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旦那様は分限者です。守護獣たちと家具選び。照明。後編。

 サクッと検索しましたが、ほとんどの照明の種類を今回知った次第です。

 そういえば昔、シャンデリアに憧れて真面目に値段を調べたっけなぁ……。

 値段はさて置き、掃除が面倒だよねーと言う理由で、購入はしなかったんですけどね。

 


 私はまず屋敷見取り図の存在を問う。

 返答に憮然としてしまった。

 私以外全員が持っていたのだ。


 またしてもぷうと膨れてみせる。

 今度は尋ねずとも私の不機嫌の理由がわかったらしい。


「いや! あれじゃぞ? 主には、一通り揃ってから渡すつもりじゃったのだ!」


「そうそう! 隠し部屋の安否確認も、まだ完全じゃなかったし!」


「……仲間外れにしたわけでないのは、信じてくれるのぅ? ……のぅ?」


 言い訳という名の説明を聞けば、まぁ、わかる。

 向こうでは夫が一手に管理していて、疑問が生じればその都度尋ねて教えてもらう形を取っていた。

 今回だってそうなのだろう。

 キャンベルと屋敷の契約をした際に、見取り図もあった気がするし。


「隠し部屋?」


「う、うむ。危険な場合が多いからのぅ。ドロシアとも相談して、見て回ろうと時間を取る予定じゃったのだ」


「私も見てみたいけど……確認がすんでからにするわ。見取り図は家具が揃ってからもらえればいいし。コンスタンツェさん。隠し部屋にも照明って必要かしら?」


「そうで、ございますねぇ……」


 ささっと差し出された見取り図を見たコンスタンツェが思案に沈む。


「使うにしろ、使わないにしろ、管理は必要かと思われますので、扉付近にスタンドライトを一つ。もしくは部屋の奥にブラケットを設置なさるとよろしいかと」


「ブラケット?」


「はい。こちらのカタログを御覧くださいませ」


 用意されていたのとは違うカタログを開かれて、指で示される。

 壁面に取り付けるタイプの照明らしい。


「では、どちらもつけてほしいわ。ブラケットはどうやって点けるのかしら? スイッチがあるの?」


「ええ。ございますし、スタンドライトを点けたら同時に点灯するような手配も可能です」


「安全を考えるとどうかしら?」


「部屋の外に一つ設置するのが無難と思われます」


「では隠し部屋には、スタンドライト一つ、ブラケット一つ、スイッチ一つで全部ね」


「現時点では、最良かと思われます。部屋が整備されてのちに必要でしたら、飾り用のスタンドライトや、シーリングライトなどを御検討されては如何でしょうか?」


 三人は静かに私たちのやり取りを見守っている。

 珍しい。

 感情の起伏が激し過ぎる私を心配しているのかもしれない。

 必要であれば、見取り図のように聞けばいいと判断し、続けてコンスタンツェに相談する。


「私の部屋には天井にシャンデリアは必須でしょう? ベッドの足元にフットライトも欲しいかしら。あとはベッドで読書とかしたいから、それに適した照明があると嬉しいわ。ドレッサー近くにもあると便利な気もするし……クローゼットの中にも必要ね」


「……主、いい、ですか?」


「ええ、勿論。まずは私の部屋で他に必要な照明があったら教えてほしいの」


 私の返事に安堵したように雪華が語り出す。


「トイレの中に一つ。明かりの色は柔らかめでシーリングライト。猫足バスタブの上に一つ。明かりの色は柔らかめでペンダント。防水加工をしっかりしたもので。テーブルの隣に一つ。食事が美味く見える色でスタンドライト……でどうだろう、彩絲」


「現時点ではそんな感じじゃな」


「それでは、天井のシャンデリアからまいりましょう。最近人気のお品物はタンポポ型。掃除が大変と従者には嫌われますが、独特の細やかな光が人気でございます。定番のクリスタルが下がっているタイプの人気も安定しておりますね。こちらは光の煌めきが美しいものが多くなっております。鈴蘭型、百合型、カラー型なども衰えぬ人気がございますね。装飾に色が入ったものが急上昇している……といったところでしょうか」


