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第26話 帰宅



「……………」


「ただいま〜」


言葉もなく部屋に倒れ込む俺。それとは対照的に青龍は元気いっぱいだ。


「………今何時だ?」


時計を見ると三時を少し回ったくらい。


「………夕飯どうすっかな」


「うわぁ、ユウの家から帰ってきた時よりぐったりしてるね」


確かに自分んちから帰ってきた時よりぐったりしている。

つーか、何で青龍はそんなに元気なんだ?と聞きたい。


「………青龍、ダルいから俺は寝る」


「うん、おやすみ〜」


青龍にそう言うと俺は夢の世界に旅立っていった。

そうして、俺が目覚めたのは四時間後。


「うーん、よく寝た」


伸びをすると背骨がポキポキとなった。


「つーか夕飯どうしよう?」


今から作るのも面倒だな。かといって、インスタント食品は買い置きがない。スーパーに行くのも面倒。


「…今日は出前をとるか」


そうと決まったら早速注文だ、っとその前に青龍の部屋に行き、リクエストを聞こう。

青龍の部屋に向かう。


「青龍、居るか?」


「居るよー。どうぞー」


ドアをノックすると返事が返ってきた。なので遠慮なく部屋に入らせてもらう。


「今日何か食べたい物あるか?」


「うーん、最近は和食ばっかりだったからね〜。今日は和食以外がいいよ」


和食以外か…和食以外の出前の定番と言ったらやっぱりピザか?


「青龍、今日の夕飯はピザでいいか?」


「うん、美味しいなら何でもいいよ」


「じゃあ夕飯はピザだな」


そこまで言って気付いた。俺、青龍の部屋入るの初めてじゃね?

そう思ってしまうと意識してしまうのが人間というもので、青龍の部屋を観察してしまう。

一言で言うと、女の子っぽい部屋。ま、他の女の子の部屋を見たことがないので比較しようがないが。


「ちょっと、何じっくり観察してるの?」


どうやら青龍も俺が観察しているのに気付いたようで、ジト目でこっちを見てくる。


「いや、青龍の部屋入るの初めてだな〜と思ったからな」


「あ、それもそうだね」


えへへ、と屈託なく笑う青龍。


「じゃあ注文してくる」


「あ、私も行く〜」


注文しようと居間に行くと青龍もついてきた。

で、早速メニューを見る。


「ん〜どれにするか…」


「どれも美味しそうだね〜。ねぇユウ…」


「ダメだ」


青龍が次の言葉を発する前に先手を打つ。


「ちょっ!私まだ何も言ってないよ!?」


「どうせ全部注文するとか言い出すんだろ?」


「……………」


やはり図星だったらしい。


「さて、と。ユウどれにする?」


「………おーい」


さっきのはなかったことになったようだ。

…気を取り直していこう。


「ユウ、このピリ辛ピザってのはどうかな?」


「えーっと、どれどれ…」


青龍が言ったピリ辛ピザを確認する。


「うわ…何だこれ?」


写真に写っているのは、全体が真っ赤に染まっている得体の知れない円形のもの。まず見た目からしてアウト。


「赤唐辛子、青唐辛子、豆板醤……」


書いてあったピザの説明を読んでいく。

ここまでならギリギリでピリ辛の領域かもしれないな。


「ハバネロ、タバスコ、ラー油などを……」


この時点でアウト。既にピリ辛どころの話じゃない。


「混ぜて、凝縮したものをソースにします。……ってこれがソースかよっ!」


もはや人間の食べ物じゃないな。そもそも買う奴はいるんだろうか?


「俺は…これだな」


「じゃあ私はこれ」


俺が選んだのは、一枚で三種類(コーン、チキン、大盛の野菜)が楽しめるミックスピザ。青龍はトマトが大量にトッピングされているトマトピザを選んだ。

で、早速注文する。

注文して十五分ほどでピザが届いた。


「いただきま〜す」


「いただきます」


青龍はすぐに箱を開けてトマトピザを食べている。俺も箱を開ける。


「うおっ!」


「うわっ、なんか刺激臭がしてるよ」


箱を開けた瞬間、何とも言えない匂いが漂ってきた。

匂いの発生源はミックスピザの一角、この世のものとは思えないほど真っ赤なゾーンから匂ってくる。


「………写真と違うじゃねーか、ミックスピザ」


チキンがあるはずの場所がピリ辛ピザにすり替わっている。


「まさか、これをこの目で拝む日が来るとはな…」


一生出会うことがないと思っていただけにショックが大きい。


「ふふふ、ユウ、食べるんだよ。間違っても捨てたりしちゃいけないよ」


青龍は完全に面白がっている。

が、確かに俺も食べ物を粗末にしたくない。…果たしてピリ辛ピザが食べ物と言えるのかは謎だが。


「ま、まぁとりあえずコーンから…」


ピリ辛ピザを極力視界に入れないようにして他の二種類のピザを食べる。

当然、ピリ辛ピザが残る。


「…なぁ?これ食えると思うか?」


「食べれないなら売ってないと思うよ」


「…だよな」


しかし、これを食べて生きている自信はない。


「ユウが食べないなら私が…」


「食ってくれるのか!?」


「いや、そんなわけないじゃん」


即答だった。

その反応速度わずか0.05秒。さすがは神獣。人間の限界を軽々と超える。


「なんだよ…ちょっと期待しちまったじゃねぇか…」


「まあまあ、そう言わないでよ。私が食べさせてあげるから」


「はぁ!?」


「だ〜か〜ら〜私が食べさせてあげるよ」


「そんなことで食えたら苦労しないわっ!」


「ほら、頑張って食べるんだよ」


「!!」


そう言うと青龍はいきなりピリ辛ピザを口に突っ込んできた。


「〜〜〜〜〜っ!!」


「どう?美味しい?」


口の中が大変なことになっている。

俺が悶絶していると、


「はい、飲み物だよ」


「っ!」


青龍が飲み物を渡してくれた。目で礼を言ってジュースらしきものを流しこむ。

あれ?ジュースなんて買ってたっけ?


「ユウ、大丈夫?」


心なしかワクワクしたような顔の青龍に不安を覚える。

手元のジュースの缶を見てみるとそこには…カオスの文字。


「何っ!」


まさかまだ在庫があったとは…。


「どうなの?何か起きた?」


改めて口の中を確認してみる。…しかし何ともない。


「奇跡的に無事だ」


奇跡的に無事だった。それどころかさっきまでの辛さがどこにもない。


「えー」


「えー、じゃねぇよ…下手したら死んでたぞ…」


「というか、もう辛くないの?」


「ああ」


ピリ辛ピザとカオスジュースの組み合わせで互いを打ち消し合ったようだ。

例えるなら、すごい顔の親たちから普通の顔の子供が産まれた、という感じだ。


「つまんなーい」


「じゃあ青龍、食ってみるか?」


「いや、遠慮しておくよ」


自分では試さないらしい。


「ごちそうさま〜」


「ごちそうさま」


俺は、ごちそうさま、と言いつつピリ辛ピザとカオスジュースの奇跡的な組み合わせを神様に感謝するのだった。

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