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第36話 文化祭4



文化祭一日目は大した事件もなく無事に終わり、二日目を迎える。


「今日は一般の人も来るので桜花高校の生徒として恥のないよう過ごして下さい」


担任のありきたりな連絡が終わり、自由行動となる。

今日は俺と青龍の二人だけしか居ない。

華凛は担任に、遊沢は文化祭実行委員の連中にそれぞれ連行された。和馬はいつものごとく行方不明だ。


「ねぇユウ」


「なんだ?」


「今日は私たち何するの?」


本来ならば俺たちも他のクラスの奴らのように一般解放用の準備をしなくてはいけない。

しかし、うちのクラスの出し物はショボい展示一個だけなので何もやることがない。


「うーん、どうするか………まぁとりあえず、その辺をブラブラしとけばいいんじゃないか?」


「なんか適当だね」


「そんなもんだろ」


というわけで、準備の時と同じように学校内を歩き回ることになった。


「まだ一般の人は居ないね」


「まだ九時過ぎだからな」


一般解放は十時からになっている。当然、屋台もそれに合わせ開くのでまだ開いていない。


「何か面白いことないの?」


「………ない」


青龍は相当暇のようだ。動きたくてしょうがないらしい。


「あっ!」


「おい!どこ行くんだよ!」


急に声を上げて走っていった。仕方なく俺も付いていく。


「美琴ちゃーん」


青龍が走っていった先には、楠木が居た。


「あ、おはようございます、青龍さん、月代さん」


「おはよー」


「おはよう」


楠木の手にはまた荷物があった。


「楠木、持とうか?」


「い、いえ。今日は自分で持てますから」


やはり断られた。


「遠慮しなくていいよ。ユウに持たしちゃえば?」


「でも…」


「そうだぞ。こっちが勝手に手伝うって言ってんだから」


「………」


では、と遠慮がちに荷物を手渡してくる楠木。


「すみません、毎回持ってもらって」


「気にするな。生徒会室でいいんだよな?」


「はい」


「レッツゴー♪」


前回と同じく生徒会室へ向かう。

生徒会室の前に着くと、楠木は上着のポケットから鍵を取り出しドアを開ける。


「………あれ?」


「どうした?」


「いつもは閉まってるんですけど…今日は開いてます」


うーん、と首を捻りながら生徒会室に入る楠木。


「これは幽霊だね」


「は?」


いきなり青龍が突拍子もないことを言い出した。

…いや、神獣だから気配が分かるのか?


「ゆ、幽霊…」


顔を青くして楠木が呟く。

どうやら幽霊が苦手らしい。


「苦手なのか?」


「は、はい。幽霊とかお化けとかダメなんです」


やはり苦手のようだ。

とりあえず荷物を机に置く。


「冗談だったんだけどね…」


あははー、と青龍が苦笑いする。

神獣だけに冗談にならないような冗談だな…。


「じ、冗談だったんですか…よかった」


楠木は明らかに安心したようだ。


「じゃあ俺たちはこれで」


と言い終わる直前、誰も居ないはずの隣の部屋からガタッと音がする。


「……っ!?」


「うおっ!」


反射的に楠木が腕に飛びついてくる。


「おーい、楠木〜?」


「…うぅ〜やっぱりお化けが居るんですぅ〜」


楠木はガタガタと震えている。本気でビビっている。

まぁ腕にしがみつくのはいいんだけど…。


「楠木、その…胸、当たってるんだが」


柔らかな感触が服の上から微かにわかる。


「そんなこと言っても…うぅ〜」


「おーおー、いい思いしちゃってるね、ユウ」


しがみついて離れない楠木を見て、ニヤニヤと青龍は笑っている。


「おい、青龍」


「ん〜?」


「お前が原因だろ。見てこい」


自分で見てきてもいいんだけど…楠木が腕から離れない。

さっきから楠木からの脱出を試みているがビクともしない。


「え〜パシリ反対だよ〜」


青龍とか遊沢とか和馬を散々パシってる気がするのは気のせいか?