 プロがいて良かったとしみじみ思う種類の豊富さだ。

 クリスタルの煌めきに憧れがあるし、タンポポ型も愛らしい。

 

「百合型がいいかしら? 周囲に薔薇があしらわれているのが素敵だわ」


「薔薇の色も斬新な色ではないのがいいね! この色は心安らぐ優しいピンク色だ」


「うちの場合はドロシアが喜んで掃除をしてくれるから、その点の心配もいらぬしな」


 幽霊のドロシアにかかれば足場いらずだ。

 羽持ちのフェリシアも丁寧に掃除してくれそうだし、ノワールに至っては完璧にこなしてくれるだろう。

 なるべく手を煩わせたくないと思うが、彼女らは私が好みを優先するのを望むだろう。


「承りました。続いてフットライトでございますね。こちらの人気はベッドの下から照らす長方形タイプと、フットマットのそばに置く丸形タイプがございます。尚丸形タイプは特殊素材でできておりまして、寝ぼけてぶつかっても柔らかく足を包み込んで、転倒やお怪我を防止いたします」


「ほぅ! 初めて聞く素材じゃ。現物はあるのかのぅ」


「こちらでございます」


 興味津々のランディーニがコンスタンツェにほてほてと近寄っていく。

 ブラックオウルのポテポテ歩きは、ガン見してしまうほどに愛らしい。


 よく聞かれるのだろうコンスタンツェは素早くランディーニの目の前に、ころんとした丸さに愛嬌を感じてしまうライトを置く。


「ふお! 不思議な感触じゃな!」


 ライトの上、フクロウの小さな足でジャンプしたくらいでは、変形しない。


「どれ……ほぉ……確かに、これならば安全な素材じゃな」


 ジャンプを続けているランディーニの邪魔にならないように、感触を確認した彩絲が大きく頷く。

 促されて私も触ってみた。

 力を入れるとぺっしゃりと潰れてしまう。

 肌触りはどこまでも優しいが、しっかりと足の裏を捕まえて転ばないように支えてくれる力強さがあった。


「当店自慢のフットライトでございます。他店での販売はございません」


「だよねー。今の今まで知らなかったよ!」


「店主が工房と相談の上で作り上げ、最近どうにか商品化にまでこぎ着けましてございます……すばらしい才能も持っている店主なのでございますよ」


 コンスタンツェに少しだけ自慢げな気配が宿る。

 何だかんだいっても彼女にとって店主は大切な存在なのだろう。


「そんな才能があったとはのぅ」


「我も初耳じゃ」


「商品への拘りが強すぎて、他の良さが見えにくい店主ではございます……では、フットライトはこちらでよろしゅうございましょうか?」


「ええ、すばらしい照明ね。照明以外にも使えそうだわ」


「はい。そちらも関係者と相談して、今後とも販路を広げていく所存でございます。次いで、ベッドでの読書には、百合型の特殊ライトをお勧めいたします。ベッドヘッドに絡めるタイプで、茎に当たる部分は自在に動かせるようになってございますので、ライトの移動が容易くなっております……少し、お待ちくださいませ」


 席を外したコンスタンツェが、本物の百合によく似た形のライトを持ってくる。

 茎に当たる部分を触れば、くにゃりと撓められた。

 これなら落ちることなくベッドヘッドに絡められそうだ。

 ライトの光は柔らかい色で目にも優しい。

 オンオフは、一枚だけ付いている葉っぱを上下させると説明された。


「綺麗で使える読書灯とか嬉しいわ。ありがとう」


「お気に召していただけて光栄にございます。さて、ドレッサー近くに……とのことでございますが、こちらはドレッサーに付随している場合もございますが如何いたしましょう? 当店で御購入いただけるようであれば、お化粧に必要なスポットライトもしくは……お顔の気になる点を見なかったことにする、装飾過多なライトをお勧めすることになりますが……」


 スポットライトで細やかなところまで見た上での化粧ではなかろうか?

