生涯続けたい楽しみ
【第42回フリーワンライ】
お題:
峰打ちです
フリーワンライ企画概要
http://privatter.net/p/271257
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負
居間では男の子がテレビを齧り付きで見ていた。スタッフロールが始まると、
「じーちゃーん!」
叫んで縁側へと走った。
縁側では座布団を敷いた男の子の祖父が、膝に猫を抱えて夕暮れを眺めていた。ほとんど飛ぶようにしてその横に座ると、男の子は祖父のよれた着物を引っ張った。
「これ、引っ張るな。なんだい」
男の子は今見たばかりの再放送について興奮気味に語った。身分を隠した素浪人がバッタバッタと悪人を薙ぎ倒す爽快な光景だった。そこでふと思い付いた疑問を祖父にぶつける。刀の腹で一撫でされるだけで、侍が足から崩れ落ちていた。
「あれってなんなの?」
「ふむ……」
孫の無垢な問いに、顎をさすった。皺の入った顎先に色素の抜けた無精髭のざらつきを感じながら頷いた。
「そうさな。むかーし昔のことだ」
この国が生まれるよりもずっと前。
大地がまだそのままの姿でいた頃のこと。
あちこちの土地は、自我を持った神様だった。
朝に夕に、神様は気の向くままに大地を割ってその身を起こし、勝手気ままに動き回ったせいでどんな動物も住み着くことは出来なかったという。
ある時、そんな神様の一柱が、このままでは世界がままならんと言い出した。国を平らげる必要があると。
そこで神様は相談し合って、世界を導く一柱を残して眠りに就くことになった。
ところがその決定に従わない神様もいた。
それは大層大きな神様だったそうな。この国で一番大きなお山だ。
ついには広い平野の化身の神様と取っ組み合いになった。
お山の神様は力自慢に平野の神様を殴りつけたが、平野の神様は平野だけあって広くて薄い体でのらりくらりと受け流した。
しまいに平野の神様はその広大な体でお山の神様を包み込んでしまって、身動き出来なくなったお山の急所を打って黙らせてしまった。
こうしてこの国は一番最初の形になったのさ。
「……それで?」
男の子は話の真意を掴みかねて首を捻った。
「うむ。つまりお山の急所は、そのお山の腹であるところの峰でな。峰を打って大人しくさせることから、“峰打ち”と言うようになったんじゃよ」
言いくるめられたことに気付かずに男の子は得心顔で頷いた。
「へぇぇ……そうなんだぁ」
恐らく言葉ほどには理解していないだろうが、そんな孫の姿を見て祖父は微笑んだ。また一つ孫をいたずらにはめてやったと、心の中で舌を出しながら。
孫が自らの知性によって騙されたことに気付き、憤慨しながら糾弾しに来る日が楽しみだった。
勿論、その日が来たら、また舌先三寸で言いくるめてやるつもりだ。
『生涯続けたい楽しみ』了
毎回毎回、必ずお題出題者の意図をから離れることを考えるんだけど、今回はこうなった。
本当に申し訳ない(腹パン)。