「しょうがないね」


「はぁ…早く行ってこい」


「えいっ」


「は?」


何を考えているのか、青龍は開いている方の腕にしがみついてきた。


「お前な…」


「えへへ〜これで美琴ちゃんとおあいこ」


屈託なく笑う青龍。

楠木より感触がはっきりわかるだけに、たちが悪い。

つーか、この状況どうするよ?


「うぅ〜」


「えへへ〜」


「………」


神よっ!あなたは俺を見捨てるのかっ!?という思考の片隅で脱出の方法を考えていると、会長室の部屋に続くドアが独りでに開いた。


「うぅ〜〜〜助けて下さい〜〜〜」


「来たね!」


マジで幽霊が…


「………あなたたち何やっているの?」


と、思ったら桐生が登場した。

どうやら物音を発生させた犯人は桐生らしい。


「桐生…助けてくれ」


がっくりとうなだれる俺を見て桐生はため息をついた。

場所を会長室に移し、桐生にひと通り事情を説明する。


「はぁ…何をやっているのだか」


桐生は呆れたように呟いた。


「…申し訳ないです」


楠木はシュンとなっている。

だいたい青龍が………ん?


「そういえば桐生はなんで会長室に居たんだ?」


そもそも桐生が会長室に居なかったら、こういうことになってないはずだよな?


「くっ…それは、その…」


いやに歯切れが悪いな。


「もしかしてサボりか?」


「ちっ違うわ!…休憩…してただけよ」


当たらずも遠からずらしい。


「ふむ…」


青龍はのんびりと紅茶を啜っている。

自分にも原因の一端があることを自覚していないらしい。

…まぁいいけどな。


「ねぇユウ」


「なんだ?」


返事をしながら紅茶を飲む。


「美琴ちゃんのおっぱい大きかった?」


「「「ぶっ」」」


青龍以外の三人が同時に紅茶を吹き出す。

何を言うんだコイツはっ!


「月代ユウ!どさくさに紛れて美琴にそんなことを………怖がっている女子の胸を揉みしだくなんて!」


「揉んでねぇ!」


「あ、あの…」


「修羅場だね」


俺と桐生は言い争い、楠木はおろおろ、青龍はのんびり紅茶。

くそっ、原因が一番のんびりしてるのが気にくわねぇ。


「だいたいあの状況じゃ手を動かせないだろ!」


「う…それもそうね」


数分間不毛な言い争いをしていたが、なんとか納得したようだ。そして時計をチラリと見る桐生。

もう少しで十時になろうとしている。


「ああっ!もうこんな時間じゃない!月代くんのせいでっ」


「なんで俺にキレるんだよ!?」


かなり理不尽なキレられ方だった。


「美琴、行くわよ」


「うん」


他にも仕事があるらしい。


「私たちはまだここに居ていいのかな?」


「さぁ?」


鍵掛けてたし、多分出て行かなくちゃだめだろうな。


「出てもらった方が助かるわ」


「鍵を掛けるので…」


「了解」


全員で後片付けをして、生徒会室を出る。

楠木と桐生は鍵を掛けると、さっさとどこかへ行ってしまった。


「うーん、また暇になったね」


「そうだな」


腕を上げて背中を伸ばしながら言ってくる。


「まぁそろそろ屋台も開いてくる頃だろうからその辺を回ればいいだろ」


「そうだね」


昨日は遊沢のオススメの屋台だけしか回っていないので、他の屋台を回ることにする。

とは言っても、今日は一般解放しているので人が多くなるはずだ。

すでに十時を回っているので、一般客もちらほらと入ってきている。恐らく生徒の父兄などなのだろう。


「あ、リンゴ飴」


青龍はリンゴ飴の屋台を見つけると突っ走っていった。


「一つください」


「…あいよ〜」


当然というべきか、屋台は女の子が店番をしていた。

しかし、なんだ…このだるそうというか機嫌が悪そうな感じのやる気の無さは…。


「…百五十円になりま〜す」


なかなか良心的な値段だな、などと考えていると、青龍にリンゴ飴を手渡した店番の女の子が俺の方を見ながら言ってきた。

…俺が払うのか?


