旦那様の謀略は無敵です。公爵令嬢の矜持 中編
四年ほぼ毎日やっていたアプリが先日アップデートしたのですが、その後ログインできなくなりました……。
容量食いのアプリだし、タブレットの接触も悪いので、新しいものを購入予定なのですが、タブレットにしようかスマホにしようか思案中。
現在はタブレット&ガラケー使いです。
アフタヌーンティーは基本、ケーキスタンドの下から順番に食べていくというマナーがある。
ただ最近の日本ではSNS映えを意識してか、変則的な並びも多い。
例えばケーキスタンドは二段で、スコーンは別皿。
ケーキが温まってしまうので、ケーキを中段にして、スコーンを一番上の皿にする……といった感じに。
だから、必ずしも下から順番に食べなくては駄目なわけではなかった。
塩気のある料理から、デザート系へ……という流れを守るのが無難なようだ。
その点はこちらの世界も同じなのだろう。
盛り付けられた物は塩気のある料理だった。
「モーレン風味のシュリップ、トマトゥ、ボカドアのクロワッサンサンド。ミニベーグルのオムレツサンド。生ハムハ、リコッタズーチー、アスガスパラ(アスパラガス)のカナッペ。ポメロウ(文旦)とブッカのサラダにございます」
どれも美味しそうで口にする順番を迷う。
こんなときは説明順がいいと、クロワッサンサンドを手に取った。
アフタヌーンティーセットといえば、サンドイッチの印象が強い。
夫とともにいろいろなアフタヌーンティーを食べてきたが、クロワッサンは珍しいメニューに入るだろう。
マヨネーズも入っていたが、モーレンが効いているので、さっぱり感が強い。
クロワッサンも軽く焼いてあるらしく、しゃくりとした食感が好ましかった。
シュリップはぷりっぷり、トマトゥは完熟で甘く、ボカドアは濃厚でクリーミーと、どの食材も最高の状態と腕前で調理されている。
さすがは一流娼館の料理人と言うべきか。
公爵令嬢の料理人と言うべきか。
続いてミニベーグル。
入っていたのはターバたっぷりのプレーンオムレツ。
ケチャップは多め。
シャキシャキのレタスも入っていた。
黄色赤緑と重なっているので、見た目も良い。
オムレツのターバが齎すカロリーに怯えつつも、完食した。
ベーグルはなかなかのもっちり具合で、ミニサイズにもかかわらず満足感がある。
ダイエッターが喜びそうだ。
カナッペは全粒粉のクラッカーっぽく、少し暗い色のクラッカーに、リコッタズーチー、生ハムハ、アスガスパラの順番に重ねられていた。
アスガスパラの切り口が鋭くて、職人のこだわりを感じる。
クラッカーが思いの外やわらかかったのが意外だったが、それ以外は想定内。
リコッタズーチーにぱらっと振られた胡椒の香りがいい感じに鼻を抜けていく。
サラダは初めて食べる組み合わせだった。
そしてポメロウとかマニアックな柑橘が存在するのに、夫の影響力を感じる。
味付けはオリーブオイルのみ! と思ったら、オレンジ色の粉が塩味だった。
柑橘系の香り付けがされた塩じゃないかと思う。
オリーブオイルと塩のコンビは、しみじみ最高だ。
ブッカも生なので少々苦みが残る。
ポメロウもやはり苦みがある。
俗に言う大人の味だろう。
「……どれも美味しくて、無言でいただいてしまいました」
「お口に合ったのなら何よりでございます」
「自分でも料理をいたしますので、熟練の技には何時も感心いたしますの」
「まぁ! 素敵でございますね」
「明日は、私が作りました料理で歓待いたしましょう」
「……ここしばらくの苦労が、一瞬で消え失せる気がいたしますわ」
料理をすると告白しても、窘めるどころか喜ばれる。
一体ローザリンデは、何処まで私の好みを調べているのだろう。
少々怖い。
「本当に……憂鬱な日々を過ごしておりましたの。御方様が現れるまで、いえ、現れてくださらなければもしかしたら、事態は悪化をしていたかもしれませんわ」
「いろいろと手配をなさっていたようですが?」
「ええ、できる限りの手は打っておりました。それでもあの、魅了は。正直神のお力が働いているのかと、愚考してしまいまして……」
穏やかに輝いていた瞳に、暗さが宿る。
確かにあの魅了は厄介だった。
でも、私……正確には夫の力で駆除できるものであったのだ。
