第31話 本気の和馬
テスト前の休日。
「ね〜ユウ〜」
「なんだ」
教科書に目を通しながら、適当に返事を返す。
「暇だよ」
「勉強しろ」
「つまんないよ」
青龍はテスト前だというのに勉強する気が全くない。
さっきから飛び出しナイフ(俺の)をパチン、パチンと刃を出したり入れたりして遊んでいる。
「つーか、それ。危ないから仕舞え」
「う〜」
しぶしぶナイフを机の上に置く。
「そんなに暇なら、華凛か遊沢と遊べばいいだろ?」
「華凛も宴も勉強だって言われて断られたよ」
「じゃあ青龍も勉強だな」
「勉強嫌ーい」
どうあっても勉強はしたくないらしい。
「あう〜」
青龍は唸りながら横になる。そして、そのままゴロゴロ回り始めた。
「う〜」
「………」
ゴロゴロ。
「な〜」
「…青龍、ちょっと静かにしてくれ」
「うぃ〜」
こっちは真面目に、静かに勉強をしているのに、目の前で唸られたらたまったもんじゃない。
「うな〜」
「………」
ゴロゴロゴロゴロ。
「はう〜」
「ええぃ!鬱陶しいわ!」
読んでいた本を青龍目掛けて投げつける。
「ん?」
青龍はそれをなんでもないように、指二本で挟んで止める。
「危ないよ」
ニヤリとシニカルな笑みを浮かべる。
そして本を元に戻すと、再び唸り始めた。
「なぁ、少しは静かにしないか?」
「無理だね」
…即答しやがった。
こんなんでテストは大丈夫なのか?
「ユウ」
「…なんだ」
いきなり真面目な顔になる青龍。
「ただ呼んだだけ〜」
そしてふにゃふにゃ、とゆるーい表情になる。………一体何がしたいんだ。
俺が微妙に呆れていると、ピンポーンとチャイムが鳴る。
「ユウ〜誰か来たよ〜」
「ああ…というか青龍、暇なら出てくれ」
「えーめんどいからヤダ」
「お前な…」
面倒臭がりの領域を軽く超えてるな、こいつ。
しょうがなく自分で玄関に行く。
「悠、ヘルプ」
「お前か…」
ドアの向こうには、和馬が居た。
そういえば、来るとか言ってたな。
「上がっていいぞ」
「お邪魔しまっす」
やたらデカい鞄を抱えた和馬を居間に通す。
「あ、和馬だ。やっほー」
「こんちは、青龍ちゃん」
和馬が来たにもかかわらず、青龍はゴロゴロしている。…と思ったら、いつの間にか普通に座っている。
「和馬、その鞄何入ってんだ?」
「もちろん勉強道具」
「…本気か?」
「今回は本気だぜ」
今回は本気らしい。しかし、なんとなくダメな気がするのは俺だけか?
「うわ〜和馬も勉強するの?」
「おう、青龍ちゃんはしないの?」
「うん、私はパス。じゃあ勉強頑張ってね〜」
そう言うと、青龍は部屋に戻って行った。
「よし、これで少しは静かになるな」
「早速始めるぜ」
和馬は鞄の中からゴソゴソと教科書とノートを取り出した。俺も教科書を読み始める。
それから黙々と勉強をし始める。十数分おきに、
「なあ、悠。ここ教えてくれ」
「ああ………そこは、この式を使うんだよ」
「なるほど?」
「…本当に分かってるか?」
「大丈夫」
といった会話があるものの、順調に進んでいる。
「……………」
「……………」
集中していると時間が経つのが早いもので、勉強を始めてから一時間ほど経過している。
「俺はそろそろ休憩するけど。和馬はどうする?」
「俺もこれが終わったら休憩するぜ」
「そうか」
和馬の手元を見てみると、日本史の授業で貰ったプリントがある。
「えーっと…いい国作ろう鎌倉幕府、だから………」
語呂合わせをしているようだ。
「いい国2960(作ろう)鎌倉幕府。よっしゃ!2960年だぜ!」
「ばっ…お前、それ違うだろ」
「え?」
「いい国、だから1192年だ」
「あれ?そうだっけ?」
…小学生でも分かるぞ。
というか2960年だったら未来の出来事になってしまう。
「まぁいい。とりあえず休憩だ」
「おう」
適当に飲み物を持ってくる。
「ほら」
「サンキュー」
普段使わない脳を使っているせいか、和馬は無言だ。
そういえば青龍はやけに静かだな。…おそらく寝ているのだろう。
「…よし、そろそろ休憩終わりだ」
「おう」
二十分ほど休んだ後に勉強を再開する。
「…………」
「…………」
会話が和馬の質問と俺の回答だけになる。要するに、ほぼ会話がない状態だ。
「…………」
「…………」
それから二・三時間くらい経った頃、もうそろそろ終わりにするか、などと思っていると、
「あ〜よく寝たよ」
青龍が部屋から出て来た。
俺の予想に違わず、寝ていたらしい。
「あれ?私なんか場違いって感じ?」
「いや、もう終わろうと思ってたところだ」
「じゃ俺はもうそろそろ帰るぜ」
そう言うと、和馬はさっさと帰ってしまった。
本当に勉強しに来ただけらしい。…意外だ。
「なんか呆気ないね」
「ああ」
「テストで良い点取れるかな?」
「それは知らん」
「私はダメだと思うよ」
「まぁ今回はやる気だったから前よりマシだろ」
和馬の努力が報われるように祈るばかりだ。
「で、青龍は勉強しなくていいのか?」
「あ、もうご飯の時間だね」
全く聞いていない。
というか、危機感が全くない青龍だった。
………こんなので大丈夫なのか?