「…はい」


「…毎度〜」


男が払うのが当然みたいな流れになっていた。…なんだかなぁ。


「ユウの奢りだね。ありがとー」


「はいはい、どういたしまして」


妙にデカいリンゴ飴を食べるためにベンチに座る。…食べるのは青龍だけだが。


「いただきま〜す」


そう言うと青龍はいきなり、ソフトボールくらいあるリンゴ飴にかぶりついた。


「……………おい」


…それは食べ方として合っているのか?


「う〜美味しいね〜」


シャクシャクとリンゴを頬張りながらご満悦の様子の青龍。


「……………」


本人が美味そうに食べているので、食べ方は気にしないでおこう。

時間は潰せるとして、昼飯はどうするか…。屋台で買うのもいいけど、混みそうだよなぁ。

こんな時でも開いている購買を使うか…迷うところだ。


「ごちそうさま〜」


「早いな」


青龍の手元には既に芯だけになったリンゴがあった。

奢ってもらったので一口くらい分けるという考えは無かったらしい。


「ん〜次は何を食べようかな〜」


「まだ食うのか…というか、もうこんな時間か…」


そろそろ昼だ。時計を見ると十二時に近い。


「なぁ青龍、昼飯どうする?」


「美味しいものなら何でもいいよ」


こういう時、何でもいいって言うのが一番困るんだけどな…。


「とりあえずテキトーに買うか」


「うん!」


屋台では特に何のひねりもなく焼きそばとたこ焼きを、購買ではパンとおにぎりと飲み物を買う。

ゆっくりと昼食を食べれるスペースを探すが、さすが昼時、座れる場所はほとんどない。


「座るとこないねぇ」


「そうだな」


教室で食べるという手もあるが、展示や資材置き場になっている。

机はどこかへ片付けられているが、椅子は端の方に寄せられているだけなので使えないこともない。


「しょうがない…教室で食うか」


「そうだね」


適当に椅子を並べて昼食をとる。

それにしても青龍はよく食べるな…スタイルとか気にしないのか?

