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第35話 文化祭3



「………では、学生らしい文化祭にするんじゃぞ」


校長が挨拶をして、文化祭の開催が宣言された。

いよいよ文化祭が始まる。まずは一日目、桜花高校の生徒だけでの文化祭だ。


「ふぅ」


まずは自分の教室に行かなければいけない。

ということで自分のクラスに向かう。


「ツッキー!ため息とは何事かっ!」


「痛っ」


妙にテンションが高い遊沢が後頭部にチョップしてきた。


「文化祭というスバラシイ日にため息とはなんと嘆かわしい!」


「………」


いきなり意味不明なことを叫び始めた。


「う、宴…テンション高すぎだよ」


「そ、そうだよ!みんなこっち見てる…」


「教室に行くぜ」


いつも元気でテンション高めの青龍ですら若干引き気味だ。対して華凛は恥ずかしそうにしている。和馬に至っては完全にスルーしている。


「………間塚、あんた、後で覚えときなさいよ」


「ひぃ」


遊沢が睨むと和馬は何処かへ走り去ってしまった。テンションの上がった遊沢はもう誰にも止められないだろう。


「なんでお前そんなにテンション高いんだよ」


「ん?私、お祭り大好きだからさ」


そういえば、遊沢は祭り大好きだったな。


「それにね、ツッキー………」


遊沢の顔が一瞬で真面目になる。

何か、あるのか?途轍もない何かが!?


「私はね………祭り、という名のつくものだけには手を抜きたくないんだよ…」


「………」


…祭り、じゃなかったら格好いいセリフだったのに台無しだ。


「………それは置いといて…教室に行くか」


「ちょっ…置いとくの!?」


教室は三分の一程度が展示用のボードで占拠されていた。


「ねぇユウ、うちのクラスってショボくない?」


「青龍、それは言わない約束だ」


教室に着くまでに他のクラスを見てきたが、うちが一番手抜きかもしれない。


「みんな揃いましたか?………それでは連絡事項ですが…」


全員居ることを確認して、担任が連絡事項を手短に伝える。…実は和馬が居ないのだが。

その後、自由行動になった。

クラスの連中がそれぞれ思いの所に散っていく中、いつものメンバーが集まっていた。…なぜか俺の所に。


「よーし、遊びますか!イェイ!」


「初めてだからワクワクするよ」


「うん、文化祭って楽しみだよね」


青龍と華凛は慣れてきたのか、遊沢のテンションが気にならなくなっているようだ。


「まぁ楽しんでこい」


素早く身を翻し、その場を立ち去ろうとする。


「待てぃ!」


次の瞬間、遊沢から後ろ襟をガッチリ掴まれた。

恐るべき反応速度だ。


「………なんだよ」


「ツッキーも一緒に行くよね?」


顔は笑っているが、手の方はだんだん掴む力が強くなってきている。


「行かん!ぶっちゃけ遊沢のテンションについてくのは無理だ!」


「………そう」


そう伝えると、遊沢が手を離した。

引くのがあっさりし過ぎで何やら嫌な予感がする。


「………」


恐る恐る後ろを振り返ってみると、遊沢が俯いて泣き始めている。


「………ぐすっ…ツッキーは…私と行くのがなんだ……」


「………おーい」


なんかムカつくほどの嘘泣きだ。


「あ〜あ、ユウが宴を泣かせちゃったよ」


「ユウくん、女の子を泣かせちゃ駄目だよ」


…分かってて言ってるな、こいつら。

つーか、打ち合わせも無しになんつー連携だよ。全く悪くない俺が完全に悪者になってるし。


「ユウ、女を泣かすとは罪が深いよ?」


「ユウくんは男の風上にもおけない男なの?」


「………ぐすっ」


言いたい放題言いやがって。まったく…。


「しょうがないな。行けばいいんだろ行けば」


「さすがツッキー!そうこなくっちゃ!」


復活早っ!?………ま、嘘泣きだからそれも当然か。

そんなことより…青龍、華凛…後で覚えてろよ?