神の手は加わっていなかろう。
神に近かった者は加担していたかもしれないが。
ふと人で遊ぶのが大好きで有名な邪神が脳裏を掠めた。
まだグラスの底に残っていたスパークリングワインを飲み干す。
喉を潤してから口を開いた。
「神の力は働いておりませんでしょう。ただ、邪神もしくは神に近しい者の力は働いていたかもしれません」
「御方様に、そうと、言っていただけると……力が及ばなかった己を……認められましょう。ありがとうございます」
宿った暗さは払拭されて、瞳は再び輝きだした。
それでも、衝撃だったのだろう。
スパークリングワインのお代わりを一息で飲み干している。
男爵令嬢如きにではなく。
その背後にいた存在に敵わなかったのならば、致し方ないと。
人の手に負える存在でなかったのならば、納得できる。
それほどの矜持を持っているのだ、
目の前の公爵令嬢は。
何とも高潔だ。
この国の未来は明るそうで良かった。
夫が手塩にかけて育成した世界なのだから、できる限り長く有り続けてほしい。
ノワールが新しい皿を置いてくれた。
今度はスコーンだけが載っている。
種類が多いからかサイズは小さい。
一口サイズのスコーンの良さは食べやすさに尽きる。
「プレーン、チョーコレート(チョコレート)、ウォルナッツのスコーンでございます。テッドクリーム(クロテッドクリーム)も用意してございます」
本来であれば説明はローザリンデ付きのメイドがするのだと思うが、ノワールが淡々と説明してくれる。
シルキーはそれだけ特別なのかもしれない。
ローザリンデ付きのメイドを慎重に観察しても、不快感は察知できなかった。
「一口でいただけるのに、テッドクリームは贅沢かしら?」
「そんなことはございませんわ。私は大きくても小さくてもウォルナッツのスコーンには、必ずテッドクリームをつけていただきますの」
「まぁ、それなら遠慮なく。私もウォルナッツのスコーンにつけていただきますね」
薔薇飾りのついた可愛らしい、小さなスプーンに山盛りのテッドクリームを載せる。
そしてウォルナッツスコーンへと全部塗りつけた。
さすがにスプーンをぺろりとする無作法はしない。
限界まで塗りつけてのち、ぱくりと一口でいただく。
ほろっと口の中でスコーンが崩れた。
このスコーンはほろっと系らしい。
スコーンに関しては、ほろっと系もしっとり系も大好きで選べないのだ。
以前焼きたてのプレーンを食べ比べたけれど、やっぱり選べなかった。
「ほろっと系のスコーンも、しっとり系のスコーンも大好きなのですが、ローザリンデ様は如何でしょう?」
「どうか、私のことはローザリンデとお呼びくださいませ。私は、どちらかと言えば……しっとり系でしょうか。ただしさくさくのしっとり系でございますね」
「あぁ、そうですね。さくさく要素は必須ですわね」
プレーンは何もつけずにいただいた。
ターバと良質な粉の香りがする。
これぞプレーンスコーン! と拍手をしたくなる王道の味だ。
勿論さくさくでほろほろの食感がいい。
ここで紅茶を一口。
やはりほろっと系は水分を持っていかれる。
チョーコレートはビターが使われているようだ。
甘さがない。
けれどこの独特の酸味と苦みが堪らなかった。
大きなスコーンにざくざくと大量に入っているのもいいが、今回のスコーンのように小さい中にもしっかり入っているタイプも捨てがたい。
「またしても一息にいただいてしまいましたわ」
「次の機会をいただけました日には、しっとり系のスコーンを召し上がっていただけますでしょうか?」
「ええ、喜んで。きっとそちらも美味しいのでしょうね……話は変わりますけれど、ローザリンデは、彼女を、どうしたいのかしら?」
「彼女……ゲルトルーテ・フライエンフェルス、のことでございましょうか?」
「あら、そんな名前でしたのね? 今まで知りませんでしたわ」
「まぁ!」
「しかも私、王の名前も存じ上げませんでしたわねぇ……」
「……まぁ!」
王自ら名乗りを上げる機会とかそもそもないとは思うけど、本来であれば無謀召喚したときにするべきだったのよね。
ローザリンデはこのあと王の下へ戻るわけだけれども。
あの王に、ローザリンデを娶るだけの甲斐性があるのかしら?