まぁ、初めて会った時から体型が変わったようには見えないけどな。…考えてみると素晴らしい維持力だ。


「む…ユウ。何か、よからぬことを考えてるね?」


「いや、別に何も考えてないぞ」


「ふーん」


疑いの眼差しを向ける青龍。

よからぬことを考えてないのは事実だが、それに近いことは考えてたりする。…いや、逆に誉めている。


「そんなことより、早く食べないと焼きそば冷めるぞ」


「…それもそうだね」


中断してしまった昼食を再開する。

結構量を買っていた気もするが、思ったより早く食べ終わった。


「ごちそうさまでした」


「ごちそうさま〜」


「午後はゆっくり遊ぶ方の屋台でも回るか」


遊ぶ方の、を強調して言う。


「う…わかってるよ。ちょっとは控えるよ…」


ちょっとしか控えないらしい。

早速屋台を回る。


「学園祭の屋台と言っても祭りの時と大して変わらないな」


「そうだね〜………あっ!ユウ、金魚すくいだよっ」


青龍は金魚すくいをやりたいらしい。しかし…。


「うちじゃ飼えないぞ」


「えー」


世話が面倒くさそうだ。それに水槽など一式揃えなければならない。


「青龍、やりたいならこっちにしとけ」


そう言って俺が指差したのは、ヨーヨー釣り。

丸い風船みたいなヤツに水が入っていてゴムが付いているアレだ。


「うーん。なんか物足りないねぇ」


「じゃあ他に行くか」


「いや、一回はやってみるけどね」


「やるのかよっ!」


金を払い、ヨーヨー釣りの道具を貰う。ちなみに代金は俺持ちだ。


「よし、やるよ」


道具と言っても、ティッシュを捻って糸に見立てて、その先に針金を付けただけの物だ。

それを片手に狙いを定めて…。


「取れたよっ!」


「よかったな〜」


「む、そこはかとなく馬鹿にしてるね?」


「まぁ少しな」


そんなもん子供じゃなかったら誰にでも出来る気がする。

青龍が一瞬ムッとした顔になる。


「カチンと来たよ…これは本気を出すしかないね。私の本気を見たらびっくりするよ…」


ふふふ…、と少し怖い笑い方をしてヨーヨー釣りを再開する。


「ふんふんふーん♪」


青龍は鼻歌混じりにヨーヨーを次々と釣り上げいく。

基本的に糸が切れたら終わりなので、切れるまで続けられる。

すぐに切れるだろうと思っていたが、なかなか青龍は糸を切らない。


「どんどん釣れるよ〜」


そうしていく内にヨーヨーはどんどん増えていく。引っ掛けては持ち上げる、の繰り返し。

青龍はヒョイヒョイと軽く取っている。

ヒョイヒョイと…。

ヒョイヒョイヒョイと…。

ヒョイヒョイヒョイヒョイと…。


「………」


そして待つこと数分後。


「…っしゃーラストだよっ!」


青龍はすべてのヨーヨーを釣り上げていた。


「………………おい」


「どんなもんだい!」


「…やりすぎだ」


店番の生徒の顔もかなり引きつっている。


「青龍…行くぞ」


「あっ、待ってよ〜」


俺は気まずくなり、足早にその場を立ち去る。


「青龍、とりあえずそれを教室に置きに行くぞ」


「うん」


ヨーヨーを置くために、一旦教室に戻る。

青龍と協議した結果、五個ほど取っておいて他はクラスメイトにプレゼントすることにした。

クラスメイト全員のロッカーにヨーヨーを入れた後、再び屋台に戻る。


「青龍…お前がすごいのはわかったから、あれは止めような」


「え?お金払ってるからいいじゃん」


そんな会話をしながら、あのヨーヨー釣りの屋台の前を通る。当然というべきか、既に店は畳まれていた。


「こういうことになるからさ…」


「あはは…そうだね」


自分が起こした惨状を見て、さすがに青龍も苦笑いをしている。


「ユウ、そんなことよりなんかあそこ人がいっぱいいるよ」


「ん?」


言われた方を見てみると、確かに人が集まっていた。

屋台の看板には射的と書いてある。


「何だろうな?行ってみるか」


「うん」


射的の屋台の近くまで近づいてみるが、人が多すぎて前が見えない。


「見えないよっ」


「そうだな」


「ユウ!肩車して!」


「は?」


いくら見たいからって肩車はないと思うぞ。


「つーか制服のままじゃな…」


「…あ」


「だろ?」


「そうだね」


青龍にそう諭したところで、射的をやっていると思われる人の声が聞こえてきた。


「ふははは!君なかなかやるね!」


「そういうアンタもな!」


どうなっているか分からないが白熱している。…というか、どこかで聞いたことがあるような声だな。

つーか一人は親父っぽい。


「………はぁ」


しばらくすると対決が終わったらしく、見物人が少しずつ居なくなっていった。


「おい、親父何やってんだよ」


「おぉ息子か。たまには童心にかえるのも悪くないな」


そう言う親父の手には、射的で獲得した景品が山のようにあった。

まったく、相手の顔が見てみたいな…。そう思い、先ほどまで親父と張り合っていたオッサンを見る。


「…って、あんたかよっ!」


視線の先には、青龍に話し掛けられている閠龍さんの姿があった。


「なんだ?悠?知り合いか?」


「ああ」


閠龍さんのことを簡単に説明してやる。

青龍も親父のことを閠龍さんに話しているようだ。

ひとまず青龍と合流する。


「いや〜びっくりだよ。ユウの父上と私の父上が射的やってたなんて」


「そうだな。そもそも親父が来るとか聞いてねぇし」


「私もだよ」


俺たちが話している間に親父たちも挨拶が済んだようだ。

しかも、なにやら会話が弾んでいる。


「悠、お前たちはお前たちで楽しめ。じゃあな」


「青龍ちゃん、またね」


そう言うと、親父と閠龍さんは次の屋台に突撃していった。


「なんかいつの間にか仲良くなってるね、父上たち」


「ああ」


親父たちが来ているということは…。

そこまで考えた時、横を通り過ぎる男子生徒から、不穏な会話が聞こえてくる。


「ああ…あの人たち綺麗だったな…」


「そうだな…でも、まさか人妻だったとは…」


まさかとは思うが、声を掛けられたのは母さんたちではなかろうか?