「うっ、なんかすごい敵意を感じるよ」


「あはは…しょうがないかも…」


「…………はぁ」


諦めて青龍たちに付いていく。


「で、まずは何するんだ?」


「ふっ…この遊沢サマは万事抜かりない」


そう言って取り出したのは、文化祭のパンフレット。


「限られた時間の中でどれほど効率よくかつどれだけ良いポイントを回れるか…これが祭りにおける基本よ」


わけのわからん理論によっていろいろ書き加えられたパンフレットは一般人が見れるものではなくなっている。


「な、なんかわからないけど宴気合い入ってるね」


「う、うん」


また若干引く気味に戻っている。


「とりあえずこの時間は…展示が混まないから展示見よう」


「ああ」


「りょーかい」


「うん」


今から見に行く展示は、俺たちのようにショボいものではなく、結構大掛かりなものらしい。


「情報は当日まで出さない、か…」


ポツリと遊沢が呟く。


「じゃあ何が展示してあるのか分からないのか?」


「そういうこと」


「へぇ〜楽しみだね」


「去年みたいな展示だったらいいな〜」


去年は確か世界遺産とか言ってたな。だとしたら今年も期待してもいいかもしれない。

そうこうしている内に、展示スペースにたどり着く。


「えーっと…」


入り口のプレートを見ると『テーマ〜世界各地の伝説・神話の架空の生物〜』と書いてある。

クラスの出し物ではなく、有志で集まった人達の作品らしい。


「ほほぅ、これはなかなか」


「伝説…神話…架空…か」


「気持ち悪いのとかだったら嫌だなぁ」


三者三様のリアクションだ。遊沢はもちろん、華凛も言葉ではああ言っているが楽しみなのだろう。

一人だけ反応が違う青龍は何か思うところがあるのだろう。


「青龍、楽しもうぜ。文化祭初めてなんだろ?」


「あ、うん…」


青龍に声をかけて部屋に入る。


「おおぅ…何じゃこりゃ…」


中に入ると、なかなか精巧に作られた模型があった。しかし…


「……気持ち悪いな」


ものすごく気持ち悪い模型だった。


「こ、これは想像してたやつと違うね」


「だな」


青龍もドン引きだ。

部屋に入って一番最初に目に入ったのが、這い寄る混沌、とかいうやつだった。

説明書きによると、何かの神話で出てくるらしい。

触手やら何やらがグチャグチャに合わさって、何やら得体の知れないものになっている。


「………よし、他のを見るか」


昼食前に見たやつは可哀想だな。絶対食欲がなくなるぞ。

気を取り直して他の展示を見る。


「あ、これ可愛いね」


「ん?どれどれ…」


青龍が指差したのは、小さな人が蓮の葉の下に立っている絵だった。

確かに可愛らしく書いてある。


「コロボックルだな」


「へぇ〜これコロボックルって言うんだ〜」


興味津々である。何より目が輝いているのがその証拠だ。


「ユウ!次に行くよっ!」


「ああ」


なかなか乗ってきたようだ。


「あ、いたいた!青龍ちゃん、ツッキー。すっごいの見つけた!」


「うん、凄く綺麗だった!」


何やら興奮している華凛と遊沢。

されるがままに二人に付いていく、俺と青龍。

どんどん展示スペースの端にいっている。そして一番端にたどり着く。


「………これは」


「うわぁ〜」


そこには、木で作られた1メートルほどの人魚の彫刻があった。

しかも、その出来栄えは思わず息をのむほどだ。

説明書きも手が込んでいて、手書きで書いてある。なかなか達筆だ。


「一本の木から彫り出しました………」


「そうそう、またそこが凄いんだって!」


なんと一本の木から彫り出したらしい。…制作日数が気になるな。


「本当に凄いな…」


「そうだね」


「うちの展示とは比べものにならないなぁ」


「私もこういうの作ってみたいかも」


四人とも彫刻に見入っている。


「……………あ」


