた。

 王城から手配された馬車らしい。

 中にはバザルケットが乗っていたので、安心して乗り込む。


 私の馬車には、バザルケット、ローザリンデが乗った。


「ふむ。二人ともよう似合っておる」


「バザルケット殿も大変美しゅうございますよ。狼族の色彩鮮やかな刺繍には、何時でも驚かされます」


「ローザリンデ嬢は目が高い。これは我が一族随一の縫い手が刺したものじゃ」


 王城で着替えたのだろうか。

 バザルケットはハンガリーの花刺繍が施されたワンピースに、よく似た物を着ていた。

 大ぶりの花に囲まれた銀色の毛並みが美しい狼がこちらに向かって微笑んでいる。

 一枚の絵画を見ているかのような美しさだ。


「若かりし頃の自分を刺したものじゃ。最近はとんと着ておらなんだが、たまにはよかろうて」


「まぁ、素敵ですわ。ありがとうございます、バザルケット殿」


「我が一族が何人か参加するようじゃ。バザルケットではなく、エリスと呼ぶがいい」


「エリス嬢?」


「これ!」


 花冠が損なわれないように、優しい拳骨が落とされる。

 ふわりと百合の香りが強くなった。


「肩を張ってないのは良い傾向じゃがの」


「エリス様。パーティーの前に王には会わねばなりませぬか?」


「ローザリンデ嬢次第じゃのぅ。王は会いたがっていたようじゃが?」


「正直に申し上げますと、迷っております。それに王より先に会いたい者たちもおりますし」


「ああ、元嫡男たちか」


「はい。そちらは叶いましょうか」


「くっく。雁首揃えて待っておるぞ」


 バザルケットが不穏な笑い声をたてた。

 何か、したのだろうか。

 何かしたのかもしれない。

 ローザリンデと私に対して、失礼をしないような、躾を。


 元嫡男たちとの面通しに、少々不安を感じる私とは裏腹に、ローザリンデは安堵した表情を浮かべていた。



 

 

 ここ数日寒いせいでまたしても体調がおかしくなってます。

 暑いか寒いかわからないのは困りますね。


 次回は、旦那様の謀略は無敵です。断罪の前の一コマ。前編。(仮)予定です。


 お読み頂いてありがとうございました。

 引き続き宜しくお願いいたします。

 

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