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旦那様は分限者です。守護獣たちと家具選び。ドレッサー。 前編。

 某映画を見るためにシリーズ作品を三本ほど鑑賞。

 うん、相変わらず訳がわからない! そんな感想を抱きましたが、映画は楽しみです。

 

 


 コンスタンツェとノーラに見送られて、煌めきの恩寵をあとにする。


「鹿人が人間を伴侶に選ぶとは珍しいのぅ」


「ん?」


「同族の雄と番うよりはマシという選択じゃったのであろ?」


「んん?」


「コンスタンツェは特に甘い物が好きな美食家だしね。胃袋を掴まれちゃった感じじゃないの?」


「「なるほどのぅ」」


「んんん?」


 四人にしか聞こえないように、読唇術でも読み取らせないように。

 気配の遮断を兼ねた結界を施された上での会話は、内容を選ばないようだ。


「コンスタンツェとノーラは正式な伴侶のようじゃ。あの繋がり方を見るに教会での祝福を得ているらしいのぅ」


「こちらでは同性婚って可能なんですね」


「種族が違うと揉めるケースが多いけどね。煌めきの恩寵は、女性の同性愛者に優しい職場なのよ」


「……ということは店長さんも」


「アリッサが好きそうな逆ハーレムを築いておるのぅ」


 ハーレムは男性が、女性複数に、思いを寄せられるケース。

 逆ハーレムは女性が、男性複数に、思いを寄せられるケース。

 だとしたら、女性が女性複数に思いを寄せられるケースは、普通にハーレムではなかろうか?

 そもそも私が好きなのは、二次元での逆ハーレムだと主張したい。

 不遇の主人公が努力の末に掴む溺愛逆ハーレムなら、尚好ましい。

 二次元なら都合良く全員が納得しているハッピーエンドも迎えられるだろう。

 だが、三次元では駄目だ。

 私にとっては異世界たる、この世界でも駄目だ。

 特に元寵姫がしでかしたような、本来の嗜好を洗脳で変化させている系統の、悪質なものはいただけない。


「煌めきの店長の場合。不遇な者を助けていたら懐かれてしまい、気がついたら店長以外望んでハーレムに甘んじておるからのぅ。まぁハーレムの中でも変わり種じゃな」


「店長は何時でも手放す気はあるみたいだけどね。ハーレムの子たちが望まないんだってさ。ハーレムの子たちも仲が良いし」


「というか。あわない者はどれほど望んでも淘汰されてしまうだけじゃろうが」


 男尊女卑の世界で、女性を救うための措置として生まれたというハーレムが、煌めきの恩寵では正しく機能しているのだろう。

 だとしたら、ありかなぁ?

 もっとも私が全否定したとて、本人たちが納得しているのならば、口出しをするべきではないのだけれど。


「そういった嗜好の方が、よく主人を崇拝するわねぇ?」


「ああ、御方様はそういう次元におられないそうだ」


「別枠と言っておったのぅ」

 

「なるほど。何となく納得できたわ」


 否定されがちな嗜好の持ち主に、夫は優しい。

 きっとそのどこまでも平等で揺るぎない優しさが、崇拝の根源となるのだろう。


「森の木陰は混んでいるが、奥方が来るなら貸し切りの手配を取ってくれるそうじゃぞ」


「え? 無理はさせていないかしら!」


「コンスタンツェが連絡を取ったらしいのぅ。客も森の木陰や煌めきの恩寵での買い物が『お得』にできるとなれば、多少の無理にも応じるじゃろうよ」


「それだけ、主の来訪は歓迎されるんだよねー」


「経済効果は無論じゃが、老舗として誇りが満たされるであろうなぁ」


「双方不満なく手配が完了しているなら、行かないのはかえって失礼ね。では、このまま行きましょうか」


 遮断されていた気配が、緩やかに本来の姿へなっていく。

 突然現れたように見える私たちに、何人かがぎょっとしたようだ。

 

「私は煌めきの恩寵で、お茶やお菓子をたくさんいただいてしまったから、ちっともおなかは空いていないけど、皆は大丈夫? コンスタンツェさんと激論を交わしていたようだったから……」


「あ! 主を無視していたわけじゃないよ! ただこう……コンスタンツェが、無茶な支払いを要求することは絶対ないんだけどね……そのまま支払ったりすると、何かこう、負けた気がしちゃうからさぁ」


「少々熱くなってしまって申し訳なかったのぅ。商品説明の聞き漏らしなどがあると、後々ねちねちとやられたりもするのじゃ。それを回避せねば主の恥にも繋がると、つい……すまぬ」


「一癖も二癖もありそうな方だから、我を忘れがちになるのも理解できますし。謝罪は不要ですよ」


「少し喉は渇いたが、森の木陰ではあのような状況にはならぬので、問題はないぞぇ」


 ランディーニが頬に頭をすり寄せてきた。

 ふわふわ加減がとっても気持ちいい。

 思わず微笑を浮かべてしまった。

 どこかで『尊い……』という声が聞こえた気もしたが、無反応を通しておいた。



「ようこそ、おいでくださいました」


 森の木陰に到着すれば、結局名前を聞かずじまいだった後妻が入り口で佇んでいた。

 それだけで絵になってしまう花のある美しさが、ようやく発揮された……そんなふうに思うのは、闇を抱えて壊れかけていた澱みがすっかり消え失せていたからだ。

 本来の人の目を惹いてやまない金色に輝く美しい瞳には、瑞々しい生気が宿っていた。


「森の木陰店主が妻、ヴィルマと申します。先日は御挨拶すらできずに、大変不調法をいたしましたこと、深くお詫び申し上げます。また当店閉店の危機を救っていただきましたこと、厚く御礼申し上げます」