何気なく彫刻の下の部分を見てみると、制作者の名前が彫ってあった。『桐生紗耶香』と。


「ユウ?どうしたの?」


俺の様子に気付いた青龍が話し掛けてくる。


「いや、これ」


「………あ」


青龍も俺と同じような反応だ。

そして華凛と遊沢にも、そのことを伝える。


「意外な才能が………遊沢さんはビックリしたわ」


「桐生さんってすごいね」


二人とも驚いているようだ。

展示を一通り見終わって、次に移動する。


「で、次はどこに行くんだ?」


「ちょっと早いけどお昼にしよ」


時間は十一時を少し回ったくらい。たしかに昼食には少し早い時間だ。


「今くらいが屋台でちょうど作ってる頃なんだよね〜」


「「へぇ〜」」


「昼に作ると回らないからね、お客を待たせるし。作り置きしてる所が多いのよ」


何というか…祭りのことに関しては凄いな。極めているというか…ここまでとは…。

何を食べるか話しながら、屋台のあるスペースまで行く。


「んふふ〜」


「………ふむ」


何か青龍が怪しい笑い方をしているが気にしない。

遊沢は時計とパンフレットを交互に見ながら眉間にシワを寄せている。


「ねぇユウくんは何食べたい?」


「うーん…選べるほどあるといいけどな…華凛は?」


文化祭といったら、だいたい出てくるメニューは決まっている。


「私は何でもいいかな」


まぁ結局は遊沢任せになるんだろうけど。


「そういえば、何か宴ちゃんが穴場を見つけたとか言ってたよ?」


「マジで?」


穴場って何だよ。


「みんな!付いてきて!」


いきなり遊沢が走り始めた。俺たちも付いていく。


「よしっ!あそこだっ!」


屋台に隠れて見えなかったが、扉があった。そこに四人で滑り込む。


「ふぅ…間に合った」


「遊沢…何だここは?」


「はぁはぁ…宴ちゃんが…言ってた…穴場ってこれ?」


「お、美味しそうな匂いが充満してるよっ!」


そこには五人掛けくらいカウンターがあった。メニューは串カツだ。


「おお、月代くん。君か」


…しかもマスターは校長だった。


「とりあえず座ろう」


遊沢の声で全員席に着く。

ひとまず、疑問を口にしてみる。


「なんでこんなことしてるんですか…」


「ふむ、趣味じゃ」


趣味かよっ!


「どれ、好きなものを言うてみなさい」


校長がメニューを指差して言う。


「じゃあ遠慮なく…」


そう言って青龍が、十本くらい一気に注文する。


「私たちも注文しよう」


「うん」


「ああ」


それぞれ、好きなものを注文する。

校長の串カツは作り慣れている感じで、美味しかった。

他愛もない会話をしながら食事をしていると、三十分ほど経過した。だいたい全員が満腹になってきたようだ。


「そろそろいい頃合いね…。校長先生、勘定お願いします」


「ふぉっふぉっふぉっ。これは趣味じゃから勘定はよい」


「本当ですか?」


「うむ」


…なんて太っ腹な爺さんだ。


「「ご馳走様でした〜」」


お礼を言って店を出る。

それにしても、串カツが趣味とは…なかなか変わった趣味だな。


「じゃ!お昼も食べたことだし、また行くよ…って、あれ間塚じゃない?」


「ああ、そうだな」


遊沢が、屋台で店番をしている和馬を発見した。


「和馬くん、何してるんだろ?」


「何か分けてくれないかな?和馬」


やはり青龍は食べ物ばかりのような気がする。


「連行決定」


遊沢の目が怪しく光る。完全にロックオンされたな。


「じゃあちょっと連れてくる」


「ああ」


その後、和馬を入れた五人で文化祭を回ることになった。

そして遊ぶ金は全部和馬持ち。何でも逃げ出した罰らしい。


「うわぁぁぁぁぁん!!」


こうして、和馬の叫び声が響き渡った文化祭一日目は、和馬の財布の中身と共に去っていった。


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