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報われる至福。異国情緒溢れるお茶会。1

 映画安価日に映画館ヘ足を運びました。

 すみっこに生息している子たちが、今回も可愛かったです。

 前回は大泣きして大変だったのですが、今回はほろり程度ですみました。

 ふぅ。

 

 


 見事な細工が施された爪を、目の高さまで持ち上げて凝視する。

 爪の一つ一つに形の違う桜が描かれていた。

 ネイルアートという技術らしい。

 初めて見る技術だ。

 貴族夫人や令嬢たちはこぞって魅了されるだろう。

 美しくも繊細な技術。

 アリッサが齎したものだろうが、それを既に自らの技術として完璧に身につけているリス族の三姉妹には舌を巻くしかない。


「失礼いたします」


 ノックのあと一拍おいて扉が開かれる。

 漆黒に見惚れるしかない天使族の女性が立っていた。

 御主人様から申しつけられまして……と三姉妹が、屋敷の住人について一人一人説明してくれた中に、当然彼女もいた。

 希少な漆黒を纏う天使族のフェリシア。

 その武勇と功績は幼い頃から聞き及んでいる。

 何時か会えたなら僥倖だと思っていた伝説級の一人。


 その心身ともに美しい女性が、天使族の中では忌み子として疎まれた挙げ句に、奴隷として売却されたと聞いて心から驚いた。


 天使族の中では特有の価値観があると噂程度では聞いていたのだが、まさかそこまで外見だけで判断してしまう愚かな種族だとは想像もしていなかった。

 たぶん大半の人族が勘違いしていると思う。

 天使族が崇高な種族であると。


「茶会の準備が調いましたゆえ、足をお運びいただけますよう、主人より伝言をお持ちいたしました。不肖、天使族がフェリシアが、ローザリンデ様のエスコートを命じられましたが、お許しいただけますでしょうか」