 お年を召した貴族夫人などは、肌の衰えを直視したくないのかもしれないが。

 コンスタンツェの窺うような声に、そんな思案を巡らせる。


「ドレッサーは森の木陰で購入予定ですの」


「御方様が華麗に問題解決されたと耳にいたしまして、即時商品の搬入はすませてございます」


「あちらと提携していらしたのね?」


「はい。お花畑屑さえいなければ、信頼できる店でございましたので、手配いたしました」


「それなら、ドレッサーに付いているものにしますね」


「もしお心に叶わないようであれば、交換も可能ですので、御遠慮なさらずに申しつけてくださいませ」


「そうさせていただくわ」


 そう申し出てくれるのであれば、照明は一手に引き受けているのだろう。

 気になる点があったのなら、言葉に甘えさせてもらおう。


「クローゼットの中でしたら、シーリングライトでございますが、ドレッサールームですと……この大きさであれば、シャンデリアを用意される方も多うございますが……」


「ドレッサールームにシャンデリア……王族みたいだわ……」


 そんなコミックスを読んだ。

 あれが悪役令嬢物だった気がする。

 真紅薔薇のシャンデリアはなかなか強烈だった。


「御方様は王族以上の存在でございます。どうかお心のままにお選びいただきますよう……」


「では……このクリスタルタイプにしようかしら。ティアドロップ型の」


 サイズが小さいので豪奢というよりは、可憐な印象が強い。

 ティアドロップ型なら光も然程反射されないのでちょうどいいと思ったのだ。


「お色はホワイトでよろしゅうございましょうか?」


「ええ、他の色も可愛らしいけれど、ホワイトでお願いします」


 ドレッサールームであれば余計な色があると、何となくよろしくない気がしたので無難な選択した。

 

「それでは他の物に関しましては三人と相談いたします。勿論お気になる点がございましたら、御一緒していただきたく存じますので……」


 コンスタンツェは奥に向かってパンパンと手を叩いた。

 準備をしていたのだろう、デザートワゴンを引いた女性がやってくる。

 清楚な佇まいの女性だった。


「紅茶は癖のないブランド・スイート。ミニタルトは五種類用意してございます。本日のお勧めは苺チョコレートミニタルトでございますが、どちらも自慢の逸品でございますので、全て召し上がっていただけたなら光栄でございます。こちらは当店専属パティシエール・ノーラにございます」


「御方様にお召し上がりいただく栄誉を賜りましたこと、誠、僥倖でございます」


 驚くことに専属のパティシエールまでいるらしい。

 身分の高い女性相手の接客に慣れている店舗ならではの備えなのだろう。


「有り難くいただきますね」


 私の言葉にノーラは目を潤ませながら深々と頭を下げる。

 勢いがよくて、コック帽が転げ落ちそうだった。


 甘い名前のごとく、砂糖を入れずとも仄かな甘みのある紅茶とともに、ミニタルトをいただく。

 当然全部いただいたが、甲乙つけがたい美味さだった。


 三人とコンスタンツェが、客と店員のやり取りには見えない激しいやり取りをしていたのには、一度も口を挟まなかった。

 どこか楽しそうでもあったし、出された紅茶とミニタルトが美味しすぎたからだ。


 様子を窺っているノーラが、いそいそと追加の紅茶やミニタルトを出してくれたので、三人が思いついた全ての照明についてやり取りが終わった頃には、すっかりおなかがいっぱいになってしまった。 


 

 前歯が一本抜けていて、仮歯でしのいでいるのですが、あまりにも早く劣化してしまうので、その他の選択を迫られている気がします。

 入れ歯はなぁ……。

 保険範囲内の入れ歯はなぁ……。

 高額宝くじでも当選したら、インプラントにでもするんですけどね。


 次回は、旦那様は分限者です。守護獣達と家具選び。ドレッサー 前編(仮)の予定です。


 お読み頂いてありがとうございました。

 次回も引き続き宜しくお願いいたします。

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