ない気がするんだけどなぁ。
さすがに最強で最高の夫と比べるのは、夫に申し訳ないからしないけどね。
こちらへ来てから出会った男性と比べても、駄目男ですが、何か? という臭いを感じ取ってしまう。
ゲルトルーテよりもむしろ王をどうすべきか、聞かないとまずい気がしてきた。
「公爵令嬢の立場としましては、不敬罪で裁いていただくのが無難でございましょう」
「次期王妃予定だった点を鑑みたら、死刑確定かしら?」
「情緒酌量の余地がある、もしくは司法取引が適えばあるいは、労働を伴う終身刑とされる例が多いのですが、彼女の場合は難しいと思われます」
「余地はないし、取り引きするほどの価値もないと推察いたします」
「はい。おっしゃるとおりでございます」
会話の途中でついつい傾けがちな、ティーカップの中身が空になった。
ノワールがティーポットを手に、同じものでよろしゅうございましょうか? と訴えかけてくるので、頷く。
新しく淹れられた紅茶に出涸らした薄さも渋さもない。
茶葉も取り替えたのかもしれない。
もったいないと思ってしまう自分は、しみじみ庶民だ。
目を閉じて堪能していると、ローザリンデは躊躇ったあとで自分がどうしたいかを、告げてくる。
「彼女のせいで人生を違えてしまった方々と、同じ経験をしていただきたいですわ」
「追放されて、娼館で本来の仕事をするとか、ではなく?」
「……私は元の地位に戻れますし、それ以上の待遇になりますが、他の方々は違いましょう。彼女の被害者は、私でも掌握できぬほどに多いのですもの」
何処までを被害者として考えるかにもよる。
下手したら国民全員だ。
不死でもない限り、ローザリンデの願いは叶えようがない。
寝ている時間に夢で追体験! という手もあるが、それでも時間が足りないだろう。
「現実的にその罰は難しいでしょう」
「ええ、ですからあくまでも私の願望でございますのよ」
「私としては安直に死を与える罰などは、避けていただきたいと思っております」
「御方様の御要望は何より優先されるべきかと愚見いたしますわ」
「本人が一番望まない種類の労働に死ぬまでついてもらう、あたりが落とし所かしらね……」
単純な肉体労働か、複雑な肉体労働か迷うが、複雑な肉体労働をこなせる頭はなさそうなので、単純な肉体労働が良さそうだ。
ちなみに娼婦という選択肢はない。
労働が基準に満たない場合の、罰としての娼婦に限りなく近い奉仕はあるだろうが。
「彼女は得がたい魔法やスキルは保持しておりませんでしたので、単純な肉体労働ぐらいしか使えないと思われますわ」
「ぱっと思いつく、やりたくない単純肉体労働というと、どんなものがあるのかしら?」
「そうでございますね……魔法やスキルの検証をするための実験体としての奉仕、汚染区域の異物除去作業あたりでございましょうか」
前者は何とも異世界っぽい労働だが、人体実験は向こうの世界にもあった。
後者には魔法やスキルでも浄化できない汚染区域は、結局人力作業が必要なのだなぁと、魔法やスキルが万能ではないのを知る。
「どちらも常に人材が不足しておりますので、彼女以外で罰せられる者にも、同じ奉仕や作業についてもらうのもよいかと愚考いたしますわ」
ローザリンデが静かに微笑む。
どうやら彼女が考えている粛清対象は、ゲルトルーテだけではないようだ。
ノワールが肉料理と魚料理を取り分けてくれる。
ぱっと見、向こうと変わりない料理に見えるが、何となく異世界情緒豊かな食材の予感がして、私は内心うきうきとしながら説明を待った。
そうえいばガラケーも現在機種が取り扱い終了で、新しいものにしないとなんですが、くるDM全てがスマホを勧めるもので青息吐息。
今のところタブレット&ガラケーを使うつもりなんですけどね。
次回は、旦那様の謀略は無敵です。公爵令嬢の矜持 後編(仮)の予定です。
お読み頂いてありがとうございました。
引き続き宜しくお願いいたします。