…あの二人なら声を掛けられてもおかしくない…のか?

まぁ二人とも見た目より若いからな。


「ユウ…」


「ああ、青龍もやっぱそう思うか?」


「うん」


どうやら青龍も同じことを考えていたらしい。

男子生徒が歩いてきた方向に向かう。

歩いていくと、上級生の女生徒たちが店を出しているデザートスペースに行き着いた。


「うお…空気が甘いな」


デザートスペースなだけあって甘い匂いが充満している。それに、男の俺が居るのは若干場違いのような気がする。見渡すかぎりではカップルを除けば、男子は見受けられない。


「ここに居そうだな」


「そうだね………ユウ、ケーキ食べたい」


マズい!青龍がケーキに釣られているっ!?


「………ケーキ…クレープ…アイスクリーム」


「………青龍?」


「ん?」


「……………げ」


こっちを向いた青龍の目が、完全に肉食獣のそれになっていた。


「………少し早いけど、おやつにするか」


「うんっ」


肉食獣の目をした青龍が一瞬で天使のような笑顔に変わる。

とりあえず二人でケーキを選ぶことにする。


「えーっと…俺は抹茶のケーキで」


「私は苺ショートとチョコレートケーキとモンブランとシュークリームとフルーツタルト」


…マジか。


「かしこまりました〜。お持ち帰りですか?」


「いや、ここで食べます」


「………で、ではこちらの番号札を持ってお待ち下さい」


オーダーを取っている女子生徒が一瞬フリーズしたのは気のせいではないだろう。


「青龍…食い過ぎだろ」


「甘い物は別腹だよ」


「………………」


別腹なのは甘い物だけじゃない気もするが…。

お釣りを受け取りながらそんなことを考えていると、大声で俺たちを呼ぶ声が聞こえてくる。


「悠ちゃーん青龍ちゃーん」


「こんにちは〜」


予想に違わず、母さんたちだった。母さんに至っては恥ずかしげもなく腕をぶんぶん振っている。

こちらからは見えにくい場所に陣取っていた。


「やっぱ母さんたちも来てたのか」


「そうよ」


「というか、母さんと紗夕さんって知り合いだったのか?」


親父たちはお互い知らなかったみたいだけど。


「いや初対面よ。パパたちだけで盛り上がっちゃってねー」


「それで困りましたね〜となって、葵さんとお茶してるんです〜」


「んで、話してたら紗夕さんが青龍ちゃんのお母様だったってわけ」


どうやら自己紹介は済んでいるようだ。


「でも悠ちゃんが青龍ちゃんと一緒に居るとはびっくりね。てっきり別々に行動してると思ったわ」


「本当に仲がいいんですね〜」


二人とも母親らしい笑顔でニコニコしながら言ってくる。


「………あ」


何か思い付いたように母さんが声を出した。

そして顔がニヤニヤに変わる。

…よからぬことを考えている顔だな。


「あ〜そうそう、それで今度青龍ちゃんと悠ちゃんの愛の巣を見に行こうって話になったのよ」


「何でだよっ!つーか絶対今考えたよな!?」


紗夕さんもニコニコしながら首を傾げている。


「…紗夕さん」


母さんが紗夕さん向かって軽くウインクする。


「…………」


母さんからウインクされて何か考えている様子の紗夕さん。

二、三秒の間を置いて紗夕さんが喋り始めた。


「青龍ちゃんはお片付けとか苦手だから月代くんに迷惑かけてないか心配なの〜」


「ああ、まぁそういうことなら…」


紗夕さんまでそう言うなら拒否するわけにはいかないだろう。

…まぁ言わせたのは母さんだけどな。


「ふふふふふ……」


「………」


母さんは勝ち誇ったような顔をしている。

それに対し紗夕さんはニコニコと包み込むような笑顔だ。


「青龍、そういうことだから…」


部屋くらいは片付けておけよ、と言おうとして青龍の方を振り返る。


「お、これもイケるね」


「…………………おい」


「ん?どうしたの?」


何かとんでもないフラグが立った中、ケーキに舌鼓を打つ青龍であった。


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