 すっと優美な所作で腰が落とされ、すべらかな腕が伸ばされる。

 正直無骨な騎士のエスコートとは比べものにならぬほど、心が躍った。

 頬などは押さえようもなく紅潮してしまっている。

 視界の端に映るメイドですら、ローザリンデと同じ状態だった。


「許します。アリッサ様の護衛騎士にエスコートされるなんて、大変な栄誉でございますわ」


 緊張する手を、フェリシアに預ける。

 手袋越しなのが悔やまれるほどに、美しい掌だ。

 傷一つないのは、フェリシアの強さの証なのだろうか。


 リス族の三姉妹は慣れた様子で、フェリシアの肩に飛び乗る。

 これが基本的な彼女たちの移動法らしい。

 メイドも頬の紅潮を隠せぬまま、けれど公爵令嬢の専属メイドとして相応しい矜持を保ちつつ、ローザリンデの背後に付き従う。


「まぁ!」


 案内されたのは和室と呼ばれる、時空制御師が広めた建築様式の部屋。

 い草の香りがふわりと優しく鼻を擽った。

 王都では多くない建築様式だが、地方、それも保養地には大変多く取り入れられている。

 ローザリンデも幾つかの和室を利用した。

 けれど、今目にしている和室ほどに洗練された部屋は初めてだ。


 フェリシアに先導されて椅子に座る。

 畳の上に座椅子が置かれている様式だ。

 座布団の上に座った経験もあるが、座椅子の方が座りやすいので嬉しい。

 上手な正座の仕方も教わったのだが、どうにも足が痺れてしまうからだ。


 参加者はローザリンデが最後だったらしい。

 空席がなくなった。

 和室にはローザリンデの他にもゲストがいた。

 見知っている者も、知らぬ者もいる。

 けれど警戒心はない。

 警戒せねばならぬ相手ならば、そもそも屋敷にすら入れないだろう。


「それではこれより、時空制御師の最愛アリッサ主催の茶会を開催いたします」


 簡素な挨拶が好ましい。

 この挨拶に延々と自慢をいれるのが貴族流なのだ。

 最初が肝腎なのは確かなのだが、勘違いしている貴族が多すぎて笑えない。


「初対面の方もいらっしゃるので、乾杯の前に簡単な御紹介をさせていただきます」


 乾杯はスパークリングワインらしい。

 メイドたちが背後で瓶を持って待機している。

 しかし初めて見るラベルだ。


「まずは、公爵令嬢ローザリンデ・フラウエンロープ様。長い憂いが晴れて近日中に王宮へ戻られる予定になっております」


 身分が高い順の紹介で間違いなさそうだ。

 ローザリンデは椅子を引いてくれたフェリシアに会釈をして、立ち上がって軽く腰を落として首を傾げてみせる。

 自分より身分が下の者への挨拶では最上のものだ。

 椅子に座る全員が頭を下げる。


「続いて、弩級立会人のアーマントゥルード・ ナルディエーロ様」


「時空制御師の御方からは沙華を、アリッサ様からは柘榴の名を賜りましたわ。皆様はどうぞ、柘榴とお呼びくださいませ」


 立ち上がっての優美なカーテシー。

 がんと頭を殴られたような衝撃を受ける。

 自分がかつての栄光以上の地位を持ってしても、叶わぬ名前を聞いてしまったからだろう。


 立会人の中でも、ナルディエーロの名前は有名だ。

 権力者よりも権力を持つ者として。

 また、不正を決して許さぬ者として。

 ナルディエーロの前で、どれほどの貴族どころか王族までもが死へと追いやられただろう。

 それは潔癖として名を馳せ、後ろ暗いことなど何もないはずのローザリンデでも、ぞくりとした寒気を覚えるほどだ。


しかも時空制御師とアリッサの二人から名前を与えられ、受け入れている。

 それだけでお互いを信頼し合っていると知れるのだ。

 ナルディエーロと縁を結べるのは嬉しいが恐ろしくもある。


「続いて、露天売りの狼族エリス・バザルケット様」


「様なんて、つけられるほどの者では、おらんのじゃがのぅ」


 よっこらせと腰を上げて、頭が下げられる。

美しい銀色の耳がぴこりと動いた。


 こちらもまた、権力が通じない相手だ。

 狼族最後の純血種と呼ばれるバザルケットは、どの国もが例外なく庇護している貴重な希少種。

 世界に散らばる全ての狼族を統べる者。

 今は自由気ままな露天売りに扮しているとは聞いていたが、まさかアリッサが既に出会いを果たしていると思わなかった。

 これも時空制御師の手の内なのだろうか。


「続いて、王城に仕えしリゼット・バロー殿」


 立ち上がって直角のお辞儀。

 無言なのはローザリンデに倣ったのだろう。

 寵姫が暴走している間、王城最後の良心と呼ばれる存在だった。

 当時の王が、辛うじて耳を傾けるのがバローの声だったのだ。

 肩の荷が下りたような顔をしているので、自分の復帰を喜んでいるのがわかる。

 言葉だけでなく、一度だけでなく、心から労いたい。


「続いて、守護獣屋を営む蟷螂人の透理殿」


「高貴な方々へのお目通りが叶いましたこと、深く感謝いたします。当店にお越しの際には、心より歓迎申し上げます」


 初めましての方は彼女だった。

 守護獣屋とは縁が薄かったので無理もない。

 商人として無難な挨拶のあとで、意外にも美しいカーテシー。

 見目も美しく強い守護獣を求めて、守護獣屋を訪れる貴族も少なくないと聞いている。

 この機会に是非とも店舗まで足を伸ばしたいものだ。


 しかし蟷螂人とは珍しい。

 昆虫人は忌み嫌われる傾向にあるので、王都ではあまり見かけないのだ。

 不躾に観察しないように注意を払わねばいけない。


「最後に、王都ギルドマスターのアメリア・キャンベル殿」


「御紹介いただきまして、恐縮でございます。王都ギルドへ御用命の際には御指名いただくと有り難いので、よろしくお願い申し上げます」


 バローと同じ直角のお辞儀。

 美しい金髪がさらりと揺れる。

 祖父が子供の頃には、既に王都のギルドマスターを務めていたというキャンベル。

 世界中に数多存在するギルドの中でも、トップクラスの収益と問題を叩き出しているギルドマスターを、長く勤め上げるその手腕は広く知れていた。

 何より失敗に対するフォローが的確だと聞き及んでいる。

 公爵令嬢であった自分も、派閥の掌握には苦心した。

 ギルドマスターという立場ならば、そういった話もできそうだ。

 エルフ種のキャンベルならではの手法もあるに違いない。

 そんな話もしてみたかった。


「乾杯のあとは、私のことは気にせず、自由に歓談を楽しんでいただければと思います」


「アリッサ嬢も、遠慮はいかんのじゃぞ?」


 この辺りは、さすがに年の功。

 否とは言わせない、圧があった。

 バザルケットの言葉にアリッサは苦笑しつつも頷いた。


 そして。


「では、乾杯の前に一つだけ。どうぞ、皆様。私のことはアリッサとお呼びくださいませ」


 ローザリンデは、得がたいものを一つ。

 手に入れることができた。

 

「乾杯!」


 いつの間にか注がれ、反射的に手にしていたグラスの中身を一息で干す。

 アリッサ以外は全員、緊張していたのだろう。

 あのバザルケットでさえも。


「アリッサ様、このお酒! スパークリングワインではございませんね?」


 透理が蟷螂人特有の瞳をきらめかせながら、アリッサに問うている。

 ローザリンデも同じ質問をするつもりだった。

 飲みやすくあっという間にグラスを空にしてしまったその中身は、ローザリンデでも初めて飲む味だったのだ。

 ここまで美味なのに飲んだことがないというのが、あり得ない。

 特に生家はワインの収集家でもあったからだ。


「ふふふ。珍しいでしょう。私の国の、お酒なの。ワインではなくてね? 日本酒というお米から造ったお酒なの。向こうでも炭酸入りは最近出回り始めているお酒なのよ。美味しいでしょう?」


「ワイン同様の満足感がありますね」


 ナルディエーロも満足げに頷いている。

 吸血姫としての言葉ならば、販路はますます広がるだろう。

 アリッサに販売の意思があれば、だが。


「お代わりの用意もありますから、遠慮なく申しつけてくださいね」


「お願いします!」


 一番にグラスを差し出したのは、キャンベルだった。

 よほど好ましかったのだろう。

 白い肌が真っ赤に染まっていくのを、内心愛らしいと堪能しつつ、ローザリンデもお代わりを所望するべく、三人がかりでボトルを捧げ持つリス族のメイドに会釈をした。


 スパイ機関誕生秘話的な映画も見に行きたいんですけどね。

 大きいスクリーンで見ると萌え度が上がりませんか?


 次回は、報われる至福。異国情緒溢れるお茶会。2(仮)予定です。


 お読み頂いてありがとうございました。

 引き続き宜しくお願いいたします。

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