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報われる至福。異国情緒溢れるお茶会。2

 前回のタイトルに前編とつけましたが、ドンドコ長くなるので1に修正しました。

 最終的に幾つになるんだろう……5以上にはなる気がします。

 和風アフタヌーンティーに行きたいなぁ……。



 会話の口火を切ったのはバザルケット。

 生きた歳月を考えればナルディエーロが年上なのだが、若々しく見える ナルディエーロと老婆にしか見えないバザルケットでは、バザルケットが年上の気がしてしまう。

 そうでなくともナルディエーロからは感じられないバザルケットの寛容さが、本来の年齢を惑わせるのかもしれない。

 ローザリンデなど遠く及ばない年月を生きる方々であるのは、間違いないのだが。


「王宮の混乱もローザリンデ嬢の帰還で落ち着かれるであろうなぁ」


「そうですわね。あの女の断罪には私も呼んでいただけたなら、存分に弩級立会人として仕事を全うさせていただきますわ」


「恐縮でございますわ。バザルケット様にも、同席いただけたなら光栄でございますが……」


「うーん。場違いな気がするけれどねぇ。ローザリンデ嬢が望むならば吝かではないとは思っておるよ」


 肯定的な返答を聞き心の中で胸を撫で下ろす。

 社交界から追放されたローザリンデの後ろ盾は多いに越したことはない。

 弩級立会人、狼族最後の純血腫。

 そのどちらかだけでも、ローザリンデの変わらぬ、どころか以前以上の力を示せるのだけれど。


「では是非に。御同席いただきたくお願い申し上げますわ」


 苦労して作るまでもない自然な微笑を口元に残しながら、アリッサを視界の端に映す。

 アリッサは飲み物を選んでいるところらしかった。

 ローザリンデの目線に気がついたのだろう。

 人の心を寛げさせてしまう、無意識だからこそ尊い微笑を浮かべたまま、アリッサが口を開く。


「皆様が普段嗜まれておられるアフタヌーンティーにおける、紅茶の立ち位置にある飲み物です。私は日本茶と認識しておりますの。玉露、ほうじ茶、抹茶、粉末茶を用意しておりますわ。どれも好ましい味わいですので、皆様には菓子や料理を楽しみながら全部を味わっていただきたいと思いますのよ」


 目の前に手早く準備された取っ手のない小さなカップには、味見用だろうか。

 四種類の日本茶が入っているらしい。


「……自分は抹茶が一番好ましいです。見た目からしてスープのようなのに、飲めばまろやかな苦みと渋みがあり、それ以上に感じる甘みがたまりません!」


 透理が感極まった声で喜びを伝える。


「玉露は繊細な味かと。旨味も強いので高貴な方が好まれるように思います」


 無礼講のお茶会でもバローの声は固い。

 立場上仕方ないのだと理解していても、もう少し心を寛げてくれればいいのにと願う。


「粉末茶が、その……茶葉その物をいただいているようで、エルフ族に卸していただけるのならば、定期的な需要が見込めます」


 キャンベルは商売の提案までし始めた。

 それだけ魅力的なのだ。

 

