二話 説明
あれからとりあえず、名前は聞いておいた。
母と話してた人がアルベロ。寝ていた人がルナ。本を読んでいた人が琥麻袈だそうだ。
いや、ほんと世界って狭いわ。だってあとの二人は阿由加からよく聞いていたのだから。
見た目については言っていた気がするが聞き流していたみたいで覚えていない。
なんていうかすごく嬉しそうにはしゃいでいたのは何故なのだろうか。
まあよのなかには気にしては負けと言うものがあるので放っておいても良いだろう。寧ろそうしよう。
というかいつもはどうか知らないがこの三人は確実にツッコミキャラではなくボケキャラだと思う。
ため息をついて外を見る。外は雨がしとしとと降っている。
昇降口では生徒たちが濡れて帰るかどうか迷っているようでたくさん残っていた。
わざわざ校舎内に残っているのは昇降口にいる生徒がもう少し減ってくれればと思っていたからだ。
だがこの調子だともう少し待つ必要がありそうなのでどうしようか。
昇降口をぼんやりと眺めていると声をかけられる。
「居残りで呼び出しですか?」
振り向かなくてもわかる。昨日の先輩だ。
「……神龍先輩、ですか?まあ、そんな所です」
「アルベロに聞いたの?学校ではいいけど向こうでは出来るだけ先輩って呼ばないでね」
「あ…はい。わかりました」
口調は穏やかだが有無を言わせぬ雰囲気があった。神龍は久美子の隣に移動する。
こうして見ると妙な違和感があった。何というか能力者とも人間とも違うような。ただそれほど大きいわけでも、確証があるわけでもない。
まあ、能力者と人間以外にも様々な種族がいるのだからいても何ら不思議ではない。
「黒谷さん、能力のこと少し聞いてもいいかしら?」
「良いですけど何故?ある程度は知っているはずじゃ?」
「学校で習うのは暇すぎるから聞いてないの。さあ言いなさい」
「先輩が無理やり言わせようとするー」
棒読みで言ってみると神龍はこちらに伸ばそうとしていた手を戻す。
この世界には能力というものがある。それは、いわゆる本の世界で言うところの魔法に似ているのかも知れない。幾つかは。
能力には属性系能力、召喚系能力、物理系能力、回復系能力、空間系能力の五つがある。
属性系能力は木、氷、炎、月、光、闇、星の七属性と特殊な属性の心だ。
月と星、光と闇の組み合わせはそれぞれが弱点となり、抵抗することができる。
木、氷、炎は木は氷に強く、氷は炎に強く、炎は木に強い。
心属性はどの属性にも少しは影響を与えられるが、どの属性からも影響を受けない不思議な属性と言えない事はない。
しかし、まだまだ理解されていないことも多い。
属性系能力はある意味では一番強くて弱い能力であると言える。
なぜなら、空間系能力と共に使わなければただの形のないエネルギーなのだから。
裏を返せば形に入れなければならないほど強力なものであると言える。
召喚系能力は契約している者を呼ぶことのできる能力だ。なのでほとんどの能力者には用のないものだろう。
契約するには相手との信頼で成り立っていると言っても過言ではないものだから、契約させてくれる前に寿命が来る。
使用できる者はほとんどいない、かわいそうな能力である。
物理系能力は建物を強化したり、武器に属性をやどさせる場合などに使われる。
そんなわけでこれを使える能力者は、耐震工事をする場合などに重宝される。ちゃんと工事する事もあるが。
他にも、幻覚を見せることが可能だ。
回復系能力は小さな傷を癒すことができる程度だ。と、表向きはなっている。
理由は使える者はほとんどおらず、いたとしてもそれ以上の効果を答えてくれないのだ。
ある意味では一番消える可能性の高い能力と言えないこともない。
そのおかげで医療が進歩している。
最後の空間系能力は割と面倒なものだ。
他の回復系能力以外の能力にはかなり影響があり、一言で説明できない。
熱くない炎を出したり、素材があれば物を作ることもできる。
まあ流石に限度はあって、単体で使うのであれば片手でもてるのが限界、加熱することなどはできないなどの制約がある。
半分の能力者と呼ばれる者たちは、脅かしに使える程度の空間系能力と威力の弱い属性系能力だけだ。
そしてその者たちは短命であり、人間と同じくせいぜい百年程度の寿命しかない。
残りの能力者は百年から数千年単位で生きることが可能だ。理由は能力の使用等により寿命が引っ張られるようにして伸びるのだ。
そして能力だけでなくこの世界には、様々な種族がいる。
人の姿になれる龍族であったり(たまに龍の姿になれない者も生まれる)、エルフ、精霊等々。
正直多すぎて全てを知っているわけではない。
知っているとすればそれは長老達だろう。
長老は木、氷、炎、月、光、闇の六つの属性に一人ずついる、謎の多い老人の集まりだ。世代交代は何度かされているらしい。
だが、最長老と呼ばれる属性系能力では最強と呼ばれる役職は世代交代はされたことがない。理由は不明。
「――とまあ、私が知っているのはこんな所ですかね。理解できましたか?」
そう言いながら神龍の方に顔を向けると、神龍は上半身を窓の外に出し、物干し竿に干されているバスタオルの様になっていた。
「・・・先輩?」
苛立ちで低くなった声で話しかけると、神龍はびくりと動き勢いよく起き上がる。
その姿はなにか言い訳をしたそうだ。
「え、あいや、寝てはないけどちょっと幽体離脱してた!ちゃんと聞いてたよ、もちろん!」
「そんなに冷や汗たらったらで言い訳してても説得力全くないですよ」
半目で的確なツッコミを入れると、神龍はがっくりと肩を落とす。
他の人から見るとどちらが悪役に見えるのだろうか気になるところだ。
神龍は何かに気付いたように窓の外を見る。その視線の先は昇降口だ。
「もう人が少なくなってきてるから送ろうか?」
「いえ、送ってもらわなくても一人で帰れます」
「そこは断んないでよー。悲しくなるから」
単なる優しさかそれとも考える所があるのかは分からないが、あえて断る。
「嫌です。クラスの人にまた何か聞かれたとき、相手をするのは疲れるので」
「そこをなんとかー」
捨てられた子犬のような表情をやろうとしているのだろう。が、何というか情けない表情になっている。
その事に、ため息ともとられるであろうが小さく息を吐く。
「・・・・今日だけ。明日からは駄目ですからね、先輩」
その言葉を聞いて神龍は、面白いくらいに表情を変化させる。
そんなキラキラした瞳で見ないで欲しいかも。
神龍はそんな久美子の内心に気付いた様子もなく、渡り廊下の方へと歩いていくのだった。
「はぁ、置いていかないでくださいよー」
「――彼女、かあ。確かにいいと思うケド、僕はちょっと気に食わないかも」
気弱そうな大きな垂れ目が黒髪を追う。黒髪の女子生徒は、上級生の生徒について歩いていた。
女子生徒の姿が見えなくなった後、少年は口元を歪める。
愉しいこと、してあげる。