 貴族にも劣らぬカーテシー。

 敬意と感謝に満ち溢れた正しいカーテシーは、言葉では表しきれない感情をも表現する所作だ。

 

「本来の好ましい接客ができるようになって、客の一人として嬉しい限りですわ。御主人様もお元気でいらっしゃるかしら?」


「お優しいお言葉、心に染み入ります。私同様、もしくはそれ以上に健康で、健常でございます。最後のお見送りだけは叶いますでしょうか?」


 彼女の接客次第ですね。

 夫の声がする。

 何か不安要素でもあるのだろうか。


「……場合によっては」


「有り難きお言葉を頂戴いたしまして、感謝申し上げます」


 即座に肯定しなくても十分だったらしい。

 夫もこれを狙っていたのかもしれない。


「まずは皆様で、カタログを御覧くださいませ。本日お探しのお品物はドレッサーとティーテーブルでよろしゅうございましたでしょうか?」


「ええ。ティーテーブルと一緒に椅子もお願いしたいわ。椅子は五脚ね」


「では、ドレッサーがこちらのカタログ。ティーテーブルと椅子はこちらのカタログになります。こちらは皆様で御覧になってくださいませ」


 同じ物を人数分揃えて渡してくる心配りがにくい。

 従者にはまとめて一冊が一般的な対応なのだ。

 

「ドレッサーは、お色味、鏡の形、収納性などを押さえてお選びになると、自分の好みがわかりやすく具現化されるようでございます。尚、ホワイト、一面鏡、細かい物が多く入る収納性が人気となっております。お時間をいただきますが、完全オーダーなどもできますので、お申し付けくださいませ」


「椅子が付いているものも多かったのぅ?」


「はい。やはりドレッサーと揃いの装飾などが施された物を、好むお客様が多くいらっしゃいます。また長時間お使いになるお客様は、別途疲れない椅子をお求めになるようでございますね」


「うーん。主の場合はそこまで長く座らせるつもりはないけれど、座り心地は追求したいかなぁ」


「揃いの椅子に、クッションをおつけする、背もたれをおつけする……といったように手を加えることも可能でございますよ」


「ふむ。それがよさそうじゃのぅ……まぁ、まずは、それを念頭に置いて選んでしまおうぞ!」


 羽先で丁寧にページをめくるランディーニの姿に、ヴィルマも目を細めている。

 彼女ももふもふ好きなのかもしれない。

 同志だったら、こっそり親交を深めてみたい気もする。

 やはり金色の瞳の友人というものに、憧れがあるのだ。


「ティーテーブルの方でございますが、御方様がお一人でお使いになるものと、御友人とともに楽しまれるものと、二種類お買い求めになっては如何でございましょう? ティーテーブルと、カフェテーブルやローテーブルといった感じに」


 ケーキスタンドが二つ並んだ大きいテーブルをイメージして、ティーテーブルと言っていたけれど、私が考えていたものはカフェテーブルが近いようだ。


 カタログを捲りながら丁寧に説明してもらって大きく頷く。


「認識違いだったわ。教えてくれてありがとう。二種類選ばせていただくわね。あ! 皆が使うことも多そうだから、大人数用は三人に選んでもらってもいいかしら?」


「まかせるのじゃ!」


 ばっさばっさと羽ばたきをするランディーニに、彩絲は苦笑を、雪華は闘争心に溢れた勝ち気な笑みを浮かべる。


「では。お茶などをお持ちいたしますね。本日は甘さ控えめのロイヤルミルクティーを用意する予定でございますが、何かご希望の物はございますでしょうか?」


「私はそれをいただくわ。ロイヤルミルクティーは好きなの」


「妾も同じで」


「私も」


「我は……少し喉が渇いておるので、冷たい水も一緒にもってきてもらえるかのぅ」


「はい。承りました。少々お待ちくださいませ」


 ヴィルマが下がっていくのをつい見守ってしまった。

 三人も同じだったらしい。

 思わず顔を見合わせて破顔する。

 美女の笑顔は、男性に限らず女性にだって嬉しいものなのだ。

 ましてや笑顔を取り戻すのに一役買えたのだから、喜びは大きかった。


 うんうんと息が揃った動きで各自頷いてから、カタログに集中を始める。

 

 ドレッサーはホワイトの一面鏡で収納多めと、人気に乗って選んでしまった。

 椅子にはクッションをつけてもらう予定だ。

 背もたれは髪の毛を整える最中、邪魔になりそうなのでやめておく。

 コンスタンツェが言っていたように、ライトは後付けで選べるようになっていた。

 横に広い大きな鏡は、百合の透かし彫りで縁取られている。

 そちらにあわせてクッションの柄や、ライトも選んだ。

 結構な百合づくし部屋になってしまったが、足を踏み入れた人が鬱陶しいと思うほどではないだろう。


 ティーテーブルは一脚の椅子がついたセット物を選んだ。

 こちらもやはりホワイトで、百合の透かし彫りによって清楚に飾られている。

 純白木ピュアホワイトツリーという、異世界情緒満載のどこを切っても真っ白い木材を使って作られているようだ。

 偽物を天然物と表記する詐欺が横行しているので、御注意くださいと書かれている。

 品質に対する自信の表れがこの文章を書かせるのだろう。


 なかなかに安価で良質な物が選べたのではないかしら? と一人自画自賛している横で三人が懲りもせずに、カフェテーブルをどれにするかで激論を交わしていた。

 花粉が凄いですね……目がかすんで困ります。

 新しい眼鏡はいい感じです。

 一応キャラものですが、眼鏡自体はどこがキャラもの? という雰囲気で気に入っています。


 次回は、旦那様は分限者です。守護獣たちと家具選び。ドレッサー 後編(仮)の予定です。


 お読み頂いてありがとうございました。

 次回も引き続き宜しくお願いいたします。

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