「お好みの物を存分に、堪能くださいませ。玉露は王城に献上しても構いませんし、粉末茶もエルフの方々へ卸しても構いません。彩絲が相談を受けますわ」


 見つめ合った二人だったが、キャンベルが先を譲ったようだ。

 バローが献上ではなく販売も受ける旨などを、伝えている。


「私はほうじ茶が一番好きですの。万人受けする安価なお茶ですわ。妊婦さんでも安心して飲めるので、販路は広そうですわね」


 何故か透理の目が輝いている。

 目端の利く商人のようだ。

 守護獣屋を営むのだから、そう感じるのは正しい評価なのかもしれない。


「さぁ、ローザリンデ様。どうぞ箱をお開けになって?」


 広々とした円卓の上、一分の隙もないテーブルセッティングがされている。

 どれもこれもが目新しい物ばかりの中で、ひときわ目を引く箱を開けるようにと勧められる。


「では、私もほうじ茶をいただけますでしょうか?」


 ローザリンデの言葉を聞いたフェリシアが普段使うティーカップと同じサイズの、取っ手がないカップにほうじ茶が入ったものを、手早く邪魔にならない場所へと置いてくれる。


「この透かし彫りも素敵ですわねぇ……」


 蓋に手をかけて開ける前に、箱正面に施された繊細な細工を見つめる。

 瑞々しいまでの百合を表現した箱の隙間からは、美味しそうな料理や菓子も垣間見えた。


「私の国では三段重と申しまして、これを持ってピクニックや花見などにも行きますの」


「まぁ、素敵ですわ!」


「遠出は難しいと思いますが、近場へのピクニックや花見などに御一緒いただけたら嬉しゅうございますわ」


「嬉しい御提案恐縮ですわ。そんな素敵な行事があるのなら、日々の執務も乗り越えられましょうとも!」


 はしたなく拳を握り締めたところで、ここには咎める者などいない。

 あのバローでさえも、微笑ましいものを見つめる眼差しをローザリンデに向けるのだ。


「王宮で豪奢な料理やデザートには見慣れたつもりでしたけれど……これは、なんと申し上げればよろしいのでしょう?」


「感じるがままでよろしゅうございましょう。例えば美しいと、その一言だけでも」


 穏やかな声に小さく頷く。

 王子妃、王妃教育で得たどんな美辞麗句でも表現できない。

 とすれば、アリッサの言うようにただ一言、美しい、と告げればいいのかもしれない。

 その一言に、ローザリンデが今抱えている感動を詰め込めばいいのだ。


「……美しいだけでなく……美味しそうにも見えますわ」


「ええ、これは全て食べるものですもの。美味しそうに見えるのもまた、嬉しい感想の一つですわ」


 三段の箱を上から一つずつ手にして並べる。

 思わず溜め息のでる美しさで、様々な料理が盛り付けられていた。


「一の重には前菜、二の重には食事、三の重には甘味が詰め込まれております。どうぞ、堪能くださいませ」


 勧められるがままに、一の重に入っていた一つの前菜を口にする。

 一口で食べられるサイズだ。

 見た目はマローン(栗)に似ている。


「ん!」


 しかし味は濃厚なシュリップだった。

 たぶんシュリップをすり潰した食感だろう。

 だが味はシュリップだけではない。

 記憶が正しければ魚から取った、出汁と呼ばれる汁を混ぜ合わせているのではないかと考える。

 シュリップそのものを食べるより、味が凝縮していて美味しい。

 一口サイズが惜しまれる。


 ほうじ茶でシュリップの濃厚な風味を適度に飛ばして、次の料理に手を伸ばす。

 一見つやつやのサトイモッコ(里芋)だ。

 上には何やらソースがかかっている。

 王宮ではよくスライスしたものが饗された。

 これも一口で食べられる。

 迷って半分だけ囓ってみた。

 なんと、中に何かが詰められている。

 希少食材のクエックウェザ(フォワグラ)だ。

 滅多に食べられない独特の風味に舌鼓を打つ。

 ソースはたぶんミソソ(味噌)。

 それもホワイトミソソ(白味噌)だろう。

 ミソソがここまでクリーミーなソースになるとは驚きだ。


 今度は食べた経験のある白和えに手をつける。

 キヌソイ(絹ごし豆腐)の和え物だ。

 ふわふわの食感が他になく、ヘルシーなのもあって和食の中ではよく食べる一品。


 しかし、今回は初めて食べる組み合わせだった。

 更に単純なキヌソイの白和えではなかった。

 どうりで緑がかっているはずだ。

 白和えにはすり潰したスタッチも混ぜられていたのだ。

 白和えにもかかわらず香ばしい風味が残っているのが乙というもの。

 基本的には野菜を和えるのだと認識している料理なのだが、今回食べている白和えはなんと果物を和えていた点も目新しい。

 オレンジ色はパースィ(柿)、赤色はアプルン(林檎)、白色はペーア(梨)で間違いないはず……。


 和食では鉄板らしいだし巻き卵は、所謂、変わり種とされている種類らしかった。

 エグックの黄色に、レッドジンジャー(紅生姜)の赤色、コギーネ(小葱)の緑と実に鮮やかだ。

 小さな正方形なのは珍しい。

 断面図がよく見えるので、彩りも映える。

 レッドジンジャーの食感と辛みが、癖になりそうだった。


 山茶花の花に見立てているのはローストまるうし。

 見慣れた料理だが、味は驚くほど違う。

 これぞ和風! といった味付けだ。

 以前訪れた幻桜庵の主人が教えてくれた、ワビサビ(ワサビ)とソイソース(醤油)を適度なバランスで和えたソース。

 少量がかかっているだけなのだが、味が強い。

 もっともローストまるうしの、高級肉の風味も負けていないので、良い組み合わせなのだ。

  

 どれも一口で食べるのが寂しくなってくる美味しさだった。

 ほうじ茶を啜りながら周囲を伺うと、皆食べながらも商談に励んでいる。

 自分も参戦すべきだろうか? と首を傾げるも、ここでは無理をしないでいいのだと思い直す。

 アリッサも自分同様に料理を楽しんでいるように見受けられる。


 引き続き箱の中身を堪能しようと決めた。



 健康診断結果にがくぶる。

 再検査要請が二通も入ってました。

 とほほ……。

 サクッと行ってきます。

 近所に該当するお医者さんがあってよかったです。


 次回は、報われる至福。異国情緒溢れるお茶会。3(仮)予定です。


 お読み頂いてありがとうございました。

 引き続き宜しくお願いいたします。

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